第6章 和式作法 ◆第9節 和酒
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第9節 和酒


【型1】和酒の飲み方
  1. 人前で、酔態を示されるな。
    日本人は、酔態を示さなければ、親しくないように思いがちであるが、それは、はなはだしい蛮風である。
  2. 酔態を示さないためにも、自分の適量を知っており、そのとおり、おこなわれよ。
    純アルコールの量にして、何cc までが適量であるかを測定されよ。
  3. 酒に強い者も、悪酔いすることがある。
    原因は、
    1. 本人が疲れている
    2. 精神的アンバランスに陥っている
    3. 気候、風土が違う
    4. 酒の質がどこか違う
    5. しばしば、チャンポン飲みするため
    などで、これらを考え合わせて、酒に注意されること。
  4. どうしても、お酒を飲まなければならない日がある。
    このときは、天婦羅、うなぎなど、油っこいものを、先に、食べると、悪酔いしない。
    また、ご飯を、おなかいっぱいに、先に食べておくのも良い。
  5. どうしても、飲みたいときは、ひとりで飲むこと。
    ひとりで飲むと、度を越さない。その場合は、うまい高い酒を飲まれよ。悪酔いしない。
  6. 酒を飲んだあと始末をされよ。
    その日、何 cc のアルコールを飲んだかを計算し、その2.5倍以上の水を飲まれよ。
    これは、胃や腸の血液の中のアルコール分を薄めるのに、有効である。
    また、運動をしたり、ぬるいお風呂に長く入ったりして、汗を流すことを併用するとよい。
  7. 日ごろから、いかにも、おいしそうな表情を鏡の前で練習されよ。
    唇を突き出したり、前かがみにならないよう、かかとを後ろに、腰おこし…… の姿勢で行われよ。
  8. 酒は奥歯をかみしめて飲まれよ。酒の味がわかる。
  9. 酒席では、座の空気が、しらけないように、気分をだすことが、重要である。
    あまり飲んでいなくとも、飲んでいるような風体を示すこともできたほうがよい。
    また、踊ったり、歌ったりすることも、できたほうがよい。
  10. お客として招かれているとき、原則として、いっさい、相手に酒をつがないものである。
  11. 主人側は、お客に、挨拶をし、二言三言、話をし、そのあと、「いかがでございますか」というように、酒をつがれよ。
  12. 芸者などが、座にいるとき、主人が、客に注がないと、酒を注ぐのを、芸者にまかせていると思われる。
    そのため、女性の主人は、とくに、気をつけ、みずからも、客に酒を注がれよ。
  13. お酌のしかた
    1. とっくりは、右手で持つ。
    2. とっくりのなかほどに、ひとさし指が、くるように、そっと持つ。
    3. 相手の盃に、とっくりの口が、触れるか触れないか程度に寄せる。
    4. 男性の場合、手の甲を下にしてつぐ方法は、やり方によっては、女性のようになってしまう。
      しかし、手の甲を上にしてつぐのは、「書生つぎ」といわれる。
      やはり、手の甲を下にするのが正しい。

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    5. フーゼル油の含有率の多いものほど悪酔いの原因となる。
    6. お酌に慣れていない場合、右手のひとさし指を、とっくりの口の下にあて、左手を添えられよ。
    7. 注ぎとめたとき、さいごの一しずくが、とっくりの外壁を伝わると感じたならば、とっくりをまわされよ。
      しずくが、とっくりの口に沿って流れる。
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  14. 和酒を注ぐとき、8分目に注ぐ流儀と、いっぱいに注ぐ流儀がある。
    いっぱいに注げば、相手は、飲みにくい。
    8分目に注げば、流儀の違う人は、いやな顔をする。
    そこで、9分目(いっぱいよりも、ほんのすこし、押さえてあるところ)に注がれよ。
  15. はじめに、酒が注がれたならば、一旦、膳の上に置き、みんなに注がれるのを待ち、正客にあわせて飲まれよ。
  16. 相手に、酒を注いでいる途中で、酒がなくなることは、失礼である。
    そこで、とっくりを手にとったとき、入っている酒量を、手に持った重さで、感じとられよ。
    わからないとき、自分の盃に、少しだけ、注いで見て残量を知ってもよい。
    このとき、次のことをされてはならない。
    1. とっくりをのぞき込まれるな。
    2. 振って、音で、調べられるな。
    3. 自分の盃には、少量しか注がれるな。
    自分の盃に、なみなみと注げば、自分で、まず、いっぱい、やろうとしていることになるので、瓶から酒が出はじめたならば、そこで、よす。
    なお、こうして、たしかめたのち、相手に注いでも、途中で、なくなることがある。
    そこで、瓶の底、2割の酒は、料理用であって、人が、じかに飲むものでないと、割り切られよ。(残ったビールでさえ、料理に使えるということを、ご存知か?)
  17. 相手が、断わっているとき、酒を注がれるな。
    また、相手から、無理に注がれた酒は、飲まれるな。
  18. 献しゅうされるな。
    献しゅうされた酒は、盃を挙げるのみで、そこに置き、返されるな。
  19. 献しゅうを断わりたいときには、盃を手をあてて、ふさぐとよい。
    また、相手から、とっくりを取ってしまい、「おつぎ申しあげましょう」と言い、相手に、ついでしまうことである。
  20. このあと、すぐには、酒をもらいたくないというとき、盃を口に持ってゆき、上唇に、酒をつけるだけで、盃を、机上に置かれよ。
    義理のつもりで、半分以上も飲めば、また、つぎ足されるし、注がれたさかづきを、口にすら持ってゆかないのは、失礼である。
  21. 手酌を恥と思われるな。人の手酌を気にされるな。
  22. おちょこは、左手のひとさし指、中指と薬指、小指の間にはさんで飲むのが正式である。
    目上の方から、つがれた場合は、右手を添える。
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  23. お酌を受けるとき、盃を、胸の高さに、出されよ。
  24. 相手が悪酔いしだしたら、はたの者は「また、あとで」と言って、酒を取り上げよ。
【型2】洋酒、中国酒のつぎ足し
  1. 洋酒のときは、飲んでも、コップの上半分にとどめておけば、おかわりを出されない。
  2. 日本では、飲みかけのビールに注ぎ足しが行われるが、本場ドイツでは、この注ぎ足しは、nach giessen(ナッハ・ギーセン……あと注ぎ)といって、嫌われる。
    それだけ、ビールの味を、たいせつに考えているということ。
    が、日本で、nach giessen されないためには、注がれたビールに、手をつけないことである。
  3. 中国酒のばあい、どこでも、8分目についでいるが、中国酒も、さかづきを、からにしなければ、次が注がれない。
    そこで、もはや、注がれたくないとき、さかづきのなかを、半分以上、残されよ。
    が、日本、あるいは、日本人を扱いつけている中国の飯店(ファンテン)は、注ぎ足しを、平気で行なうから、これ以上注がれたくないとき、和酒同様、酒を満たしたまま、卓上に置かれるのがよい。
【型3】座敷でのワインの注ぎ方
  1. 座敷でワインを客に提供しようとする者は、まず、左手にサービス用の布巾を折りたたんで持ち、その上にワイン・ボトルの底をのせる。
    そして、右手でワイン・ボトルの首のつけ根、肩のあたりを持つ。
    なお、これより前に、ワイン・ボトルの栓は抜いておく。

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  2. このように持ったワイン・ボトルを、自分の前、みぞおちのあたりにさげ、客の右後方から膝行して、座卓に近づく。
    客と客が並んで座っており、座卓に、充分、近づけないときは、「恐れ入ります」と言い、平気で、客の間に割って入り、ワインを注ぐのに無理な姿勢をとらないよう、充分に座卓に近づく。

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  3. ワインを注ぐときの姿勢は、跪座の姿勢から、やや、腰をおこした姿勢とする。
    このほうが、座卓に、より近くなるからである。

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  4. ワインを注ぐとき、ワインをグラスの外に、決して、こぼしてはならない。
    そのためには、まず、両手でワイン・ボトルを持って注ぐ。
    そして、左手でワイン・ボトルの底を支え、右手で、ワイン・ボトルの首のつけ根を持つ。
    このとき、右手親指は、ボトルの上側にくるようにする。
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  5. そして、いよいよ、ワインを注ぐとき、左手で支えたボトルの底を支点とし、右手を動かすようにして注ぐ。
    227b
  6. グラスにワインを注ぎ終わったら、ワインの滴がグラスの外にこぼれないよう、ワイン・ボトルをさげる。
    この瞬間は、最も、ワインの滴がこぼれやすい。
    で、こぼれないようにするためには、ワインを注ぎ終わる瞬間、ワイン・ボトルの口を上にあげると同時に、ワイン・ボトル全体を少し前に押し出すようにする。
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  7. それでも、滴がこぼれるときは、グラスの中に落としてしまう。
    また、す早く、左手に持った布巾でぬぐってしまう。

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