第27節 紹介
【通解】紹介は重く
「B君、キミから10年前、ご紹介いただいたZ氏なんだがね。
はじめ、いろいろ、わたくしも、お力になってきたつもりです。
が、5年前から、これこれのことが重なってきましたので、このへんで、ご交際を終わらせていただこうと思います。
このことを、ご紹介くださった、あなたにご報告申し上げます。
で、B君に申し上げますがね。
紹介は、うかつにできませんよ。
あなたのご信用が、それによって決まります」
A氏は、当時、すでに、天下にかくれもなき大実業家であられたが、そのあと、20年あまり、ますます、大御所になっていかれた。
B氏は、それから10年にして、物故されたが、よく働いた方であった。
A氏とB氏のそばで、聴いていたわたくしは、妙に、この1件が、心の中に、こびりついていて、こん日まで、いい加減な紹介をしなかったということでよい。
で、人間、何か1つぐらい、人々に、ほめられるようなことをして、死にたい。
わたくしは、生涯、いいかげんな紹介をしなかったということでよい。
紹介の 「作法」 にあって、最も、大切なのは、いいかげんな紹介をしないことである。
- わたくしは、路上とか、カクテル・パーティーとか、そういったところで人さま同士を、本格的には、おつなぎしない。
- 本格的な紹介のためには、そのために、出かけていくか、拙宅に、お越しいただくかすることにしている。
- 紹介。Introduction. la Pre'sentation. die Vorstellung.
- 紹介は、大事であり、簡素なりといえども、「儀式」 として、行ないたい。
その 「儀式」 の仕方を述べる。プロトコールとしても定まっているもの。
- たいていの場合、紹介に際し、ただ名前を教え合い、互いにもじもじ見つめ合う2人を残して、その場を立ち去るだけでは充分でない。
両者に会話を始めさせるきっかけとなる何かを言って、紹介を最後までやり通すべきである。
もしできれば、共通に興味のあることについて話すのがよい。
【型1】貴女目婚年訪
- I さんが、AさんとBさんを結ぶとき、握手のときの優先順位と同じく、貴女目婚年訪で考えられよ。
- このとき、Aさんのほうが、貴女目婚年訪での優位者であるならば、さいしょに、AさんにBさんを紹介するのである。
- とっさのとき、最初に、Bさんに、「Aさんを、ご紹介申し上げます」 と言ってしまったときは、Aさんに 「やあ、これは失礼」 と申して、紹介のやり直しをすれば、それでよい。
【説明】
紹介の順は、そのあと、紹介を受けた者が、握手をするときのために、大切である。
【型2】自分の家族の紹介
- Aさんに、自分の家族を紹介するというとき、Bさん、Cさん、DさんをAさんに紹介するより先にするか、あとにするかは、説の分かれるところ。
- わたくしは、どうでもよいと見ている。その場の具合による。
【型3】起立せよ。
- 紹介は、儀式であって、AさんもBさんも、紹介者も、全員起立して行なうのが、原則である。
- ただし、老人は、座ったままで許されることがある。
- 女子が、男子に対して、座ったままでよいというのは、上品な社会で行われないこと。
日本では、得意になって、座ったまま、紹介を受けている女子があるが、これは、いけない。
- 会議、食事のとき、突然、紹介されたならば、座ったままでよい。
【型4】紹介のことばの定型
- 「Aさん。こちら、Bさんでございます」
「Bさん。こちら、Aさんでございます」
- 英語では、
- Aに向かって、This is Mr. B., Mrs. A !
Bに向かって、Mrs. A.
- Aに向かって、May I present Mr. B ? Mrs. A !
Bに向かって、Mrs. A.
a. b. いずれを用いてもよいが、一般に、ことに、非公式のとき、a. が多い。
- 英語のとき、上位であるAに、まず、下位であるBの名前を告げ、そのあと、「Aさんよ」 という呼びかけのことばを落とさぬこと。
日本語の感覚から、この 「Aさんよ」 を落としやすい。
すると、Aさんは、ムツッとしているもの。
- Bさんに対しては、ただ、Aさんの名前を告げ、あとに、「Bさんよ」 をつけない。
これによって、Aのほうが、上位であるぞという確認となる。
- この、ことばとしての定型をくずされないように。
- そのあと、Bさんが、どういう人物で……といったことは、腰かけたあとでも、つまりこの短い儀式の済んだあとででも、ゆっくり述べればよい。
- 仲に立つ人物 I が、「Aさん、こちらBさんでございます」 といったとき、Aが、性急で、Bに向かい、「Aでございます。よろしく」 といってしまったとする。
が、 I は、すまして、Bに対し、「Bさん。こちら、Aさんでございます」 ということ。
省略のないように。
【型5】紹介での握手
- 紹介を受けたとき、よほどのことのないかぎり握手をする。
これが、交際するという 「固め」 になる。
- が、女子は、女子同士のとき、いくばく、握手するが、男子とは、握手せず、会釈するのみ。
- 男性は、普通、握手をするとき、手袋を取るものであるが、もし手袋をはめるときに、突然、紹介される場面に直面したら、相手が手を差し出そうとするときに、もたもたと無器用に手袋をとろうとするよりは、はめたままで、握手するほうがよい。
【説明】
こちらが、A1(夫)、A2(妻)という夫婦のとき、先方の女子Bを誰かから、紹介受けたものとする。
A1、A2 がBより優位者である。
で、A2 がBに握手をあげたとする。
そこで、そのつぎに、よいつもりで、A1 が手を出すと、Bに対し、はなはだ、失礼となる。
日本人の夫は、よく、これを、やる。
【型6】重紹介と軽紹介
- わたくしなどは、めったに紹介の労をとらないのであるが、しかし、やはりパーティーなどでは、儀礼的に紹介しなければならないこともある。
こういう申しわけの紹介を、わたくしは、「軽紹介」 と呼んで見ている。
したがって、本気で行なう紹介のほうは、「重紹介」。
- 軽紹介のとき、Aさん、Bさんのことについて、現在の所属ぐらいのことしか言わない。
- 重紹介のときは、頑丈な場所で行なうから、Aさんについても、Bさんについても、1人分、少なくとも、10分間は、説明する。
【型7】路上で
- 路上で紹介を受けたとき、コートは着たままで可。
- 手袋は、すぐ、脱げるものであるとき、脱いだほうがよい。
が、脱ぎづらいもののとき、手袋をはめたまま、握手してよい。
このとき、必ず、「手袋をはめたまま失礼 Excuse my globe ! 」 ということ。
【型8】紹介されないとき
- I が、Aと歩いて来た。
そこに I の知人Bがやって来た。
が、I は、Bと話しはじめたが、AとBをむすぼうという意思に至らない。
- このとき、Aは、Bに軽く会釈したのち、少し、先に進んで、I を待っていなければならない。
【型9】名前を度忘れした紹介
- 仲介者 I が、AとBをむすぼうとするのであるが、どうしたことか、AなりBなりの名前を度忘れしてしまって、出てこないことがある。
- こういうとき、紹介を中断するわけにゆかず、そこで、泰然として、忘れた相手の顔を見ていると、本人が、自分の名前を言ってくれるものである。
- もし、この本人が、ドンであるか、固くなりすぎているとき、I は、すまして、小声で、「あなたのお名前を度忘れしました」 といえばよい。