第4章 美容と服装 ◆第29節 ハンド・バッグ
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第29節 ハンド・バッグ

【通解】ハンド・バッグ略史
【通解】ハンド・バッグの置き場
【型1】欧米の訪問先やホテル・ラウンジでのハンド・バッグの置き場
【型2】レストランでのハンド・バッグの置き場
【型3】化粧を直すとき
【型4】洗面所
【型5】客のハンド・バッグに対する作法
【参考】ハンド・バッグの型

【通解】ハンド・バッグ略史
  1. Hand Bag とは、手さげ袋のことであるが、普通、女子用のものをいう。
    バッグは、携帯用必需品を入れるために発生した。
    男子の場合、一般に着物の布が丈夫で、ポケットも大きかったが、女子の場合、その逆であったため、どうしても、何らかのバッグを必要とした。

  2. バッグの使用は、古くからで、古代ギリシアの女性が美しいシルエットをこわさないため、ポケットのかわりに、腰に袋を下げたという記録が残っている。

  3. ローマ時代を経て、中世には、男女とも、腰ひもに袋を下げる習慣が定着し、現代も、ヨーロッパ各地に、この形が残っている。
    こん日、スウェーデン、ノルウェーなどで、民族衣装を着用するとき、大きなバッグを腰ベルトに下げるのは、その顕著な一例である。

  4. 1400年代から急激に服飾創作技術が進歩したことと、1500年代から、女子尊重の風が起こり始めたことによって、服装による女性美の追求が表面化し、それとともに、貴族女子は、腰袋でなく、手さげ袋を持つに至った。

  5. ここに、ハンド・バッグが腰袋と異なり、第1義に装飾品、第2義に実用品としての意味を持っている、という基礎的事情がある。

  6. ただし、1700年代、貴族女子の服装が最も誇張された時代に、大きなスカートの中にポケットを作ったので、ハンド・バッグを使わないことが多かった。

  7. 1800年代、フランス革命後、スカートが小さくなったので、ふたたび、手さげ袋が流行し、ここでは、その手さげ袋が小型化し、女子であるならば、誰でもが持って歩くようにかわり、こん日に至った。

  8. 腰袋と手さげ袋の合体した形のショルダー・バッグは、クリミア戦争(1853〜1856年)で、ナイティンゲールたちが使用していた。
    第1次世界大戦では、第一線に出た男性のかわりに、女子が各方面の職場で働いたが、これによって、女子の労働能力が理解され、戦後、年を追って、女子の職場進出が顕著となり、第2次世界大戦(1940〜1945)が、この傾向を、いっそう、本格的なものとした。
    女子の職場進出が盛んになって来ると、工場で働くための作業着を入れるバッグや、あるいは、子供がいる女子の場合、子供用品(おむつなど)を入れる活動的なバッグが必要となった。
    また、大量に買物をするときなども、便利であった。
    で、これも、一般化し、こん日に至っている。

  9. 日本では、フロシキ包みという有用なものがあったし、和服の特長を利用して、袖や帯などに物を入れていたので、ハンド・バッグの必要がなかった。
    ハンド・バッグを使用するようになったのは、洋服を着用しはじめた鹿鳴館時代からである。

  10. このように、ハンド・バッグは、各時代の生活の必要や流行によって、型が変化してきている。
    腰袋 → 手さげ袋 → ショルダー・バッグ
【通解】ハンド・バッグの置き場
  1. ハンド・バッグ作法には、ハンド・バッグの置き場という問題がある。
    このとき、現代日本では、これを物理的にしか考えないし、あるいは、日本でのフロシキ包みのときの考え方で行ないやすい。
    が、ハンドバックが欧米から来たものである以上、欧米風習を、理解しておきたい。

    図:ハンドバッグの置き場
  2. 欧米では、ハンド・バッグの底は靴の底と同じに考え、ハンド・バッグを、路上で、地面に置くという思想がある。
    事実、かれらは立ちばなしをするときなど、バッグを平気で地面に置く。
    そこで、ハンド・バッグの底には、土が付いていると思う約束がある。

  3. このような約束から、ハンド・バッグを、決して、卓上、ことに、食卓に戴せない。
    この点、日本人が、フロシキ包みについて考えている感覚と、かなり、違う。
    日本人の場合、フロシキ包みを路上に置くことはないから、座敷でも、卓上に置きもするし、その延長として、フロシキ包みを洋室の卓上にも置く。
    同じように、日本人は、ハンド・バッグを、洋室の食卓にも置きやすい。

  4. つぎに、欧米人は、イスに腰かけているとき、ハンド・バッグの中味(なかみ)を取り出すにあたって、ハンド・バッグを床から持ち上げ、平気で、自分の膝の上に載せる。
    矛盾しているようであるが、かれらは、自分の靴の置き場がないとき、平気で、自分の膝の上に置いたりしており、これを作法と心得ている。
    つまり、「膝の上」について、日本人の和服での膝の上と違う観念を持っている。

  5. 大きな荷物の上に、小さなバッグを重ね置きしてはいけない。
【型1】欧米の訪問先やホテル・ラウンジでのハンド・バッグの置き場
  1. 「ハンド・バッグを、こちらにどうぞ」というクロークを持った住宅やホテルでは、こちらが、そういわれたとき、ハンド・バッグから、いくばくの小品を出して、手に持ち、ハンド・バッグを、そこに預ける。

  2. クロークがないが、客室に通されたとき、サイド・テーブルなど、ハンド・バッグを載せる台を持って来てくれることがある。そのときは、その上に置かれよ。
    (ホテル・ラウンジのサイド・テーブルには、さっさと載せてしまってよい)

  3. そのような台を持って来てくれないとき、自分の座る左の床の上に置かれよ。
    この「左の床面」という位置が、ハンド・バッグの標準の位置であって、そのことは、エリザベス女王が、2時間、閲兵されるというときの例でもわかる。
    女王は、はじめ、約30分間、ハンド・バッグを手に持ったままで、立っておられ、それから、立たれている床上にハンド・バッグを置かれて、お伴の女官に持たされることがない。

  4. が、床に置くことができない事情のときもある。
    たとえば、自分が長イスのまん中に、座っていて、イスの左端まで、遠いとき。
    そういうとき、自分の座わっている(または、立っている)足の爪先に置かれよ。

  5. しかし、所詮、床の上では、具合の悪いことがある。
    たとえば、床の上に水が撒いてあるとか、粉だらけであるとか。
    または、ハンド・バッグが小さく、床上に置いたのでは、落っことしてあるようでもあるし、また、第三者が、踏みつけやすいとか。
    そういうときは、ハンド・バッグを膝の上に載せられよ。

    図:床の上のハンドバッグ
  6. しかし、その膝の上にも置いていられないことが起こる。
    たとえば、自分が長イスのまん中にすわっており、前にテーブルがあるわけでもなく、大きな本を渡されて、それを、よく見るといったときである。

  7. が、ハンド・バッグの大きさや形からして、床の上でもないと判断したとき、始めて、自分の座っているイスの上で、自分の左側に、身体を密着させて置かれよ。
    が、この形は、例外的な形である。
    そのことを知らずに、どこに行っても、自分の腰かけているイスの上に置く現代日本の一般的風習は、「はなはだ、失礼」なのである。

  8. しかし、そのイスの上の左側にすき間がないとき、始めて、イスの上で、自分の後ろ側に置く。

  9. ショルダー・バッグのときも、まったく、同じ順序で考える。

  10. ただし、婦人警察官、看護婦、スチュワーデスなど、制服を着ている婦人の場合、公然とイスの背に掛ける規則の場合がある。
    もし、制服を着てないのに、イスの背にショルダー・バッグをブラ下げたとすれば、これは、特殊な職業の婦人であることの信号であり、このことを知らないのは、教養の問題となる。
【型2】レストランでのハンド・バッグの置き場

レストランでも、訪問先家庭や、ホテル・ラウンジでの考え方と、同じである。

  1. レストランで、クロークのあるところでは、ハンド・バッグも、そこに預ける。
    小品のみ取り出しておかれよ。

  2. しかし、欧米でも、クロークが、「ハンド・バッグは預かりません」ということもある。
    盗難にあった経験を持つということ。
    そういうとき、こちらは、ハンド・バッグをレストランの中に持って入らねばならない。

  3. 自分が、食卓にすわるにあたってのハンド・バッグの置き場を、どうするか。
    まず、ウェーターに聞いて、ウェーターが、「こちらにお置きください」というところに置かれよ。

  4. ウェーターが自分の近辺にいないか、また、いても、頼りないときは、こちらとして、ハンド・バッグ・ハンガーを持っているかぎり、それで、食卓から、ぶら下げられよ。

  5. ハンド・バッグ・ハンガーを持っていないか、また、それでぶら下げたのでは、食事しにくいならば、自分のイスの左の床面に置かれよ。

  6. ただし、日本では、これを、ウェーターが、踏むことがあるので、その懸念を感ずるとき、こちらの、足の爪先に入れてしまわれよ。

  7. また、自分が長イスのまん中に座っていて、自分の左の床面に置くことができないときも、自分の足の爪先に置かれよ。

  8. また、床面が汚れているときは、自分の膝の上に載せることを考えられよ。

  9. しかし、膝の上に載せたままでは、食事がしにくいと判断されるとき、始めて、自分の座っているイスの上で、身体の左横か、後ろに置かれよ。
    このときは、「失礼申し上げます」という風にして。

  10. ショルダー・バッグのとき、制服を着ているのでないかぎり、イスの背に、ハンド・バッグを掛けたりされないこと。
【型3】化粧を直すとき

客席で、ハンド・バッグから、物を取り出して、化粧を直すと、特殊な職業の婦人ということになる。
で、化粧を直すときは、かならず、洗面所にいって行われよ。

【型4】洗面所

クロークに、ハンド・バッグを預けているとき、手洗いなどに行くため、ハンド・バッグだけを受け取りに行くのは、不作法でない。

【型5】客のハンド・バッグに対する作法
  1. クロークで、「ハンド・バッグも、お預かり申し上げましようか」というのは、親切である。

  2. しかし、「こちらでは、ハンド・バッグも、お預かりすることになっております」というのは、失礼である。

  3. また、「ハンド・バッグは、どうぞ、中にお持ちくださいませ」というのも、失礼でない。
    (ただし、このときは、当店が高級でないことの宣言となる)

  4. 客を、客間、ラウンジ、レストランなどに、迎え入れたとき、ハンド・バッグを置く台を、そばに持って行かれよ。これが、高級なサービスである。

  5. そういった台を持って行けない事情のとき、客に、ハンド・バッグをイスの上に置かせるにあたっては、「恐れ入りますが……」ということばを添えられよ。
    これは、「置かせるべきでないところに置かせて、申しわけございません」という気持である。
    「台も、さし上げ得ませず……」という意味である。

  6. 客が、ハンド・バッグを卓上に載せたり、イスの背からぶら下げたりしたとき、こちらは、知らぬ顔をすること。
    そうしないと、客を恥かしめることになる。
【参考】ハンド・バッグの型
  1. イブニング・バッグ
    大きさは20cm 四方内のもの。
    ダンス・パーティなどのとき、ポシェットも便利である。

  2. アフタヌーン・バッグ
    布製、皮製などでよい。
    大きさは、中型で、ハンド・バッグ・ホルダーでさげられる程度のもの。
    または、膝に置けるもの。

  3. タウン・バッグ
    大きさは30cm ぐらいのものが、多い。
    それより大きなものは、時と場所によっては、クロークなどにあずけて、セカンド・バックだけ使用する。

      〈イブニング用
    図:ハンドバッグ

      〈アフターヌーン用
    図:ハンドバッグ

      〈タウン用
    図:ハンドバッグ

第4章 美容と服装
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