第7章 飲食・喫煙 ◆第16節 テーブル・ナプキン
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第16節 テーブル・ナプキン


【参考】テーブル・ナプキン
  1. ラテン語で、布と地図のことを mappa と言った。現在、英語でも地図のことを map という。
  2. 古代ローマ時代に、食事にテーブル・クロスはなく、食べ物は手づかみで、食べていた。で、食べ終わると、給仕人が、主人たちの食べ残しを下げ、テーブルの上を拭き、それから、Basin(たらい)を持って来て、主人に手を洗わせ、mappa(布)を出して、手を拭かしていた。(故加藤祥先生)
  3. フランスで800年代、イギリスで900年代にテーブル・クロスを使い出したが、あいかわらず手づかみで食事をし、1皿ごとに、手を洗い、その手は、このテーブル・クロスの自分の前に垂れ下がった部分で拭いていた。(故 加藤祥先生)
  4. このテーブル・クロスを、フランスでは nappe(ナップ)と呼んで、こん日に至っており、イギリスでは、1300年代には、nap と書きあらわしている。
  5. 1467年、イギリスで小さな布をつくり、これを napekyn(ナプキン)と呼んだ。kyn(キン)は小さいということ。ドイツ語の chen、イタリア語の in にあたる。ただし、こういう「小さい」というときに kyn をつける英語での習慣は、1400年代までで、あと、行われなくなっている。
  6. この小布は、人が手づかみで食べたあと、1皿ごとに手を洗い、そのあと、テーブル・クロスの裾で拭くかわりにと、つくり出したもののようである。(故 加藤祥先生)
  7. この napekyn の寸法は、1辺50〜100cmであって、食卓布の上に、もう1枚、これを重ねたり、食事のとき、膝にかけたり、炊事のとき、これを布巾、雑巾用として使ったりしていた。
    さらに赤坊のオムツにも、月経帯にも使った。
    1550年代に、新しく、hand-kerchief が一般化した。従来の napekyn より、生地が、やわらかく、手にヒラヒラ持っているものとなったが、寸法は napeken と同じものであった。しかし、イギリスの北部とスコットランドでは、この新しい布をも napekyn と呼んだ。
    で、イギリスの主要部では、食卓で、胸にかける布と、おしめと、月経帯だけを、napekyn と呼びつづけた。
  8. 1533年に、フランス王アンリー2世のところに、イタリアからカトリーヌが入妃したが、このとき、すでにイタリアの宮廷で、一般化していたフォークをフランス宮廷に導入した。このときをもって、フランス料理が、手づかみをやめた最初とするようで ある。
    で、このとき、カトリーヌに付き添ってフランスに来たイタリア人の料理長が、フランス宮廷内の食事法のあまりに粗野であるのに、あきれて、「食膳の作法50則 The fifty courtesies of the table 」というのを書いた。これが、本になったテーブル・マナーの最初のものである。で、この「50則」の中には、2本刃のフォークで食べることともに、nappe で、手を拭くことが書かれている。さて、そうではあるが、けれども、フォークが使用されるようになってのちのテーブル・クロスやナプキンは、食卓の装飾品となった感がある。(故 加藤祥先生)
  9. 1600年代に入ると、イギリスでも、2本刃のフォークを使っての食事が一般化した。(故 加藤祥先生)
  10. napekyn という書き方は、1600年代に入って、クロムウェル革命で、英語の思い切った整理が行われたとき、napkin と書くように改められた。そこで、こん日でも、イギリスでは、食卓で、胸にかける市と、おしめと月経帯を napkin と呼び、ただし、月経帯は、他と区別するため、ときに、sanitary napkin と呼んでいる。また、食事用を table napkin と呼ぶこともある。
    ナプキンという奇妙なことばは、ロシア語でもなんでもなく、英語である。
    で、フランス人は、このことばを好まない。もともと、イギリス人が、フランス語を持っていって、勝手に、部分的に変えたことばであるから。
    フランスでは、napkin と呼ばず serviette(セルヴィエット)と言い、これは、布巾、食事用前かけだけを指している。servr(セルヴィル)(給仕する)から来たことば。
    ところが、これが、1789年、フランス革命で、イギリスに、大量亡命した人たちによって、イギリスでの呼び方としても、広まり、英語では、フランス語の形のまま、serviette と書いて、サーヴィエット、または、サヴィエットと呼んだ。要するに、ナプキンと、まったく、同じもので、いくばく、しゃれた呼び方といったところ。
    このフランス語での「セルヴィエット」という呼び方は、1900年代に入って、フランス料理とともに、日本にも入ってきた。大山元師は、終生、フランス語で日記を書いていたとか、乃木将軍が、フランス料理を好んで、つねに、竜土軒から、とりよせては、客人をもてなしていたとかいうあたりから、セルヴィエットという呼び方が広まっていったらしい。
    大正後半期から昭和初期にかけて、日本では、イギリス料理とフランス料理の混然化する時代を迎える。この段階に、セルヴィエットとか、サヴィエットとか呼ぶ方法が、ウェーター仲間のプロ用語になった。「ナプキンなんて言うやつは、シロートだ。サヴィエットと言え」。
  11. そのうちに、日本では、おかしなことになった。ソビエット・ロシアのソビエットと、このサビエットが、ごっちゃになった。で、こん日でも、ナプキンのことを、ソビエットと呼んでいるレストランがある。
【参考】ナプキンのサイズ
【型1】ナプキンの初めに置いてある定位置
  1. 使う前のナプキンを卓上に置いてあるときの定位置は、
    (ア) 客の前の真正面の卓上(もし、そこに、皿が置かれてあれば、その皿の中)
    (イ) 客の左前に並べてあるフォークの上(フォークを掩うように置いてしまってよい)
    である。
  2. これは、本来、ウェーターとして、知っていればよいことであるが、客としても、知っていると、(ア) に置いて、何か都合が悪くなり、と申して、また、膝の上にも持っていけないとき、かりに (イ)に移して置くといったことを行ない得る。
【型2】ナプキンを手にとるとき
  1. 招待を受けている席で、また、その席上、招待主がオーダーを出すわけでないとき、正客は、着席して、隣席の人と二言、三言、話したならば、ナプキンをとられよ。
  2. 正客がナプキンをとったならば、相ついで、ナプキンをとられよ。
  3. その席で、オーダーの行われる席では、そろそろ、食事の出はじめるころ、正客から、ナプキンをとられよ。
  4. しかし、喉がかわいているときは、水を注がれたならば、正客を待つことなく、サッサとナプキンをとり、水を飲んでよい。
【型3】ナプキンの掛け方
  1. 1辺69cmのナプキンの掛け方には、つぎの5種類がある。

    1. 古式………1辺69cm正方形を、そのままヘソから下ぐらいに掛ける。
    2. 略式……正方形の一隅を、胸ボタンにはさむ。列車、航空機用。
    3. 現代式……正方形を2つ折り、折り目をこちらにする。
    図68a:古式
    図68b:略式
    図68c:現代式
    1. 7才以下の子供用……首から掛けたり、胸から掛けたり。
    2. 女子がハンドバッグなどを膝の上で包んで置くため……三角形にして使う。
  1. ナプキンの掛け方は、欧米とも、同じである。
  2. より小さなナプキンでは、どう掛けようと、膝の上に載っていればよい。
  3. ナプキンを膝に載せる仕草は、1つの儀式と心得られよ。もったいぶって、行われること。
    けっして完全に、ナプキンを開かれるな。そして、けっしてそのテーブルより上に、あげられるな。
  4. たとえ紙ナプキンであっても、もったいぶって2つ折りにして、膝にかけられよ。
  5. ナプキンを、けっして、パタンと音させて、開かれるな。
【型4】ナプキンの使い方
  1.  a. の場合は、自分の膝下に垂れている左端付近20cm×20cmぐらいを汚す。このとき、ナプキンの引き上げかたは、両手で、膝の少し手前あたりの部分を、つまみ、自分の胴のほうに、2回ほど、引き寄せて、汚す部分を、太ももあたりに持ってくる。 あと、そのままにしておけば、このつぎ、ナプキンを使うとき、便利である。
  2.  b. の場合は、ナプキン使用の第1回のみ、上と同じ所作を行ない、ナプキンの下の隅をやはり、20cm×20cmぐらいの範囲で、汚す。
  3.  c. の場合は、左手で、まず、ナプキンの手前、左端を持ち、下図のように、折り返す。
    それから、いま上側に来たところの裏面(つまり、2つにたたんだナプキンの中側)10cm×10cmぐらいの面積を、口に持ってゆくなり手を拭くなりして汚す。済んだならば、再び、左膝の横に、静かに、ずり落としておく。
図69:汚す場所
【型5】ナプキンの洗濯のこと
  1. ナプキンは、汚すためにある。で、汚してよい。
  2. が、ナプキンは、ちり紙と異なり、何回でも、洗濯して使う。で、洗濯しても落ちにくいような汚し方を嫌う。
  3. そのことは、つぎのようなものを拭かないこと。
    1. 汗  
    2. 鼻水  
    3. 口紅
  4. けっきょく、ティッシュ・ぺーパーを別に持っていなければならない。
【型6】おしぼり作法
  1. 欧米のレストランでも、次第に、日本式のおしぼりを出す。「オシュボウリ」などといって、持ってくる。
  2. これは、顔を拭き、首まわりを拭いて、まっくろにしてよい。
  3. が、メガネのつるまでは、拭かないのがよい。
【型7】ナプキンを扱うときの注意
  1. ナプキンに、ファミリーとか、店とかの紋章やイニシアルを縫いとりしてあることがある。ここは、汚せない。レースの部分も同じである。
  2. ナプキンで、皿やナイフを拭くと、「不潔な皿やナイフを出しおった」と、こちらが、言っていることになる。
【型8】ナプキンを落としたとき

ナプキンを、もし膝から落としたならば、自分で拾われるな。ウェーターを呼んで、拾ってもらうこと。ただし、ウェーターは、その拾ったナプキンを、持ってゆき、別の新しいナプキンを、持って来てくれる。それまで、落ちついて、待っておられよ。

【型9】中座などのときのナプキンの置場
  1. 中座にせよ、その部屋を出て行くために立ち上がるとき、また、スピーチのため、立ち上がるとき、ナプキンを左手に持ったまま、立ち上がられよ。(あと、ナプキンを、イスの上に置く)
  2. 握手するために立ち上がるとき、ナプキンを、卓上に置かず、左手で持ったまま、立ち上がられよ。
  3. テーブル・スピーチとか、中座とかで立ち上がったとき、ナプキンをけっして卓上に置いてはならない。膝の上は、かばんの底などが触れる不潔な場所と考えることから、そこに掛けたナプキンを食事中に卓上に置くことはタブーとされる。(食卓の上は、皿 の中と同じ)……食事の最後にのみ、卓上に置くことが許される。
【型10】ナプキンを膝から落としたならば
  1. ナプキンを、もし、膝から落としたならば、自分で拾われるな。ウェーターを呼んで、拾ってもらうこと。
  2. しかし、なかなかウェーターが来てくれないとき、咳をする振りをして、ナプキンの落ちている場所を見つけ、そっと拾われよ。そのとき、決してテーブルの下をのぞき込んで拾われるな。手だけをおろして、拾われよ。(そのわけは、自分の向こう側に女性が 座っている場合を考えられよ)
【型11】ナプキンをはずすときなど
  1. ナプキンを卓上に置くのは、「さあ、みんな、このテーブルを離れて、向こうに行こうぜ」という信号で、本来、卓上などに載せるべきでないナプキンを、卓上に、ぶち投げて、そのテーブルを、もう使えなくするといったことから来ている。
  2. そこで、テーブル・スピーチとか、中座とかで立ち上がったとき、ナプキンを、けっして、上に置いてはならない。食卓の上を、皿の中と同じに考えよというのであるから。
  3. また、ナプキンを膝からはずすのは、いつであってもよいわけで、はじめから、掛けなくともよい。が、通常、食事の最後のコーヒー、紅茶を飲んだあとならば、もう、膝の上にこぼすものもないから、大いばりで、ナプキンは、はずしてよい。夏など、ことさら、暑いのであるから、はやく、はずしてよい。
    が、はずしても、膝の上に載せているか、イスの脇か、うしろに押しやっておくことにして、卓上に載せてはならない。
  4. ナプキンは、最後に、卓上に投げ出すのであるから、そのとき、クシャクシャであればよい。が、ほどよいクシャクシャをつくる方法として、次図の方法がある。
図72a:クシャクシャにする方法
図72a:クシャクシャにする方法
図72a:クシャクシャにする方法
  1. 中座、スピーチなどで、イスの上にナプキンを置くときも、この形でよい。
  2. 最後に退席するとき、このナプキンの手前の端を、テーブルのフチよりこちらに垂らさないようにされると、おさまりがよい。
図72b:置き方


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