第5章
立居振舞 ◆第25節 物品授受など
第25節 物品授受など
【通解】
【型1】投げ渡すな
【説明】
【型2】A近寄りBに手渡す
【型3】A近寄りBから受理する。
【型4】A正面に近寄らせBに手渡す
【型5】A正面に近寄らせBから受理する
【型6】A側面に近寄らせBに手渡す
【型7】A側面に近寄らせBから受理する
【型8】物を差し出す手
【型9】高さ
【型10】ちょっとした動作を確実にせよ。
【参考】日本礼法・三段・三持・三手
【通解】名刺
【型11】名刺交換
【型12】もらった名刺を机上に置いているときは
【型13】品物を渡すとき、つぎにすぐ使える形で
【型14】お金(紙幣)を手渡すとき
【通解】
この 「節」 のテーマは、この作法心得を作る最初の動機になったテーマである。
ここにいう 「物品」 には、飲料・料理を含まない。
1辺50cm 未満の立方体または文書と思われたい。
▲
【型1】投げ渡すな
けっして、物品を投げ渡されるな。
▲
【説明】
初対面の相手に、物品を投げ渡す者は、まれである。
投げ渡しは、親しい者の間で行われる。
さらに、忙しいときに、行われる。
「これ、読んでおいてくれたまえ」 と文書を、ポンと投げる。
「このキーを渡すぞ。そら。よいしょ」 と投げる。
「おい、お前にやるぞ。いいか」 と親しさの表現として投げる。
ときには、「こんなもの、なんだ」 と、つっかえすために投げる。
「現場を見にいって、社員の間に、投げ渡しを生じている企業体は、現在、どれほど、栄えていても、あと、10年、保たない」 というのは、アメリカ人のさる企業診断者のことばである。
このことばの理由は、いろいろに考えられるが、野球国アメリカにおいて、なお、然りである。
わたくし自身、過去20〜30年間に 日本の企業体を見ていって、「なるほど、そうだ」 と思わされるものがある。どうしてか、わからない。
個人を見ても、そうである。
で、ともかくも、投げ渡しをされないように。
ただ、相手が投げ渡してきたときは、だまって、ひょいと、受けとられよ。
よく、日本人旅行者を見ていると、いかにも、「オレは、旅馴れているぞ」 とばかり、チップをポイポイ投げ渡している人がある。こういう人物は、相手から、スーツ・ケースをポイポイ投げてもらうにかぎる。
▲
【通解】
人物
A
と人物
B
が、物品を授受するものとしよう。
A
を、目上としよう。
B
を、目下としよう。
A
と
B
が対等のとき、相手を、いくばく、目上と同等に扱ったり、目下と同等に扱ったりしていればよいから、そのための練習は要らない。
練習としては、
A
から
B
への手渡しと
B
から
A
への手渡しが要る。
B
から
A
への手渡しの中には、
A
の正面からの手渡しと
A
の側面からの手渡しの区別がある。たとえば、
A
が会議をしていたところ、
B
が文書を横から手渡しに行くことなどが、側面からの手渡しの例である。
授受には、手渡すために歩いていくのと、受取るために歩いていくのとがある。
両方が歩いて来るときについて、そのための練習は要るまい。
A
と
B
のいずれか一方だけが、座っていることと、両方が立っているか、座っているか、することがある。
けれども、これは、両方が立っている動作で練習しておけば、あとは、応用動作ということで、ひとりでにできる。
また、
A
と
B
の 「眼点
*
」 の高さに、高低差があったものとしよう。
が、これも、ほぼ、高低差なしの場合について、練習しておけば、あとは、応用動作で、ひとりでにできる。
総論44節「用語の約束」を開きます。
以上の諸因子によって組み合わせを考え、あり得るものだけを残すと、つぎの6種類が残り、これだけを練習しておけばよい。
ただし、めいめい、自分が
A
になった場合と、
B
になった場合を、やっておかなければ、ならないから、個人としては、12種類の練習となろう。
①
A
近寄り
B
に 手渡す
②
A
近寄り
B
から 受理する
③
A
正面に 近寄らせ
B
に 手渡す
④
A
正面に 近寄らせ
B
から 受理する
⑤
A
側面に 近寄らせ
B
に 手渡す
⑥
A
側面に 近寄らせ
B
から 受理する
以下、これらのひとつひとつを型として練習しよう。
▲
【型2】
A
近寄り
B
に手渡す
A
は、物品を持って前進。
A
は、
B
の正面で、
A
の水平半身長
*
に
A
の1歩を加えた距離に、停止。
B
は、揖(ゆう)
*
。
B
は、1歩前進。
A
は、腕をいっぱいに伸ばし、物品を差し出す。上体を、いくばく、前倒。
B
は、必要なだけ腕を伸ばし、受理する。
B
は、1歩後退。
B
は、揖。
A
は、去る。
総論44節「用語の約束」を開きます。
第5章22節【通解】「揖」を開きます。
▲
【型3】
A
近寄り
B
から受理する。
B
は、物品を持って、立つ。
A
は、前進し、
B
の正面で、
B
の水平半身長に
B
の1歩を加えた距離に、停止。
B
は、揖。
B
は、1歩前進。
B
は、腕いっぱいに伸ばし、物品を差し出す。上体は、いくばく、前倒。
A
は、必要なだけ腕を伸ばし、受理する。
B
は、1歩後退。
B
は、揖。
A
は、去る。
▲
【型4】
A
正面に近寄らせ
B
に手渡す
A
は、物品を持つ。
B
は、前進し、
A
の正面で、
A
の水平半身長に
B
の1歩を加えた距離に、停止。
B
は、揖。
B
は、1歩前進。
A
は、腕いっぱいに伸ばし、物品を差し出す。上体は、いくばく、前倒。
B
は、必要なだけ腕を伸ばし、受理する。
B
は、1歩後退。
B
は、揖。
B
は、去る。
▲
【型5】
A
正面に近寄らせ
B
から受理する
B
は、物品を持って、前進。
B
は、
A
の正面で、
B
の水平半身長に
B
の1歩を加えた距離に停止。
B
は、揖。
B
は、1歩前進。
B
は、腕いっぱいに伸ばし、物品を差し出す。上体を、いくばく、前倒。
A
は、必要なだけ腕を伸ばし、受理する。
B
は、1歩後退。
B
は、揖。
B
は、去る。
▲
【型6】
A
側面に近寄らせ
B
に手渡す
A
は、物品を持つ。
B
は、
A
の側方から、
A
に接近し、
A
の側方で、
A
から、
B
の半歩の距離を保って、停 止。
B
は、揖。
A
は、
B
と反対側の手で、物品を差し出す。上体を、いくばく、前倒。
B
は、半歩前進。
B
は、受理する。
B
は、半歩後退。
B
は、揖。
B
は、去る。
▲
【型7】
A
側面に近寄らせ
B
から受理する
B
は、物品を持って前進。
B
は、
A
の側方から、
A
に接近し、
A
の側方で、
A
から、
B
の半歩の距離を保って、停止。
B
は、揖。
B
は、半歩前進
B
は、物品を、
A
の前に差し出す。上体を、いくばく、前倒。
A
は、
B
と反対側の腕で、受理する。
B
は、半歩後退。
B
は、揖。
B
は、去る。
▲
【通解】物品授受における注意事頂
物品を相手に渡すとき、まず、相手が受けとりやすいように持ちなおしてから渡されよ。
また、それが、文書ならば、かならず、相手が、そのまま、読める向きにして、渡されよ。
それが、刃物ならば、柄を相手のほうにして、差し出されよ。
たとえば、重さから申して、両者、たがいに、片手で充分な物は、たがいに、片手で授受されよ。
一般的に考えるとき、目上に書類を渡すには、両手で渡すのがよいであろう。
が、その目上が、イスにくつろいでいるとき、こちらが、その前に立って、両手で、うやうやしく、書類を差し出せば、その目上として、少なくとも、姿勢を正し、両手で、受けとらねばなるまい。
で、そういうとき、こちらが、丁ねいにするものの、片手で、書類を差し出せば、その目上といえども、気安く、姿勢をくずしたまま、受けとれるであろう。
ここに、相手の状況による 「作法の省略」 がある。
手渡す際、かならず、右手を使い、必要によっては、心持ち上体を傾けられよ。
文書を提出するとき、空いている左の手について、工夫が要る。
机のあるところでは、机上で、手を処理されよ。
机のないときは、軟式手横下
*
。
第5章10節【型7】「正立」を開きます。
▲
【型8】物を差し出す手
相手と正対しているとき、かならず、右手で、物を差し出されよ。
相手と正対していないとき、相手と反対側の手で、物を差し出されよ。
左手でも、よいということ。それは、相手に正対するためである。
▲
【型9】高さ
物を差し出すとき、相手の前に机がないかぎり、相手のみぞおちあたりの高さとされよ。
▲
【型10】ちょっとした動作を確実にせよ。
物を相手に渡し終えたあと、ちょっと、手をとめられよ。
渡し終えたあと、すぐ手を引っ込めると、第三者に、物を投げ渡したような印象を与える。
文書などの手渡しが終わったならば、かならず、一瞬、手前下
*
をされよ。
第5章10節【型1】「正座」を開きます。
揖は、短揖よりも、もっと、あっさりとされよ。(下げに1秒、すぐに、上げに1秒)
こちらが座っているところに、立っている相手から品物を渡されたとき、こちらが立って受け取るか、座ったまま、受け取るかは、まさに、そのときの状況による。
しかし、いつも、座ったまま、受け取ってればよいものでないことも明白であろう。
受理したとき、物品の全体を、右図の方向に、少し、持ち上げると、受理したことが明確となる。
文書にしても、物品授受は、目立つものであるから、渡すほうも受けとるほうも、できるだけ、動作を目立たぬものとするよう意識されよ。
双方とも、両肱を張らないようにされよ。
▲
【参考】日本礼法・三段・三持・三手
三段
物を渡したり、すすめるときの手の高さの区別 (3種類) を示すものである。
膳をすすめ渡す場合
高貴の方には、自分の目の高さで運ぶ。
目上の方には、自分の口の高さで運ぶ。
目下の者には、胸の高さで運ぶ。
膳でないものをすすめ渡す場合
高貴の方には、口の高さで運ぶ。
目上の方には、胸の高さで運ぶ。
その他の者には、ウエストより、やや高めにして運ぶ。
三持
物を持つときのつかみ場所の区別 (3種類) を示すものである。
捧げ持ち……両手を上向けにしてその物の下から捧げ持ちする。
進め持ち……左右から、物をつかみ持つ。
授け持ち……上からつかみ持つ
三手
相手に物を渡す直前の相手と自分の手の位置関係の区別 (3種類) を示すものである。
この型は、ある程度長いものをすすめ渡すときのもの。
高貴の方には、自分の持っているところより、
上
のほうを受けとれるようにする。
目上の方には、自分の持っている手と交互に、かつ、
中心
を受けとれるようにする。
目下の者には、自分の持っているところより、
下
のほうを受けとれるようにする。
▲
【通解】名刺
日本人は、初体面のとき、だいたい、名刺を出す。が、この習慣を、ふざけていると、わたくしは思わない。
ただ、欧米人が名刺を出すのは、既して、
a
. セールスに行ったとき、
b
. 相手が不在であるとき、
c
. 相手がいても、会わずに帰ればよいとき、
d
. 品物だけを届けるとき、といったことである。
で、日本人は、欧米人に対するとき、やたらに、名刺を出すと、セールマンと間違えられる。かれらは、自分たちの習慣以外のことに、頭を働かせる力が弱い。
わたくしは、海外旅行に出かけるとき、だいたい、旅行日数の 1/2 に当たる枚数の名刺を、持ってゆく。それでも、その名刺を渡してくる相手のうち、多くは、日本人ということになる。
▲
【型11】名刺交換
いま、ここで、名刺の出しかたを考えておくとすれば、それは、日本人対日本人の場合ということになろう。それを、ここで、考えてみよう。
軽く1礼。
名刺入れを胸ポケットから出す。
自分の名刺を、相手が、そのまま読めるムキにし、ほぼ水平にし、相手の乳の高さにして、差し出す。
相手の名刺が来たときは、受けとり、少し、持ち上げ、これに、軽く、お辞儀をし、あと、自分の名刺入れの上にのせて、持つ。
自分の名刺も相手に渡したあとであれば、そこで、相手の名刺の肩書き、氏名を、じっくりと読み、読めぬところは、相手に聞き、その場で、カナを振る。
(聞き方、「おそれ入りますが、ご尊名は・・・」)
こうして、読み終わったならば、相手の名刺を、自分の名刺入れに入れ、その名刺入れも、胸のポケットにしまう。(ここを、ていねいに行なう)
▲
【型12】もらった名刺を机上に置いているときは
もらった名刺を、自分の座っている机の上に置いたまま、相手と話をするのは、相手がセールスに来たときと、相手が2名以上であるときに限られよ。
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【型13】品物を渡すとき、つぎにすぐ使える形で
録音テープを人に貸すとき
ここから始まる、という所にセットして渡す。
カードを添えて渡す。(日付、テーマ、A or B面)
借りたテープ・レコーダのテープを返すとき、はじめに、巻き戻してから、返されよ。
借りた傘を返すとき、きちんとした形にして、返されよ。
▲
【型14】お金(紙幣)を手渡すとき
紙幣は、折りだたんだまま手渡されるな。
折りたたんで手渡すと、相手が枚数を確認するのに不便であるためである。
▲
第1章 立居振舞
[
まい日の練習
] [
固くなるな
] [
カタギ身振りを取り去られよ
] [
ヘッコラされるな
]
[
身体つきのよい方よ
] [
個性とは
] [
全体のバランスを
] [
強さをも
] [
表情など
]
[
姿勢
] [
しゃがみ
] [
起立と着席
] [
歩行
] [
段などの昇降
] [
持ち運び
] [
振り返りなど
]
[
ドア作法
] [
うしろ向き
] [
手信号
] [
すれ違い
] [
人前横切り
] [
お辞儀
] [
握手
]
[
呼ばれての対応
] [物品授受] [
目上との同行
] [
紹介
] [
失敗対策
]