第25節 物品授受など
【通解】
- この 「節」 のテーマは、この作法心得を作る最初の動機になったテーマである。
- ここにいう 「物品」 には、飲料・料理を含まない。
1辺50cm 未満の立方体または文書と思われたい。
【型1】投げ渡すな
- けっして、物品を投げ渡されるな。
【説明】
- 初対面の相手に、物品を投げ渡す者は、まれである。
投げ渡しは、親しい者の間で行われる。
- さらに、忙しいときに、行われる。
- 「これ、読んでおいてくれたまえ」 と文書を、ポンと投げる。
- 「このキーを渡すぞ。そら。よいしょ」 と投げる。
- 「おい、お前にやるぞ。いいか」 と親しさの表現として投げる。
- ときには、「こんなもの、なんだ」 と、つっかえすために投げる。
- 「現場を見にいって、社員の間に、投げ渡しを生じている企業体は、現在、どれほど、栄えていても、あと、10年、保たない」 というのは、アメリカ人のさる企業診断者のことばである。
このことばの理由は、いろいろに考えられるが、野球国アメリカにおいて、なお、然りである。
わたくし自身、過去20〜30年間に 日本の企業体を見ていって、「なるほど、そうだ」 と思わされるものがある。どうしてか、わからない。
- 個人を見ても、そうである。
- で、ともかくも、投げ渡しをされないように。
- ただ、相手が投げ渡してきたときは、だまって、ひょいと、受けとられよ。
- よく、日本人旅行者を見ていると、いかにも、「オレは、旅馴れているぞ」 とばかり、チップをポイポイ投げ渡している人がある。こういう人物は、相手から、スーツ・ケースをポイポイ投げてもらうにかぎる。
【通解】
- 人物Aと人物Bが、物品を授受するものとしよう。
- Aを、目上としよう。
Bを、目下としよう。
- AとBが対等のとき、相手を、いくばく、目上と同等に扱ったり、目下と同等に扱ったりしていればよいから、そのための練習は要らない。
- 練習としては、AからBへの手渡しとBからAへの手渡しが要る。
- BからAへの手渡しの中には、Aの正面からの手渡しとAの側面からの手渡しの区別がある。たとえば、Aが会議をしていたところ、Bが文書を横から手渡しに行くことなどが、側面からの手渡しの例である。
- 授受には、手渡すために歩いていくのと、受取るために歩いていくのとがある。
- 両方が歩いて来るときについて、そのための練習は要るまい。
- AとBのいずれか一方だけが、座っていることと、両方が立っているか、座っているか、することがある。
けれども、これは、両方が立っている動作で練習しておけば、あとは、応用動作ということで、ひとりでにできる。
- また、AとBの 「眼点」 の高さに、高低差があったものとしよう。
が、これも、ほぼ、高低差なしの場合について、練習しておけば、あとは、応用動作で、ひとりでにできる。
- 以上の諸因子によって組み合わせを考え、あり得るものだけを残すと、つぎの6種類が残り、これだけを練習しておけばよい。
ただし、めいめい、自分がAになった場合と、Bになった場合を、やっておかなければ、ならないから、個人としては、12種類の練習となろう。
① A 近寄り Bに手渡す
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② A 近寄りBから受理する
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③ A正面に近寄らせBに手渡す
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④ A正面に近寄らせBから受理する
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⑤ A側面に近寄らせBに手渡す
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⑥ A側面に近寄らせBから受理する
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以下、これらのひとつひとつを型として練習しよう。
【型2】A近寄りBに手渡す
- Aは、物品を持って前進。
- Aは、Bの正面で、Aの水平半身長
にAの1歩を加えた距離に、停止。
- Bは、揖(ゆう)
。
- Bは、1歩前進。
- Aは、腕をいっぱいに伸ばし、物品を差し出す。上体を、いくばく、前倒。
- Bは、必要なだけ腕を伸ばし、受理する。
- Bは、1歩後退。
- Bは、揖。
- Aは、去る。
【型3】A近寄りBから受理する。
- Bは、物品を持って、立つ。
- Aは、前進し、Bの正面で、Bの水平半身長にBの1歩を加えた距離に、停止。
- Bは、揖。
- Bは、1歩前進。
- Bは、腕いっぱいに伸ばし、物品を差し出す。上体は、いくばく、前倒。
- Aは、必要なだけ腕を伸ばし、受理する。
- Bは、1歩後退。
- Bは、揖。
- Aは、去る。
【型4】A正面に近寄らせBに手渡す
- Aは、物品を持つ。
- Bは、前進し、Aの正面で、Aの水平半身長にBの1歩を加えた距離に、停止。
- Bは、揖。
- Bは、1歩前進。
- Aは、腕いっぱいに伸ばし、物品を差し出す。上体は、いくばく、前倒。
- Bは、必要なだけ腕を伸ばし、受理する。
- Bは、1歩後退。
- Bは、揖。
- Bは、去る。
【型5】A正面に近寄らせBから受理する
- Bは、物品を持って、前進。
- Bは、Aの正面で、Bの水平半身長にBの1歩を加えた距離に停止。
- Bは、揖。
- Bは、1歩前進。
- Bは、腕いっぱいに伸ばし、物品を差し出す。上体を、いくばく、前倒。
- Aは、必要なだけ腕を伸ばし、受理する。
- Bは、1歩後退。
- Bは、揖。
- Bは、去る。
【型6】A側面に近寄らせBに手渡す
- Aは、物品を持つ。
- Bは、Aの側方から、Aに接近し、Aの側方で、Aから、Bの半歩の距離を保って、停
止。
- Bは、揖。
- Aは、Bと反対側の手で、物品を差し出す。上体を、いくばく、前倒。
- Bは、半歩前進。
- Bは、受理する。
- Bは、半歩後退。
- Bは、揖。
- Bは、去る。
【型7】A側面に近寄らせBから受理する
- Bは、物品を持って前進。
- Bは、Aの側方から、Aに接近し、Aの側方で、Aから、Bの半歩の距離を保って、停止。
- Bは、揖。
- Bは、半歩前進
- Bは、物品を、Aの前に差し出す。上体を、いくばく、前倒。
- Aは、Bと反対側の腕で、受理する。
- Bは、半歩後退。
- Bは、揖。
- Bは、去る。
【通解】物品授受における注意事頂
- 物品を相手に渡すとき、まず、相手が受けとりやすいように持ちなおしてから渡されよ。
- また、それが、文書ならば、かならず、相手が、そのまま、読める向きにして、渡されよ。
- それが、刃物ならば、柄を相手のほうにして、差し出されよ。
- たとえば、重さから申して、両者、たがいに、片手で充分な物は、たがいに、片手で授受されよ。
一般的に考えるとき、目上に書類を渡すには、両手で渡すのがよいであろう。
が、その目上が、イスにくつろいでいるとき、こちらが、その前に立って、両手で、うやうやしく、書類を差し出せば、その目上として、少なくとも、姿勢を正し、両手で、受けとらねばなるまい。
で、そういうとき、こちらが、丁ねいにするものの、片手で、書類を差し出せば、その目上といえども、気安く、姿勢をくずしたまま、受けとれるであろう。
ここに、相手の状況による 「作法の省略」 がある。
- 手渡す際、かならず、右手を使い、必要によっては、心持ち上体を傾けられよ。
- 文書を提出するとき、空いている左の手について、工夫が要る。
- 机のあるところでは、机上で、手を処理されよ。
- 机のないときは、軟式手横下。
【型8】物を差し出す手
- 相手と正対しているとき、かならず、右手で、物を差し出されよ。
- 相手と正対していないとき、相手と反対側の手で、物を差し出されよ。
左手でも、よいということ。それは、相手に正対するためである。
【型9】高さ
- 物を差し出すとき、相手の前に机がないかぎり、相手のみぞおちあたりの高さとされよ。
【型10】ちょっとした動作を確実にせよ。
- 物を相手に渡し終えたあと、ちょっと、手をとめられよ。
渡し終えたあと、すぐ手を引っ込めると、第三者に、物を投げ渡したような印象を与える。
- 文書などの手渡しが終わったならば、かならず、一瞬、手前下
をされよ。
- 揖は、短揖よりも、もっと、あっさりとされよ。(下げに1秒、すぐに、上げに1秒)
- こちらが座っているところに、立っている相手から品物を渡されたとき、こちらが立って受け取るか、座ったまま、受け取るかは、まさに、そのときの状況による。
しかし、いつも、座ったまま、受け取ってればよいものでないことも明白であろう。
- 受理したとき、物品の全体を、下図の方向に、少し、持ち上げると、受理したことが明確となる。
- 文書にしても、物品授受は、目立つものであるから、渡すほうも受けとるほうも、できるだけ、動作を目立たぬものとするよう意識されよ。
- 双方とも、両肱を張らないようにされよ。
【参考】日本礼法・三段・三持・三手
- 三段
物を渡したり、すすめるときの手の高さの区別 (3種類) を示すものである。
- 膳をすすめ渡す場合
- 高貴の方には、自分の目の高さで運ぶ。
- 目上の方には、自分の口の高さで運ぶ。
- 目下の者には、胸の高さで運ぶ。
- 膳でないものをすすめ渡す場合
- 高貴の方には、口の高さで運ぶ。
- 目上の方には、胸の高さで運ぶ。
- その他の者には、ウエストより、やや高めにして運ぶ。
- 三持
物を持つときのつかみ場所の区別 (3種類) を示すものである。
- 捧げ持ち……両手を上向けにしてその物の下から捧げ持ちする。
- 進め持ち……左右から、物をつかみ持つ。
- 授け持ち……上からつかみ持つ
- 三手
相手に物を渡す直前の相手と自分の手の位置関係の区別 (3種類) を示すものである。
この型は、ある程度長いものをすすめ渡すときのもの。
- 高貴の方には、自分の持っているところより、上のほうを受けとれるようにする。
- 目上の方には、自分の持っている手と交互に、かつ、中心を受けとれるようにする。
- 目下の者には、自分の持っているところより、下のほうを受けとれるようにする。
【通解】名刺
- 日本人は、初体面のとき、だいたい、名刺を出す。が、この習慣を、ふざけていると、わたくしは思わない。
- ただ、欧米人が名刺を出すのは、既して、a. セールスに行ったとき、b. 相手が不在であるとき、c. 相手がいても、会わずに帰ればよいとき、d. 品物だけを届けるとき、といったことである。
- で、日本人は、欧米人に対するとき、やたらに、名刺を出すと、セールマンと間違えられる。かれらは、自分たちの習慣以外のことに、頭を働かせる力が弱い。
- わたくしは、海外旅行に出かけるとき、だいたい、旅行日数の 1/2 に当たる枚数の名刺を、持ってゆく。それでも、その名刺を渡してくる相手のうち、多くは、日本人ということになる。
【型11】名刺交換
- いま、ここで、名刺の出しかたを考えておくとすれば、それは、日本人対日本人の場合ということになろう。それを、ここで、考えてみよう。
- 軽く1礼。
- 名刺入れを胸ポケットから出す。
- 自分の名刺を、相手が、そのまま読めるムキにし、ほぼ水平にし、相手の乳の高さにして、差し出す。
- 相手の名刺が来たときは、受けとり、少し、持ち上げ、これに、軽く、お辞儀をし、あと、自分の名刺入れの上にのせて、持つ。
- 自分の名刺も相手に渡したあとであれば、そこで、相手の名刺の肩書き、氏名を、じっくりと読み、読めぬところは、相手に聞き、その場で、カナを振る。
(聞き方、「おそれ入りますが、ご尊名は・・・」)
- こうして、読み終わったならば、相手の名刺を、自分の名刺入れに入れ、その名刺入れも、胸のポケットにしまう。(ここを、ていねいに行なう)
【型12】もらった名刺を机上に置いているときは
- もらった名刺を、自分の座っている机の上に置いたまま、相手と話をするのは、相手がセールスに来たときと、相手が2名以上であるときに限られよ。
【型13】品物を渡すとき、つぎにすぐ使える形で
- 録音テープを人に貸すとき
- ここから始まる、という所にセットして渡す。
- カードを添えて渡す。(日付、テーマ、A or B面)
- 借りたテープ・レコーダのテープを返すとき、はじめに、巻き戻してから、返されよ。
- 借りた傘を返すとき、きちんとした形にして、返されよ。
【型14】お金(紙幣)を手渡すとき
- 紙幣は、折りだたんだまま手渡されるな。
折りたたんで手渡すと、相手が枚数を確認するのに不便であるためである。