第9節 和酒
【型1】和酒の飲み方
- 人前で、酔態を示されるな。
日本人は、酔態を示さなければ、親しくないように思いがちであるが、それは、はなはだしい蛮風である。
- 酔態を示さないためにも、自分の適量を知っており、そのとおり、おこなわれよ。
純アルコールの量にして、何cc までが適量であるかを測定されよ。
- 酒に強い者も、悪酔いすることがある。
原因は、
- 本人が疲れている
- 精神的アンバランスに陥っている
- 気候、風土が違う
- 酒の質がどこか違う
- しばしば、チャンポン飲みするため
などで、これらを考え合わせて、酒に注意されること。
- どうしても、お酒を飲まなければならない日がある。
このときは、天婦羅、うなぎなど、油っこいものを、先に、食べると、悪酔いしない。
また、ご飯を、おなかいっぱいに、先に食べておくのも良い。
- どうしても、飲みたいときは、ひとりで飲むこと。
ひとりで飲むと、度を越さない。その場合は、うまい高い酒を飲まれよ。悪酔いしない。
- 酒を飲んだあと始末をされよ。
その日、何 cc のアルコールを飲んだかを計算し、その2.5倍以上の水を飲まれよ。
これは、胃や腸の血液の中のアルコール分を薄めるのに、有効である。
また、運動をしたり、ぬるいお風呂に長く入ったりして、汗を流すことを併用するとよい。
- 日ごろから、いかにも、おいしそうな表情を鏡の前で練習されよ。
唇を突き出したり、前かがみにならないよう、かかとを後ろに、腰おこし……
の姿勢で行われよ。
- 酒は奥歯をかみしめて飲まれよ。酒の味がわかる。
- 酒席では、座の空気が、しらけないように、気分をだすことが、重要である。
あまり飲んでいなくとも、飲んでいるような風体を示すこともできたほうがよい。
また、踊ったり、歌ったりすることも、できたほうがよい。
- お客として招かれているとき、原則として、いっさい、相手に酒をつがないものである。
- 主人側は、お客に、挨拶をし、二言三言、話をし、そのあと、「いかがでございますか」というように、酒をつがれよ。
- 芸者などが、座にいるとき、主人が、客に注がないと、酒を注ぐのを、芸者にまかせていると思われる。
そのため、女性の主人は、とくに、気をつけ、みずからも、客に酒を注がれよ。
- お酌のしかた
- とっくりは、右手で持つ。
- とっくりのなかほどに、ひとさし指が、くるように、そっと持つ。
- 相手の盃に、とっくりの口が、触れるか触れないか程度に寄せる。
- 男性の場合、手の甲を下にしてつぐ方法は、やり方によっては、女性のようになってしまう。
しかし、手の甲を上にしてつぐのは、「書生つぎ」といわれる。
やはり、手の甲を下にするのが正しい。
- フーゼル油の含有率の多いものほど悪酔いの原因となる。
- お酌に慣れていない場合、右手のひとさし指を、とっくりの口の下にあて、左手を添えられよ。
- 注ぎとめたとき、さいごの一しずくが、とっくりの外壁を伝わると感じたならば、とっくりをまわされよ。
しずくが、とっくりの口に沿って流れる。
- 和酒を注ぐとき、8分目に注ぐ流儀と、いっぱいに注ぐ流儀がある。
いっぱいに注げば、相手は、飲みにくい。
8分目に注げば、流儀の違う人は、いやな顔をする。
そこで、9分目(いっぱいよりも、ほんのすこし、押さえてあるところ)に注がれよ。
- はじめに、酒が注がれたならば、一旦、膳の上に置き、みんなに注がれるのを待ち、正客にあわせて飲まれよ。
- 相手に、酒を注いでいる途中で、酒がなくなることは、失礼である。
そこで、とっくりを手にとったとき、入っている酒量を、手に持った重さで、感じとられよ。
わからないとき、自分の盃に、少しだけ、注いで見て残量を知ってもよい。
このとき、次のことをされてはならない。
- とっくりをのぞき込まれるな。
- 振って、音で、調べられるな。
- 自分の盃には、少量しか注がれるな。
自分の盃に、なみなみと注げば、自分で、まず、いっぱい、やろうとしていることになるので、瓶から酒が出はじめたならば、そこで、よす。
なお、こうして、たしかめたのち、相手に注いでも、途中で、なくなることがある。
そこで、瓶の底、2割の酒は、料理用であって、人が、じかに飲むものでないと、割り切られよ。(残ったビールでさえ、料理に使えるということを、ご存知か?)
- 相手が、断わっているとき、酒を注がれるな。
また、相手から、無理に注がれた酒は、飲まれるな。
- 献しゅうされるな。
献しゅうされた酒は、盃を挙げるのみで、そこに置き、返されるな。
- 献しゅうを断わりたいときには、盃を手をあてて、ふさぐとよい。
また、相手から、とっくりを取ってしまい、「おつぎ申しあげましょう」と言い、相手に、ついでしまうことである。
- このあと、すぐには、酒をもらいたくないというとき、盃を口に持ってゆき、上唇に、酒をつけるだけで、盃を、机上に置かれよ。
義理のつもりで、半分以上も飲めば、また、つぎ足されるし、注がれたさかづきを、口にすら持ってゆかないのは、失礼である。
- 手酌を恥と思われるな。人の手酌を気にされるな。
- おちょこは、左手のひとさし指、中指と薬指、小指の間にはさんで飲むのが正式である。
目上の方から、つがれた場合は、右手を添える。
- お酌を受けるとき、盃を、胸の高さに、出されよ。
- 相手が悪酔いしだしたら、はたの者は「また、あとで」と言って、酒を取り上げよ。
【型2】洋酒、中国酒のつぎ足し
- 洋酒のときは、飲んでも、コップの上半分にとどめておけば、おかわりを出されない。
- 日本では、飲みかけのビールに注ぎ足しが行われるが、本場ドイツでは、この注ぎ足しは、nach giessen(ナッハ・ギーセン……あと注ぎ)といって、嫌われる。
それだけ、ビールの味を、たいせつに考えているということ。
が、日本で、nach giessen されないためには、注がれたビールに、手をつけないことである。
- 中国酒のばあい、どこでも、8分目についでいるが、中国酒も、さかづきを、からにしなければ、次が注がれない。
そこで、もはや、注がれたくないとき、さかづきのなかを、半分以上、残されよ。
が、日本、あるいは、日本人を扱いつけている中国の飯店(ファンテン)は、注ぎ足しを、平気で行なうから、これ以上注がれたくないとき、和酒同様、酒を満たしたまま、卓上に置かれるのがよい。
【型3】座敷でのワインの注ぎ方
- 座敷でワインを客に提供しようとする者は、まず、左手にサービス用の布巾を折りたたんで持ち、その上にワイン・ボトルの底をのせる。
そして、右手でワイン・ボトルの首のつけ根、肩のあたりを持つ。
なお、これより前に、ワイン・ボトルの栓は抜いておく。
- このように持ったワイン・ボトルを、自分の前、みぞおちのあたりにさげ、客の右後方から膝行して、座卓に近づく。
客と客が並んで座っており、座卓に、充分、近づけないときは、「恐れ入ります」と言い、平気で、客の間に割って入り、ワインを注ぐのに無理な姿勢をとらないよう、充分に座卓に近づく。
- ワインを注ぐときの姿勢は、跪座の姿勢から、やや、腰をおこした姿勢とする。
このほうが、座卓に、より近くなるからである。
- ワインを注ぐとき、ワインをグラスの外に、決して、こぼしてはならない。
そのためには、まず、両手でワイン・ボトルを持って注ぐ。
そして、左手でワイン・ボトルの底を支え、右手で、ワイン・ボトルの首のつけ根を持つ。
このとき、右手親指は、ボトルの上側にくるようにする。
- そして、いよいよ、ワインを注ぐとき、左手で支えたボトルの底を支点とし、右手を動かすようにして注ぐ。
- グラスにワインを注ぎ終わったら、ワインの滴がグラスの外にこぼれないよう、ワイン・ボトルをさげる。
この瞬間は、最も、ワインの滴がこぼれやすい。
で、こぼれないようにするためには、ワインを注ぎ終わる瞬間、ワイン・ボトルの口を上にあげると同時に、ワイン・ボトル全体を少し前に押し出すようにする。
- それでも、滴がこぼれるときは、グラスの中に落としてしまう。
また、す早く、左手に持った布巾でぬぐってしまう。