第2章 集団作法◆第7節 座集団内での秩序維持の一般
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第7節 座集団内での秩序維持の一般
【型1】集会での荷物の取扱い
- 人は、集会に参加するとき、だいたい、その集会で使う物と、そうでない物を持って行くものである。
- で、その集会で要らない物を、会場内に、できるだけ、持ち込まないことが、会場を混乱させないための1つの作法とされている。
【説明】
もし、1名が30cm の立方体を持ち込んだものとする。
で、50名が集まって、これを床の上に並べると、2m 四方の床面が、つぶれてしまう。
- その集会で使わない物を、はっきりさせるためには、まず、その集会で使う物を、頭の中で、はっきりさせる必要がある。
つぎに、その集会で使わない物には、身に付けられる小物と、そうでない大物がある。
小物を、つとめて、身に付けること。そのように、頭を使うこと。
- さいごに、その集会で使わない大物を、自分の車があれば、車に置いてくること。
- 車はないが、そこに、クローク・ルームがあれば、そこに置いてくること。
- クローク・ルームがなくとも、荷物をあずかる机があれば、そこに、あずかってもらうこと。
このとき、「自分の荷物をあずかってもらうという面倒をかけるほうが、自分で、会場に品物を持ち込んで、会場を狭くするより、立派な行為である」という考え方を持たれたい。
- ところで、会場によっては、荷物をあずかる台もないところがある。
このとき、欧米人は、誰からともなく、即席の荷物置き場をつくり始め、そこに、順ぐりと、めいめいが、荷物をならべるものである。
また、泥棒がいそうなとき、交替で、番に立っているものである。
これらは、誰が、号令をかけるということもなく、自然に行なわれ得ている。
さて、この場合、日本人は、自分の荷物をなくさないために、自席付近に、その荷物を置いて、通路をふさいだりする。
で、日本人として、集団のときと個人のときの区別をはっきりさせた欧米の習慣を、はやく、採り入れたい。
- こうして、即席につくり出す荷物置き場は、盗難を考慮するのでなくとも、会場の出入口から遠いほうがよい。
【説明】
荷物置き場を、会場の出入口付近とするのが、一同退室のとき、荷物を受け取りやすいと考えられがちである。
が、こうしたとき、荷物を受け取る者だけでなく、荷物を受け取る必要のない者まで、出入口に集中することになり、この付近が、混雑する。
- さらに、即席品物置き場は、一同の座席の、なるべく、後方としたい。
【説明】
出入口から遠くても、一同の座席の前のほうであると、会合中に、荷物を取りに行く人の姿が目立ってしまい、会合の妨げとなりやすい。
- ここで、壇から遠いことと、出入口から遠いことと、いずれを優先すべきかが、問題となる。
まず、壇から遠いことを優先されよ。
つぎに、そうしたとき、盗まれる心配があるのならば、出入口を優先すること。
- こうして、荷物置き場が決まったならば、まず、台があるならば、台の上にならべること。
つぎに、台がないか、台から、あふれ出すかするとき、床の上にならべること。
- ひとの荷物の上に、自分の荷物を載せないこと。
- 自分の荷物だけでなく、他の人の荷物にもさわって、荷物線をそろえること。
- しかし、こうして即席荷物置き場を求めてみても、それを得られないことがある。
そのときは、荷物を公然と、自席のところに持っていかれよ。
- 小さな荷物で、また、自分のイスと両隣の人のイスとのあいだにスペースがあるのならば、自分のイスの左側に置かれよ。
- 大きさが、イスの横に置けないほどの荷物のとき、イスの下に入れられよ。
- さらに、自分のイスの下にも置けない状態のとき、自分の足の前に置き、それもできないとき、最後には、座っている自分の膝の上に置いて、抱えておられよ。
- ここにおいて、けっして、通路に、はみ出して置くということをされるな。通路が、どれほど、広くともである。これも、国際習慣。
- つぎに、集会に必要でないと思って、車か、クローク・ルームか、荷物預り台に置いてきてしまった物が、集会中に必要になってくることもある。
そのときは、平気で、静かに退席し、その荷物を取ってこられよ。
ただし、この行為は、静かに行ない得たときのみ、不作法とならない。
- 集会中に、何か、物を貰うことがある。(たとえば、儀式まがいの会合において、突然、賞状や記念品をいただくなど)
貰ったのち、しばらくは、手に持っているとして、会合のテーマの変わり目、または、休憩時など、折を見て、その荷物を、どこかに、置きにいかれよ。
【型2】座る場所
- 会場での自席が決められているとき、入場の前に、かならず、自分の座る場所を確認し、それから、会場に入っていかれよ。
- 自席が決められていないとき、会場に入ったならば、入ってきた順に、演壇にいちばん近い、ヨコ第1列から、それも、入口に遠いほうから順次に座っていかれよ。
【説明】
- 日本人は、自由席制度のとき、どういうわけか、うしろのほうから座っていく。
そのため、イスの数が聴衆の数より多いとき、演壇の人と聴衆のあいだが、ポッカリと空席になってしまう。
これは、演壇の人に対して、たいへん、失礼な行為である。
- が、欧米では、授業を含めて、会場に入るというとき、これらのことを、はなはだ、自然に行なっている。
- 日本人として、自席の決定の仕方ぐらい、国際水準に到達したい。
【型3】空席の処理
- どのような場所にあっても、2名分の座席を、1名で、占領されるな。
隣りの空席に、荷物を置くことは、さしつかえないが、他の国民であると、人が、そばに来ただけで、自分の荷物をどける。
日本人であると、誰かが来て、「ここ、あいていますか」と、聞くまで、知らん顔をしている。これを改めよう。
- せっかく、隣席を完全な空席に、してあげたのに、相手が行ってしまったならば、再びその空席に、荷物を置かれてよい。
【通解】
座集団での姿勢には、つぎの2種類がある。
- 順卓法
めいめいの机に向かって、座られ、用事のあるときだけ、話者のほうに、上体を向けられること。
- 対話者正対法
机の向きなど構わず、イスの向きを話者のほうに向け、したがって、サイドのほうに位置する方は、机に、片肱をのせておられること。
儀式のときは、 a. がよく、日常時の会話(学校での授業を含む)のときは、 b. がよい。
【型4】身体の向きの使い分け
座集団では、順卓法か対話者正対法かを、はっきりと使い分けられよ。
【型5】子供のしつけ
食堂や列車のなかなどで、子供をキャーキャーいわせたり、走りまわらせたりするのは、日本人だけである。
【説明】
走りまわるようになった子供は、案外に、大人の世界を読んで行動している。
子供を伸びやかに育てることは、たいせつであるが、まわりに、くだらぬ迷わくをかけない人物とするためには、小さいうちから、一定のしつけが要る。
【型6】沈黙要求サイン
- 誰かが、みんなのほうを向いて、きちんと立ったということは、静かにしてほしいというサインであるから、そのとき、紳士淑女たるもの、瞬時にして、会話、ひとりごとを停止されるべきものである。(ひとりごとのほうが、邪魔になる)
- 誰かが、みんなのほうを向いての発言が終わっても7〜8秒間は、沈黙を守られよ。
【説明】
- 日本人は、平気で、話をしている。
欧米人は、日本の小学生のように、ピタリと沈黙する。
- 日本人は、「ひとりごと」ならば、よろしかろうと考える。
実は、「ひとりごと」のほうが、集団の邪魔になる。
その「ひとりごと」たるや、「あっ」とか「しまった」といったことばであっても、つつしまなければならない。
【型7】「無言」「ささやき」「小声」「平気」の使い分け
- ここに、軟集団がある。そのことは、立集団の場合も、座集団の場合もある。
そのみんなが、ひと声も発しないし、伝達の必要があれば、筆談している。
こういう状態を、「無言」の状態と呼んでみよう。
- つぎに、だいたい、無言であるが、仕事の上で、必要なことだけ、ささやき声で話している状態。
この状態ならば、講演者の声は、みんなにきこえる。
こういう状態を、「ささやき」の状態と呼んでみよう。
- つぎに、みんなが、勝手なことを、勝手に、しゃべっているが、しかし、その、めいめいの話が、50cm 離れた、となりの人にしかわからない程度の、低い声で話している状態。
のどの声帯は、振動している。
授業時間中に、自分のクラスだけ、休みとなり、自分たちだけが2階ロビーで、休憩しているといったとき、この状態がよい。
こういう状態を、「小声」の状態と呼んでみよう。
- つぎに、みんなが、まわりを気にせず、勝手に、ザワザワし、ときに、大声も出している状態。
こういう状態を、「平気」の状態と呼んでみよう。
- 日本人は、軟集団訓練を経ていないから、この4つの状態の使い分けが下手である。
- 無 言 SILENCE
- ささやき WHISPER
- 小 声 LOW VOICE
- 平 気 INDIFFERENCE
- この4つの状態の使い分けを、その場その場で、さっと、申しあわされよ。
- また、申しあわせのできない状況下では、各個人において、この4つの使い分けを、ピンと、判断されよ。
【説明】
たとえば、カクテルの作りかたのレクチュアを受けていたものとする。
めいめい、自席で、聴いている。
このときは、「a. 無言 SILENCE」
そのうち、「では、みなさん、うしろの大机のところに、おあつまりになって、みんなで、カクテルを作ってみてください」ということになる。
このときは、「c. 小声 LOW VOICE」
しかるに、みんなに、やらせながら、講師が、横から、説明をはじめられる。
そのときは、「b. ささやき WHISPER」
こういうことの切り替えに、うまくなられよ。
【型8】筆談
- みんなに向かって発言している方があるとき、他の方々は、すべて、沈黙を守られるべきである。けっして、ヒソヒソ話をされてはならない。
- どうしても、ヒソヒソ話の必要があるとき、パントマイムで話し、または、筆談されよ。
- 離れた席同士で、筆談の必要を生じたときは、起立し、発言中の方に黙礼、しずかに、メモを、筆談したい相手に手渡しに行かれよ。
それから、帰席したとき、また、発言者の方に黙礼して着席されよ。
【説明】
筆談は陰けんであるが、ヒソヒソ話よりは、公害が少ない。
【型9】笑声
会合(授業を含む)のとき、朗らかな笑声は、いっこうにさしつかえないが、声援、野次、失笑は、よく、場合を考えてからにされよ。
【型10】むせたときの音など
- むせたとき、咳、くしゃみなどの音は、ハンカチーフを口にあてるなどして、最小の音にとどめるよう、努力されよ。
【型11】拍手
- 拍手は、すべきものである。
- 拍手するとき、1拍と1拍のあいだが、1/3秒よりも長くなる拍手をされるな。これは、嘲笑を、わざとあらわすときにのみ、用いるものである。
- また、1拍と1拍のあいだが、1/4秒よりも短かくなる拍手も異常であって、からかっているような効果をあらわしてしまう。
- ところで、中国でも、そうであるが、ソ連や東欧に行くと、拍間1/2秒以上の拍手を、平気でする。
これは、共産圏の、仲間同志であることのひとつの信号となっているものであるから、自分も、そういう同志であることをしめしたいときは、そのようにされねばなるまい。
- 音楽にあわせて、手をたたくことは、手拍子であって、拍手でない。
この風習は、国際オリンピック東京大会で発生し、それから10年近く、世界の流行となったものである。
ところが、日本人は、音楽をやっていないときでも、拍手のかわりに、みんなで、この手拍子をやることがある。
これを、やり出すと、欧米人も、よく、調子をあわせて、いっしょに、拍手がわりにやってくれる。
が、けっして、心の底から、よろこんでいるわけではない。
海外に日本人団体で出かけたとき、注意されよ。
- 自分の演説や、演技に対し、みんなが拍手してくれたとき、自分もいっしょに拍手するのは、共産圏の中のみでの約束である。
で、自分のいる立場によって、この方法の採否を考えられよ。
【型12】クリップの音
講演・講義を聴くとき、筆記具のクリップを、ピチンピチンと、はじいて音を出しておられぬように。
【説明】
小さな音であるが、話す者にとって、はなはだ邪魔になる。
【型13】イスの音
座集団では、自分のイスをギシギシ言わせないように、注意されよ。
【型14】いねむり
けっして、いねむりをされぬよう。
【説明】
日本で、いねむりは、それほど、失礼でない。
会議のとき、グウグウ、寝ていて、目をあけるや、ただちに発言するといった名人?もいる。
どうして、そのようなことができるのかと、聴いてみると、「頭は眠っていても、心は、寝ていなかった」……。
ところが、欧米に往くと、いねむりは、まったく、失礼とされる。
100名で、話をきいていて、その中の1名が、いねむりすると、そのいねむりした者は、講演者を侮辱したとみなされる。
こういったとき、「所かわれば品かわる」とは、このことであると思わされる。
東洋と西洋の違い。
先年、わたくしは、ヨーロッパで観光バスに客として乗っていた。
客は、たがいに、知らない人同士であった。
と、バスが、停まるはずのないところで、停まった。
運転士が、サイド・ブレーキを力いっぱい引くや、うしろを振りかえって、1人の客を、じっとにらんでいる。
にらまれている客はとみると、日本人で、こっくり、こっくり、いねむりしている。
わたくしは、運転士にきいた。
「どうして、車を停めたんだ?」
その答は、ふるっていた。
「わたくしは、お客さんに、すぐれた景色を見せる義務があって、走っている。バック・ミラーに、いねむりしている客が映った。いねむりする客は、わたくしの運転と、わが社のツア・コースを侮辱している。あの客が、いねむりをやめるか、車を降りるかするまで、わたくしは運転を続行しない」
で、わたくしは言った。
「あの客もカネを払っているんだぜ。あの客は、航空機で、まる1日以上、飛んで来たうえに、あちらこちらと見続けて、つかれているんだぜ」
すると、運転士いわく
「それならば、ホテルで、よく寝てから、このバスに乗るべきであった。とにかく、いねむりするような客の運転をしてやるのは、わたしの職務にかけて、いやだ。あの客が降りなければ、わたしが降りる」
この例などは、相当、思い切ったものであるが、とにかく、連中は、いねむりをいやがる。
で、われわれは、いねむりをやめなければなるまい。
【型15】いねむり起こし
となりや前後の席で、いねむりをしている人を見たならば、日本では、それが、知っている人であるかぎり、欧米では、知らない人でも起こされよ。
ただし、こちらが立ち上がらないでできる範囲について行なえばよく、立っていって、起こすにもあたるまい。
【説明】
従来の日本では、起こさないほうが、作法的であった。が、そろそろ、かえ始めたほうがよい。
わたくしは、アメリカで、エンドレスのポルノ映画を見ていた。1まわり2時間は、興奮した。2まわり目の中ほどで、旅のつかれが出て、眠ってしまった。と、隣席の知らないアメリカ人が、起こしてくれる。うるさくて、しようがない。で、また眠る。と、また、起こす。目をあけると、スクリーンに、大きなタラコとオイスターが、ダンスをおどっている。で、また、眠る。また、起こされる。このポルノは楽しかった。
第2章