学校へはブラックスーツで通学していました。
それまで、ブラックスーツはお葬式のときに着るものと思っていたので一つ学んだわけです。
刈り上げた頭にブラックスーツ、胸に白いポケットチーフ、白ワイシャツ、黒靴下、黒靴。
ホテルマンというか、男子の正装です。
授業の後ある生徒がワイシャツの1番上のボタンを楽だからと外しているのを、先生に見つかってひどく叱られたいうことがありました。それを聞いて私は首回りの窮屈なワイシャツをすべて捨て、首回りに余裕があるワイシャツを買いました。それまで身だしなみに気をつけたことが無かったので何もかも勉強でした。
「人間は中身じゃないか、外見はどうでもいいという人がいるが、決して外見をおろそかにしてはいけません」「中身に自信のある人ほど外見をおろそかにしがちだが、決して外見をおろそかにしてはいけません」
林先生が授業で繰り返しおっしゃったことです。
スーツの上に着るトレンチコートのベルトをきちんと締めずに、ダラリと下げたまま着ていて怒られた生徒もありました。
林先生は官僚だった頃、型破りの人だったようで、長髪にジャンパー、ズックという身なりで働いていたことがあるそうです。作法心得の前書きに書かれている、早稲田大学名誉教授、今和次郎先生とはたまたま椅子に並んで座ったとき、同じジャンパー、ズックという身なりなので「同じですね」と会話が始まったのだそうです。
林先生が怒るときは本当に怖かったです。あのように偉い方が、鬼の形相で私たちのようないい加減な人間と四つに組んで指導してくださいました。
私はいま高齢者になって、改めてこの「外見をおろそかにしてはいけない」という言葉を噛みしめています。
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