第35節 あとしまつの技術
- 1つ、前むきに仕事をしたとき、いくつかのあと始末が要る。そのあと始末のできないうちに、前むきに、突進すると、空中分解する。
つまり、前むきに、どんどん仕事をする人物というものは、その何倍の速さで、あと始末をしてゆくことのできる人物である。
作法とは、はなはだ多く、あと始末の技術である。
- たとえば、自分の脱いだ履物のあと始末をするとか、脱いだ上着、コートのあと始末をするとかいうことは、その小さな例といえる。
人から世話になったとき、礼の電話をかけるとか、礼状を出すとかということは、やや大きなあと始末である。
- ところで、われわれは、失敗したときのあと始末に気が進まない。その失敗を忘れてしまいたい。
が、失敗でのあと始末をあいまいにする者は、作法をわきまえた者として扱われないし、信用されない。
- さて、失敗のあと始末は、オーバーに行なえば、いや味となる。
作法者が、あきらかに失敗したときには、ちよっと慎みをあらわし、あと、なにごともなかったようにされよ。
- ことばでも、言い違えたとき、「失礼致しました」のあやまりことばは、電話とかラジオ放送のように、こちらの姿が、相手に見えないときのみ、用いられよ。姿が見えているときは、黙礼といった動作だけのほうがよい。
総論