第8章 特定の場所での作法◆第10節 迎客作法
前節 次節

第10節 迎客作法


ここでは、お客を迎える家人としての玄関作法を述べよう。和式、折中式、洋式の各玄関で、ほとんど、区別なしに考え得るので、これらを、いっぺんに述べる。

【型1】客の迎え方
  1. 来客の外からの合図に対し、中から大声で、「おはいりください」と申して、入口をあけに行かないのは、草庵のときのスタイル。一般性なし。
  2. 入口をあけたのち、その客人に、警戒を感じない以上、さっさと、「どうぞ、お入りくださいませ」と述べられよ。
    このことは、礼儀をわきまえない客にも、ある程度、礼儀の意識を持たせる効果がある。
  3. 客人を、Porch に入れてはみたが、なお、警戒を要すると見たならば、こちらは、入口の扉のところに立ったまま、応待されよ。
    もし、客人が、さっさと、あがりかけるならば、「少々、お待ちくださいませ」と言い、客人が、それをも無視してあがりかけるならば、これは、家宅侵入罪を構成しているので、玄関扉を、あけたまま、こちらは、さっさと、奥に、とび込んでしまうことである。
  4. 客人を、Porch に入れてみて、警戒を要しないと見たならば、そこで、玄関扉を閉め、応待されよ。
  5. 客人が、大声を出しても、こちらが、小声で、応待すると、相手も、小声に転ずるもの。
  6. 客人は、「氏名」「来意」を告げるであろうが、こちらは、「○○さまで、いらっしゃいますね」「主人でございますね」といったことだけ言い、先方の「来意」の復唱をしないほうがよい。
  7. 客を Porch で待たせるとき、客が、重そうな荷物を持っているならば、「お荷物を、どうぞ、こちらへ」と、置く場所を、示してあげると、客人が助かる。
【型2】ことわり方

奥に取りついでみて、主人が、あわぬという場合、ふたたび、玄関に出てきては、「せっかく、このようなところまで、お越しいただけましたのに、まことに、恐れ入ります。ただいま、主人が、取り込みの所用に追われておりまして、どうしても、手を離せませんので、深く、おわびを申し上げ、また、お越しいただけますことを、願い上げております。また、お越しいただけますでございましょうか」と申されよ。

【型3】客の通し方
  1. 客人に、「どうぞ、おとおりくださいませ」と言ったときは、すかさず、客人の持ち物を、こちらの手に、持ってあげられよ。なにも言わず、動作で示すほうが、感じがよい。
  2. 折中式玄関では、もし、客人が、玄関のまん中で、靴を脱がないならば、その靴を脱いでいる前に、さっさと、スリッパを持って行かれよ。
  3. 洋式玄関では、客に先立ち、Porch の段の、中央でないところを昇りながら、客を、誘導されよ。
  4. 客が、玄関の間、ロビーに上がって、1歩、踏み込んだならば、そこで、こちらは、客の進路を妨げないところに立ち、「ごきげんよう」と、あいさつされよ。
  5. オーバー・コートをあずかる位置にきたならば、「おコートを、こちらへ」。
  6. ホテルでは、ページ・ボーイが、客室に先に入り、電灯を点け、スーツ・ケースを置き、「お客さま、どうぞ」ということになるが、住宅のときも、家人は、客室入口で、室内の電灯を点けたならば、外に出てきて、そこで、「どうぞ」といって、自分が先になって、客を、部屋に入らせ、イスか座ぶとんのところに、客を誘導し、「お召しくださいませ」といって、すわらせてしまう。(ここは、洋式作法とした)
    そのあと、「お荷物を、こちらに、お置き申し上げます」
    それから、改めて、照明、窓の開閉、暖房などをととのえて、出て行く。
    で、それから、お茶を持って行くし、新聞を持って行くこともある。
【型4】客を送る
  1. 客人が帰るとき、和式と折中式の玄関では、こちらの靴べラを、出すこと。
    客が、「ありがとうございます。持っております」といったときは、「おそれ入りました」と言って、こちらの靴ベラを、引っこめること。
  2. 客人が去るとき、客人に、戸を閉めさせず、こちらが、戸のところに立ち、閉めずに、客人の見えなくなるまで、見送っておられよ。
    そのあとも、戸を、バシャンと閉めた音が、客人に聞こえれば、敵意を示したことになる。で、しずかに、閉められよ。
【型5】客との段差の処理法
  1. 客を迎えたときも、見送るときも、客のいる床面より、こちらのいる床面のほうが30cm以上、高いとき、原則として、客に対し、発言されるな。
    こちらの床面が高いのに、客から話しかけられたならば、「はい」「いいえ」という返事までは、さしつかえない。
    しかし、「はい」「いいえ」で返事したのでは、うまくない内容のこともある。そのときは、「おそれ入ります」
    で、客のいる床面まで降りてから、「おそれ入りました。これは……」と、説明をされよ。
  2. ところで、客のいる床面まで降りて行くのに、10秒以上、かかることもある。たとえば、こちらが、物をひっくりかえして、いそいで、あとしまつしているときとか、客のところまで降りて行くのに、ぐるっと、まわって行かなければならないとかである。
    こういうときは、「お高いところから、恐れ入ります」と申して、その高いところから、発言してしまわれよ。
    そのまま、客人との間に、応答が、続けられても、もう、「お高いところから……」の詫びことばを不要とする。
【参考】

訪問者が女子であり、しかもその女子が帰宅しようとする時間が夜遅くなってしまったとき、被訪問者は、心配になるものである。
そこで、女子は、帰宅したならば、訪問できたことのお礼を述べる電話をされよ。 そうすることによって、無事に帰宅したことの報告にもなるし、被訪問者が安心する。


ホーム 章トップ
前節 先頭行 次節