見返りを望まない

 林先生宅に早朝に伺うと、朝食をご馳走になり、お昼に伺うと昼食をご馳走になり、夜に伺うと、夕食をごちそうになりました。そして、先生は時間のある限り労力を惜しまずに私たちに教育をしてくださいました。それなのに、先生は生徒からの見返りというか、生徒から利益を受けることを、堅く拒んでいらっしゃいました。ある生徒がお菓子の包みを持って行ったら、玄関先からお菓子と一緒に放り出されたという話を聞いたことがあります。

 私の例ですと、卒業してから、スペイン旅行のお土産として、ドンキホーテの木彫りの像を買ってきて先生のところに持っていきました。そして「つまらないものですが」と出そうとした途端に、「つまらないものを持ってきたの!」と、激しい叱責を受けました。そのまま家の外に放り出されそうな勢いでした。私は必死で、「先生に似ているので、持ってまいりました」と申し上げました。先生は「面と向かって言いやがる」と苦笑され、「似ているね。虚勢を張って反っくり返っているところなんか、そっくり。こういうものだったら貰うよ」とおっしゃられ、その後、涙を浮かべられながら、「私の所に来るときは、手ぶらでいらっしゃい」とおっしゃられました。こうして、大失敗が無事にすみました。

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