第7章 飲食・喫煙
◆第17節 スプーン、ナイフ、フォーク
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第17節 スプーン、ナイフ、
フォーク
【参考】スプーン・ナイフ・フォーク略史
- 人類が火食するようになったのは、80万年前から。で、20〜30万年前から調理用具として、木や貝がらのスプーンと、打製・磨製のナイフがあり、それが、BC3500年ごろからの青銅器時代に、青銅化するとともに、ここに、別に、串ざし用の串を得た。さらに、BC3000年ごろ、シュメール人は、犂(すき)を発明して、牛に引かせている。これによって、麦の反収が、いっぺんに80倍になったという。
ついで、BC2000年ごろから、スプーンもナイフも犂も串も、鉄製にかわっていった。
この鉄製の犂には、やがて、人の使うものとして、小型なものもでき、それに、子羊などを、まるざしにして、火にあぶるということも行われたらしい。
- イエス・キリストのころ、ローマや小アジアの人たちの調理器具は、どうなっていたかというと、スプーンは、木製、包丁と串とフォークは鉄製であったようである。
- 同じ時代、人々は、食事のとき、あらかじめ、切ってある固形物を、手づかみで食べ、スープとか、おかゆのたぐいを、木製スプーンで食べていた。
- が、中世に入ると、各自は、ナイフをも持つようになる。が、フォークを持っていなかった。
で、王宮の宴会のときですら、ナイフを各自、持参していた。小さな短剣は、護身用でもあったが、いちばん多く、食事で使われていたらしい。中世の女性が、短剣を吊っているのは、おかしいと思えるが、こんなところに、短剣の日常性があったわけである。
木製スプーンのほうは、ホストのほうで準備したようである。
- ところで、イギリスでは、食事に、鉄串を、かなり、はやくから、使っていた。
それは、なぜであるか。
ローマは、イギリスを治めていたが、それは、キリスト教をローマ国教にする以前であった。
392年、ローマは、キリスト教を国教にした。が、その3年後、東西ローマに分裂し、その15年後、キリスト教徒でない西ゴート族に攻めおとされた。
で、イギリス占領の続行はあいまいとなり、いわんや、イギリスのキリスト教化どころでなくなった。
そこへ、449年、北ドイツにいたアングロ・サクソンが、イギリスに乗り込んでいって、イギリスをとる。この連中は、キリスト教徒でないほかに、もともと、牛を、たらふく、食べていた。それから130年間、ローマ法王とこの新イギリス人とは、にらみあったままであった。当時のキリスト教は、大家畜を殺すことを認めなかった。
580年代に入って、イギリスは、しかし、キリスト教を取り入れることにした。ただ、牛を殺して、食べてよいと言うなら、キリスト教に改宗してやるという条件を出した。ローマ法王は、これを呑んだ。
イギリスのビフテキには、こういう伝統がある。全ヨーロッパの中で、ビフテキを食べたいと思えば、イギリスに行かなければならなかった。
ビフテキは焼き立てを食べなければ、まずい。焼き立ては、手づかみでは、熱い。そこで、イギリスでは、はやくから、鉄串が使われた。この串は、手裏剣にも化けた。ダーツも、この串で、やっていた。
では、いつごろ、イギリス以外の国が、ビフテキを公然と食べられるようになったのか、わたくしには、まだ、わかっていない。しかし、わたくしは、こん日ですら、ヨーロッパの中で、ほんとうのビフテキの味は、イギリスにしかないように思うのである。
- 1360年代になって、フランスに、はじめて、金属製スプーンがつくられた。フランスのシャルル5世が、この金属スプーンを70個持って、ほこりとしていた。それほど、この金属製スプーンは高価であった。
各自は宴会のとき、ナイフのほかに、金属製スプーンを持参するようになった。
また、次第に、花嫁道具として、金属製スプーンが重要な役割を果たすようになった。
で、食べ方は、相かわらず、昔のまま。
- 1492年に、イタリアの法王領内で、2つ股のフォークがつくられた。これによって、料理の食べ方が、著しく、自由なものとなった。
- 1533年、フィレンツェのメディチ家から、カトリーヌがフランス王アンリー2世の王妃としてお輿入れしたとき、2つ股のフォークを、はじめてフランスに伝えた。
- が、フランスでは、神からさずかった指で食べることをフォークにかえることは、神の摂理に反するとの論議が厳しかった。けっきょく、採用した。
- 1500年代のナイフ・フォークの使い方
ナイフ・フォークの使い方は、現代でいえば、子供のような使い方をしたのである。
- フォークもナイフも逆手に握っている。
- そうかと思えば、ナイフだけ、現代のような使い方もしたようである。
- フォークを肉塊からはずす。
- ナイフをいったん置く。フォークを右手に持ちかえる。
- 右手のフォークで肉塊を刺す。
- アングリ
- 右手のフォークを、ふたたび左手に持ちかえる。
- 右手にナイフを取る。
- 左手のフォークで肉塊をさす。
- ふたたび肉塊を切る。
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- これが1600年代には、イギリスで一本串のかわりに、この2つ股のフォークが使用された。
- フォークは、その後、三つ股となり、こん日のように四つ股となった。
- その前から、シルク・ロード経由で、当然、箸が入っているはずであるし、箸を作ることは、ナイフ、フォークを作るより、はるかに容易であるが、ヨーロッパ人は、素手で食べることの美味に定着していたからであろうか、手先が不器用であったからであろうか、さきに、フォークに、なじんでしまっていたからであろうか、箸に見むきもしなかった。
けれども、なぜ、ヨーロッパ人が箸の歴史を持たなかったかについて、もう少し、吟味する必要がある。わたくしには、まだ、わからない。
- ナイフの持ち方は、古代ローマから、こん日まで、かわっていないようである。というのは、リンゴや梨にナイフを入れるときの手つきから、外科手術するときのメスの持ち方まで、われわれとヨーロッパ人とでは違う。かれらは、いつも、同じである。
- フォークのほうは、1500年代に、すでに、現代の握り方をする者から、こん日の子供のように、さかさ握りする者まで、まちまちであったと思われる。が、フォークは、イギリスをのぞいて、物を食べるとき、右手に持ちかえていたらしい。
- この形は、はじめ、アメリカに渡ったスペイン人、フランス人によって、現在も、アメリカ式の食べ方として、残っている。
- ナイフは右、フォークは左と固定したのは、1870年代のイギリス宮中礼法以来という。
ディスレーリー内閣のとき、ビクトリア女王は、インド皇帝を兼ねることになった。
で、インド諸王が、ロンドンに挨拶に来て、ビクトリア女王と会食した。ビクトリア女王が眺めるところ、インド側諸氏は、整然と、揃った食べ方をしているが、イギリス側と来ては、めいめい、勝手な食べ方をしている。まるで、インドがイギリスを支配することになったようである。で、そのあと、イギリス式テーブル・マナーを制定することにした。イギリス王朝の宮内官、何名かが、その草案者となったが、そのころ、固形物を酒やソースに、ひたしてたべる料理が多く、このとき、右手に、その酒やソースのグラスを持ち、左手のフォークで、ひたすのがよいと考えられた。また、さかづきを、左手に持つものでないというジンクスもあった。また、ビフテキは、切りながら食べるのが、なんといっても、うまい。で、ビフテキのばあいの左手フォークは、やめられない。(これが、いちばん、大きな理由であったと思うのであるが)
もうひとつ、あったことは、ビクトリア女王の祖先が、ドイツのハノーバー選帝候で、ドイツ騎士団の習慣として、食事中も、万一、きりつけられたとき、右手で、すぐに、刀を抜けるように、右手を、できるだけ空けておき、したがって、素手でものを食べるにしても、左手でするという習慣があった。右手が、ニチャニチャしていれば、右手で、腰の刀を抜いても、手もとが、すべる。この伝統が残り、ビクトリア女王自身、フォークを使うとき、いつも、左手だけを使っておられた。で、宮内官たちは、これらを勘案して、フォークは左手にということに、統一したともいう。
- ものを食べるとき、左手を使うことは、神聖ローマ帝国以来の騎士たちの習慣であったようでもある。陣中で、右手には、旗、槍、さやに納めた十字の剣といったものを、垂直に持ったまま、左手で、ムシャムシャ食べるのが、騎士の食事作法であったという
話もある。
- パリで、セザール・リッツは、そういういきさつを、すべて、知っていた。で、かれは、料理の皿数も増えていることであり、ナイフは右、フォークは左にと、ならべて置いた。それまで、ナイフ・フォークともに、右にならべる方法もあったのである。
- ここでの最後に考えてみたいことがある。それは、未来の食べ方である。
わたくしは、スープを、「吸いのみ」から飲み、その他のいっさいの食べ物を、手づかみで食べた古代ローマの方法が、復活するように思えてならない。
というのは、南方で、食べ物を手づかみで食べることを、わたくしも覚えて以来、同じ食べ物でも、本当の味は、手づかみでなければわからないと思うようになったからである。
おにぎりを、箸ではさんで、食べてみよ。うまくない。いわんや、フォークでさし、ナイフで切って食べてみよ。いっそう、うまくない。
スシにしても、手づかみで食べるからこそ、うまいのであって、箸で食べたのでは、味がぐっと落ちる。
モチも、そうである。手づかみが、うまい。
南方料理でなくとも、西洋料理も、手づかみで食べてみると、びっくりするほど、美味しい。
手づかみのつぎにうまいのは、木の箸、象牙の箸で食べることであり、カネの箸では、まずい。
こうして考えてみると、食べ物に、金属を触れさせれば、電気か、なにかが逃げて、まずくなるような気もする。
まあ、しかし、そうすれば洋食でも、おしぼりが、何本も要るようになろう。食卓のまん中に、おしぼりを山積みするとしようか。そういうレストランを考えてみられないか。
【型1】ナイフ、フォークをもてあそばないこと
- 料理の出る前、ナイフかフォークを手にとって、それで、テーブル・クロスの上に字を書くようなマネをしながら、話をすることは、和食のとき、箸1本をとって、同じようにすることにあたり、はなはだ、不作法とされる。
- その他、ナイフ・フォークのもてあそびは、厳禁である。
【通解】
スプーン・ナイフ・フォークの部分名称
【通解】
- 欧米人は、手先が不器用である。そこで、ぎこちなく、のろのろと振る舞うことを、奥ゆかしく、味があると思う。そういう作法体質を持っている。
東洋人は、手先が器用であるため、ここをサッサとやってのけ、かえって卑しまれる。
【型2】スプーンの持ち方
- 箸の持ち方に同じ。
- 柄尻のほうを持つ。
- 小指をクスリ指から離されるな。
- 肱を張らないこと。
【型3】フォークの持ち方
- フォークの持ち方は、次図のようにされよ。
- フォークの持ち方(刺して使うとき)
- 柄じりを手のひらの真中に。
- フォークの先を垂直に。
- 肱を張らない。肩の力を抜き、手首で仕事をする。
皿の中の食べ物の塊の左端を、ほぼ、真上から、ぐっと、刺されよ。押し下げている力は、てのひら全体から来ている。
- フォークの持ち方(すくうとき)
左手で、箸を持ったとした手つき。
- 食べ物をフォークで切るとき、フォークの先で切る方法とフォークの横で切る方法がある。
【型4】フォークは凶器
フォークを振りまわされるな。
【型5】ナイフの使い方
- ナイフの持ち方
- 柄じりを手のひらの真中に。
- 人差し指の位置に注意。
- ナイフの先は、多くの場合、立てて切ること。(先にだけ、刃がある)
- 肱を張らない。
肩の力を抜き、手首で仕事をする。
- 肉でも、野菜でも、切るときは、必ず左から切る。
しかし、アメリカン・スタイルにおいて、食べ物は右手でも、左手でも、どちらでも切って食べてよい。
- ナイフの刃の先を、フォークの先とのへだたり5mmぐらいのところに置き、食べ物を、押し切りにしてゆく。
日本人は、のこぎりを引き、車を引いてきているが、欧米人は、のこぎりでも押し切りにし、車も押してきた。食べ物を切るときも、押し切りである。上記のナイフの持ち方も、押し切りにするため、このような持ち方をする。
- ナイフは、食べ物を切るとき、45度と垂直との中間ぐらいに立てられよ。ただし、ナイフは、思い切って、水平に近くして、そぐように、使うときもある。
- やわらかい物でも、ナイフとフォークで、はさみ切りされるな。
- 上が堅く、中が柔らかく、下が、また堅くなっているものが、オードーブルやデザートに出る。
このとき、いちばん上のビスケットやパイでできた、一層を切るとき、ナイフを、(図A)のように、筆を持つように持ち、テーブルと水平になるようにあて、前後左右にしごくようにして、割れ目を入れる。
二層、三層は、ナイフを垂直にして切る。
このとき、フォークは、切るものの、手前をフォークの背を使って、押さえておく。
これは、二層のクリームなどが、出ないようにするためである。
(図B)
【型6】ナイフの使い方(削ぐとき)
- ナイフをたおして、カミソリを持つようにする。
- 人さし指を、ナイフの刃の部分に出さないようにする。
- 肉を削ぐときは、手前から向こうにむかって削いでも、向こうから手前にむかって削いでも構わない。
【型7】ナイフは凶器
- ナイフを、けっして、口に持って行かれるな。
- ナイフをふりまわされるな。
【型8】最大2立方cm
洋食の切り身は、最大2立方cm程度とするように心掛け、1人で食べるときも、そうされよ。
【説明】
ヨーロッパやアメリカ東部の「まとも」な席で、日本人が食べているのを見ると、全般に、口に持ってゆく、ひと切れが大きすぎる。日本に帰って、日本人が洋食を食べるのを見ていると、同じく、大きい。その原因を考えてみると、まず、日本食のばあい、日本人には、2つの食べ方があることに気づく。1つは宴会のときで、これは、だいたい、酒を飲んでいて、料理をあまり、食べないし、その料理は、調理場で、あらかじめ、小さく、切り刻んである。
いま1つは、日常の食事である。これは、ごはんでも、おかずでも、あんぐりと食べ、頬張って、「うまい」と思う。つまり、放牧民なのでなく、漁労、農耕の民なのである。頬張らないと、食べた気持ちがしないから、洋食のときも、頬張る。切り身も大きくなる。それに、ナイフ、フォークなどという厄介なしろものを使わされて、実質的に、口を持ってゆく時間量を制約されるから、ことさら、そういうことになる。
【型9】全体としての形
洋食では、姿勢を正し、ナイフ、フォークを、下向きに立てるから、料理を上からのぞきこむような形となる。
「高い山から、谷底見れば、肉やガルニの花盛り」
【参考】ガルニテュール
- garniture ガルニテュールとは、「付け合わせ物」ということ。
- ガルニテュールの種類
- スープの実
- 魚料理でのポテト、ソース、薬味
- 肉料理での温野菜、サラド、ソース、薬味
- 果物につける粉砂糖、生クリーム
- これらの中で、いっぱんに、魚料理、肉料理の付け合わせの温野菜 legumes を代表的なガルニテュールと見ている。
- 日本のコック、ウェーターの仲間で、「ガルニ」とか「ガロニ」とか呼んでいる。ある若いウェーターは、野菜の煮たものを「ガロ煮」というのであると思っていたなど。
- 肱が、だいたい、自分の胴に触れているようにするのであるから、手首の関節を、鶴の首のように曲げなければならない。
もし、ナイフ、フォークを持たずに、この姿をするならば、なんのことはない。「お化けーえ」とやっている恰好である。
【説明】
- ナイフとフォークを5mm程度という近さにする目的は、1つは、やわらかい食べ物を切るとき、食べ物が逃げないようにするためであり、いま1つは、口に頬張る量を小さくするためである。
- 日本の刺身でも、切り方を小さくするほど、それを、醤油で、くるんだとき、切り身の体積に対する醤油の量が多くなって、醤油味が強まる。この原理は、洋食の切り身をソースなどでくるむときも、同じに働く。そこで、切り身は、小さくしたほうが、味が出る。
- また、よい材料を使った料理は、うすく切ると、それなりに、微妙な味を出してくる。調理者の腕も、客が、うすく切った切り身を食べてみると、よくわかる。
- それから、洋食は、皿かずが多いようでも、急いで食べれば、一皿、1分間もあれば充分であるから、皿のあいだをあけない良好なサービスをされたときは、正餐のような
フルコースでも10分間もあれば終わってしまう。それを、会話混じりで長いときには、4時間もかけて、食べなければならないということになると、口に持ってゆく食べ物のひと切れを、よほど、小さくしなければ、間が保たない。
- さて、ひと切れを小さくするとなったとき、フォークを寝かしていたのでは、ナイフの先で、フォークの先を切ってしまい、ナイフもフォークも傷んでしまう。このことは、ヨーロッパで個人宅に招かれたような場合に、しみじみとわかる。先祖伝来のものとか、
主婦が、嫁入りのとき持ってきたものとかいった純金のナイフ、フォークなどが出てきたとき、純金はもろいので、フォークの先に、ナイフが少しでも、あたろうものなら、両方とも、たちまち、駄目になる。ここ100年間、なんともなかった家伝のナイフ、フォークを、1度、日本人に使わせたために、傷だらけにされたという話を、ときどき聞かされる。
- ナイフの先を、垂直にして、フォークとの接触を避け、フォークも垂直に近くして、押し切りやすくし、大声を出さずとも、一同、会話がよく聞こえあうようにするため、座席と座席のあいだを狭くし、そこで、たがいに肱を張らないようにし、そこで、「お化け」のような手付きをして、食事をするわけである。
【型10】ナイフ・フォークの正式の持ち方と略式の持ち方
- 略式の食事のとき、ヨーロッパでは、女子と子供は、食べ物を、ナイフで、あらかじめ、いくつかに切っておき、ついで、ナイフを皿のフチに置き、フォークを右手に持ちかえて、食べてゆくことが認められている。アメリカでは、男子もこれを行ない得る。
- しかし、正式の場では、欧米とも、男女ともに、ナイフは右手、フォークは左手と、その持つ手を替えない。
- 食べ物は、1つ切っては食べ、また、つぎを切られよ。
- しかし、オムレツ、グラタンといったやわらかいものは、右手にフォークを持って、フォークだけで食べられてもよい。アメリカの中の略式作法としては、肉などをも、はじめにすべて切っておいて、フォークを右手に持って食べてよい。
- すべて、フォークを右手に持つとき、ナイフを皿の向こうすみに真横にしておかれると、右手さばきのじゃまにならない。
【型11】パンで押さえてのフォーク刺し
フォークで、食べ物を突き刺そうとしても、食べ物によっては、逃げてしまうこともある。こういうとき、パンを左手に持ち、それでも食べ物を押さえ、右手に持ちかえたフォークで剌して食べてよい。
パンで押さえてのフォークの刺し方
- ナイフ、フォークを置く。
- パンを右手でちぎり、そのパンをパン皿に置く。
- フォークを左手でとり、右手に持ちかえる。
- ちぎってあるパンを、左手で取る。
- 最後に、使ったパンを残さないで、食べてしまわなければならない。
【型l2】けっして、シルバーの音をたてるな
さんざん会話をしながら、食事をするくせに、シルバーとチャイナのあたる音を嫌う。これは、欧米人、ことに、その女子が、この音を頭にくるものと感じる神経の事情から来ている。
そこで、けっして、シルバーの音をさせないため、オーバーに、ノロノロと、スプーン、ナイフ、フォークを使われよ。
【型13】音を出したとき
ナイフを使ううち、うっかり、キーッといった音をたててしまったときは、言葉で「失礼」といったことを申されず、手に持ったシルバーを、すべて皿にかけ、両手を食卓に置き、軽く頭を下げ黙礼の形をとられよ。ただし、あまり長く黙礼していると礼拝に見えるから、黙礼の時間は1秒半程度とされよ。黙礼が済んだならば、また食べはじめられよ。このほうがまわりの空気を固くしない。
【型14】ナイフを床に落としたとき
- 床の上に、ナイフ・フォークなどを落としたとき、自分で拾わず、ウェーターに告げて、拾ってもらうこと。
- ナイフを床に落としたとき、ウェーターは、新しいのを持って来て、客に提供し、それから、落ちたシルバーを拾ってゆく。
- そこで、こちらが、ナイフを落としたことをウェーターに告げたとき、ウェーターが、知らん顔して、どこかに行ってしまうのを、「いじわる」と思われないこと。
- ただし、膝の上に落としたときは、この限りでない。
【型15】ナイフ・フォークの中置き 第1種
一皿を食べ終わってないのにナイフ・フォークを置くときは、皿面を時計の文字盤にたとえるならば、3時半と、8時半、または4時と8時の位置に置かれよ。
これらのとき、ナイフ、フォークの向きを、正確に皿の中心に向けられよ。
このとき、ナイフの刃は、必ず、自分のほうに向けられよ。
【通解】
フォークを置くとき、フォークの先を下向けに置く置き方を「伏せ置き」、フォークの先を上向きに置く置き方を「仰ぎ置き」と呼ぶことにしてみよう。
フォークは、伏せ置きされよ。
【型16】ナイフ・フォークの中置き 第2種
本来、第1種のほうが正式である。ただ、飲み物を右手でとるとき、袖口をナイフにひっかけやすいし、ナイフの置き方が、まずければ、床に落としやすい。
で、揺れる船の中の作法ということで、1800年代に入ってから、第2種が生まれて、同時に、この第2種は、いくばく、オシャレな方法ということになった。
【型17】切れ端まで食べる
和食のとき、小さな食べ物の切れ端は、いちいち口に持ってゆかず、皿の上にかき集めておくが、洋食のとき、いちいち口に持ってゆくのが作法である。
【型18】食べ残しの置き場
- つくってしまった小さな食べ残しは、皿の上の1時付近に集めて置く。
- 少し大きくなってきた食べ残しは、奥半分の真ん中に集めて置く。
- もっと大きくなってきたならば、奥半分いっぱいに置く。
- さらに大きくなってきたならば、手前半分にかかってよいが、奥半分に置く気持ち。
- で、ポイントは、食べ残しの上に、納めるナイフ・フォークがかからないようにすること。
【通解】ナイフ・フォークの納め方
- ナイフ・フォークを揃いで使うようになったのが、1493年、イタリアであるというから、そのときから、ナイフ・フォークの納め方の問題があったわけであろう。
で、1500年代は、どうしていたのか、わからない。
- が、1600〜1700年代は、だいたい、図Aのような形をしていたようである。「終わったぞ」という記号に、バッテンを使う例は、食事以外のことがらにも多い。ことによると、1920年代ぐらいまで、世界のあちらこちらに、この形が残っていたのであるまいか。1925年ごろ、洋行帰りのオジサンが、この形で、ナイフ・フォークを納めているのを、わたくしは、子供ながら、見た記憶がある。このオジサンは、何年も、ヨーロッパにいた人物であるから、まさか、何にも知らないで、そうしていたわけでもあるまい。フォークの峰を上にし、ナイフの刃は、こちら向き。
- 1800年代は、だいたい、図Bの形が一般的であったようである。これは、明らかに、図Aを簡略化したということであろう。この形も、1960年ごろまでは、残っていたと見る。
わたくしは、ある日本の老市長さんと、1955年ごろ、日本のあるホテルで食事をしていた。この市長さんが、この図Bの形で、ナイフ・フォークを納められるので、質問してみた。と、市長いわく、「わたしは、若いころ、ずっとカナダの森の中にいました。
そこでは、こうする人が多かったもので、わたくしも、こうしないと、食べ終わった気がしなくなっているんですよ」 とにかく、おいしそうに食べることの上手な市長さんであった。
- つぎの図Cは、図Bのさらに、崩したものであろう。バッテンの気配がなくなっている。おそらく、正式には、許されなかった方法であろう。1900年ごろのアメリカのある宴会の風景を写真に撮ったものを見たことがある。男子は、だいたい、ヒゲをピンと張っており、女子は、襟の高いドレスを着ている。その中のいくつかの皿は図Cの形に、納められていた。
- ところで、図Bは、もうひとつ変わった形にも変化した、図Dである。
これは、現代では、つぎの図Eにも変化している。
この図D、図Eは、イタリア、ことに南部イタリアに多い。どうしてそうなったのかわからない。
- わたくしが子供のころ、1930年代に、これが、国際礼法であるといって、教え込まれたのが、図Fである。その教師は、欧州の大使館勤めを何年かして、帰国した人物であったから、大丈夫である。
わたくしは、小学校の3〜4年ごろから、月に1度ぐらいずつ、帝国ホテル、その他で、食事をする機会を持った。そういう変な育ち方をした。で、1930年代は、だいたい、各ホテルの欧米人客も、この図Fで、ナイフ・フォークを納めていたと見る。
- ただ、あとで知ったことであるが、このとき、フォークを伏せ置きにするのがフランス式であり、仰ぎ置きにするのがイギリス式であったということ。はじめ、この峰を下にすることを不作法と見ていたようである。つまり、イギリス式が、あとから生まれたということ。プロトコールでは、現代も、この図Fを勧め、そこでも、フランス式とイギリス式を、そのように、区別している。
- いったい、なぜ、図Aなり図Bから、図Fに変わったのであろうか。また、その時期はいつごろであったのか。わたくしは、まだ、不勉強である。が、どうも、第1次世界大戦と関係があるように思う。
というのは、第1次世界大戦前の皿引きは、ウェーター甲とバス・ボーイ乙、丙の合計3名でやっていた。日本では、1920年代になっても、まだ、この方法でやっていたから、わたくしも、何遍か、それを見ている。
甲は、左手にトーションをかけているが、右手は素手。乙は、皿1枚を持ち、丙は、トーションだけを持っている。
で、甲は、右手で、客の皿を引いてから、ナイフ、フォークをそろえて持ち、そのナイフ、フォークで、客の食べ残しを、乙の持つ皿の上にかき出すと、そのナイフ、フォークを丙の広げるトーションの中に入れる。で、甲は、空いた自分の左手で、乙の持つ皿を持ち上げ、自分の右手の皿の上に重ね、この2枚の皿を乙に持たせる。これを反復するうち、乙は、次第に、何枚も皿を重ねて持つようになり、丙は、タオルの中に、ナイフ、フォークをいっぱい持つようになる。で、こうして、テーブル一回りの皿を集め終わると、3名が、1列にならんで、歩調をそろえ、胸を張って、去って行く。これが洋食堂の1つのアクセントになっており、西洋料理は、やっぱり、儀式なんだなあという感じがしたものである。
が、第1次世界大戦前でも、ヨーロッパの格式張らないレストランでは、こん日、行なうように、ウェーター1名で、皿を引くという、いわば、曲芸をやっていた。
が、第1次世界大戦になると、多くの男子が、軍隊に行ったため、一流ホテル以下、レストランというレストランで、この曲芸を必要としてきた。
こうして、生まれたのが、図Fである。これは、客がウェーターに示すサービスである。
しかし、このとき、ナイフ、フォークを、なぜ、タテにそろえるようにしたのか、わからない。あるいは、食前のテーブル・セッティングが、ナイフ、フォークをタテに並べるのであるから、同じにしたというのであろうか。
- 第1次世界大戦後、1920年代には、パリから図Gの納め方が広がった。これを、いちはやく、採り人れたのは、イギリスとアメリカである。が、パリ式はフォークの伏せ置きにしていたのに対して、イギリス、アメリカ式は、仰ぎ置きにしていたようである。
- 1935年ごろから、同じパリ式でありながら、図Hのように、ナイフの刃を奥向けにするのが流行しはじめた。フォークの峰も、イギリス、アメリカ式に下にした。これは、考えてみれば、ウェーターが、ナイフ、フォークをひとつかみにするときフォークでナイフの刃をいためない。皿を引くときのフォークの安定もよい。案外、いちばん、進歩した方法であったかも知れない。
- 1941〜1945年の第2次世界大戦中に、図Jのように、図Gの斜め置きを、横一文字に置きかえた方法が、アメリカ陸軍から、全米に広がり始め、同じころ、図Kのように、図Hの向きを改めた方式が、ドイツ文部省あたりから、全ドイツに広がった。
図Jと図Kは、ナイフの刃の向きが違う。
- で、図Jは、1950年ごろまで、アメリカで一般化したのち、そのアメリカで、図Gに戻って行っている感じであり、図Kは、主として、東独に残っており、西独は、図Gか図Hに戻っていっている感じである。
- イギリスは、こん日も、図F、図Gの範囲にあるという感じ。
- 結局、1970年代としては、図Gがいちばん多いということ。将来が、どうなるかは、まだわからない。
- わたくしは、つとめて、図Jを用いている。東洋人として絵が締まると見るからである。が、この図Jが一般的なやり方の中に含まれていることを知らない方は、わたくしの自己流と誤解しておられる。
【型19】ナイフ、フォークの納め方
- ナイフ、フォークを皿に置くとき、音をさせないよう、細心の注意を払われよ。
- 音をさせないため、フォークは、要すれば右手で置かれよ。(ナイフは、ひとりでに、右手となる)
- ナイフとフォークを平行に置くわけであるが、これらが、つとめて、皿のまん中を通るようにされよ。
- ナイフの先が、皿の中がわの線と一致するように、努められよ。(皿へのかかり方が、浅くなれば、安定が悪くなり、かかりが深すぎると、ナイフで橋をかけたようになり、ここでも、安定が悪くなる)
(ナイフ、フォークの長さに比べて、皿が大きいとき、ナイフ、フォークは、皿の底に沈没してしまうが、いっこうに気にされるな)
- フォークは、ナイフより短いので置きやすいが、フォークの両端のいずれかが、ナイフのいずれの端からもはみ出さないように置かれよ。
- ナイフの軸線とフォークの軸線を平行にされよ。
- ナイフとフォークが、どこか1点で、触れ合っているようにされよ。