第6章 和式作法 ◆第18節 宴会料理食事作法
前節

第18節 宴会料理食事作法


  1. つぎに、宴会料理の作法に、幾とおりか流儀めいたものがある。
    はっきりと流儀とまではいいきれないが。
  2. で、ここで示す宴会料理の作法というのは、比較的標準的であると思うもののよせ集めである。
【型1】参会の心得
  1. 客は、定刻前15分前までに参着すること。
  2. 主(あるじ)の予定にない人を、途中から急にさそって連れて行くことをされるな。
  3. 料理、主(あるじ)の対応について、決して、不平をいわれるな。
  4. 手洗いに行っておかれよ。食事中、食後すぐの手洗いは、不作法である。
  5. 履いてきたままのたび、クツ下を履き替えられよ。
  6. 髪の乱れを直し、衣服を整えておかれよ。
  7. 指輪、ネックレスをはずされよ。
    指輪、ネックレスがあたると、高価な器や、やわらかい器が割れたり、傷がついたりする。
  8. 手を洗い、口をすすいで、心身を清められよ。
    古人は、これを、「心頭(しんとう )をすすぐ」といって大切な所作とした。
  9. 会席では、強いにおいの香水はさけられよ。
    香り、味を生かした料理が台なしになる。
  10. 宴会料理には、西洋料理と異なり、ナプキンが付かないので、清潔なハンカチーフと懐紙を用意されよ。
  11. 目上と同席のときは、先に座について待ち受けられよ。
    遅れて目上を待たせるのは失礼である。
【型2】手水(ちょうず)の使い方

手を洗うことを手水といい、石の手水鉢を踞蹲(つくばい)という。

  1. 手水鉢の前にしゃがむ。
  2. 柄杓(ひしゃく)で水を汲む。
    柄杓は、上から手のひらで柄(え)の中央か、やや、柄の端に寄ったところを握る。
  3. 半杓ずつ、柄を持ちかえながら、左右の手にかける。
  4. 2杓目で口を2回すすぐ。
    口をすすぐときは、左手のひらをしぼめて、その上にあけ、口中で音をだしたり、飲んだりせず、しずかにすすぐ。
  5. 3杓目で、1回すすぎ、残り水で左の掌(てのひら)を洗う。
  6. 左手に持ちかえて、柄杓を立てるようにして柄を洗い流す。
  7. 右手で、合(柄杓の口 )を左に向けて、斜めに柄を引いて置く。
【型3】入退室の心得
  1. はき物をきちんとそろえられよ。
  2. 敷居、畳のへり、畳と畳の敷き合わせは、決して、踏まれるな。
  3. 床の間に、あがられるな。
  4. 飾ってある物に、ちょっと、さわって見ることをされるな。
  5. 壁に手をついたり、壁を手でこすって歩いたりされるな。
  6. 部屋では、早足で歩いたり、走ったりされるな。
  7. 座っている人と壁の間が狭いとき、そこを通られるな。
    日本の壁は、汚れやすく、傷みやすいからである。
  8. 前があいて歩けるのに、人の背中をまたぐように、人の座のうしろを歩かれるな。
  9. 座るとき、立つときは、隣に「ちょっと、失礼します」と声をかけ、会釈をされよ。
  10. 座ぶとんに座るときは、1度、座ぶとんの後に座り、指を座ぶとんにつけるようにして座るか、片膝ずつ座ぶとんにのるようにして座り、両足で座ぶとんの上にのって座らない。
  11. ハンドバッグなどの持ち物は、膳ならば、小さいものは、膝脇の下座に、大きいものは、座った場所のうしろに置く。
    座卓であれば、膝前のテーブルの下に置く。
  12. 膝を崩す程度は、すべて、「正客」にあわせてされよ。
  13. 退席、中座するときは、他のかたたちの席の後がわの通路を、ちょっと、うつむきかげんに、静かに歩き、まわりの目ざわりや迷惑を最小限にとどめる。
  14. 人の座のうしろが狭い部屋で中座するときは、膳をまたがれるな。
    そのとき、膳を横(横が、いっぱいのときは、前)にずらされよ。
    そのあと、お膳をもとの位置に戻すことを省略して出られよ。
  15. 食事の終わりには、お茶を飲んで、口の中をきれいにしてから席をたたれよ。
  16. 退席は目上が立ってからにされよ。
【型4】茶事における入退室

茶事とは正式な茶会のことをいい、一定の作法によって、茶懐石料理、濃茶、薄茶を飲食することをいう。

  1. 茶事に招かれたとき、広間での席入りは、入口に座り、ふすまをあけて一礼ののち、室内をうかがってから、一膝、躙(にじり)に入り、正客に一礼してから立ち上がり、床前に進む。
  2. 床の間の前に座し、一礼して掛け物を拝見する。
  3. 拝見し終わったら、一礼して炉にすすむ。
  4. 座して両手をつき、釜、次に水指を拝見する。
    道具拝見にお辞儀はいらない。
  5. 道具拝見のあと、あとの人の通るじゃまにならないよう、適当なところに仮座し、末客が拝見を終わったら、正客から順に定座につく。
  6. 退室のときは、正客から順に、もう1度、掛け物、釜を拝見して出る。
  7. 入室のときは、床の間と反対側の下座(げざ)の足から踏み入れ、退室のときは、上座(じょうざ)の足から出る。          
  8. 茶室には、躙口(にじりぐち)といって、約1m四方の出入口がある。
    このときは、頭から先に出入りする。
【型5】日本座敷の席順
  1. 床の間がある場合は、そちら側が上座。
    256a
  2. 床前が主席であり、床の間に付(つけ)書院(床脇)があれば、この前を次席とする。
    床に遠いほうが下座である。主人は下座につく。
  3. 床の間も無く、席が直線になっている場合、入口から入って奥のほうが、上座である。
  4. 256g ” 部外の左右、枝部の上位は、入口から入って奥のほうの枝が上座。
    256b
  5. 庭がよく見えるときは、庭を見る側が上座。
    256c
  6. 入口が正面で、窓もない場合は、上座から見て、右手の枝を、より上座とする。
    256d
    256e
  7. 中の州席(内側席)は、両端より下座である。
    両端のほうが上座を眺めやすいこと、中の州が背中あわせになるためである。
    席順は両端の席順と同じである。
256f
【型6】茶事における席順
  1. 床前の一畳は貴人畳(きじんだたみ)といって座らない。
  2. 部屋が狭い場合はこの限りではない。
  3. 狭い場合でも、主(あるじ)と客との挨拶がすむまでは、一畳あけて座る。
  4. 畳一畳に二人ずつ座る。狭い場合はこの限りではない。
  5. 出入口など他の客のさまたげとなるところには座らない。
  6. 茶懐石では、床の間の前が上座、出入口が下座である。
  7. 茶席では、同じ部屋でも、釜があるところが上座で、正客の位置である。
  8. 正客の座るところには、タバコ盆が置いてある場合もある。
    八畳以上の部屋を広間、四畳半以下を小間(こま)という。
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【型7】どこに座わればよいのか
  1. その会に集まる顔ぶれを考えられよ。
  2. 社内の場合は、自分より役職が上、あるいは、年齢、入社年度が上である者が上座に座る。
    (その優先順位は、役職、年齢、入社年度である)
  3. 同業者、あるいは、地元の集まりの場合、年齢が上の者、または、その会の役職の者が上座に座る。
  4. 入口を入ったところで、後続者のために1歩横にどき(平気で突っ立たれて良い)、自分の席を見つけ、場内の人々に会釈しながら、自分の席へ行かれよ。
  5. 社を代表するような会長、社長は、入口を入って、その場で立ち、自分の席を見つけ、場内の人々に会釈しながら、自分の席にゆっくり行く。
【型8】あとから上座に座るべき者が入ってきた場合
  1. 座ってしまったが、まだ宴会が始まっていない場合で、かつ、動ける状態のときは、その者に上座をゆずる。
  2. 会が始まったあとに入ってきた場合は、席を変える必要はない。
【型9】名代で座っていたとき、本者が入ってきた場合
  1. 名代者は、そっと立ち、その席を本者に譲る。
    このとき、座ぶとんを裏がえしたりしない。名代者はそのあと、控室とか、あいている末席とかに移り、もし、控席、あいている末席のないときにも、いったんその部屋を出る。
  2. このとき、すでに、名代者が食べ始めている飲食物があっても、そのままにしておけばよい。
    接待係が、いま来た本者のための食べ物を持って来て、名代者の食べかけを、名代のいるところに持って来てくれる。
【型10】挨拶
  1. 宴会料理では、膳が使われるときもあり、折敷が使われるときもある。
    膳で出されたとき、手を出して受けとらずに、膳が膝前に置かれたら、そのまま一礼し、そのあとで、自分のよい位置まで引くようにする。
  2. 折敷で出されたときは、両手で受けとるのが作法である。
  3. 折敷の木目は、客と平行。必ず、横である。
  4. 折敷でも、茶椀でも、皿でも、給仕者が持って来て、膝をたたみについたならば、もう、こちら側が両手を出し、丁ねいに受ける仕草にはいられよ。
  5. 膳の持ち方は、両手を1度に出さず、右手を先に出し、次に左手を出す。
    昔は、右手で持ち、左手は添えるのみと教えていた。
【型11】食事のときに注意すること
  1. 食前、食後の礼は、必ず、されよ。
  2. 姿勢
    1. 肘をついて食べられるな。
    2. 肘は脇の下につけるような感じで、横に張らずに動かすようにし、あまり肘を張って、いばって食べない。
    3. 顔をかたむけて器に近づけたり、首を突き出したり、うつむいて食べられるな。
    4. ご飯や汁を食べながら、椀のふち越しにじろじろみまわされるな。
    5. 器に口をつけるようにして料理をかき込む「犬食い」をされるな。
    6. 背筋をすっと伸ばした自然な姿勢で食べられよ。
  3. 雑音
    1. 食べ物をかむ音、飲む音、食器の音をさせない。
    2. 食器のあたる音は、心して音を立てないようにされること。
      静かに、料理の味を楽しむ会席では、不協和音となるし、高価な器をかいたり、傷つけたりするのではないかと、主人を心配させることになる。
    3. 食器の移動のときに、指先に力を入れて、ソッと置くようにすると、音は比較的、立たないものである。
  4. 会話
    1. 食べ物を口に入れたまま話をしない。
    2. 不潔な話、人の嫌がる話、議論になりやすい政治・宗教の話をしない。
    3. 高い声で談笑したり、他人の批評をしたり、誹(そし )ったりしない。
  5. 食事の途中で、やたらに席を離れない。
  6. シジミのような、小さな貝などは、汁椀の蓋を使い、これに、貝がらを入れられよ。
    蓋を椀に戻すとき、貝がらを椀に入れればよい。
  7. 口の中の小骨、種は、直接、皿に出さないで、左手でそっと口をおおいながら、右手の箸に受け取り出してから、皿の端におかれよ。
  8. 食べ終わった器の中の骨、皮、種は、きれいにまとめて置かれよ。
  9. 他の人と一諸に食べ始めて、だいたい、同じくらいに終わるようにされよ。
  10. 楊子(ようじ)
    1. 洋食では、人まえで、楊子を使えないが、和食では、つかわれてよい。
      ただし、手で掩って使われよ。
    2. 楊子は、目上のかたがいる席で、そのかたが使っていないときは、使っては失礼になる。
【型12】器の扱い方
  1. 器を落とされるな。
  2. 手に持てる器は、しっかり手にかけられよ。
    指にポーズをつけたり、離れていたりする遊び指がないようにされよ。
  3. 持つときは、左手を器の糸底にしっかりあて、右手をそえて安定させる。
  4. 器の運びは、左手のひらに器をのせ、右手をそえて、食べ物に息がかからぬよう、高か目に移動させる。
  5. 器を置くときは、右手で器を持ち、そっと下に置く。
    先に糸底の前方をつけ、そのあと、手前をつけると、音がでない。
  6. 小皿に入っている漬物、煮物などの小丼は、左手に持って食べる。
  7. 大きな食べものは、口のそばに持ってきた皿の上で割って、食べられよ。
    くいちぎられないように。
    ただし、たとえば、モチのように、箸で割っていられないもののときは、平気で、くいちぎられよ。
    タケノコなどもその例。
  8. 器が持てないような大きさの場合には、懐紙か、椀の蓋に受けて食べられよ。
  9. 大きな器(うどん、そば、丼ものなど)は、食卓に置いたまま、片手を器の端へそえて食べる。
  10. 盛り込み皿について
    1. 正客から順に回される大皿を取り箸を使って取り分け、自分の箸は使わない。
    2. まだ、取り分けていない人に、「お先に」、「失礼いたします」と軽く会釈してから取り分ける。
    3. 自分の取り分以外のところは、取り箸でさわらない。
      あとの人に嫌われる。
    4. 最後の人は、すっかりあとも残さずに取ると、いかにも量が足りないのを訴える風情になる。
      ほんの少しでも残されよ。
    5. 自分でとった料理は、残さず、食べられよ。
【型13】懐紙

懐紙の用途は広く、日本料理のマナーには、とくに、懐紙が必要である。
懐紙は懐中の小菊紙の略で、小菊は紙の種類をさす。
服装の関係から、ふところに入れやすいように、奉書、段紙を四半分にしたのが、現在、男子が使っている懐紙であり、その小型が婦人用である。
もとは、和歌、連歌、漢詩などをしたためるのに使っていた。
懐紙は、そのまま使うと端をいためるので、懐紙ばさみを用いると便利である。

【型14】懐紙の用途
  1. 膝掛けに使う。
  2. 器に口紅のあとがつかないように口唇を押さえる。
  3. 醤油やつゆのたれそうな場合の受け皿代りに使う。
  4. 魚などの骨を抜くとき、懐紙で頭を押さえて骨を抜くとよい。
  5. 料理で指を汚したときや、汚れた楊子やフォークの先を拭うのによい。
  6. そそうしたときに便利である。
  7. 食べかけを残すのは良くないので、懐紙に包んで持ち帰る。
  8. 茶懐石料理では、汚れを器に残さないのが作法であるので、魚の骨などは、懐紙に包んで持ち帰る。
  9. 本膳料理で、魚の骨などの汚れがひどいときは、皿の隅に寄せ、懐紙をかぶせて置く。
  10. 食べた骨や殻を、そっと懐紙に包んで蓋物の中に入れて置くと感じがよい。
  11. 果物の皮やみかん、ぶどうなどの食べたあとのふくろを包んで置くと見た目によい。
  12. テーブルにこぼしたビールの泡をふく。
  13. テーブル、膳の汚れをきれいにする。
  14. 菓子などをのせてすすめる。
  15. 取り皿の代わりに、使える。
  16. ぬれたクラスの底おさえによい。
  17. 濃茶を飲み終え、茶碗に口をつけたところを軽くぬぐう。
  18. 杯洗した盃の水切りに使う。

使用後は、小さくたたんで、ポケットにしまわれるか、下座の自分の膝脇に置かれ、帰りに持って帰られよ。

【型15】懐紙の折り方
  1. 2つ折りの場合(受け皿として使用)
    折り山を手前(わを手前)に置き、箸先の汚れを懐紙の一枚目の上かどを折ってはさみ、きれいに拭う。
    流派によって、懐紙の向こう左隅であったり、右隅であったりするが、どちらでもよい。
    262
  2. 4つ折りの場合(受け皿として使用)
    263
    263
    茶懐石では、4つ折りした懐紙の上に、八寸の肴をのせてすすめる。
  3. 皿代わりに、あるいは、器の上に敷いて食べ物を出す場合
    1. 祝儀、普段のときは、二枚重ねにし、左隅を下の懐紙より出す。
      出す数量は、吉を示す奇数がよい。
      図:祝儀、普段
    2. 不祝儀のときは、一枚のみ使用し、祝儀とは逆の右隅を下の懐紙より出す。
      出す数量は凶を示す偶数がよい。
      図:不祝儀
       
    3. 出す数量は、食べ物の数や大きさによって異なるので、あくまで、吉凶を示す数にこだわらなくてもよい。
【型16】箸
  1. 箸は、食事中も、食事終了時も、必ず、手前横に置き、けっして、縦に置いたり、斜めに置いたりされるな。
    箸は、必ず、2本、そろえて置かれよ。
  2. 箸先の使用は3cm の程度までとされよ。
  3. 正餐のとき、杉の利休箸を用いる。
    利休箸は、真中が太く、両端が細く削ってあり、長さは、25.5cm である。
    これは、はらみ箸からでた形で、五穀豊穣、子孫繁栄を意味する祝い箸である。
    不祝儀には、用いない。
  4. 茶懐石では、箸を水につけ、充分に水気を含ませ、拭き切って出す。
    ぬれた清潔感があり、箸先に食べ物がこびりつかなくてよい。
【型17】箸置き
  1. 箸置きが出された場合、箸置きを手前中央にきっちりと置いて箸先をのせられよ。
    箸先が箸置から出るのは、2cm 程度にとどめられるのがよい。
  2. 宴会料理には、箸置きが出されたりするが、正式の茶懐石膳では、箸置きは使われない。
  3. 膳や折敷が小型で略式であったり、折敷の形が円形で箸を置く位置が狭い場合には、箸置きは使わないことがある。
  4. 箸置きのない場合は、箸先を、膳、折敷の左側の縁にのせられよ。
    箸先が汚れなくてよい。箸先を縁に長く出すと下品になる。
  5. 箸を膳の左側に掛けることは、「左膳」といって嫌う人もいる。
    その場合は、右膳に掛けられよ。
    懐石膳の場合、箸の置き方は、流派によって異なり、膳の右縁だったり、左縁だったりする。
    たとえば、食前には、箸を右縁にだし、食事中は、左縁に出して置いたりする。
  6. 膳や折敷でない食卓の場合に、器の縁や器に渡し掛けて置くと、「渡し箸」といって嫌われるので、小さな受け皿の縁に箸先をかけられよ。
  7. 箸置きがなければ、懐紙1枚を4つ折りにして、箸をのせられよ。
    テーブルが汚れずにすむし、箸が汚れずにすむ。
    また、懐紙を使うことで、優雅に感じられる。
    264
【型18】箸袋の取り方
  1. 箸袋の底は、左側に置かれているものである。
  2. 箸が箸袋に入って出された場合は、右手で箸の入っている袋の中ほどを持ち、左手を下から添えて膝元に引き寄せ、箸をつまんでいる右手で箸を袋から抜き、膳に置かれよ。
    再び右手を戻して袋に添えてから箸袋を処理されよ。
【型19】箸袋の処理の仕方
  1. 袋をたてにして、膳の左側下に置く。
    袋のデザインが良ければ、帰りに記念に持って帰る。
    箸袋に使った箸を、食後、再び入れて置くとまだ使っていない箸と間違われるので、注意されること。
  2. 箸袋から箸を抜いたら、すぐに、箸袋をポケットにしまわれてもよい。
  3. あるいは、箸袋を2つ折り、もしくは4つ折りにして、右側の器の下か、膳の下にはさまれよ。
    そそうのときの懐紙がわりとなる。
  4. あるいは、千代結びにして、あるいは、そのまま、膳の上に載せ、箸置きがわりとしてよい。
    とくに、膳でない食卓のときは、膳の縁代わりで都合がよい。
    265a
    食べ終われば、使った箸先は、袋の中に入れて置かれよ。
    265b
    265b
    箸袋でだされるようになったのは、明治時代の料亭においてである。
    清潔感を出し、袋のデザインによるムード作りのために、使われるようになったのであるが、正式な膳には、箸袋を使わない。
【型20】割箸の割り方
  1. 箸袋と同じ取り方で、箸を右手で取り上げ、左手を下から添え、膝の上で、左手は下側、右手は箸の上側を持ち、上下に開いて割る。
  2. 高いところで音を立てて割ったり、箸先をこすり合わせたりしないこと。
  3. 箸を割ったら、そのまま、料理に箸をつけることはせず、一旦は、箸置に置かれることをされよ。
【型21】箸の使用注意
  1. 箸で人をさされるな。
  2. 箸を使うときは、箸の置いてあるところから、直接、料理に箸をつけないで、一旦、料理を身近に持って来てから箸を使われよ。
  3. 箸を持ったままで、飯、汁のおかわりをされないこと。
  4. 箸を持ったまま、椀の蓋を取られるな。
  5. 取り箸のついているときは、それを使い、自分の箸で取らない。
  6. 箸で、椀の中の実をかきまわしたり、椀の汁の中に、まだ、何かあるかとさぐってみることをされないこと。
    「さぐり箸」といって嫌われる。
  7. 「もぎ箸」といって、箸にくっついたご飯粒を口でもいで食べたりされないこと。
  8. たれのあるものを、膳から直接、箸でとると、ポタポタとしずくを落とし、「なみだ箸」といって嫌われる。
  9. どれを食べようかとばかり、箸を、膳の上で、ウロウロさせられるな。 これを、「迷い箸」と呼び、教養をうたがわれる。
  10. 箸の先で、チュッと吸われるな。しゃぶられるな。 「ねぶり箸」と呼び、いやしまれる。
  11. 食べようとしてはさんだが、離して箸を引く、「そら箸」をされるな。
  12. 料理をつきさして口へ運ぶ、「さし箸」をされるな。
  13. 盛りつけてある料理の下のものをほじくり出して食べることは、「ごじ箸」といって嫌われる。
  14. 口の中へ箸でおしこむ、「こみ箸」をされるな。
  15. 箸で、歯のあいだに詰まったものを掃除されるな。「せせり箸」といって嫌われる。
  16. 箸は口に運ぶもの。膳や器をたたく、「たたき箸」をされるな。
  17. 飯椀や皿を箸先で移動させる、「寄せ箸」をされるな。
  18. 箸先で飯を固めてから口に入れる、「固め箸」をされるな。
  19. よそったご飯のまん中に箸を立てる、「ほとけ箸」をされるな。
  20. 遠くの器に箸をさしだして食べる、「および箸」をされるな。
  21. 湯や茶をついだ茶わんの中へ、香の物を入れてかき回す、「回し箸」をされるな。
【型22】箸の正しい持ち方をされよ

正しくない持ち方は、ぎこちなく不自然である。
豆を使って箸による移動を訓練し、正しい持ち方をされよ。
50粒ぐらいの小豆をつかって、A地点からB地点に一粒ずつ、全部移す訓練を何度もして、不器用さを矯正するとよい。

【型23】椀の蓋
  1. 飯椀は、必ず、左側。汁椀は、必ず、右側である。
  2. ご飯、汁などの蓋付き料理の蓋は、食べはじめる前に、全部、あける。
    食べながら、蓋をひとつひとつあけることはしない。
  3. 原則として、膳の左側にあるものは、左手で左側に、右にあるものは、右手で右側に置く。
    畳をぬらさぬ工夫もされよ。
  4. 瀬戸茶碗の蓋と汁椀の蓋を重ねて置くことを、けっして、なさるな。
    椀の塗りものに傷がつくからである。食べ終われば、最後に全部の蓋をするのであるが、そのときも、蓋は正しく蓋をし、蓋を裏返しにしたまま重ねて置くことはしない。
    これもまた、傷が付くからである。
    しかしながら、茶懐石では、蓋を裏返しにして置くことをする。
  5. 茶懐石料理では、飯椀と汁椀の蓋を両手で1度取り上げ、飯椀の蓋を上向きに、汁椀の蓋を下向きに、あるいは、大きいほうを下にして、貝のように合わせ、両手を添えながら、膳の右側に置く。
【型24】蓋のとり方
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  1. 蓋をとるときは、右側の椀の蓋は、左手で椀の脇を添え、右手の親指とひとさし指で蓋の糸底の手前をつまみ、残りの三本指を反対側に添えて、向こう側に蓋をあける。
    蓋を椀の縁から離さず、縁にそって「の」の字を書きながら、45度回転させて、椀の横まで移動させ、露を椀に落としてから、指はそのままの状態で、蓋を裏返しにしながら、手元に引き、左親指をあてがい、蓋は右手指で持って、膳の右側の下に置く。
  2. 椀の蓋が左側にあれば、右手を椀に添え、左手で蓋をとる。
  3. 椀の蓋は、木の蓋であれば、簡単にとれるが、ベークライト製の蓋であれば、蓋が密着してとれにくい場合がある。
    1. 右手を椀に添えながら、左手の親指とひとさし指で、椀の上縁を手前と向こうから軽く押さえ、空気を椀に入れるとあく。
    2. そのとき、右手で糸底をまわせば、さらに、よい。
    3. 両手で椀を押さえてもあくし、つまようじを蓋と椀の間に、静かにさし込まれてもあく。
    4. 自信がなければ、給仕係にしてもらうことである。
      給仕係は、一旦、椀をさげて蓋をとり、すぐとれるように蓋をずらし加減にして、再び、だすこと。
【型25】椀の持ち方
  1. 親指以外は、指が、ばらばらにならないようにし、4本の指をそろえて、椀の糸底にあて、親指は軽く椀の縁にかけ、出し過ぎないようにする。
  2. 正しくは、椀の糸底をひとさし指・中指と薬指・小指とではさみ、親指を椀に添える食べ方が正式である。
【型26】箸構え
  1. 本膳料理では、食べる際、箸構えが先で、椀を取ることは、あとである。
    茶懐石では、これが反対であり、椀が先である。
  2. 「もろ起こし」といって、飯椀と箸を同時に持つことはしない。
  3. 箸構えであるが、箸袋を取ったときと同じやり方で、右手で箸を取って、箸の左側を左手で下から受け支えて膝元に引き、右手を箸の端に向かって滑らせ、下にまわし、持ち直して箸構えをする。
  4. 茶懐石作法では、右手で椀をとり、左手に椀を移して安定させ、次に箸をとり、箸先を左手の指にはさみ、右手を箸端にずらし、箸下にまわして箸を構える。
  5. 箸先を左手の指に掛けて持ち直すときには、
    1. 箸を左手の中指と人差し指の間にはさんで右手で持ちかえる仕方
    2. 左手の中指に軽くのせる仕方
    3. 左手の小指にのせて持ちかえる仕方
    3方法があるが、小指は他の指から離さないほうが、箸構えの際、美しく見える。
    とくに女性は、たとえば、お茶を飲むときにカップをつまむ(ティーおよびコーヒー・カップは、ひとさし指を入れて握るものでなく、柄をつまむものである)際にも、小指を離さないほうがよい。
  6. 茶懐石作法で箸を置くときは、まず、先に箸を置き、そのあと、椀を置くこと。
【型27】食べる順序
  1. ご飯を先にとる。
    汁から先にとることはしない。
    近年、汁が暖かいうちに、また、箸とのどを湿す意味で、汁を一口吸ってから、ご飯を食べることをするようであるが、祝儀には、ご飯を先に食べ、不祝儀には、汁から先にする習慣があるから、注意を要する。
  2. そんなところから、神式では、ご飯から、仏式では、汁から先にとると言われている。
  3. したがって禅宗の影響を受けた茶懐石では、汁、飯、汁の順にいただく。
  4. 箸構えをしてから、左手でご飯を持ちにいき、箸を右手に持ち直し(図参照)、箸を持ったまま、左手を追いかけるようにして、椀に右手を添えてから、両手で膝上に引き、椀の糸底を左手に安定させ、箸を持ち直して(図の逆順)、ご飯を口元に運ぶ。
    汁だけの吸物膳のときも同じ作法である。

    269a
    箸構え
    269b
    親指を箸下にくぐらせて一回転させる
    270a
    270b
    人差し指を箸の上をまたがせ、反対側に送る
    270c
  5. ご飯についで汁椀を取るときは、4-図e の形で箸を持ったまま汁椀を取り(箸を持ち添ええて汁を飲み、箸を持ちかえて、汁の菜を食べる。
  6. ご飯が左側にあるのは、
    1. ご飯を持つ左手に最短距離である
    2. ご飯を手にとる回数が多いこと
    3. いちばん貴いものの位置は左側であることなどの考えによる。
  7. ご飯は、二口も三口も食べることをせず、一口食べたら汁に移り、立ちのぼる香りをゆっくり味わいながら、一口飲み、また、ご飯を一口食べて、2度目の汁で箸を持ちかえて、はじめて、汁の実を食べるのが正しい作法であり、再び、ご飯を一口食べて、「なます」を食べ、また、ご飯を一口食べて、「坪」というように、ご飯をはさみながら、香の物を除いた本膳の菜をひととおり、全部を口にすることである。
  8. あとは、箸を持っている手を右膝上に軽くのせ、左手だけで汁を吸っても差しつかえない。
  9. 茶懐石作法の宴会料理であれば、はじめに、ご飯を一口食べたら椀も箸も置いて、汁椀を両手で持ちあげて、そのまま両手で一口吸ってから膳に置く。
    また、ご飯を食べ、2度目の汁のときに、箸を左手指にかけて持ち直して、汁の実を食べる。
    けっして、椀を下に置いたまま、汁の実を食べてはいけない。
  10. 吸いものは、音をたてて吸い切ることをするが、味噌汁は、音を立てて、飲んではならない。
  11. 本膳から二の膳、三の膳と菜だけの箸をのばすのを「菜渡り」とか、「移り箸」といって嫌われている。
    前の菜の香りや味をご飯で消し、次の菜をおいしく食べるためである。
  12. 菜から菜の間に、かならず、ご飯をはさみさえすれば、そのあとは、何を食べてもよい。
    が、ご飯の上に菜をのせて食べてはならない。
  13. 飯椀を持ったまま、汁を飲まれるな。
  14. ご飯をほお張らず、押しこまず、かきこんだり、椀の縁に口をつけて食べたりされないこと。
【型28】おかわり
  1. ご飯は、2膳はおかわりされよ。1膳では、死者の枕飯が1膳なので、縁起が悪いと嫌がられる。
  2. どうしても、1膳しか食べられないときは、椀の蓋にご飯を少しだし、またあとから入れて、2膳目とされよ。
【型29】おかわりのされ方
  1. おかわりするときは、ご飯を、一口、椀に残しておくと、おかわりの意思表示をしたことになる。
    ご飯がなくなると給仕役が、すぐ、追加を持ち出さなければならないから、一口残して、「けっして、急いでおりません。まだ、ありますから、お急ぎになられなくてもよいのですよ」という表情をして見せる奥ゆかしさが必要である。
  2. ご飯は、3度おかわりしても構わないが、汁のおかわりは、3杯目をすすめられても辞退されよ。
  3. 二の膳以下の汁は、おかわりをしないのが作法である。
  4. おかわりは、1度、箸と椀を置き、口の中のご飯をすっかり食べてから、椀を両手で差し出すこと。
  5. おかわりしていただいているあいだは、菜を食べたり、汁を飲んだりしないで、静かに、待っていること。
  6. 通いのものが、飯椀を両手ではさむようにだすので、糸底を持って受け取り、一旦は、膳の上に置いてから食べはじめられよ。
  7. おかわりしたまま、口に、直接、持ってゆくと、「受け食い」、「受け吸い」といって嫌われる。
【型30】おかわりの仕方
  1. ご飯は、「盛る」といわないで、「つぐ」という。
  2. 通いものは、左手の親指を椀の縁に掛けないように、椀の糸底の縁を親指とひとさし指でつまみ、残り三指で椀をささえて、受け取り、そのままの状態で、2度に分けてつがれよ。
  3. ご飯は通い盆を用いないで受け、汁は通い盆を用いるのが正式である。
  4. 給仕係は、黒塗りの丸盆で受けられよ。
  5. 持ち運びの時間に冷めないように、蓋とともに受け、汁をもったら蓋をし、渡す手前でとるのが正式であるが、別の蓋をして持ち出し、先方で取ってすすめてもよい。
【型31】しゃもじの使い方
  1. 右手の親指をしゃもじの柄の表側に添え、残りの指は、柄の裏側に添え、しゃもじを横からつまむ感じにする。
  2. つぐときは、しゃもじの柄を向こう側に倒し、下部を手前に向けてすくうようにしてつぐ。
【型32】香の物の食べ方
  1. 香の物を1膳目から食べると、出されている料理がまずいということを意味する。
    2膳目から手をつけられよ。
  2. 香の物を咬み切ったり、ポリポリと音をさせて食べてはならない。
    禅門の食事で、音をだして食べることは、厳禁である。
    香の物を食べるときに、音を出すことは、叱責に値する。
  3. たくあんなどを食べるときは、真中から咬むと音がするし、口を開けたまま咬むと音がするから、端の方から、静かに咬むようにすると、比較的、音を立てないですむ。
【型33】刺身の食べ方
  1. 刺身は、作り、造り、向付けとも呼ばれている。
    大きい猪口(ちょく)は刺身、小さい猪口(小さい猪口のときは千代久、千代口と書いたりする)は、むらさき(醤油)用である。
  2. 穂じそは、逆にして、指で端を持ち、千代久に指先でしごいて落とす。
  3. 山葵(わさび)は、醤油に付けず、刺身に付けて食べる。
    わさびを刺身に少しのせ、刺身を2つ折りにして風味を包み、醤油を少し付けて食べる。
  4. つまが付いているが、これは、生ぐささを消すためのもので、刺身と交互に食べたり、刺身にのせて食べたりするとよい。
  5. しその葉や大根のつまを食べることは、栄養面からもよい。
  6. しその葉で刺身をくるんで食べられよ。
  7. 醤油を付けた刺身を膳から直接に口に運ぶと、しずくがたれるので、千代久は、必ず、右手で取り上げて、左手の掌(たなごころ )で持たれよ。
  8. 食べ終われば、千代久を大きい猪口の中に収めて置くことをされよ。
【型34】魚の食べ方
  1. 魚の頭は、常に、左側にあるが、不祝儀のときには右側になる。
  2. 「海背川腹」といって、海の魚、たとえば、刺身などは、背の方を手前にし、川魚は腹を手前にする。
  3. 頭から尾のほうに向かって骨が付いているので、頭から食べてゆくと身が取れやすいので、目の下から食べ始められよ。
  4. 焼き魚のときは、醤油に浸したり、はじめから醤油を掛けてしまわないで、むしった身の一部を、ちょっと付けて食べられよ。
  5. 魚は返して食べないことが原則となっている。
    とくに、鯛などの尾頭付きは、お祝いの膳に出されることが多く、「ひっくり返す」ことは、不吉なこととして、忌み嫌われている。
  6. 昔の殿様は、上身を少し食べただけで、下身を食べることはされなかったが、現代人には、そのような無駄は、経済上、許されない。
    上身を食べたら、箸を骨の下に入れて骨を上に浮かせ、エラの下と尾の手前の身を箸ではがし、頭つきの骨を、皿の向こう側にだして下身を食べられよ。
  7. 魚の骨の間から、下身をほじくり出すことは、「簀(す)の子せせり」といって嫌われているので、されないこと。
  8. 「かれい」などの骨身の魚を裏返して食べるときは、自分が食べた部分を人に見せないように、魚の背を手前に返す。
    このときも、魚の頭は、左側である。
  9. 食べ終わったら、骨は、2つか3つに折って小さくまとめ、隅に寄せて置く。
  10. ぶりの照焼などは、骨もないので、肉を食べるときとは逆に、右から、一口ずつ箸で取って食べられよ。
  11. あゆの塩焼きを食べるときは、頭を左手で抑え、箸で、背びれを取り、尾を折り曲げる。
    その際、懐紙を小さく折って、魚の頭にあて、左手で抑えると、指が汚れない。
    そして、身を頭の方から尾に向けて、箸で順々に押すことを2〜3度繰り返し、箸で頭の横を抑え、左手で、頭をつかんで骨をすっと抜かれよ。
    魚が小さければ、全部、食べてよい。
【型35】どびん蒸しの食べ方
  1. 蓋を右手で取ったのち、左手で、左の手前に置く。
  2. ゆず、あるいは、レモンを絞る。その際、左手は、汁が飛ばないように右手をおおう。
  3. 蓋を受け皿と盃がわりに使い、汁は、どびんの口から蓋に注いでから口に運び、具は蓋に取ってから口に運ぶ。
【型36】茶碗蒸しの食べ方
  1. 昔は、箸先で器の中の上部をぐるりと円を書いて、はがしたが、最近は、スプーンがよく出されるため、スプーンで内側を一周させる。
  2. 茶碗蒸しは熱いので、受け皿ごとに手に持って、手前から一口ごとにすくって食べる。
  3. 器を先にとり、スプーンは、あとから取り、戻すときは、スプーンを先に戻してから、器を戻す。このことは、箸の作法と同じである。
【型37】天ぷら
  1. 天ぷらの由来
    1. 天文12年(1543 )、種子島に漂流したポルトガル人たちによって、長崎地方に、南蛮料理がもたらされた。
      この南蛮料理の中に、天ぷらの元祖を思わせるものが数々あった。
    2. こん日に伝わる長崎天ぷらは、南蛮料理のおもかげを残している。
      これは、衣に特徴がある。酒、砂糖、卵、小麦粉、塩でつくられ、衣自身にも味がついており、衣と中身との味のバランスを考えた料理である。
    3. この長崎天ぷらの源が、長崎から上方、江戸という経路をたどり、現代風天ぷらになった。
    4. 現代風天ぷらの衣は、水と卵、小麦粉で作られ、衣に味を持たせるより、中身の持ち味を生かす料理である。
  2. 天ぷらの薬味
    1. おろししようが
    2. 大根おろし
    3. もみじおろし(種を抜いた赤唐がらしをさし込んだ大根をおろしたもの)
    4. レモン
    5. 七味唐がらし など。
  3. 天ぷらの食べ方
    1. 魚類から野菜類に食べすすむのが、おいしい食べ方である。
    2. 天つゆの中に、薬味を入れ、レモンが添えてあれば絞って天つゆに入れる。
    3. 天つゆのかわりに塩をかけると関西風になる。
    4. 天つゆの器を手にして、天ぷらをつけて食べる。
    5. 天つゆの中にいつまでもつけて置くと、ころもがふやけてまずくなるので、話に夢中になられるな。
      食べかけの天ぷらをあまり他人の目につくように置かれないこと。
【型38】とりのもも焼き
  1. ももの骨に銀紙が巻かれているが、なければ、懐紙、紙ナプキンを巻いて、左手でももの端をおさえ、箸でももの身をほぐしてから食べる。
  2. 骨の上には、懐紙をかけて置く。
【型39】くし焼き
  1. 左手でくしの端をおさえ、箸で身を1つずつはずす。
  2. そそうをして落としたり、たれをたらしたりしないように、懐紙を口の下あたりに添えていただく。
  3. 一度に全部をはずさず、一本分を食べ終わったならば、次のくしをはずす。
    はずしにくいときは、くしを回しながらはずすとよい。
【型40】うな重の食べ方
  1. 鰻(うなぎ)は、夏から秋にかけてのものが美味である。
    関西では、うなぎを腹開き、関東では、背開きにする。
  2. うな重のうなぎの尾は、手前に来るように置かれている。
    頭のほうより尾のほうが、肉のりも厚くておいしいからである。
  3. 吸物は例外として左側に置く。
    お重を置いたまま食べるので、右側に吸物を置くと食べにくいからである。
  4. 食べ方
    1. うな重の蓋を両手で取り、お重の向こう側に、あお向けに置く。
    2. きも吸いの椀の蓋を取り、あお向けにして、お重の蓋の上にのせる。
    3. きも吸いの椀を持ち、一口飲んでから、うな重を食べ始める。
    4. 手前の左端から一口ごとにうなぎを切り、ご飯といっしょに食べる。
    5. 食べ終われば、うな重、吸物の蓋をもとどおりにする。
【型41】すし
  1. すしの由来
    1. 奈良時代には、魚貝類に塩をして押し、2〜3ヵ月ならして自然醗酵させる貯蔵法があった。
      このとき、自然に出る酸味を「酸(す)し」といい、すしの名は、ここにはじまった。
    2. 魚と飯とをいっしょに押して食べるようになったのは、室町時代の後期である。
    3. やがて、短時間で、種をなれさせる生成(なまなれ)が普通になり、飯は酸っぱくても魚は、まだ、生(なま )のうちに食べるようになった。
    4. 酢めしをにぎって、新鮮な魚貝の切り身をのせる、にぎりずしが、文政年間(1820年代)に江戸に現われた。
    5. このにきりずしは、両国の与兵衛ずし、萬屋与兵衛が工夫したと、一般には伝えられている。
  2. すしのことば
    1. とろ   …… まぐろの腹近く、脂肪分の多いところ
    2. げそ   …… いかの足
    3. おどり  …… えびの皮をとったもの
    4. かっぱ  …… きうり(カッパの好物)
    5. ひも   …… 赤貝のひも
    6. さび   …… わさび
    7. がり   …… しょうが
    8. しゃり  …… ご飯
    9. むらさき …… 醤油
    10. あがり  …… 茶
  3. すしを食べる順序
    鮪(まぐろ)からはじまって、魚 → 貝 → 卵と食べ、のり巻、カッパ巻きなど、生臭くないもので終わるのが、食べ方のコースである。
  4. すし屋の格
    卵焼き、こはだ、アナゴを食べれば、その店の腕前がわかるといわれる。
    卵焼きの味かげん、こはだの塩かげん、酢のしめかげん、アナゴの煮かげんは、板前の腕の見せどころである。
  5. すしのとり方
    1. 習慣上、同じたねを2個ずつ握る。1個だけほしいときは、その旨、伝える。
    2. たねにひとさし指をあてて、親指と中指でつまみ、裏返して、たねが下になるようにして醤油につける。
    3. たねを醤油にちょっとつけ、舌の上にたねがあたるように食べる。
    4. 箸でのつまみ方は、すしの中ほどを箸ではさみ、下からすくうようにする。
    5. または、横に倒すようにしてつまみあげ、たねに醤油を、少し、つけて食べる。
    6. 盛りこみずしの場合、箸で食べられるように、やや固めに握ってあるので、箸で取られよ。
    7. 女性は、正装しているときや正さんのときは、箸を使ったほうが上品にみえる。
    8. すしが1人前に盛られてだされたときは、器の手前からつまんでゆき、嫌いなものは、向こう側の端のほうに入れ替えられよ。
  6. すしの食べ方
    1. 大きなにぎりは、ひと口で食べるものではない。
    2. 大きなにぎりの場合、箸で切れる卵などは2つに切る。
    3. 箸で切れない、イカなどは、箸先でたねをはがし、ご飯を半分だけ先に食べてから、残りをたねにくるんで食べる。
    4. たねだけ食べ、ご飯を残したままというのは、「おいはぎ」といって嫌われる。
    5. のりの手巻きずしは、手でうけてそのまま食べる。
    6. 醤油がしたたり落ちないよう、うけながら食べる。
      受け皿がないときは、懐紙、椀の蓋を使う。
  7. 醤油
    1. 醤油は、生物だけにつける。
      酢でしめてある、いわゆる、ひかりものや卵焼きなどにはつけない。
    2. アナゴ、シャコ、はまぐりなど、煮たものには、タレがついているので醤油をつける必要はない。
  8. ガリ
    1. ガリは生臭い魚の臭みを消したり、前の味を消して、舌の感覚をあらたにするためにつまむものである。
    2. わさびのききすぎは、熱い茶を飲むよりガリを食べたほうが、からさがやわらぐ。
  9. あがり
    大きな湯飲みでだされるお茶も口直しの役目となっている。
    1つつまむごとにお茶を飲む。
  10. 郷土ずし
    1. 酒ずし(鹿児島) ………… 赤酒(地酒)を使った押しずし。
    2. 大村ずし(長崎) ………… 大きい押し枠で作る、具の多い押しずし。
    3. 祭りずし(岡山 ) ………… 海、山の幸をふんだんに入れた豪華なちらしずし。
    4. めはりずし(和歌山) …… 高菜や広島菜の漬けものの葉で包む。
    5. 信玄ずし(山梨)  ……… 戦国時代に日持ちするように作られたすし。
    6. 鱒(ます)ずし(富山)…… 酢に30分ほどつけて、皮をとり、薄いそぎ切りにする。
【型42】エビの姿焼き

左手で頭の部分を押さえ、右手で身の部分を持って折り曲げるようにして頭を取る。
続いて殻も手を使って開き、懐紙かおしぼりで手をふいてから、箸を使って食べる。   

280a
【型43】焼きはまぐり
  1. 貝殻は、すぐに取れるようになっているので、はじめに、右手の箸で軽く押さえ、左手で殻のふたをあける。
    身の入っている殻を左手で押さえ、箸で身と殻をはずす。
    280b-1
  2. 殻ごと、懐紙か茶わんのふたに受けて食べる。
    貝のつゆは、そのまま、直接すする。      
    280b-2
【型44】かに

甲らも足も、食べやすいように、殻に包丁を入れてあるのが普通である。
左手で殻ごと持って、箸で身を殻から取り出し、二杯酢かポン酢じょう油にちょっと浸して食べる。
箸の代わりに、かにのはさみの先で身を取り出すこともある。
二杯酢などの小鉢は手に持って、つゆをたらさないように食べる。
食べ終わったら、殻をまとめる。

280c-1
280c-2
【型45】もろきゅう

きゅうりの端を左手で持ち、箸でもろみ味噌を少しつける。
箸でつけにくいときは、きゅうりを直接味噌につけて食べてもかまわない。
小皿か、懐紙を下に受けて食べる。

281a
【型46】でんがく

串を左手で持ち、箸で豆腐をはずす。器の中で豆腐を適当な大きさに切り、味噌がたれないように懐紙に受けていただく。
1つ食べ終わってから、次の串をはずす。

281b
【型47】おしぼり

おしぼりは上座に出されよ。
使ったら、下座、または、膳の下に置く。
決して、膳の上においてはならない。
手でつまんで食べるものの場合、亭主側から手をふきながら食べるように申し出があったならば、おしぼりで手をふきながら食べてもよい。
このとき、おしぼりは、上座、下座どちらにおいてもよい。
食べおわったら下座におく。

【型48】食事のしめくくり
  1. 本膳宴会料理では食事が終わると、煎茶が出されず、湯桶で白湯(さゆ )…… 薄い重湯に塩味をきかせたもの …… が出るので、ご飯または汁の椀に受けて、椀を洗い、箸先を湯の中できれいにし、最後に、その汁を呑む。
    茶懐石では、湯桶に湯の子(ご飯のおこげ)が入っているので、湯の子すくいで椀に受ける。
  2. この洗い汁を飲むことは、古来一般の通則である。
  3. 飲み終わったならば、しめくくりとして、懐紙で膳に落ちたしずくを押さえて拭き、食べた食器を整えて食事を終える。
【参考1】

果物は、明治以降になって宴会のときに出すようになった。
本膳料理にはない。
元来、菓子といえば、果物のことをさした。
のちに、水菓子というようになった。というのは、平安時代に、大陸から本物の菓子が伝わったからである。
この時代の菓子には、主菓子(ようかん、まんじゅう )と干菓子(らくがん、せんべい、麦こがし)があった。
で、のちに干柿などは、菓子と呼び、生ものを水菓子と呼んだ。

【参考2】本膳宴会料理
  1. 本膳料理では、飯、汁が主であるが、本膳宴会料理では、酒が主である。
    料理のはじめにだされる吸物膳には、はじめから、箸の上に盃がふせてある。
    この吸物膳を、先に出し、本膳、二の膳の順に料理をすすめる。
    この出し方を「乱酒」と呼ぶ。
  2. 宴会料理には、「お通し」がだされるのが特徴である。
    「お通し」は、「先付」、「突き出し」ともいい、もとは、「口取」である。
    「吸物」と「酒」のあと、「口取」が出たが、口取のようなものを、少量、はじめに出すほうがよいと考えるようになった。
    これが「お通し」である。
    そこで、「お通し」、「吸物」という型が生まれた。

      《料理の出し物》
    1. まず、茶を出し、菓子(干菓子、蒸し菓子)をすすめる。
    2. 吸物膳(吸物、盃、箸、お通し)を出す。
【説明】
  1. 昔は、吸物椀の蓋を取り、酒を受けた。いまは、盃がついていることが多い。
  2. 酒がつがれたら、1度、膳に置き、みんなに酒がつぎ終わるまで待ち、正客に合わせて飲む。
  3. 酒を一杯飲んでから箸をつける。
  4. 「お通し」より量の多い前菜が、さらに、膳の外側に置かれることがある。
  5. 吸物膳をさげ、本膳(飯、汁、香の物、平、なます)を出す。
  6. 一汁三菜のときは、焼物膳も出す。
    二の汁が出るときは、二の膳といっしょに焼物膳を出す。
  7. 湯と水を用意し、湯をすすめ、水を望まれたら水をすすめる。
  8. 一汁三菜であれば、菓子に煎茶か抹茶を出し、二汁五菜であれば、蒸し菓子に膿茶(帛紗(ふくさ)を添えて出す)、さらに、干菓子に薄茶(帛紗を添えない)を出す。
【参考3】宴会料理
  1. この料理形式は、現在、宴会などで広く行われている。
  2. 本膳宴会料理の吸物膳と本膳がいっしょになり、本膳には、「平」、「刺身」、「お通し」、「吸物」、「箸」、「盃」がだされ、本膳の「飯」、「汁」、「香の物」は、「止め椀」といって、料理がひととおり終わるころ出される。
  3. 二の膳、三の膳がつくことは、本膳宴会料理と同じである。
  4. 食事のさい、さげられた本膳の器のあとに、二の膳、三の膳の器を取り込んで、食べてよいが、器の移動の際、器の底で塗りものの膳を傷つけないように注意すること。
【参考4】座卓宴会料理
  1. 膳、折敷を使わないで、ちゃぶ台やテーブルに順次、一品ずつ出してゆく宴会料理である。
  2. このほかに、1度に、全部、セットしてしまう方法もある。
    この形式は、旅館の夕食、朝食に用いられている。

《料理の出し順》
  1. 箸、箸置、盃、グラスを置く。
    箸はテーブルの端から5cm ほど離して置く。
    盃は箸の上に伏せて置く。
    284a
  2. 前菜、お通し、飲み物を出す。
    284b
  3. 吸物を出す。
    吸物は、お通しをさげた位置に出す。
    284c
  4. 前菜を動かし、前菜の右隣に刺身を出す。
    284d
  5. 焼物、煮物を出す。
    前菜と吸物をさげ、前菜のあとに煮物、吸物のあとに焼物を出す。
    284e
  6. 揚物と天つゆを置く。
    刺身をさげた位置に置く。
    284f
  7. 全部さげ、飯、汁、香の物を出す。
    284g
  8. 全部さげ、茶を出す。
    284h
  9. 果物を出す。茶はそのまま残して置く。
    284i
  《旅館の夕食》
285a

飲み物をいっしょにセットして置くとともに、飯びつ、飯、汁、茶をのせた通い盆をテーブルの近くの畳の上などに用意して置く。

  《旅館の朝食》
285b

【参考5】盛り込み宴会料理
  1. 座卓による宴会料理の1つである。
  2. 膳、折敷を使わず、何品かの料理が大皿で出されるもので、各人は、その料理を取り皿に取って食べる。
  3. 大皿には、飾りものが添えられて豪華である。
  4. ちゃぶ台、テーブルに順次、出してゆくやり方は、座卓による宴会料理と同じである。
  5. 大皿は4〜5回程度が限度であり、汁物は、盛りこめないし、煮物も大皿から取ったあとが汚れて見えるので好ましくない。
    大皿を出したときは、必ず、各人にとり皿を出す。

    1. 盛りこみ皿でよいもの …… 前菜、刺身、焼物、揚物
    2. 個人別がよいもの ……… お通し、吸物、煮物、飯、香の物、果物


  《料理の出し順》
  1. 箸、箸置、盃、グラスを置く。
    286a
  2. 前菜とり皿、お通し、飲み物を出す。
    286b
  3. 吸物、刺身とり皿を置く。
    お通しをさげた位置に吸物、前菜とり皿をさげた位置に、刺身とり皿を置く。
    286c
  4. 焼物とり皿を置く。
    吸物をさげ、刺身を右へ少し動かし、焼物とり皿を置く。
    286d
  5. 刺身とり皿をさげ、そのあとへ煮物を出す。
    286e
  6. 焼物とり皿をさげ、煮物を左へ動かして、揚物とり皿を置く。
    286f
  7. 全部さげ、飯、汁、香の物を出す。
    286g
  8. 全部さげ、茶を出す。
    286h
  9. 果物を出す。茶をそのまま残して置く。
    286i
【参考6】宴会料理の献立例
  1. 祝い膳
    鶴香合…… 五色なます、色紙数の子
    亀香合…… 黒豆、結びごぼう
    吸物…… のし目椀、夫婦はまぐり
    神馬草…… 祝い粉
    朱木林 …… 銚子
  2. 雑煮椀(正月にかぎる )
    ふくさ仕立て、小角餅、鶴の子いも、亀甲大根、鯛、のしえび、つる菜
  3. お造り
    紅白、まぐろ平造り、紋甲いか鳴門巻き、平目そぎ造り、花穂じそ、芽じそ、紅たで、わさび、醤油
  4. 口取り肴
    片木盛り、伊勢えび姿焼き、金銀水引かけ、紅白かまぼこ、亀甲錦たまご、栗ふくませ、菊かぶら、のしうずら山椒焼き、酢どりみょうが、かいしき菊花
  5. 焼物
    鯛浜焼き、矢ばね蓮根、松葉飾り
  6. 煮合わせ
    扇長いも、紅梅人参、白梅くわい、さやえんどう、たけのこ、合鴨葛たたき
  7. 赤飯
    蒸し器入り

  8. 三州仕立て、あられかまぼこ、みじん三つ葉
  9. 香の物
    たくあん、奈良漬け、梅干し、かぶ、なす

なお、和食には、このほか「盛りこみ料理」というのがある。
これは、大皿に盛って供す料理で、宴会料理に対して、いわば、中国料理風ともいうべきものである。
これは、中国、オランダ、ポルトガルなどの外来文化の影響を受けて生まれた。
「盛りこみ料理」の流れを享けるものは、「卓袱(しっぽく)料理」であり、土佐における「皿鉢(さわち)料理」であり、また、江戸中期に黄檗宗の僧、隠元によって伝えられた、油を多く使う「普茶料理」であった。


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