第8章 特定の場所での作法◆第8節 劇場などでの作法
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第8節 劇場などでの作法
【通解】
- ここでは、指定席の客としての作法に問題をしぼる。
- が、自由席の場合とか、いつ入って、いつ出てもよい劇場の場合について、ここで述べていることに準じて考えられよ。
【型1】入場
- 開演時刻の15分前には、入館するのが、まわりのためにも、自分のためにも、よい。
自分のためとしては、すべり込みセーフで着席すると、どうしても、その音楽や演技の観賞力がにぶるもの。
- 遅参したとき、1曲または1幕済むまで、ロビーで待つか、案内人の指図によって行動されること。
国により、劇場により、遅参者が、ドアを排して、入場することを、きびしく、禁じているもの。 ドアの番人が、こちらを罪人あつかいする。 フランスあたりでは、いちばん、注意が要る。
- なるべく荷物は、クロークにあずけられること。
- 騒々しく、席を捜したり、大声を、あげては、ならない。
日本人は、団体客で海外に行ったとき、劇場で、これをやって、まわりから嫌われている。
ことに、女子が注意されること。
- 知人などがいても、会釈だけにされること。呼びかけたりされないように。
- 女子を、エスコートする場合、男子が先に、案内人に切符を示し、座席まで案内してもらう。
このとき、男子と女子のどちらが先になって進んでもよい。そのあと、女子を先に座席に通す。
- 座席に、他の人を招待している場合は、それらの人が両端に、ならないように席をとる。
また、こちらの夫婦がならんで座らないように。
- 座席に入るとき、座っている人々の前を、通らせてもらい、迷惑をかけるのであるから、失礼を詫びること。それも、大きな声を出さないこと。
- クロークに、あずけないコートなどで、他の客に、迷惑をかけないように。
また、女子の帽子は、脱がなくてもよいルールであるが、自発的に脱いだほうがよい。(帽子の形にもよるが)
【型2】開演中
- 演奏中は、プログラムを、ガサガサさせたり、飲食したりされないように。
- オペラ・グラスで、客席を、ジロジロ見られないこと。
- つまらなくても、居ねむり、あくびをされないこと。
- 拍手は、ほどほどに。
あまり熱狂されないこと。
拍手をする場合を心得られること。
- 音楽……全楽章の終わり。
- 演劇・その他……全演技の終了後。中間では、感動的な場面。独演者の演技の切れ目。
- オーケストラの各楽章ごとの拍手や、リクエスト曲のアンコールをうながす拍手などは、いけない。民度を問われる。
- 演奏終了のときの拍手のほかの歓声は、不自然な誇張をつつしみたい。
日本人は、オペラのあとの拍手でも、多年、あまりに、儀礼的に、冷え切った拍手だけをしてきた。そこで、日本人のある方々が中心となって、1970年以降、終演での拍手に、歓声を加えようと提唱され、その賛同者たちが、歓声を反復してこられた。
これに、ジャズ、ウエスタンなどの演奏会のときの歓声者が同調し、曲による区別なく歓声をあげる悪習を生じている。
たとえば、深く感銘を受けたとき、拍手とともに、唸り声を発してしまうことが、ままある。が、そのとき、立ち上がって、ワァワァ歓声をあげている連中を見ると、いったい、この曲を理解しての歓声であるのか、疑わしくなるし、演奏者たちに対する侮辱をすら感じることがある。すくなくも、心を澄ませて聴いていた聴衆の邪魔になる。歓声をあげている本人たちは、啓蒙のつもりなのであろうが。
たしかに、イタリアの劇場での歓声は、勇ましい。そうして、拍手そのものの体質が異なる。そうして、それにふさわしい曲目との組みあわせがある。ここには、民族性と、それにふさわしい芸術の組みあわせがあり、すこしも、不自然さがない。
そういう場合を除いての、歓声のための歓声はやめてもらいたい。
【型3】中座
- 中座をするとき、映画館では、自分の影がスクリーンに映りそうならば姿勢を低くすること。
- 休憩時間に席を離れるならば、早めに席に戻って来られること。ベルがなってから、扉をガタガタ開閉されないこと。
【参考】
パリで、わたくしは、休演時間にトイレに行った。トイレが行列で、わたくしの番が、なかなか、こない。で、劇場に戻ろうとしたところ、番人がさいごのドアを閉めている。わたくしが入ろうとすると 「Non!」
入れてくれない。1幕を、ロビーで待たされた。わたくしのあとからトイレを出て来た連中も、ロビーで待っている。しかし、連中は、いっこう、平気でいた。
わたくしひとり、「ひどいな」と思ったが、同時に、パリで、幕間にトイレに行こうと思えば、早目に出て、行列の前のほうにいなければいけないと思った。で、そのあと、欧米で同じケースにあって、次第に知ったことは、開演中に、だらしなく、コソコソと入ってくるし、入れもするのは、日本だけということ。
言いかえると、トイレを途中でやめるよりは、1幕を振ったほうがよいと、考えなければならないことである。
【型4】退出
- 演劇が終了しないのに、座ったまま、コートなどを着はじめられないこと。
- 男子は、女子に、コートを、着せたのち、自分の身じたくをされること。
- 女子は、男子が、着せかけてくれた場合、さっさとそれを受けられること。
日本人の女子は、あまり、ふだん、着せてもらっていないから、モタモタしやすい。
- 劇場のロビーや階段の下や、劇場を出たところで、立ちどまって、ことに、日本人だけ固まって、多くの人々の流れを妨げないこと。
見ていると、欧米人の仲間はノロノロと出てくるが、仲間同士、はぐれないように、くっついて出てくる。
そうして、もし、仲間の中の誰かが離れた席にいたとすると、客席ホールからロビーに出たばかりのところで、固まって、待っている。
しばしば、外向き円陣を造っている。
で、遅れてきた人物も、ムキになって、外に出ず、まず、そのあたりで仲間を捜している。そういう不文律を持っているようである。
- で、仲間同士、劇場に行き、もし、はぐれたときには、劇場の中では、どこ、劇場の外では、どこで落ち合うかという約束を決めておくのが、1つの作法となる。
- 外国の映画館などで、最終回に、国歌の演奏を行なうことが、多い。起立して終わるまで待たなければならない。