第8節 質疑応答作法
【型1】質疑発信
- 座席から演壇の方に質問されるときは、沈黙のまま、挙手されよ。
- 挙手は、相手に正対して反対側の手で、上膊を、ほぼ、水平にされ、肱は、斜め前にし、前膊は、ほぼ垂直にされ、たなごころを、演壇の方に向け、5本の指は、半径20cm 程度の球の表面に接する程度に、ひらかれよ。
- 2回、挙手して、演壇の方に気付かれないとき、3回目以後には、ソフトに「ハイ」と声を添えられよ。
- 演壇から応答があったとき、起立し、イスは、うしろに引いたままでよい。
- けっして、立ち上がりながら、ものを言われぬように。
【説明】
立って、もの言われるとき、机に手をついてされるのは、たたみに手を付いて言う日本古来の礼法との折衷形式として、明治末年ごろから、普及してきた形であるが、腰の曲がった老人ならば、いざ知らず、国際舞台で見るとき、どうにも、見ぐるしい。
【型2】質問動作
- 資料を見ながら質問されるとき、資料を机上に置いていれば、やはり、腰曲がりとなるので、質問のため、立ち上がってから、資料を手に取り、片手で、胸の高さまで持ち上げ、それを見ながら、姿勢を正して、質問されよ。
- 資料をまるめて、机をたたいたり、振りまわしたりしながら、質問されるのは、元来、欧米風なのであるが、国際的に見て、かなり、時代遅れとなっているので、なさらないこと。
- 資料を持たれないとき、かならず、手前下*をされること。
第5章10節【型1】「正座」を開きます。
- 日本の国会では、1名の質問者が、まとめて、2問以上の質問を行ない、これが、株主総会などにも広がっている。
この方法は、かえって、論理の詰めができず、一見、能率的に見えて、能率的でないことが、国際的に、知られてきて、いまでは、古いものとなっている。
1回の質問では、質問事項を1件とされよ。
- 第2件目以降の質問は、それぞれ、また、挙手から始められること。
- 質問は、内容が、どれほど、激しいものであってもよいが、けっして、切口上とならず、ことばづかいもていねいにされ、スマイルを忘れられないこと。
- 質問を終了されたとき、相手が、間髪入れず、回答を開始したならば、こちらは、立ったまま、その回答を受け、その回答が不満足ならば、そのまま、追加質問を反復し、満足できたとき、なにも申されず、スマイルのうちに、着座されよ。
- 質問されたあと、相手が、答え始める以前に、約3秒間の沈黙を経過したならば、こちらは、静かに着座されよ。
- その着座の途中で、相手が、回答し始めても、こちらは、すまして、着座してしまい、着座したのち、胸を張って、聴いていれば、かえって、相手にとって、感じのよいものとなる。
- 着座して聴いていて、回答が不満足のときは、回答が終わったならば、挙手し、相手の応諾の合図を確認してから、起立し、追加質問されよ。
- もし、着座して聴いていて、回答が満足なときは、回答が終わったならば、挙手はせず、起立し、スマイルのうちに、揖*をし、着座されよ。このとき、相手の回答に、より感謝の意を表したいのであれば、さりげなく、「ありがとうございました」と申されよ。
第5章22節【通解】「揖」を開きます。
- 演壇の方が、友人であって、不満足な回答が重なると、こちらは、「まだ、納得を得ませんが、いちおう、これだけにさせていただきます」とか「だいたい、ありがとうございました」とか申したくなるのが人情であるが、あざけりの要素を含むこととなるので、打ち切るためには、ただ、スマイルのうちに、揖をされるのがよい。
- それでも、こちらが、よほど、不満足なとき、また、相手の言うことを肯定すれば、こちらに、大きな損失があるという場合、起立し、しばらく、相手の顔を見て、スマイルしており、そのまま、揖なしに、すわり、まだ、相手の顔を見つづけ、スマイルしているのである。
- このとき、立っているときも、すわってからも、けっして、他の人と顔を見あわせて、わらってはならない。
- やがて、相手の視線が、他にそれるか、下を向くかしたならば、こちらも、起立する前の状態に戻る。
【説明】
前 13. 14. 15. は、国際会議での、票決なきときの「反対をあらわす作法」であり、日本人は、総じて、これを知らず、いやしまれる。
演壇、教壇に立たれたとき、身体や視線を、あまり極端にクネクネ・キョロキョロと動かすと、聴衆が落ち着かないばかりでなく、不信感をいだくことに、つながる。
【型3】議長が質問者を指名する姿勢
- 質問希望者が、議長の正面方向にいるとき
- 骨盤を相手に正対する。
- 右肱を脇につけ、右肱の関節を直角に曲げる。
- 手のひらは、まず「上むき水平」にして、ひとさし指から小指までは、互いにくっつける。
- 中指の指先から前膊にかけて1直線にする。
- 中指の指先は、前方 1.5m、その地点から右真横 1m の床の地点に向け、指先は机上につける。
- 手のひらは、3m 前方の自分と同じ高さの地点に対して、真正面となるように向ける。
- 手で相手を指すのでなく、こちらの眼と、上体全体で相手を指名する。
- 質問希望者が、議長から見て、左側にいるとき
骨盤を相手に正対して、1. のときと同じ要領でおこなう。
- 質問希望者が、議長から見て、右側にいるとき
2. の右手を左手にかえて、左右をまったくとりかえておこなう。
- 質問希望者を指していないほうの手は、机の上にのせておかれよ。
【型4】質問順の整理
- 演壇におられる方は、同時に、2名以上が、挙手しておられるとき、向かって左の方から、指名して行かれると、みんなのほうから見て、心理的に、自然となる。
- また、1名の方と質疑応答中、同じ問題についてであろうが、他の方が挙手されたとき、その挙手者に、会釈し、手で、「すこし待たれよ」という意味の合図をし、それでも、その方が起立しかけたならば、「すこし、お待ちください」という言葉を添え、それでも、その方が立ってか、立たずしてか、発言し始めたならば、こちらも、声を大きくし、しかし、スマイルを忘れず、「お待ちください」といい、徹底的に、相手の言を封じ切ることである。
- どなたも、相手の話の終わらないうちに、受け答えや論駁をしてはならない。
- 問答の行なわれているとき、同一テーマについてであっても、第3者が口を出してはならない。
【説明】
会議が高じてくると、つねに、こういうことは起こり、議長が、それに、負けたが最期、会議は、めちゃくちゃとなる。
【型5】ほかにご質問は
- 最初の質問者との応答が終わったあと、議長としては、いましがた、荒れた人物への考慮など、どこ吹く風で、正面をむいて、「ほかに、ご質問は?」といい、また、手を挙げた方を、向かって、左から、拾えばよい。
- つぎに、講議のときなど、教壇から質問を投げかけられることがある。
このとき、この質問には、「誰でもよいから、座ったまま答えよ」と求めている「座答期待の質問」と、「誰か、挙手すれば、その者を指名するから、その者は起立して答えよ」と求めている「立答期待の質問」がある。
質問者の態度によって、座席の者は、このいずれであるかを判定しなければならない。
【型6】演壇の登り降り
- 演壇を、登降するとき、聴衆に対して、壁足から登降されよ。
- で、演壇を、まさに、登降しようとするとき、すれ違う相手と出合うことがある。
このとき、相手に対して、遠いほうの足を出されよ。
【説明】
このとき、まず、目前にいる人に対して、礼を尽くすということ。
で、こうしたとき、登降において、聴衆に対して、壁足とならなくてもさしつかえない。
(聴衆からは、すれ違う2人が、1組となって見える)
【型7】複数段の登り降り
- いま、演壇の上に立とうとするとき、段が復数であったものとする。
このとき、壇における最終歩を壁足とされよ。
- また、演壇から降りるとき、第1歩を壁足とされよ。
- ただし、女性の場合、壁足から昇り、そのまま、つぎの段に進むのでなく、もう一方の足をそろえ、さらに、また、壁足から、つぎの段を昇るという方法を採ってもよい。
第2章