第1節 立居振舞
【型1】正立
- 頭は、耳のうしろの位置から、肩に向かっておろした線が、地面と垂直となるように、胴体の上に素直にのせる。
このとき顎があがらないように注意する。また、着物の衿と衿足のあいだが、すきすぎないように注意する。
この着物の衿と衿足のあいだは、一般に拳(こぶし)の幅くらいあける。
しかし、サービス・サイドに身を置く者は、これより少しせまくしたほうがよい。
- 視線は、畳の縦の長さの3倍(5m40cm)くらい前方の床の上に置く。
- 胴体は、まず、へその真裏あたりの背骨をまっすぐにのばす。そして、背すじをまっすぐにする。
- 足は、平行に踏む。女性は、両足のあいだをつけて踏む。しかし、男性は、両足のあいだを 3cm くらいあけて踏む。
- からだの重心は、土踏まずのやや前方にかける。
- 手は、自然に垂れ、ももの斜前方に軽く置く。
このとき手指のあいだは、離さずにつけたままとする。
そして、親指と小指のあいだをせばめるような気持ちで、手の甲にまるみを持たせる。
- 肱は、あまり張らないこと。
胴体と肱のあいだは、握り拳ひとつが入るくらいあけておく。
- 呼吸は、胸に吸気を溜めずに、腹式呼吸のつもりで静かに行なう。
(足呼吸する)
【型2】正座
- 上体は、正立と同様である。
視線は、畳の長さ2枚分(3m60cm )くらい前方の、床の上に置く。
背すじは、まっすぐにする。頭は、正立と同じく、正しく上体に据える。
- 手は、指が開かないようにして、ももの上に自然にのせる。
このとき、手の形は、親指と小指のあいだを狭ばめるような気持ちで、甲にまるみを持たせる。
- 肱は、あまり張らない。胴体と肱のあいだは、握り拳がひとつ入るくらいにあける。
- 膝と膝のあいだは、女性の場合、ぴたりとつける。
男性の場合、握り拳ひとつが入るくらい(7〜10cm)あける。
子供の場合も同様とする。
- 足は、男女とも、右足の親指を下に、左足の親指を上にして、両足の親指を重ねる。
- 身体がそり気味になりやすいので、自分の膝が短く見えるように、やや、前傾する。
【型3】跪座(きざ)
- 跪座の姿勢は、正座から、両足を爪立てた姿勢である。
跪座の姿勢において、上体は正座の姿勢よりごくわずかに前傾する。
頭は、顎が上がらないよう注意し、まっすぐに胴体に据える。
視線を置く位置は、正座と同じく、畳の縦の長さ2枚分(3m60cm)前方の床の上に置く。
手の位置は、正座と同じである。
両足の踵(かかと)の内側は、互いにつける。
- 足のくるぶしを中心として、爪立てた足の甲と、足のすねがつくる角は、その角を鋭角にする気持ちで曲げる。
- 尻は、両足の踵(かかと)の上にしっかりと載せ、上体の重みをかける。
- この跪座の姿勢は、低い位置で動作をするときに多く用いる。
また、正立から正座に移るとき、反対に、正座から正立に移るとき、必ず、この跪座の姿勢をとる。
【型4】正立から跪座へ
- 正立から跪座に移るには、まず、左足を半足長(自分の足の長さの半分)後ろへひく。
このとき、からだの重心は、両足の中間に置く。
- 次に、上体が前後左右に揺れないように注意し、ゆっくり沈みこむように腰をおろしてゆく。
- 左膝を先に床の上につける。
このとき、急に、どすんと、つかないように注意する。
つぎに、右膝を床につけて跪座の姿勢となる。
【型5】跪座から正座へ
- 爪立てている足を、右足から静かにねかせてゆく。
このとき、上体が前かがみとならないように注意する。
次に、左足を同様にねかせ、右足の親指の上に左足の親指を重ねる。
- 尻を踵の上におろして、正座の姿勢となる。
【型6】正座から跪座へ
- 正座の姿勢から、まず、両脚のももに力を入れ尻を少し浮かせる。
このとき、上体が前かがみとならないよう注意する。
- 左足から、静かに爪立ててゆく。
次に右足を爪立て跪座の姿勢となる。
【型7】跪座から正立へ
- 跪座の姿勢から、右足を半足長(自分の足の長さの半分)前に出し、右脚全体を浮かせるようにする。
- からだの重心は、両足の中間に置く。左脚の膝を床から離し、つづいてゆっくりと立ち上がってゆく。
このとき両脚の膝に力がかかる。上体が、揺れないようにする。
- 立ち上がったら、左足を半足長前に出して、右足とそろえる。正立の姿勢となる。
【型8】歩き方
- 足は、平行に踏み、両足が1本の線をはさむように平行に踏み出す。
- 重心は、常に、からだの中央にくるようにする。
- 手は、自然に、ももにつけて置く。
- 歩幅は、畳1帖の縦の長さを、女性の場合6歩で、男性の場合3歩半で歩く歩幅を基本とする。
- 歩幅は、早く進む場合はせまく、遅く進む場合はやや広くする。
- 視線は、畳の縦の長さの3倍(5m40cm )くらい前方に置く。
- 後から運ぶ足は、足の裏を見せないように、踵をなるべく床につけるように運ぶ。
- 膝よりも、ももで歩くようにする。
また、後ろの足を前に運ぶような気持ちで、常に、同じスピードで歩く。
- 室内で歩く場合、敷居を踏まないように注意する。
また、畳のふちを踏まないようにする。
【型9】立っての回り方
- まず、90度方向を変える場合、向こうとする方向と反対側の足を、向こうとする方向にある足のつま先に、T字型にかぶせる。
- 次に、向こうとする方向にあった足をそろえる。
- 方向を、180度変える場合は、方向を90度変える場合と同様、まず、回ろうとする方向と反対側の足を、回ろうとする方向にある足のつま先に、T字型にかぶせる。
- 次に回ろうとする方向にあった足を、最初に動かした足の、踵の後ろにT字型にかぶせる。
- 踵の後ろにかぶせた足と反対の足を動かし、両足をそろえる。
- 視線は、90度回る場合、180度回る場合、ともに、腰の向いた方向へ自然に移してゆく。
- 回る方向は、常に、人に背を向けず、尻を向けないよう、上座のほうに向かって回るよう心がける。
【型10】立っての開き方
- 立った姿勢で回転する動作には、「回る」の他に「開く」がある。
「回る」場合は、足を、他の足のつま先にかぶせて、前に出るような感じで回転する。
これに対して、「開く」場合は、足を他の足の踵の後ろにひいて、後ろにさがるような感じで回転する。
- 90度開く場合、まず、回転する方向にある足をひき、他方の足の踵の後ろに、逆T字型に重ねる。
- 次に、動かした足と反対側の足を、まわしてそろえる。
- 次に、180度開く場合は、まず、90度開く場合と同じく、回転する方向にある足をひき、他方の足の踵の後ろに、逆T字型に重ねる。
- 動かさないで置いた足を180度まわし、つま先を、回転する方向にある足の内側につけ、逆T字型をつくる。
- 最後に、回転する方向にある足をひき、両足をそろえる。
- 視線は、腰の動きにあわせて、自然に動かす。
【型11】座っての回り方
- まず、跪座の姿勢から、回る方向の側にある足を半足長前に出し、膝を少し浮かす。
このとき、重心は、主に、両足のつま先にかかるようにする。また、もう片方の膝は、軽く床につけて、からだをささえる。
- 半足長前に出した足のつま先を中心にして、両膝を徐々に回してゆく。
このとき、腰をまわすような気持ちで回す。35度くらいずつ、両足の間が開かないように、回るとよい。
また、床に軽くつけてある膝と、その足のつま先を使い、床を押すようにして回る。
- まず、跪座の姿勢から、回る方向の側にある足を半足長前に出し、膝を少し浮かす。
重心は、主に、両足のつま先にかかるようにする。また、もう片方の膝は、床につけて、からだをささえる。
また、図1の記号Aと、実線の矢印は、まわり始める前の、からだの向きを示す。
- 膝を浮かしたほうの足のつま先を中心として、もう一方の膝とつま先を使い床を押すようにして回る。
このとき、35度くらいずつ、徐々に回るようにする。
- さらに回るには、同様に、床についた膝と、その足のつま先を使い床を押すようにする。
このとき、両膝のあいだはつけて、回転する方向にある脚に、もう片方の脚を添わせるようにするとよい。
図3のAの位置は、まわり始める前に、からだが向いていた方向である。
図3のBの位置は、Aから35度まわった位置である。
- 図4は、図3の位置から、さらに、35度くらいまわった場合の図である。
まわりかたは、図2、図3の場合と同じである。
日常生活では、座った姿勢で、90度回ることができれば、充分である。
- 図5は、Aの向きからまわって180度の方向を向いたときの図である。
座わって90度回るときは、その90度を35度、35度、20度とわけて回るとよい。
また、180度回るときも、35度くらいずつ、徐々にまわって、最後に、その角度を小さくして、正確に180度まわった方向を向くようにするとよい。
- 和服を着て、座わったまま、右方向にまわろうとする場合、着物の打ち合わせのところが乱れぬよう、右手で押さえる。
- 回る方向は、常に、人に背を向けず、また、尻を向けないよう、上座の方向に回る。
【型12】座っての開き方
- 座っての開き方は、座ぶとんに乗ったり、降りたりするときなどに使う動作である。
この動作は、回る動作が足のつま先を、回転の中心にしたのに対して、膝を、回転の中心とする。
で、まず、跪座の姿勢となる。次に、開く方向に近いほうの膝を、もう一方の膝の斜め前に、45度の角度で移す。
このとき両膝はつけ、この両膝を中心に、両脚は45度に開いていることになる。
- また、このとき、尻をあげて腰がのびたり、尻が脚のあいだに落ち込んだりしないようにする。
- 次に、開く方向に近い足の反対側の足を、いま、動かした足(開く方向に近い足)にそろえて、跪座の姿勢となる。
- これで、最初に向いていた方向から、45度開いたことになる。
この動作をくり返して、90度、180度と、開いてゆけばよい。