第23節 魚料理
【参考】ヨーロッパ人と魚
- もともと、ヨーロッパで、海ばたの連中は、海のものを、なんでも、食べていた。そこに、キリスト教が入ってきて、「骨のない魚を食べるな」と言った。タコ、イカ、エビ、カニなどが、これに該当したと見られる。大陸内部の連中は、もともと、海のものと、あまり縁がなかったから、そう言われたところで、「当然であろう」と思えたが、海ばたの人たちは、えらい制限を受けたと思った。ただ、いけないといわれているものを、大っぴらにはやらないという線でいた。800年ごろ、カール大帝のとき、法王から、これを、あまり、厳しくしなくともよいと言われ、大っぴらに食べられるようになった。
あと、こん日に至る。
けれども、内陸の連中には、法王も、そのままにしておいたので、いまでも、だいたい、食べたがらない。ことに、タコとかイカは、人間の食べるものでないと思っているところがある。
- BC500年ころのギリシアのクッキング・ブックには、もう、フカやウナギの料理法が書いてあったようでもある。
BC80年ごろ、ローマ人は、アドリア海岸で、うなぎの養殖をはじめている。
また、ライン河には、うなぎが登ってくるので、この沿岸には、元来、うなぎ料理があった。
現在もすべて、そのままであるが、輪切りにして、バタ焼きにして、食べるだけで、われわれから見ると、連中は、うなぎの美味な食べ方を、知らない。が、かれらに、日本のカバヤキを、食べさせようとしても、「ペッペッ。甘い魚」などといって、食べたがらない。ゴハン・ベースとパン・ベースでは、これだけ、好みもかわる。
カバヤキをつくるときのように、ひらいて、串をさし、せいろで、ふかして、そのあと、バタで、ムニエルにして、食べさせると、塩、こしょうしたり、マヨネーズをつけたりして、うまいという。これが限度である。
- ヨーロッパ人は、魚の中で、元来、白身のものしか、食べなかった。「白ワインは魚料理に」などという因縁ができてきたのも、この「白」に関係があろう。
鮭(サーモン)を食べるということも、元来、それほど、熱心でなかった。
- 1370年代に、フランドル(フランスのカレーからベルギーのオンステンデにかけての一帯)のベケルスゾーンという人が、ニシン( herring )のはらわたをとり、か
わりに塩を詰めるという方法を考え出した。これによって、魚を、内陸深く送ることができるようになった。
現在では、こうして塩漬けにしたニシンを、オリーブ油の缶に漬けてあって、それを、石炭ばさみのようなもので、はさみ出して、食べる。これは、うまい。フランドルから、オランダにかけての街角の屋台などでも売っている。これを1匹買って、ムシャムシャたべながら歩いて行くや、しみじみと、しあわせを感じる。(作法のテキストに、こういうことを書いては、うまくないが)
【型1】レモンのしぼり方
- 魚料理には、多く、レモンがついている。で、レモンの処理法から述べよう。
- まず、レモンのできない国では、レモンを出すにしても、薄く、輪切りにしてある。もっとも、料埋によるが。
で、そういうとき、ナイフで、レモンを、しごかれないように。ナイフで、レモンを押さえてもよいが、しごくのは、必ず、フォークでしなければならない。(ナイフで行なうほうが、よく、しごけるのであるけれども)
この「しごき」は、魚の上で行なうのが、建前となっているが、そうすると、魚がつぶれてしまうときは、魚のそばの皿の上で行なってもよい。
- それから、このときのフォークの持ち方は、どういう形になってもよい。
- しぼりかすのレモンは、皿の1時のあたりに置く。
- つぎは、レモンが、1/4個ついているときである。このときは、左手の親指と中指で、挾みつぶす。が、レモンの汗が、飛んでいって、他の客の目に入ったり、着物を汚したりする懸念があるというので、右手で掩って、これを行なう。
これなど、実際に、レモン汁が飛ぶということは、あまり、ない。が、そういう手付きをする約束になっていて、右手でカバーしないと、野蛮人のように見られる。
- つぎは、レモンが半個、ついているときである。日本では、めったにないが、欧米に行けば、これがあたりまえである。レモンが安い。
このときは、レモンにフォークを差し込んで、レモンを右に、フォークを左にねじる。静かに、ねじること。
- レモンをしぼったとき、手についた汁は、ナプキンで拭かれよ。位置は中央のほうでよい。
【型2】大魚の食べ方
- 魚一匹、まるごとのムニエルのようなとき、はじめに、頭と尾を切り取り、ついで、上図の番号順に切り込んでは、食べられよ。
- 首と
尾は、切り離したとき、その場に置かれよ。
は、骨をくだかないように。
は、切り離す。
- 背骨は、取って、皿の右上に置かれよ。このとき、けっして、魚をひっくりかえしてはならない。
【参考】ムニエル
ムニエルは、元来、粉をつけて、蒸し焼きにしたものを言ったが、いまでは、粉をつけないものまで、そう呼んでいる。
【型3】中魚(マス)の食べ方
- たとえば Trout(マス)のような中魚の食べ方は、少し異なる。
- まず、 を切り、魚の頭を、取ってしまう。が、その頭は、そこに置いておく。
- つぎに、 を切り、尻尾も、取ってしまい、そこに置いておく。
- つぎに、 にナイフを入れる。魚の背骨を、断ちわらぬよう注意。ここまでは、大魚と同じ。
- つぎに、AAAの肉を、皿の向こう側に開くため、背びれのところを蝶番にして、
のところに、フォークを入れ、バタンと、ひらく。このとき、ナイフで、こじあ けられるな。
フォークを、スプーンのように持って、行なう。
- つぎに、背びれの蝶番を、ナイフで切りはなす。(AAAの向こう側の皿面がブランクにされているのは、このため)
- ついで、レモンの大きいのが出ているときは、このAAAに、レモン汁を、手でしぼりかけてもよい。
- つぎに、AAAを、左から切っては、食べる。
- AAAを食べ終わったならば、BBBを、手前に広げる。
- 片身を食べ終わったならば、頭も尻尾も、そのままのところに置き、背骨をナイフではずし、皿の右上に積む。
- 背骨の下側の肉は、AAA、BBBと食べても、BBB、AAAと食べても、また、タテに、向こうから、こちらへと、まとめて切って、つまり、ビフテキのときのように
して、食べても、どうでもよい。
【型4】イセエビ(ロブスター)の食べ方
左から、脳みそ、半透明の堅い部分、白いやわらかい肉となっている。
はじめに、半透明の堅い部分と、白い肉との境に、ナイフを入れたいが、この境目が、なな
めになっているから、白い肉となって、約1cmぐらいのところを切る。
ついで、フォークを、スプーンのように持ち、カラと肉との間に、しごきを入れて、白い肉を、カラから浮かす。
このとき、ナイフの先で、「半透明の堅い部分」とか、尻尾とかを、押さえつけていると、よい。ナイフの刃をねかせて、押さえれば、さらに安定する。
白い肉が浮いたならば、フォークでカラから出し、手前のところに置いて、切っては食べる。
脳みそを食べたいときは、白い肉につけて、食べる。それで、足りなければ、パンにつけて、食べてよい。
【型5】カキとハマグリの食べ方
すべて、フォークだけで処理する。どれほど、大きくても、ナイフで切らない。つまり、一口で食べる。
【型6】魚料理のあとかたづけ
皿の向こう半分に、左から頭、背ぼね、尻尾とならべ、ナイフ、フォークはこちら側半分に置かれよ。