第18節 水・酒
【参考】ビール略史
- ビールは、大麦の歴史に、くっついてまわっているようである。
世界で、最初に、大麦をつくっていた地方は、インド北辺のようであるが、その一帯に、もうビールがあったかどうかは知らない。
- BC3000〜2500年のあいだに、シュメール人は、十数種類の良質のビールをつくっていたようである。当時、税金や給料の一部も、ビールで払われていたという。すでに、ここには、ビヤホールがいっぱいあって、それが、いつも満員であったという。
そのビヤホールの女将で、都市国家の王様になった人があらわれたというから、ご立派なものである。
- 世界の同業組合の元祖は、BC550年ごろのバビロニアのビール醸造業者組合であった。仕入・販売価格の協定から始まったようであるが、この組合は、祭礼のとき、神殿に大量のビールを献納し、宣伝、これつとめたとある。
- AD790年、ヨーロッパにビールの大量生産が始まった。当時、どういう事情からかわからないが、ヨーロッパの全ビール工場は、すべて、修道院が経営し、修道僧が、その指導にあたることになった。で、つぎつぎに、新しいビール工場が各修道院によって
建設された。
もっとも、ときあたかも、カール大帝即位のころ。こん日でも、ヨーロッパのビールには、アルコール含有率ゼロに近いものから、かなり、強いものまで幅がある。各修道院が、どういったビールをつくっていたのか。
これからのち、茶やコーヒーが普及するまで、つまり、1650年ごろまでの900年近く、ヨーロッパで、ビールは、もっとも誰にも飲まれる飲み物になったという。
- 822年になると、ビールにホップが、はじめて入れられた。コルベイ(アシアンのそばの現コルビーでないか)の修道院長アダラールの発案。ホップは、それまで、薬草であり、また、その若芽を野菜として食べていた。ビールに、にがみが入ったのは、このときから。
現在も、北欧系のビールは、にがい。ミュンヘンのものやピルゼン(チェコ)のビールは、ホップが少なく、甘口。イギリスのエールは、もっと、甘口。ともあれ、ホップが入れられなかったならば、ビールの歴史は、だいぶ、変わったものになっていたであろう。
- 1020年ごろ、ヨーロッパに、はじめて、ビヤホールができた。というのは、ベネディクト会と北イタリアのシトー会の修道院が巡礼者、旅行者のために、ホステルをやっていたわけであるが、法王のゆるしを得て、営業用ビヤホールを併設した。
- それから500年のあいだのどの期間かに、修道院のビール屋は、やめになっていった。で、ビール工場も、ビヤホールも、すべて、民営となった。が、そのため、不良ビールも出てきた。で、1510年代には、ドイツのバイエルン(その首都ミュンヘン)で、不良ビールを取締まり、改めて、ビールとは、大麦、ホップ、水のみでつくることを製造許可の条件とした。
- 1630年代、ヨーロッパのどこかで、ビン詰めビールが、発売された。コルクの栓の実用化に成功したためという。
【参考】ワイン略史
- 日本でも、ワイン(ぶどう酒)が、かなり、普及してきたが、ワインは、洋食にとって切り離せない歴史を持つ。
- 俗にいう「猿酒(さるざけ)」は、猿が、木の実、草の実を採ってきて岩のくぼみにためておき、自然発酵させたものといわれるが、ワインは、まさに、その延長であって人類史とともに始まり、農耕時代前の狩りょう時代に体をなしていたものと思われる。
農耕時代に入っても、たとえば、古代エジプトのピラミッドの壁画には、ワインを造っている絵なども、現在残っている。
- ワインづくりは、古代エジプトから、シリア、トルコの一帯に広がり、他方、クレタ島から、ギリシアに広がったようである。
- 古代ギリシアの酒は、大部分が、ワインであったようであって、バッカスといったワインを司どる神の名もある。
このギリシアで、ワインが、充分飲まれるようになったのは、BC1000年ごろ。
女子も子供も、飲んだ。農民の日常の食事は、石の上で焼いた薄いパンにワインという形であったという。
- トルコ、ギリシア一帯のワインは、それから、2つの流れに分かれた。
その1つは、黒海に注ぐダーヌス河(現ダニューブ河)に沿って、南独から、レーヌス河(現ライン河)沿岸まで広がった線。この流れのワインの個性は、現在では、ハンガリー・ワインなどによって、感得できる。こってりしており、甘く、夢がある。
- もうひとつは、ギリシアから、海上をイタリアに渡り、イタリアから、全フランスまで広がった線。この流れのワインの個性は、現在では、フランス・ワインによって、感得できる。さらっとしており、渋い。
- BC50年ごろ、ベスビオ火山の爆発によって埋まった南部イタリアのポンペイ市は、1900年代に入って、発掘され始め、現在なお、それを続けているが、この掘り出された民家を見ると、地下室に数10個のカメをならべ、その1つ、1つにワインを仕込
んでいた。
- AD280年代に、ローマ西部のブドウ園で、はじめて、醸造用の木樽が考えられ、これによって、ワインの貯蔵方法が、飛躍的に進歩した。
酒類をつくるのに、カメでなく、木の樽が用いられた世界の最初ではなかったか。
- AD100年ごろ、ローマ人タキトゥスによって書かれた「ゲルマニア」(岩波文庫にもある)を読んでみると「ゲルマン人たちは、ワインを浴びるように飲んでいる。まったく、だらしがないの一語に尽きる」などと書いてある。つまり、ゲルマン人たちも、さかんにワインを飲んでいたわけである。
- 1603年になると、フランスのコニャック地方の外科医が生産過剰のワインを処分するつもりで、蒸留したところ、美味な酒が生まれてしまった。こん日、ブランデーと呼ぶものである。コニャック・ブランデー。
- 一般に言われることであるが、ブドウの実る夏から秋にかけて、乾燥して熟し、そうして、にわかに、冷たい風がやってくるとブドウは、甘くなる。
- ヨーロッパ・ワインの本場は、現在、フランス全土、ドイツのライン河畔、チェコスロバキアから河下にかけてのドナウ川沿岸である。アメリカでは、カリフォルニア・ワインが、はなはだ、上質なものとなってきている。日本では、とうとう、北海道までが、ワインの産地となり出している。オーストラリアもワイン市場に顔を出してきている。
【参考】ウイスキーの発生
- 中国で、1280年ごろ、はじめて、焼酎がつくられた。
その製法が日本に伝わったという順になるわけで、日本の焼酎歴は室町時代に始まる。
- ヨーロッパの焼酎は、なんといっても、スコッチ・ウィスキーからであろう。1441年、スコットランドに多数の蒸留所ができた。
【参考】赤ワインと白ワインの使い分け
- 魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワインというのが、現代としての原則である。
- このとき、1つの国の中でも、とり肉料理について、白ワインにする地方と赤ワインにする地方がある。
- ローゼ・ワインは、赤ワインであり、白ワインであると思われよ。
- すべてを赤ワインで押し切っているときは、古典的な方法であると思われよ。または、とくに、美酒であるから、そうしていると思われよ。
- 同じ赤ワインであっても、軽い赤ワインは、家畜の肉のとき、重い赤ワインは、狩りでとってきたような動物の肉のときといった使い分けがある。
- ワインは、料理のオーダー・テーキング後、ソムリエが料理に合ったワインを勧め、注文は赤ワイン、白ワイン同時に注文したのち、魚料理と同時に出てきて、同時にコルクが抜かれ、赤ワインは、肉料理のときまで20分〜60分間空気にふれさせておく。
こうすることによって赤ワインの味が一段とよくなる。
よって、コース料理においては赤ワインを20分〜60分間置くのである。
【参考】ワインの一杯飲み
フランスを中心として、ヨーロッパのレストランでは、ワインをコップ1杯ずつ注文することができる。
【参考】食前酒・食中酒・食後酒
- 食事に伴う酒の区別は、いちおう、次のようになる。しかし、あまり、窮屈に考えなくてよい。
食前酒 |
ベルモット、カルバーニ、チンザノ、カクテル、
シェリー酒 |
シャンパン、ワイン、ビール |
食中酒 |
|
シャンパン、ワイン、ビール |
食後酒 |
リキュール、ベルモット、キュラソー、ウィスキー、
ブランデー(タバコの味と補い合う) |
シャンパン、ワイン、ビール |
- アメリカでは、食前酒として軽いもの1〜2杯を飲み、食事中、水しか飲まないという伝統を持っている。ヨーロッパでは、食事中、だいたい、ワインを飲んでいる。
【参考】女子のシェリー
男子と二人きりのとき、その男子から食前酒を勧められた女子が「シェリーを」といえば、「今夜、あなたのいいなりになる」という意味になってしまう。
【参考】女子とポート・ワイン
男子と二人きりのとき、その男子から、食前酒にポート・ワインを勧められて、「いただく」と言えば、シェリーほどではないものの「気がある」ことを意味してしまう。
【参考】ワイン・グラスについて
本来、ワイン・グラスで、赤白のワインをつぐグラスの色は、ともに、無色透明である。しかし、白ワイン用のワイン・グラスには、緑色のものもある。
【型1】水、酒の飲み方……ナプキンを取る前に飲むな
- 客が着席したとき、すぐに、水を注いでくれるのは、のどが乾いている客へのサービスであるが、正餐のとき、スープが済んでからでないと、水は注がないもの。
- で、まず、ナプキンを取る前に、水や酒が注がれてあったというとき、その水や酒は、まだ、飲まれるな。ナプキンをとってから飲まれよ。(ただし、正客から)
- ナプキンを膝に当てたとき、正客から順次に、そこに注がれてある水、酒などを、一口、飲まれよ。これは、のどの乾いている方に対するおたがいのサービスである。
のどの乾いている方は、このとき、一口でなく、たくさん、飲まれてよい。
【型2】ソムリエ全般
- 日本でも、高級レストランには、しばしば、ソムリエ(ワイン専門職)がいる。首から前に鎖を下げているから、すぐに。わかる。この鎖の先には、ワインの味見をするための小さな金属製のコップが下がっている。
- 客としては、食事の前からワインを飲みはじめる。注文の仕方としては、普通のウェーターに、まず、料理を注文し、それから「ワインを、お願いします」と言えばよい。
すると、そのウェーターが、ソムリエを呼んできてくれる。ソムリエは、ワインの専門家であるから、ワインについてなんでも相談できる。ソムリエの、その店のなかの格式は高い。わからないときは、ソムリエに飲むべきワインを選んでもらえばよい。
- ソムリエは、料理を出させるのを押さえ、自分で、ワインを持ってくる。で、栓を抜くや注文主(接待主)のコップに、少量だけ注ぐ。つまり、「きき酒」せよということである。
- なお、ソムリエは、この味見酒を注ぐ前に、ビンのラベルを見せるから、そのときは、わかっても、わからなくても、一生懸命読むのが、ソムリエに対する、また、他の客人に対する誠意ということになる。ただ、日本人がこれを行なう場合、しばしば、まるで、学生が難しい外国語の本を読んでいるような姿勢になりやすいので注意のこと。
- ワインは、古いものほど値段が高い。しかし、ワインの味は、仕込んでから、12年経ったものが最高であって、あとは、次第に、味が落ちてゆくものである。また、ブドウが豊作の年は、ワインをたくさん仕込むから、その年のワインは、あとになっても安い。
要するに、9年ないし、15年経たったもののなかで、ブドウ豊作の年が何年であったかを勉強しておくと利巧なワインの注文の仕方となる。
- きき酒が、グラスの底に少量注がれたならば、はじめ、グラスの中に鼻を突っ込み、その香を嗅ぐ。グラスを揺すぶるとよい。これは、一見、ぶざまのようであるが、国際的な習慣であるから、やったほうがよい。あまり、しつこくやらずに、ちょっとだけやること。それから、一口飲み、少し、口のなかに含んでいた後、飲み込む。それから、息を鼻から吐く。で、ワインのにおいがわかる。
- 味見するというが、まずい酒を出してきていないかを、味見するわけでない。万一、変質しているような酒を、客人に飲ませたのでは、申しわけないから、それを調べるための味見である。変質していなかったならば、そこで、ソムリエに対し、首を縦に振って見せると、それで、ソムリエは、正客から始めて、こんどは、なみなみと注いで回ってくれる。
- このとき、その日の正客に当たる人が、意外に若い人であったり、または、正客らしい席にいないことがあるので、ちょっとあちらのかたが正客であるという手振りを添えると、ソムリエは助かるし、その正客にも、失礼にならないですむ。
- なお、ソムリエに注がれて、ワインの味見をするとき、グラスの柄でなく、その下の台を手に持たれてよい。
【型3】酒の注いでもらい方
- 酒を注いでもらうとき、グラスを、卓上に置いたままとされよ。
手で持って、注いでもらうのは、はなはだ、親しい者同士のときのみ。無礼講というわけ。
- ワインは6〜7分目につがれるもの。
注ぎ手が、ケチをしているのではないということ。
- 本来、フランス、ドイツ、その他の国において、ワインは、ウェーターがつぎにくるものである。ところが、ウェーターの怠慢や事情によって、つぎに来ないときがある。そのときには、客がかってについで、飲んでよい。
このような場合、ウェーターは、その1回は客につがせても、あとはウェーターがつぐように心掛けるようにする。
【型4】酒のことわり方
- 酒を注がれるとき、辞退しても失礼でない。
- けっして、してはならぬことは、コップを伏せること。たいへん失礼とされる。
(不吉な意味を持つ)
- 手をコップの上にあてると「酒をご遠慮」の意味となる。ただし、これを、派手に行なうと、「不満」をあらわすことになる。
- 少量だけ、注いでもらいたいとき、小声で、「少量を……」と言えばよい。
- 宴会のとき、酒を飲めない人や、水を欲している人は、いつでも水を要求できる。
西洋の場合、手をコップの上にあてる。東洋の場合、グラスを伏せるやり方もある。
この2つを、うまく使い分けられよ。東洋では、どちらでもよいが、西洋では絶対にグラスを伏せてはならない。
ただし、席についたとき、グラスが伏せてあったなら、それを起こすのは、ウェーターの仕事である。
【型5】酒の注ぎ方
- ワインを注ぐとき、グラスにオリが注がれないように、ボトルの下2割を、人に注がないこと。
ウェーターは、お客様にラベルを見せながら、下図のようにボトルを握り、泡が立たないようにゆっくり注ぐこと。
- ビールは、泡のてっぺんが、コップのてっぺんと一致するように注ぐとよい。ショー・ケース陳列品のような注ぎ方が、案外に、よい。
- ウイスキー・グラスに注ぐとき、酒面がグラスの上に、表面張力によって盛り上がるような注ぎ方は、二流以下の場所ですること。欧米では、8分目しか、注がないが、日本では、これも、9分目までがよろしかろう。
- 酒を注ぐとき、人さし指をのばし、ビンのなで肩のところにかけるようにして持たれよ。
- ビンの口が、グラスのフチに、カチッと当たるのは失礼とされる。
- 日本酒と異なり、けっして、注ぎ足しをされるな。
- 注ぎとめたとき、最後の一しずくが、ポタリと行くと感じたならば、とっくりとか、瓶とかを、まわされよ。しずくが、口に沿って流れる。
- 布巾や、サービス・タオルがあれば、そのあと、瓶などの口をぬぐう。が、客同士の場合、もし、流れても、瓶などの外側を、つたわせておかれよ。瓶の底まで、つたわってしまうと思うときは、ハンカチーフを出して、瓶の胴を拭かれよ。しかし、ハンカチーフで、瓶などの口をさわられるな。
【型6】ことわられた酒をつぐな
酒をついでやろうというとき、相手が辞退したならば、もはや、酒をすすめてはならない。
【型7】飲むとき素手で飲め
飲み物を飲まれるとき、ナイフも、フォークも、すべて置かれよ。フォークを左手に持ったまま、右手で飲み物を飲まれるな。
【型8】右手で飲め
水でも酒でも、飲み物は、右手で飲まれよ。
【型9】ワインの飲み方
- 酒には、いずれも、温度の問題がある。
- で、白ワインは摂氏5度であることを求めているから、グラスの下の柄を持ち、グラス本体に指をかけられるな。
【型10】飲む姿勢
座って飲むとき、日本人は、ふんずりかえるか、または、反対に猫背になりやすい。姿勢を崩さず、いくばく上体を前倒して飲まれよ。
【型11】グラスのフチを汚さないこと
- 唇に油がついていると、水や酒を飲んだとき、グラスのフチを汚すことになる。
- で、ナプキンで、唇を拭いてから飲まれよ。
- が、そうしても、唇のあて方によっては、やはり、グラスが汚れる。ここのところは唇のあて方を、ふだんから練習しておられよ。
【型12】酒によって飲み方が違う
- ワイン、ブランデー、リキュール、日本酒などは、奥歯を噛んだまま、飲むと、酒が、舌を、よく、くるんで、味が出る。
- ウォッカ、ジンといった火酒は、口をあいて、酒を、のどべらに、ひっかけるように飲むと、その酒が食道を通るとき、風味が出る。
- ビールのようなものは、ガブリガブリと、水のように呑む。
【型13】飲んだらもとのところに置くこと
- グラスは、必ず、もと、置いてあったところに置かれよ。置きかえられるな。
- そのことは、卓上のグラスの多いとき、1回ごとに、はなはだ、おかしな手付きをしなければならないハメに陥る。しかし、それを行われよ。
- 食事中、白ワインから赤ワインに代わったときに、赤ワイン・グラスと白ワイン・グラスを置きかえてもよい。また、白ワインを赤ワインと交互に飲んでもよい。
【型14】酔態を示すな
酔態は、人の前で示し得ない。外国人は、酒の上のことだといっても、けっして、許してくれない。
【型15】デザートのとき酒を飲むな
- 酒は、食前から、食後まで、飲みつづけられてよいが、デザート・コースのあいだ、禁酒されよ。
- 閉宴後、酒を飲んでいるのは、もっとも、不作法である。別室で、食後酒の出るときはまた別。
【型16】ワインのコルク処理
- お客様の前で抜いたコルクは、テーブルの上に、ワインに接していたほうを上にして置く。
- コルクに、ワインの付着が多く、テーブル・クロスが汚れるようであれば、軽く、アーム・タオルで拭きテーブルヘ置く。
第7章 飲食・喫煙