第2節 座 礼
【通解】
座礼の基本は、屈体である。
屈体とは、正座の姿勢から、上体を前傾させてゆくことである。
屈体するときは、背すじをまっすぐにのばす。
また、頭は、まっすぐに上体にのせ、上体の動きに合わせて移動させる。
頭だけ前に落とし、衿と衿足のあいだにすき間をつくることは、見苦しい。
また、顎を上げすぎると、胸元にすきができ、かたちもくずれる。
で、座礼には、9品礼といって、9種類の礼があるが、このうちの7種類が、この屈体に伴う手の位置の変化から生ずるかたちである。
この7種類とは、指建礼(しけんれい)、爪甲礼(そうこうれい)、折手礼(せっしゅれい)、拓手礼(たくしゅれい)、双手礼(そうしゅれい)、合手礼(がっしゅれい)、合掌礼である。
けれども、これらの礼は、日常生活では、あまり使わない。
で、ここでは、座礼を、下座・和・最敬礼、下座・和・普通礼、下座・和・浅礼の3種類と決め、その3種類について説明する。
【型1】下座・和・最敬礼
- まず、正座の姿勢から、上体を屈体させてゆく。
このとき、背すじは、まっすぐにのばしたまま、前傾させてゆく。
頭は、まっすぐに上体にのせたまま、上体の動きに合わせて前に移動する。
頭だけ低く落としたり、また、顎を上げすぎたりしないように注意する。
- 次に、そのまま屈体してゆくと、ももの上に置いた両手が、前に押されるように感ずる。
このとき、手を上体の動きに合わせて、膝の前にすべらせてゆく。
すべらせてゆく手は、右手を、左手よりもわずかに先行させる。
- 両手は、両膝の前方 7cm くらいのところにつく。
この位置は、また、上体を屈体しきったときに、自分の鼻が、両手の人差し指の間に、ちょうど、はまり込む位置とする。
- 手の形は、指をそろえて、両手の人差し指をつける。
そして、両手が正3角形の2辺をかたちつくるようにする。
このとき、両掌を床にぺたりとつけてしまうのでなく、手の甲にまるみを持たせるようにする。
- 屈体しきったとき、胸は自然と両ももにつくようになる。
頭は、眉間顔面が床と水平になるように保ち、また、床から 5cm くらい、離す。
- 屈体しきったとき、腕は、掌から肘までが床につくようにする。
また、このとき、両脇を締めて両肘が横に張らないようにする。
そして、両腕の前腕の内側を、両膝の外側につける。
- 下座・和・最敬礼は、最もかしこまった座礼である。
下座・和・最敬礼は、全体を10秒で行なう。
まず、最初の 3秒で上体を前に屈体する。
次の3秒間は、最敬礼の姿勢で静止する。
そして、最後の4秒で、屈体した上体をおこし、正座の姿勢にもどる。
- 呼吸は、吸う息でからだを屈体してゆき、屈体し終わる直前で息を吐きはじめる。
息を吐いてしまったら、そのまま、2瞬間(まばたきを2回する時間)息を止め、こんどは、上体をおこしながら、息を吸う。
そして、上体をおこし終わる直前で、再び息を吐きはじめる。
- 上体をおこしてゆくとき、手は、上体の動きにつれて、自然にももの上をすべらせてゆく。
このとき、左手がわずかに先行するようにする。
- 礼の場合、この上体をおこしてゆき もとの姿勢にもどるときが、とくに大事である。
心をこめて、余韻が残るように行なう。
- もとの正座にもどったとき、礼をした相手の目や顔を凝視することは、避ける。
視線は、下図の四角形の中を漠然と見るようにする。
- 下座・和・最敬礼は、正座の膝の開きぐあいの違いを除いて、男性、女性とも、同じやり方、同じかたちで行なう。
【型2】下座・和・普通礼
- 下座・和・普通礼は、下座・和・最敬礼ほどつつしまずに行なう座礼である。
日常生活で、やや、かしこまなければならない場合に使う。
下座・和・普通礼は、最敬礼ほど、上体を深く屈体せず、眉間顔面が床から 30cm くらい離れた位置にきたとき、静止する。
- 屈体のしかた、手のすべらせ方、手を置く位置、手の形は、下座・和・最敬礼と同様である。眉間顔面は、床と平行に保つ。
- 腕は、やはり、脇を締めて、肘を横に張らないようにする。
掌は、床につくが、下座・和・最敬礼ほど深く屈体しないので、肘は床から少し離れることになる。
- 下座・和・普通礼をしているときの、視線は、両手人差し指の指先に置く。
- 下座・和・普通礼は、3息で行なうとよい。
これは、吸う息で上体を屈体してゆき、吐く息で静止している。
そして、再び吸う息で上体をおこしてゆくというものである。
時間は、およそ、2秒半で屈体し、3秒間静止。
そして4秒で上体をおこしきるというようになる。
- 下座・和・普通礼は、男性、女性ともに同じやり方で行なう。
【型3】下座・和・浅礼
- 下座・和・浅礼は、日常生活でも使う機会が多い。
部屋に入るとき、物品をすすめるとき、その他、相手に、あまり大げさにならない程度に敬意を伝えるときに、この下座・和・浅礼をする。
下座・和・浅礼は、男性と女性で、手の位置が異なる。
で、まず、女性の場合について説明する。
- まず、正座から上体を30度屈体する。
背すじは、まっすぐにのばす。
頭は、上体にまっすぐにのせたまま、上体とともに移動させる。
- 手は、屈体するにしたがって、膝の前に自然にすべらせてゆく。
そして、女性の場合、膝頭のところで両手をそろえ、下図のように床につく。
- 視線を置く位置は、自分の膝頭の位置から測って、自分が座ったときの座高の高さの2倍の長さだけ前方の床の上に置く。
- 下座・和・浅礼は、全体を4秒で行なう。
まず1秒で、30度屈体し、次の1秒間は、屈体したまま静止する。
そして、最後の2秒で上体をもとにもどし、正座の姿勢をとる。
- 呼吸は、屈体しながら息を吐き、上体をおこしながら息を吸うとよい。
- 男性の場合は、屈体したときの手を置く位置が女性と異なる。
男性は、両手を離したまま、両膝の前に、相互に平行となるようにつく。
そのほかの点は、女性と同様である。
【説明】
次に、従来、作法でいう座礼の代表的なものについて説明する。
- 指建礼(しけんれい)
手をももの両脇におろし、指先が、畳に触れる位置まで屈体する。
- 折手礼(せっしゅれい)
指建礼から、さらに、深く屈し、膝の両側に手を置き、指先をうしろに向けて、畳につく。
男子は、骨格の関係から、指先を前に向けたほうが、自然である。
- 拓手礼(たくしゅれい)
身体をさらに屈する。
手の指先を、前に向ける。
両手の方向は、肘から一直線に、身体中央に向いた線上にある。
- 双手礼(そうしゅれい)
身体をさらに屈する。
両手を、前に出す。
- 合手礼(ごうしゅれい)
身体をさらに屈する。
胸部がももにつき、腕下が畳につくまで、身体を下げる。
このとき、手の指が、広がらないようにする。
両手の人さし指の間に、鼻がはいる。
【参考】神前での礼(2拝2拍手)
神社、結婚式における神前での拝み方は、神道でも、元来、色々なやり方があった。
これが、昭和10年代に入って統一され、標準が示されて、今日に到っている。
この標準型を一口に言って、2拝2拍手という。
2拝2拍手のやり方
- まず、2回、最敬礼を行ない、そのあと拍手を2回する。
それから、もう1度最敬礼を行なう。
これがひととおり終わったあとで、また、2回最敬礼をして、2回拍手し、最後に、1回、最敬礼をする。
- これらの動作をたてつづけて行なうと、その間で、3回続けて礼をすることがおこる。
そこで、そのところは、少し間をおいてやるようにする。
- ここで行なう礼は、全て最敬礼であり、この作法心得の言う、立・正対・和・最敬礼である。
で、ペコペコと早くやらず、ゆったりと行なう。
- 拍手は、腕をのばして行なう。
肱を曲げない。掌(てのひら)は、ぴたりと打ち合わせる。
掌を少しずらすと、音はよいが、これは、人を呼ぶときの打ち合わせ方であり、邪道である。
- 手の指は、指のあいだをあけずに、ぴたりと閉じる。
しかし、親指だけは、上に立てても、ねかせて、ほかの指とくっつけても、どちらでもよい。
指先は、まっすぐのばす。
- 拍手は、目の高さで行ない、手を打ち合わせた真中が、目の正面にくるように行なう。
手の甲に、ふくらみを持たせるかどうかは、随意である。
- いずれにしても、2拝2拍手は、神前で拝むときの作法であり、形の問題よりも、心の問題のほうが重要である。