第5章 立居振舞 ◆第27節 紹介
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第27節 紹介


【通解】紹介は重く

君、キミから10年前、ご紹介いただいた氏なんだがね。 はじめ、いろいろ、わたくしも、お力になってきたつもりです。 が、5年前から、これこれのことが重なってきましたので、このへんで、ご交際を終わらせていただこうと思います。 このことを、ご紹介くださった、あなたにご報告申し上げます。 で、君に申し上げますがね。 紹介は、うかつにできませんよ。 あなたのご信用が、それによって決まります」
氏は、当時、すでに、天下にかくれもなき大実業家であられたが、そのあと、20年あまり、ますます、大御所になっていかれた。
氏は、それから10年にして、物故されたが、よく働いた方であった。
氏と氏のそばで、聴いていたわたくしは、妙に、この1件が、心の中に、こびりついていて、こん日まで、いい加減な紹介をしなかったということでよい。
で、人間、何か1つぐらい、人々に、ほめられるようなことをして、死にたい。
わたくしは、生涯、いいかげんな紹介をしなかったということでよい。
紹介の 「作法」 にあって、最も、大切なのは、いいかげんな紹介をしないことである。

  1. わたくしは、路上とか、カクテル・パーティーとか、そういったところで人さま同士を、本格的には、おつなぎしない。
  2. 本格的な紹介のためには、そのために、出かけていくか、拙宅に、お越しいただくかすることにしている。
  3. 紹介。Introduction. la Pre'sentation. die Vorstellung.
  4. 紹介は、大事であり、簡素なりといえども、「儀式」 として、行ないたい。
    その 「儀式」 の仕方を述べる。プロトコールとしても定まっているもの。
  5. たいていの場合、紹介に際し、ただ名前を教え合い、互いにもじもじ見つめ合う2人を残して、その場を立ち去るだけでは充分でない。
    両者に会話を始めさせるきっかけとなる何かを言って、紹介を最後までやり通すべきである。
    もしできれば、共通に興味のあることについて話すのがよい。
【型1】貴女目婚年訪
  1. さんが、さんとさんを結ぶとき、握手のときの優先順位と同じく、貴女目婚年訪で考えられよ。
  2. このとき、さんのほうが、貴女目婚年訪での優位者であるならば、さいしょに、さんにさんを紹介するのである。
  3. とっさのとき、最初に、さんに、「さんを、ご紹介申し上げます」 と言ってしまったときは、さんに 「やあ、これは失礼」 と申して、紹介のやり直しをすれば、それでよい。
【説明】

紹介の順は、そのあと、紹介を受けた者が、握手をするときのために、大切である。

【型2】自分の家族の紹介
  1. さんに、自分の家族を紹介するというとき、さん、さん、さんをさんに紹介するより先にするか、あとにするかは、説の分かれるところ。
  2. わたくしは、どうでもよいと見ている。その場の具合による。
【型3】起立せよ。
  1. 紹介は、儀式であって、さんもさんも、紹介者も、全員起立して行なうのが、原則である。
  2. ただし、老人は、座ったままで許されることがある。
  3. 女子が、男子に対して、座ったままでよいというのは、上品な社会で行われないこと。
    日本では、得意になって、座ったまま、紹介を受けている女子があるが、これは、いけない。
  4. 会議、食事のとき、突然、紹介されたならば、座ったままでよい。
【型4】紹介のことばの定型
  1. さん。こちら、さんでございます」
    さん。こちら、さんでございます」
  2. 英語では、
    1. に向かって、This is Mr. B., Mrs. A !
      に向かって、Mrs. A.  
    2. に向かって、May I present Mr. B ?  Mrs. A !
      に向かって、Mrs. A.
      a. b. いずれを用いてもよいが、一般に、ことに、非公式のとき、a. が多い。
  3. 英語のとき、上位であるに、まず、下位であるの名前を告げ、そのあと、「さんよ」 という呼びかけのことばを落とさぬこと。
    日本語の感覚から、この 「さんよ」 を落としやすい。
    すると、さんは、ムツッとしているもの。
  4. さんに対しては、ただ、さんの名前を告げ、あとに、「さんよ」 をつけない。
    これによって、のほうが、上位であるぞという確認となる。
  5. この、ことばとしての定型をくずされないように。
  6. そのあと、さんが、どういう人物で……といったことは、腰かけたあとでも、つまりこの短い儀式の済んだあとででも、ゆっくり述べればよい。
  7. 仲に立つ人物 が、「さん、こちらさんでございます」 といったとき、が、性急で、に向かい、「でございます。よろしく」 といってしまったとする。
    が、 は、すまして、に対し、「さん。こちら、さんでございます」 ということ。
    省略のないように。
【型5】紹介での握手
  1. 紹介を受けたとき、よほどのことのないかぎり握手をする。
    これが、交際するという 「固め」 になる。
  2. が、女子は、女子同士のとき、いくばく、握手するが、男子とは、握手せず、会釈するのみ。
  3. 男性は、普通、握手をするとき、手袋を取るものであるが、もし手袋をはめるときに、突然、紹介される場面に直面したら、相手が手を差し出そうとするときに、もたもたと無器用に手袋をとろうとするよりは、はめたままで、握手するほうがよい。
【説明】

こちらが、A1(夫)、A2(妻)という夫婦のとき、先方の女子を誰かから、紹介受けたものとする。
A1A2より優位者である。
で、A2に握手をあげたとする。
そこで、そのつぎに、よいつもりで、A1 が手を出すと、に対し、はなはだ、失礼となる。
日本人の夫は、よく、これを、やる。

【型6】重紹介と軽紹介
  1. わたくしなどは、めったに紹介の労をとらないのであるが、しかし、やはりパーティーなどでは、儀礼的に紹介しなければならないこともある。
    こういう申しわけの紹介を、わたくしは、「軽紹介」 と呼んで見ている。
    したがって、本気で行なう紹介のほうは、「重紹介」。
  2. 軽紹介のとき、さん、さんのことについて、現在の所属ぐらいのことしか言わない。
  3. 重紹介のときは、頑丈な場所で行なうから、さんについても、さんについても、1人分、少なくとも、10分間は、説明する。
【型7】路上で
  1. 路上で紹介を受けたとき、コートは着たままで可。
  2. 手袋は、すぐ、脱げるものであるとき、脱いだほうがよい。
    が、脱ぎづらいもののとき、手袋をはめたまま、握手してよい。
    このとき、必ず、「手袋をはめたまま失礼 Excuse my globe ! 」 ということ。
【型8】紹介されないとき
  1. が、と歩いて来た。
    そこに の知人がやって来た。
    が、 は、と話しはじめたが、をむすぼうという意思に至らない。
  2. このとき、は、に軽く会釈したのち、少し、先に進んで、 を待っていなければならない。
【型9】名前を度忘れした紹介
  1. 仲介者 が、をむすぼうとするのであるが、どうしたことか、なりなりの名前を度忘れしてしまって、出てこないことがある。
  2. こういうとき、紹介を中断するわけにゆかず、そこで、泰然として、忘れた相手の顔を見ていると、本人が、自分の名前を言ってくれるものである。
  3. もし、この本人が、ドンであるか、固くなりすぎているとき、 は、すまして、小声で、「あなたのお名前を度忘れしました」 といえばよい。

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