第9節 訪問作法
- 招待というと、大げさに聞こえるが、日本で「おい、オレンチに来いや」というところを、欧米では、招待ととる。
それだけに、多くの場合、平服で行けばよいし、行ってみても、ごちそうなんか、あまり、出ない。
- しかし、この招待ごっこが多くて、かなわない。
- 招待されたならば、だいたい、招待しかえさなければならない。
【型1】招待状への返事
- 欧米での招待状には、返信用ハガキが入れてない。
で、招待状の左下に、R.S.V.P. とあるときは、かならず、返信されよ。
- が、R.S.V.P. の書いてないこともある。
このとき、返信か電話での返事を、かならず、されること。
【型2】花束
海外で、家庭に招待を受けたとき、その家の奥さんに、花を持ってゆかれよ。
- ドイツ……花3本
- その他のヨーロッパ…5〜7本
- フランスにおいて、カーネーションは、不吉とされる。
【説明】
これは、常識となっている。それほど、花が、家庭の必需品になっているということ。
【通解】訪問時間の設計
招待を受けたときであろうと、そうでなかろうと、訪問時間量と時間帯を、きっぱり考えてから、訪問するというのが、現代的である。
【型3】訪問時間量の設計
- 訪問時間量を、設計されよ。
- 訪問時間量をどのくらいとするかは、用件による。
5分間……玄関での立ち話
15分間……応接間にとおるが、ほんの用件のみ
30分間……いちばん普通のケース
1時間……すこし、まとまった話をしたいとき
2時間……じっくり、事情を話して、1つの答を出したいとき
訪問予定時間は多めに申し出られよ。
- 2時間を超える訪問は、講義であるか、会議であって、あらかじめ、先方との間に、そのように予約した場合のみのものである。
- この「5分」「15分」「30分」「1時間」「2時間」という区切り方を、平常、心に、つかんでおかれよ。
- で、先方から呼びつけられ、その用件も、こちらに、わかっていないとき、こちらとして、だいたい、2時間ぐらいと考えることである。
到着して、30分経ったところで、「きょうは、これで失礼したい」と申したのでは、先方の話の内容に、不服を申し述べているような印象を与える。
- しかし、先方Aとの面会予約のとき、他のBとの先約があって、Aに、2時間までしか会っていられないというとき、それを、この予約段階に、Aに告げておけば、よい。
- また、Aとの予約後、Bとの緊急約束が入ったときは、Aに、その旨を電話して、Aとの面接時間の減少を告げるし、Aへの、その電話のチャンスを逸したときは、Aとの面接の冒頭にそのことを告げれば、それでよい。
- いずれにせよ、A訪問の時間量について、こちらとして、あいまいにしないことである。
それは、こちらのためでもあるし、Aのためでもある。Aのためになる働きは、作法と呼び得る。
- 訪問時間帯を考慮されよ。
- 食事の時間帯に訪問することを避けられよ。
昼食時間帯……11:00〜13:00
夕食時間帯……17:00〜19:00 (国によって、もうすこし遅い)
で、予約の段階で、このことに、充分、注意されること。
- しかし、先方が、こちらと、いっしょに食事しながら、話をしたいという希望を持っていることもある。
それを、こちらが、回避しつづけるのは、やはり、心ない。先方からの食事のすすめは、すなおに、受けたほうがよい。
【通解】予告
招待を受けているのでない訪問には、可能なかぎり、予告すること。
現代として、予告のない訪問は、相手に、はなはだ、迷惑をかける。
【型4】訪問先に電話があるとき
どれほど、親しい相手であろうと、かならず、訪問の可否を電話で問うたのち、出かけて行く。
この電話は、何日前からであってもよい。
【説明】
しばしば、「ご近所まで、参っております。いま、お伺いしてよろしうございますか」と電話する方がある。
それで、よいが、相手の家と目と鼻のところから電話をかけても、相手の家への到着は、15分、あとにすべきものである。
15分はないと、相手が、先客を帰したり、家の中を片付けたり、できない。
といって、20分以上、あとで行ったのでは、相手を、待たせすぎる。
【型5】訪問先に電話がないとき
まず、郵便で、訪問日時を予告してから、その時刻に訪問する。
ただし、こららに、電話があるとき、その郵便物には、「もし、おさしつかえのときは、当方番号 何番に電話をいただきたい」旨を書き添えられること。
【型6】訪問先に電話がないが、郵便の往復をしているゆとりのあるとき
まず、往復ハガキ(または、返信用ハガキとか切手とかを入れた封書)を送って、返事をもらってから、出かけて行く。
【型7】訪問先に電話がなく、訪問予告をしていられないとき
このとき、はじめて、予告なく、訪問されよ。
先方のブザーをならす。または、ノックする。
入口があけられたとき、中を覗かぬようにして、小声で、「Aでございます。ご都合を伺っているゆとりがなかったものでございますから」
【説明】
なぜ、小声でするかと申せば、中に、先方が、当方との知りあい関係を、知られたくない先客のいる場合があるから。
【参考】訪問直前の確認電話は不要
- 予約時刻直前になって、先方の家のそばまで行っていて、そこから、「いま行く」という電話は、しないほうがよい。かえって、先方が、いろいろに、気をまわす。
- しかし、先方にすでにいる客とぶつからないようにするとか、こちらが、特殊な服装をして行きたいとか、なにか、特殊な問題のあるとき、この近くからの電話は、よいものである。
【通解】待ち合わせ場所の定め方
いっしょに、どこそこを訪問するという相棒と待ち合わせるのに、技術が要る。
【型8】電話のある所で
「お待ち合わせは、電話のある場所として、どこが、およろしうございましょうか」
【説明】
- 約束場所を考えるとき、まず、「万一、こちらが破約したとき、電話連絡できる場所」を考えるべきである。
- 電話のある個人宅、ビル室、小店舗がよく、電話のない個人宅、駅構内、街頭といった場所を指定しないこと。
【型9】電話のない所では
「あの時間で、あの場所一帯は、電話が不便かと存じます。万一の雨宿りと防寒を考えますと、×××の地点では、いかがでございましょう。けれども、おたがいに、遅れて来るほうを30分までは待つことにいたしましょう」
【説明】
どうしても、電話のないところを指定しなければならないこともある。
で、そのときは、雨宿りと防寒できる場所を選び、なおかつ、双方とも、30分までは待つことを条件にすべきである。
【型10】車で迎えに行くとき
“車で迎えに行くから、何時に、どこそこで待て”というためにも、まったく同じ配慮が要る。
【説明】
どうしても電話のないところを指定しなければならないならば、雨宿り、防寒を考え、30分までの双方の忍耐を条件とする。
こうすれば、万一、駐車できないところと知らずに約束していても、車を遠くに置いてくるとか、グルグル、車をまわしているとか、できるし、こちらが途中で、パンクや事故を起こしても、乗りかえて、連絡に行ける。
「何時に、どこそこに立っていよ。車で拾うから」というには、その場所についてのよほどの自信が要る。
【通解】予約時刻の定め方
時刻についての刻みは、現代生活において、厳しい。
【型11】訪問での15分単位主義
なるべく訪問時刻を
「13時」
「13時15分」
「13時30分」
「13時45分」
といった15分刻みで、約束しておくこと。
【説明】
おたがいに、時間について、感覚がたくましくなる。
- 訪問時間の申し出
用件を持って訪問する場合、1件5分と考えられよ。
用件が4件あれば、最低でも20分は必要である。
柏手が、急がしい人物の場合、この考えが重要となる。
「恐れいりますが、用件が4件ございます。できましたら20分ほど、お時間をいただきとう存じます」、と申されよ。
〈時間の申し出し方法〉
5分ほど | | よい |
10分ほど | |
よい |
15分ほど | | よい |
20分ほど | | よい |
25分ほど | → | 20〜30分ほど |
30分ほど | | よい |
35分ほど | → | 30〜40分ほど |
40分ほど |
|
よい |
45分ほど |
|
よい |
50分ほど | → | 1時間ほど |
55分ほど | → | 1時間ほど |
1時間以上の場合、30分きざみとなる。 |
【型12】時刻厳守
- 約束の15分前に、目的地付近に着いていること。
- まわりの誰もが約束した時刻を守らないときでも、あなたは、これを、守られよ。これを、生涯、続けられよ。
【説明】
- これを、単なる道徳律と考えられるな。これを、わずか、3年間、続けられるとき、その利得の大きさに気付かれるであろう。
- 遅刻の原因のあらかたは、出発のときに突発する出来事による。
- 15分前到着主義のできる者は、人物として一流である。
- 結果として、20〜40分間を捨てることになろう。ムダのようであるが、ムダでない。
【型13】予約時刻に遅れるとき
- 予約時刻に遅れる場合、物理的に可能なかぎり、その予約時刻前に電話連絡すること。
- こちらとして、待ち合わせた時刻に間に合わないとき、その旨を、すでに、待ち合わせ場所に到着している仲間に連絡すること。
待っている仲間として、すこぶる安心する。
- で、このとき、人数がそろわないまま、訪問しなければならないのであるが、待っている仲間は、その旨、先方に連絡し、定刻通り訪問することについての許可を得ること。
- また、遅れる者としても、訪問先に遅れて訪問することについての許可を得ること。
【説明】
このあたり、日本の従来の風習と、かなり違う。
バッチリと、やらなければならない。
【型14】到着前の準備
- 欧米で、日本人馴れしている人の家を日本人が訪問すると、まっさきに「お手洗いはこちら」といって、笑われる。そのくらい、日本人は、訪問先で、すぐ、お手洗いに行きたくなる人種であるらしい。そこで、訪問前にみずからの尿意を確かめ、必要ならば、どこかに飛び込んで、お手洗を済ませておくこと。
- 訪問の用件が、2つ以上になるとき、それらをメモに書いて持ってゆくと、イライラしない。
- 遅くとも、何時に、先方を辞去しようということを、心の中で決めること。仲間がいれば、それを、決め合っておくこと。
- オーバーの中に貴重品を入れているならば、それを、身体やバックに移してから、訪問すること。
【説明】
オーバーは、多くの場合、訪問先で自分から離れたところに置くことになる。
で、オーバーの中の貴重品がなくなれば、先方の家人などを疑わなければならない。
形よく振舞うことよりも、先方を疑わないで済むことのほうが、作法として、はるかに大切である。
【型15】個人宅やオフィスへの到着
- 予約時刻の15分前に、訪問先に着いていること。
ただし、訪問先の表札を確認したならば、そのまま、駐車するのでなく、車で訪問先付近を1回りしたのち、予約時刻の1分前に到着できるようにする。
- 車で訪問したときは、車を訪問先の塀にぴったり横付けして駐車すること。
【型16】会議、授業、会食のときの到着
屋内での一般会合(会議・授業など)に集合のとき、予約時刻15分前に、こちらの着席すべき席に着席されよ。
それで、やっと到着の効力を発生する。
【説明】
このためには、先方の建物の人口に、何時に到着しなければならないかを、シャープに考えなければならない。
15分前というのは、先方、司会者などの都合を考えるためである。
【型17】ロビーとか屋外のときの到着
ロビーとか屋外での集合では、予約時刻15分前に、集合予約地点から見えるところで、しかも、その地点から半径10m以内に到着されよ。
それで、到着の効力を発生する。
【説明】
これより早すぎても遅すぎても、主催者に迷惑をかける。
そこで、早く到着しすぎたときは、その時刻(15分前)まで、すこし、場所を離して身体を置いていることである。
また、その地点に、あまり集まってしまうと、他の人々の通行を妨げたりすることになるし、あまり離れていると、主催者が大声で、呼び集めを行なわなければならないことになり、その大声が、他の団体に対して、迷惑をかける。
【通解】ブザーの鳴らし方
ブザーの鳴らし方も現代作法の1つである。
【型18】3/4秒
個人宅を訪問し、玄関のブザーを鳴らすとき、予約時刻に鳴らすわけであるが、そのとき、約3/4秒間、鳴らされよ。
【説明】
この3/4秒は、相手に圧迫感を与えず、かつ、聞き洩らしもさせない長さである。
【型19】1分おきに6回まで
個人宅を訪問し、玄関のブザーを鳴らすとき、なにか、緊急事態を発生しているのでないかぎり、1分間に1回ずつ、合計6回まで、鳴らされよ。
【説明】
家人はブザーの音を聞きつつも、すぐには出て来られない状態にあることがある。そこを、たてつづけに鳴らせば、はなはだ、家人の心証を傷付ける。
と申して、ほんとうに家人の耳にきこえてないことも起こるから、1〜2度、鳴らしたぐらいで、あきらめてしまうこともない。
5分間に計6回鳴らして家人が出て来ないならば、留守であるのか、まったく出て来られない状態にあるのかのいずれかであるから、あきらめたほうがよい。
【型20】さらに、家人が出て来ないとき
さらに、家人が出てこないときは、いったん、訪問先を離れ、近所から、電話してみること。その電話に先方が出ないとき、20〜30分経ってから、また電話するか、直接、先方のベルを押すかすること。
【参考】玄関様式の種類
- 「玄」には、2つ3つの意味があるが、ここでは、「奥深く、休息する所」ということ。「関」は、仕切りの門。玄関ということばは、中国の禅寺のことばであって、大きな寺の奥のほうに、一郭、塀をめぐらせ、客殿をつくったとき、その塀についている門のことを言った。
で、その禅寺様式が、日本に入ってきても、客殿区に入る門を、そのまま、玄関と呼んでいた。が、日本の禅寺の多くは地形の複雑な山間部にあり、そこで、客殿、すなわち、俗人を泊めるところに塀をめぐらさずとも、ひとりでに、仕切りができた。けれども、ここから修業僧は入ってはならぬという仕切りを意味する玄関ということばを、どこかに付けておかねばならないので、客殿入口を、玄関、と呼ぶ習慣を生じた。
この日本での禅寺の客殿そのものの様式は、鎌倉武士の館(たち)の様式にも採り入れられていった。館というものは、上級武士の住宅であるとともに、接客館であり、また、輩下の武士の集会所でもあったから、禅寺の客殿に、もうすこし、なにかの要素を付加すれば、それでよかった。
加うるに、鎌倉武士から室町・戦国武士にかけて、その上級の者は、しばしば、剃髪して、入道となった。
で、入道になると、多くの者は、寺を建立し、自分自身、その客殿に住んでいたし、この入道武士には、宗門として、禅宗の者が多かった。また、この形は、公卿の人道者にも伝播し、とうとう、後醍醐天皇が、京都に天竜寺を建てしめられ、これの客殿におられて、政治を執られたような形に及んだ。
このようなことから、宮殿、館(たち)の入口 Entrance を、玄関と呼ぶ習慣がひろがって、こん日では、建物の外扉をあけた内側に、すこしでも、出入のための仕草の用に立てるスペースがあれば、この入口を玄関と呼ぶようになっている。
- 宮殿、館での玄関の形は、次図のような断面を持っていた。
まず、雨の日のこともあるから、牛車や、籠を降りるところに屋根が出ている。ポートである。(船か車の着くところが Port. Port にいる人が Porter)
敷台に奥行きがあるのは、送り迎えの人たちの座るところを造るためである。
玄関の間(ま)に、畳が敷かれたのは、館のうちでも、小さいものからであり、江戸期末でも、大名以上の館では、ここを、板敷のままとしていた。
- 現代の玄関は、住宅の場合、つぎのように、和式、折中式、洋式に分かれている。が、まだ,洋式のものは、少ない。
- このように、日本には、大別しても、3種類の玄関があるから、玄関作法も、3つに、分かれる。
【型21】洋式玄関の場合の訪問作法
- ベルを、押す。
- 家人が中からあけるまで、待たれよ。
このとき、先方の家のドアがあく前に、かならず、手袋を脱ぐこと。
- ドアがあけられたとき、ドアのそとで、小声で話しかけられよ。
- 「こちらの名前」「来意」の順。「ご主人、おいでですか」は不要。
- 家人が「どうぞ、おはいりください」と言ったならば、「それでは」と申して入られよ。
- 先方によっては、こちらの車のフロント・ガラスの中に「○○家訪問車」といった札を入れるよう希望することがある。そのときは、その指示に従うこと。
- 家に入る前、しつこいほど、よく、靴の泥を落とすこと。(これを、日本人はやらないので嫌われる)
- コートに付いた雪、雨などは、玄関に入る前に払うこと。
- 家人が、ドアのあいているのを、放置するならば、こちらの手で閉められよ。
- コートの脱ぎ方は、元来、日本と西洋で異なっていたが、こんごは、西洋式だけでよいとみる。それは、玄関に入ったところで、ただちに脱ぐということ。
- 出迎えた人に対する、こちらの発言は、コートやマフラーをとって、キチンとしてから。
- 海外では、出迎えた人との間の握手が要る。
- 手に持っている一切の物を、持ったまま話されよ。
- 大きな荷物と小さな荷物を持っていて、荷物を下に置く場合は、けっして、大きな荷物の上に小さな荷物を重ね置きをしてはならない。
- 「何某でございます」の声は、できるだけ小声で。ただし、内緒話にならないように。
これは、先方の家の中に先客のあるとき、その先客に、こちらの名前が聞こえないようにするためである。先方の主人が、こちらとのつながりを、この先客に知られたくないこともあるから。
- 「おあがりください」と言われもせぬうちに、さっさと上がり込むのは、それが、親しさをあらわすとき、また、1つのユーモアのつもりのときでも、実は、先方に、いやな感じを与えているもの。
- 純洋式の家屋のときも、傘は、ステッキとは別の扱いとしなければならない。
- 傘は、玄関に入ったところで、コートを脱ぐ前に、傘立てに立てること。
- もし、傘立てがなければ、扉の内側の壁のどこかに立てかけること。
- これらは、傘が、まったく、乾いているときも同様である。
- 家人が、いったん、引っ込んだとき、玄関ポーチを歩きまわらずに、待たれよ。
- 面接のないとき、家人が、ドアのところにいれば、こちらは、ドアを閉めず、去られよ。
- 「どうぞ、おあがりください」 と言われたとき、一揖して、前進されよ。
- スーツ・ケースや、地面に置いた物を、持ち込む場合は、その地面に接した部分をハンカチで拭いてから持ち込まれよ。
- また、その持ち物の底が車になっていたらその車を拭いてから、木床に置かれよ。
- 大きなバッグ、荷物を持って、お辞儀をするときは、大きなバッグ、荷物を先方の家人からみて左に持ち、(右回転で振り返った時、右にみえてもよい)お辞儀をする。帰るときのお辞儀はひとつでよい。
- 場合によると、家人が、こちらの荷物を受けとってくれることがある。
このときは、素直に、渡されたほうがよい。が、そうは申すものの、やはり、重い物と、大切な物は、渡さないのがよい。
いわば、先方の厚意を生かすため、儀礼的に、持ってもらうだけである。
で、「ありがとうございます」という言葉を、はなはだ、丁ねいに申されよ。
- Porch から上がる手前で、靴拭きがあるとき、こちらの靴底が、いささかでも、汚れていると思うならば、丁ねいに、なんべんでも、こすり拭かれよ。
さらに、靴の上面すら、汚れているならば、ハンカチーフを1枚犠牲にしても、きれいに拭かれよ。
ここが、作法の作法たるところ。さまよく、すーっと、通る前に、靴をきれいにされよ。
- Porch の段階は、いくばく、斜めに上がっていってもよいが、わずか、3〜4段でも、登り切ったとき、左右のまんなかになっているようにされよ。
これを、真上からテレビで撮っているものとしたとき、折れた線をつくり出さないよう、注意されよ。
この折れ角は、昇り切ったところで、できやすい。
- 男女で昇るとき、女性を中心にして、男子は、1歩、おくれて、横に離れないようにして、昇られよ。
- 成年女子と子供が昇るときは、子供が、2〜3歩、うしろから。
もし、そこに、成年男子がいれば、この男子は、子供の手を引いて、女子が、登り切って、ロビーに入ってしまってから、昇りはじめられよ。
- 男子が、3名以上で昇るとき、下から、1列縦隊になって、昇るのでなく、まん中から昇りはじめる者、横から昇りはじめる者、まちまちであったほうがよく、また、ゴタゴタと、混みあって、昇ってよいが、上の床面の1段下の段で、1名ずつ、まん中を踏むようにされると、全体が美しくなる。そこで、段の途中で、立ち止まってよい。
- 床面に達したとき、立ち止まられず、しかし、そこで、いったん、ゆっくりとされよ。
これは、ロビーに入る者として、絵になるようにするサービスである。
- この昇りつめたところに、先方の主人が出迎えていても、こちらは、昇りつめたところで、礼をされないのがよい。
上の床面を2〜3歩、歩いてから、握手ということになる。
しばしば、このために、先方の主人より、こちらのほうが、中に入ってしまっての握手となるが、これでよい。
日本では、この握手のかわりに、礼ということになるが、この身体の動かし方は、握手の場合と、同じである。
主人の出てこないとき、家人が、ここで、礼や会釈をしたならば、こちらも、同程度の礼や会釈をされよ。
- ロビーの床(ゆか)には、油をひいてあっても、わざと、敷物を敷いてないことが多い。
で、靴音をたてずに、美しく、歩いて行けるようであってほしい。
教室の木の床を、靴音をたてず、美しく歩く練習は、このようなときに、役立つ。
- 客室に入るとき、その1〜2歩、まえから、歩速を、ゆるめられよ。
ここでも、こちらが、2名以上、入るときは、いかに、その入口のドア巾が広くとも、1名ずつ、入られよ。
- コートは、先方から預かると言われたときに、渡すこと。
- 預かると言われないが、あきらかに、コート・ハンガーであると認められる物の前に、来たならば、そこで、かけること。
- とうとう、それらしいハンガーもなく、客室に来てしまい、なおかつ、ハンガーのないときは、きちんとたたんで、床(日本間では、畳)の上に置くこと。
(欧米で、客がコートを床の上に置いていることを、日本では、もうひとつ、知られていない)
コートを、イスの上、いわんや、テーブルの上にのせることは、はなはだ失礼になる。
- 廊下で、その家の方、あるいは、従業員に会ったとき、客のほうから会釈すること。このことは、欧米に行ったとき、とくに注意すること。
- 飾棚の中の物のように、見せるために置いてある物以外、いかなる物も、相手の許可なく、ジロジロ見てはならない。
いわんや、触っては、いけない。日本人は、この点で、はなはだ出来てない人物が多い。
- 客間に入ったとき、その主人の座を見てとり、その座を囲むよう、奥から順次に詰めて、座って、待つ。
立ったまま、待っているのは、礼を尽くしているようで、かえって、先方
の主人の出てくるのを急がせることになる。(ただし、中国の場合のみ、立って待つのが礼)
- 応接間では、いちおう、1人用のソファーより、3人掛けのソファーのほうが、上席である。
この3人掛では、下図のような席順がある。
- 椅子が足りない場合、あぶれた者は、離れた所にある椅子に座って待つ。それもないときは、立って待つ。
- ハンド・バッグ、カバン、図書などは、a. 自分の椅子の左横の床の
上 b. 足の爪先の前の床の上 c. 膝の上 d. 椅子の上で左ももの左の順で、置けるところに置く。
ただし、サイド・テーブルを出されたときは、その上に置く。そうして、けっして、正面のテーブルの上にのせないこと。
(ただし、宗教の聖典は、正面テーブルの上にのせてよい)
ハンド・バッグの底を靴の底と同じと考え、膝の上を床の上につぐものと考える欧米流の考え方を知らないと、上のような規定を納得し難い。
- タバコを吸うにも、作法めいたものがあることを知っておかれよ。
- テーブルの上にタバコが出されているとき、そのタバコを吸って待っていてよい。
- タバコが置かれてないとき、5分間はタバコを吸わずに待つこと。そのあとは、自分の持ってきたタバコを吸ってよい。
- 訪問者の会話は、小声ですること。大声で笑うことは、とくに失礼である。しかし、内緒話のような声もよくない。
- お茶、お菓子は、遠慮せず、すぐ、いただいたほうがよい。が、出されて1分間ぐらいしてから、手をつけたほうが、ガツガツしてない。
- 自分の身体とテーブルとの間が、20cm以上離れているとき、紅茶、コーヒーは、下皿ごと持って飲み、菓子も皿ごと手に持って食べるのが作法。
つまり、自分とテーブルとの間に、食べこぼしするのを防ぐため。
しかし、日本茶の茶托は、机の上に置いたままとする習慣である。
また、このとき、手に持った皿類をテーブルの面より下に、さげないのが、西洋作法。
- 主人が現われたとき、タバコを消し、静かに立ち上がってスマイルする。
握手は、貴女目婚年訪(きじょめこんねんぼう)の順で手を出してする。
- 主人が座ったならば、こちらも座る。ただし、主人のすすめがある場合、素直に、主人より先に、座ったほうがよい。
椅子に座るとき、ドスンと座らないこと。
女子は、スカートのお尻をなでながら、座ることのないように。
- 主人と、こちらと、双方、座ったとき、こちらは、おもむろに、「本日はお邪魔申し上げまして、おそれ入ります。……の件で、おうかがい申し上げました」……と来意を告げること。
これを、あまり、くどく言わないこと。そのためには、いくばくの練習が要る。
漫然と訪問された場合は、黙っておられよ。
- 主人に会って見ると、a. 主人のほうから、話をどんどん進めてくるとき、b. こちらが話を進めなければ、主人が、だまりこくっているだけで、どうにもならないときがある。そうかと思うと、c. 主人がよくしゃべるが、話にとりとめかなくて、かなわないときもある。
このような場合の、こちらの話の切り出し方であるが、あくまでも主人の話している時は、相づちを打ち、主人の話のとぎれたとき、目線を合わせ、「ニコッ」とし、「およろしうございますか」と声をかけられよ。
このとき、重要となるのは、一瞬でも良いから、相手の注意を引くことである。
- 主人に会って、15分もすると、だいたい、主人がこの3つの傾向のどれであるかを判定できるから、そこで、こちらとしての、対応の仕方を心の中で、決めることである。
訪問作法のヤマは、主人との話の進め方にある。
- 丁ねいに、しかし、あいまいでなく、話をまとめていくこと。
だいたい、1つの話が25分間、続いたならば、それとなく、その部分のまとめの話をこちらがするとよい。
で、ほぼ、30分を限度として、1つずつの話をまとめていくと、この訪問の内容に、実(み)が入るし、そのことは、先方をも、よろこばせることとなる。
- 以下、帰りがけの作法が、訪問作法を本物にするか否かの区別をつける。
- こちらが帰りたいと思うとき、「ありがとうございました。本日は、これで失礼させていただきたいと存じます」と申すこと。
- 相手が、「もうすこし、お話ししませんか」といったならば、こちらとして、つぎのような表現のいずれかを用いることとなる。
- おさしつかえございませんか……こちらに、そのあとの予定のないとき……。
- わたくしは、○時に、△町で、1つの約束をいたしておりますので、こちらを○時ごろまでには、おいとましとうございますが、ただ、あまり長くなりますので、本日は、これで、失礼申し上げとう存じます。
- 本日、はじめに、お耳に入れますのを怠りまして、申しわけないのでございますが、実は、突然の用事ができまして、○時に、△町で、1つの約束をいたしてしまいました。それで、こちらを、いま失礼申し上げませんと、間にあいません。
- いとまを告げるのは客の側からである。このとき、立って、告げてはならない。
- ひきとめられた場合、日本間では、座ぶとんをはずし、“にこにこ”していればよい。このとき、バッグなどは、まだ、手にしないこと。
- イス席では、立ってから、日本では、お辞儀、欧米では、貴女目婚年訪
の順で握手をし、それから、バッグなどを取って、来訪客中、入口に近い人間から出てゆくこと。
立ってから、この部屋でのあいさつは1回のみ。日本人は、なんべんも、お辞儀をしすぎる。(しかし、1度も、お辞儀をしないのは、最も失礼である)
- この、あいさつを終わってから、客間を去るとき、忘れ物がないかを、見まわすことを習慣としたい。あくまで、「品よく、そうして、入念に」である。忘れ物をすれば、あと、手数をかける。作法では、形よくして、相手に快感を与える前に、相手に、めいわくをかけないことが大切である。
- ……。そこで、よく忘れることは、クッションについての心くばりである。クッションには、実用のものと、装飾用のものとがある。
装飾用のクッションは、使用してもよいが、装飾用のものであると知って、使用されよ。すなわち、ちょっとはずして使用されよ。立ち去るとき、実用のものと、装飾用のものと、どちらであろうと、そのクッションの形を直して行かれよ。
そのときのクッションの扱い方は、両手でふくらまし、元の位置に戻しておくのがよい。
- つぎは、中から玄関に出てきて、辞去するときの作法に移る。
主人または家人とのロビーでのあいさつは、ロビーのまん中とするのが、本則である。ロビーとは、そういう、別れのあいさつをするためにある部屋と割り切って、眺めてみられよ。
ところで、昼間、ロビーに照明がなく、Porch のほうからだけ、光の射し込んでいることがある。このようなとき、あいさつの場所は、Porch に降りて行く2〜3m手前とすることもある。
あいさつをするときの向きは、その場の送り主が、どちらを向いているかによる。
場あたりで行くよりほかない。そういうムードの、あいさつの場が、ロビーである。
- コートは、見送人がいないとき、コートを手にしたところで着てしまわれよ。
- 見送人がいるとき、コートを手渡されたところで、着てしまわれよ。
このとき「失礼申し上げます」と言葉を添えられること。
- こうして、コートを着るとき、ボタンはめ、ベルト締めは、すべて、代表的見送人に身体を向けて行なわれよ。
- 3人以上で訪問したとき、ロビーで、あいさつの済んだ者が、あいさつの済まない者を待つ場所は、やはり、ロビーであって、Porch でない。
で、そろったならば、ロビーを降りる第1段だけは、1人ずつ、まん中を踏んで降りられよ。
- 男女のときは、男子が、1段先に、斜前になるようにして降りられよ。
そのほうが美しいし、女子の裾の長いときも、男子が、その裾を踏まない。
- 成年女子と子供が降りるときは、子供が、2〜3歩、うしろから。
もし、そこに成年男子がいれば、この男子は、子供の手を引いて、女子より、2〜3歩、おくれて、降りられよ。
- 全員が、Porch に降りたならば、男子が、ドアをあけて、先に外に出て、女子や、子供を出されよ。
ドアをあけるとき、頭は下げない。
- 男同士であれば、順ぐりに出てしまわれよ。仲間同士の会話は禁物。
- その家の主人や家人が、Porch で、立っていることもある。
そのときは、そこで、あいさつし、順に出てゆけばよい。
- 家人が、ドアをあけたまま、見送っておられても、こちらは、ドアを出てからのあいさつ、不要。
- こちらの車に、訪問先の駐車札をあずかっているときは、それを忘れずに返すこと。
- 雨が降っていれば、玄関を出るとき、さっさと傘を広げること。
こちらの身体をぬらしてまで、傘をささないでいるのは、礼儀として過剰である。
- 手袋は、屋外に出たならば、そこで、相手との握手のないかぎり、さっさと、着用のこと。
ただし、見送人が屋外に出て来たとき、別れのあいさつが済んで歩き出すまで、手袋をはめられるな。
また、こちらが、車に乗ったとき、動き出して、手を振るとき、まだ、手袋を脱いでおられよ。
- 辞去したならば、こちらが2名以上のとき、訪問先の人から完全に見えなくなるまで、こちらのメンバー相互で話をしないこと。
- もし、同行者が、話しかけたならば、手で、制止する合図をされよ。
- 見送人が、見送っている中を、訪問先の家から離れて行くとき、いよいよ、見送人が見えなくなる瞬間、ふり返って一礼するのがよい。
【型22】折中式玄関の場合(洋式玄関のときと違うところのみ)
- 靴を脱ぐ位置は、スリッパの前であるが、そのスリッパが、何足も、ならべられてあるとき、こちらのうちで、身分の高い者から、中央のスリッパを使ってゆくことになる。
もし、こちらの中で、身分の最上でない者が、その場の具合で、身分最上の者より、先に、靴を脱がなければならないときは、身分の順に考えて、自分のスリッパは、このあたりと見るところに、靴を脱がれよ。
- 靴を脱ぎにかかる前に、持ち物を、木床のほうに置かれよ。
スリッパとスリッパの間が広ければ、そこに置けるので、このときは、スリッパを履いたとき、自分の右下になるように置かれよ。
スリッパが、たてこんでいるときは、スリッパ群のむこうに置かれよ。台があれば、台の上でよい。
- 靴紐をほどくとき、木床のフチより、1歩手前で、ほどかれよ。
- 靴は、自分の履くスリッパのまん前で、「進み脱ぎ」されよ。
靴底を、下に付けたまま、右手で、右かかと、左手で、左かかとと、かかとはずしを行なわれよ。
立ったまま、片足で、もう1つの靴のかかとをしごいて、靴を脱がれるのは、蛮風である。
- 両足とも、足のかかとが、靴のかかとからはずれたならば、そのまま、スリッパに、足を入れ、けっして、中間に、素足で、ほかのところを踏むことのないようにされよ。
- スリッパを穿いたならば、身体を右旋回しつつ、しゃがんで行き、いま、脱いだ靴をそろえて持ち、靴のかかとを、木床側とされよ。
つまり、履くとき、そのまま、履けるような向きに、置きなおされよ。
- それから、そのまま、ゆっくりと、荷物を、持ち、立ち上がって、中に入って行かれよ。
- スリッパの足音をさせられぬよう。
- たたみの部屋に入るときは、スリッパを「進み脱ぎ」して、ふり返り、しゃがみスリッパの向きを、手でかえるのが、正規であるが、略式には、スリッパを「逆さ脱ぎ
」されよ。
- つぎは、中から玄関に出てきて、靴を履き、辞去するときの作法に移る。
靴を履きにかかる直前、木床の上で、見送人の代表者に、軽く、黙礼されよ。
- そこで、靴を穿く位置を考える段となる。
自分の靴が、どこに、置かれているかを見てとられよ。
その靴のまん前で、スリッパを脱ぐことを考えるのであるが、しかし、もし、靴のこちら側に、他のスリッパが置かれているならば、まず、靴の近辺で、スリッパの置いてないところを探されよ。
もし、靴の近辺に、然るべきスペースがなければ、スリッパの置いてないところを見付けられよ。そこの前に、自分の靴を移動されよ。
そこに、まず、持ち物を置く。玄関の外側に面して立つとき、自分の左手に置く。
見送人が見ても、左側に荷物が置かれることになる。
誰かが、こちらの持ち物を待ってくれるというのであれば、丁ねいに、確実に手渡されよ。持ってくれるというものを固辞しないほうがよい。
【型23】着靴
- もし、靴が逆向きになっていたならば、直す。
- 靴紐をほどかなければ、穿けない靴のときは、これを取って、紐をほどいてから、再び、置き直して履く。
- スリッパを脱いだ素足が、床を踏むことのないように。片足ずつ、スリッパから靴に移行させる。この点、大切。
- 必要に応じて、ハンカチーフか、へらを出して、かかとを靴に入れること。先方から、へらを出されたときは、それを使ってあげるのが心あるやり方。
- さて、両足とも、靴にはいったならば、まだ、靴紐を結ばず、身体の位置を、1歩ほど前に出し、靴ベラを、しまうなど、返すなり、する。
ここは、全体の進行の中のアクセントになるので、ゆったりと、丁ねいに、行なわれよ。
- さて、靴紐を結ぶとき、先方の第1の見送人に対し、こちらの斜め左うしろか、斜右うしろかを見せるようにして、結ばれよ。
この角度が、見ていて、いちばん、美しい。ただし、Porch の上に、女性がいるとき、その女性のほうに向いて、紐を結ぶことにならないよう、注意されよ。
靴紐を結ぶとき、靴を空中に上げられるな。
- それから、その姿勢のまま、ズボンの裾のめくれを、よく、点検されよ。
- それから、いま、脱いだ、スリッパのかかとを、こちら向きにして置かれよ。
つぎにきた人のために、というサービス。で、片ほうのスリッパを、もういっぽうのスリッパの中にさし込むスリッパ整頓法は、不潔であるから、まわりのスリッパがそうしてあっても、付きあわれるな。
それから、玄関によっては、スリッパ棚とか、スリッパ掛けのあることもある。けれども、こういうところに、スリッパを置いたり、掛けたりするのは、家人の仕事であるから、客人として、そこまで、サービスされないほうが、嫌味を生じない。
さて、それから、自分の持ち物を、きちんと、手に持たれよ。
固くなっていると、忘れ物をしたり、Porch の上に、小物を落として、気付かなかったりする。
- 見送人がいるときは、履物を、確実に履き終わり、靴ならば、紐も結び終わり、オーバーも着終わって、荷物も持ってから、姿勢をただし、あいさつされよ。
- 見送人が3名までのときは、その中の代表者から順に、あいさつされよ。
- ただし、見送人が4名以上の場合は、向かって、左のはじから、あいさつしてゆかれよ。
- ドアを、あけるなり、あけてもらうなりして、外に出るとき、いくばく、首を下に向けられよ。 しかし、ペコペコされるな。こちらが、ドアを閉めるのであれば、閉めるとき、第1の見送人をはじめとして、ご一同さまに、会釈しながら、閉められよ。
- また、相手が、ドアを開けたまま、見送っておられるならば、こちらは、ドアのそとに出たとき、もういちど、奥のほうにおられる皆さんに、会釈をし、それから、ドアのところにいる人に、一礼して、去られよ。
【型24】和式玄関の場合
- ベルのあるとき、ベルを押す。
ベルのないとき、戸をあけずに、外から「ごめんください」と言う。1分間に、1度ずつ、6遍言ってみて、中から返事がなければ、外から戸をあけ、しかし、中に入らず、「ごめんください」を言う。
これも、6遍やって、とうとう、返事がなければ、戸を閉めて、帰る。
- 家人が、「少々、お待ちくださいませ」と言って、引っこんだとき、外玄関が、いかに広くとも、その中を歩きまわったり、いわんや、置いてある物にさわったりせず、静かに、立っておられよ。
家の中が広いと、すぐに、5分間ぐらいは待たされるが、じっと、立っておられよ。
- 家人が、ふたたび、出てきて、「あいにく、主人が、お目にかかれません」ということもある。
それは、主人が、こちらを嫌っているからと限らない。
主人が、まったく、自分の用事で、物理的に、こちらと会っていられないこともある。電話で、了解を得てあっての訪問であれば、ことわられることも、まず、ないが、電話のない家には、予告なく訪問せざるを得ない。で、そのときは、ことわられることもある。
ことわられたならば、とにかく、こちらは、不気嫌な顔をせず、「突然、お伺い申し上げまして、失礼申し上げました。ご主人さまに、よろしく、お伝えくださいませ」と申されよ。
それから、静かに戸をあけて、外に出て、一礼して、戸を、しずかに閉めて、去られよ。こちらが、一礼して、戸を閉めようとするとき、家人が、その戸のところにいれば、こちらは、戸を閉めずに、去られよ。
- また、家人、ときに、主人自身が出てきて、「どうぞ、おあがりください」という場合、こちらは、一礼して、前進されよ。
- 靴紐をほどくとき、靴脱ぎ石に、足をかけられぬよう。その下で、紐をほどかれよ。
- 自分の靴を脱ぐ位置を、靴脱ぎ石があれば、その上に、立って、「進み脱ぎ」されよ。
- それから、そのまま、ゆっくりと、荷物を持ち、立ち上がって、中に入ってゆかれよ。
- 厳密に申すと、つとめて、畳のフチを踏まぬようにされよ。
と、申して、そのため、ちょっと、立ちどまったり、されぬよう。
これは、日常、無意識のうちにも、畳のフチを踏まないで歩く練習をしておられるのがよい。
- 靴を穿くとき、敷台の上で、まず、靴ベラを出されよ。
見送人から、靴ベラを差出されたときは、自分の靴ベラをしまって、先方の靴ベラを受けられよ。
- さて、両足とも、靴に入ったならば、まだ、靴紐を結ばず、靴脱ぎ石を降りてしまう。
そうして、自分のであろうと、先方のであろうと、靴ベラをしまうなり、返すなりする。
- 荷物を手にとるとき、靴脱ぎ石に奥行きがあるとか、荷物が重いとかいう場合、無理して、靴脱ぎ石の手前から、ヨロヨロと、手をのばさずに、はっきりと、靴脱ぎ石に、乗ってしまわれよ。
いちばん、このましくないのは、靴脱ぎ石に、片足を、かけることである。
また、靴脱ぎ石に、乗るからと申して、つっ立ったような乗り方をされぬよう。
固くなると、落とし物をする。
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