第9節 服装の体系
【通解】着物の体系
- 着物は、おおむね、次図のように分類できよう。
- この本で扱う着物とは、この中の「Formal Wear 礼服」についてだけとしたい。
- けれども、いくばくは、この中の「Town Wear 普通の服装」についても、触れることにしよう。
【通解】
洋服を買う場合、どのような種類のものでも、品質の優れたものを求めるのがよい。
その第1の理由は、高品質の洋服ほど、よく見えるからである。
第2の理由は、そのほうがずっと長持ちし、結局のところ、同じ額のお金に換算してみると、それだけ持ちのよい満足できるものを手に入れたことになる。
【通解】礼服の体系
- ここに、礼服というのは、改まったときに着用する服装の総称である。
- 礼服は、「大礼服」「中礼服」「小礼服」に分かれると見られる。
- 大礼服という名称は、公式にもあるが、中礼服、という名称はなく、単に、礼服、それから、小礼服という呼び方もなく、略礼服、準礼服、準略礼服といった名称が、まちまちに、行われていて、同一の名称のもとに、人によって、指すところが異なっている。
- 礼服を、「大礼服」「中礼服」「小礼服」というランク付けした場合、中礼服のつぎに、「準中礼服」、小礼服のつぎに、「準小礼服」と名付け得るものがある。
「準中礼服」とは、中礼服を着用すべき場であるが、その代用として着用しても、それほど、失礼にあたらないとされるもの。
「準小礼服」とは、小礼服を着用すべき場であるが、その代用として着用しても、それほど、失礼にあたらないとされるもの。
- また、大礼服以下、準小礼服までをタテの分類と見なすならば、この、それぞれに、「官服」「シビル服」「民族服」といったヨコの分類がある。
【通解】礼服着用の場の分類
- 大礼服を着用すべき場
即位式・戴冠式
元首などの婚礼
記念式典
元首主催正式晩餐会
大葬
国葬
- 中礼服を着用すべき場
認承式
勲章授与式
元首への正式訪問、拝謁
正式参拝
元首主催正式晩餐会
元首主催園遊会、茶会、歌会始、その他
国際協会長主催儀式・晩餐会
民間冠婚葬祭(厳格型)
オペラ観劇
- 小礼服を着用すべき場
入学式、卒業式
開会式、閉会式
民間冠婚葬祭(緩和型)
【通解】官服での礼服
- 宮服での、礼服は、文官・武官で異なるし、階級によっても異なる。
- ここでは、武官の場合だけで眺めてみよう。
- その大礼服としては、正装(せいそう)と呼ぶ、とくに、美しい服をまとい、所持する勲章のすべてを佩用(はいよう)する。
- 武官服での中礼服は、昔の日本の陸海軍での呼び方によれば「通常礼装」 といって、概して、日常の軍服に、自分の所持する勲章のすべてを佩用する。
こん日も、世界中、この形は、はなはだ、多い。
- 武官服での小礼服は、日常の軍服に、略綬だけ付けるものである。
【通解】民族服での礼服
- 民族服を着用して、自国のみならず、外国の公式の場に出席することは、天下に公認である。
- 日本での民族服とは、男子の場合、紋付羽織袴、女子の場合、紋服(すそ模様)ということになっている。
- ここでの大礼服は、やはり、勲章のすべてを佩用する。
- 文化勲章受賞者が、紋付羽織袴で出かけて行かれるのも、この形の例である。
- 中礼服としての民族服は、大礼服の勲章をとり去ればよい。
- 小礼服としての民族服は、国によって、定めたり、定めなかったりしている。
日本の場合、男女とも、中礼服と同じ形と見てよいのでないか。
【通解】儀式・宴会とその服装
- 人間の行なう集会には、「会議」と「儀式・宴会」と「ゲーム」がある。
- ここでは、その中の「儀式・宴会」について、考えてみよう。
- 儀式・宴会には、生産行為と消費行為がある。
たとえば、自動車メーカーの会社の式典は、社長以下にとって、生産行為である。
そのことは、その会社の商品なる自動車をつくる工作機械を導入する作業と同じことであるからである。
が、その社長の家族での誕生祝いの宴会は消費行為である。
- その儀式・宴会が、生産行為か、消費行為かという区別を、いま、忘れてみよう。
- 儀式とは、「みんなの前で行なう報告の伝達」である。
- 宴会とは、「みんなでする食事」である。
- 大きな儀式には、通常、宴会が付随している。
- が、儀式なしの宴会も多い。
- で、儀式・宴会の服装ということになると、「参会者」の服装と、「儀式・宴会の執務者」の服装に分かれる。
- が、ここでは、「参会者」の服装についてだけ、考えよう。
- 参会者の服装は、欧米での場合、身分をあらわす飾りの程度とか、勲章の程度とかに、差別をつけはするが、服装そのものは、主賓、主催者、その他参会者が、同じ種類のものを着るという考え方に立っている。
- 儀式・宴会には、上は、国の元首の行なうものから、下は、1家庭で行なうものまで、ランクがある。
これを、「主催者ランク」と呼んでみよう。
- 儀式・宴会での服装を考えるには、まず、この主催者ランクを考えなければならない。
元首
元首の名代(大公使)
首相
国際的協会の長
首相でない中央機関の長
軍司令官
地方長官
業界団体の長
隊長、艦長
社長
部長
課長
係長
家庭の主人
その他の家族
- また、同一主催者であっても、その人物が、どういう立場であることを宣言しての主催者であるかを考えなければならない。
- つぎに、1名の主催者のランクが、決まったとして、その主催者が、どの程度に、重要視している儀式・宴会であるかのランクの問題がある。
これを、「重要視ランク」と呼んでみよう。
- 儀式と、それに付随している宴会とでは、通常、儀式のほうが、1ランク、上とされる。
- そうして、通常、儀式は、昼間に、宴会は、夜間に行われる。
- 舞踏会は、晩餐会の付随行事と考え、晩餐会のないときも、晩餐会と同列に考える。
- さて、夜間に行なうべき宴会を、主賓の都合を考えて、午餐会とする場合がある。
このとき、晩餐会より午餐会は、通常、1ランク下げて考える。
- 茶会は、午餐会より、さらに、1ランク下がる。
- 舞踏会は、しかし、茶会に付随して行われることもある。
そのとき、この舞踏会は、茶会と同列と考える。
- 儀式と宴会については、だいたい、以上の尺度をもって考えればよい。
- しかし、儀式を、昼間行なうものと考えていても、たとえば、閣僚認承式のように、真夜中に行われる場合もあるから、「こういう儀式、宴会は、普通ならば昼間(夜間)行われるべきもの」という建前を知っていなければならない。
- 以上で、「主催者ランク」と「重要視ランク」の組み合わせで、服装につき、判断がつくはずのところ、主催者が、主賓以下の事情をおもんばかって、「どうぞ、略装で、お出かけください」と通知する場合がある。
で、ここに、もう1つ「略装化配慮」という尺度が付加される。
- こうなってくると、通念だけでは、わからなくなる。
で、参会者は、主催者に対して事前に、「服装は、どのようにいたしましたら、およろしうございますか」と問いただしてから、それを、着装して行くのが、1つの作法となっている。
- それだけに、主催者たる者、まず、自分が、何を着るかを招待状を出す前に、決めていなければならないし、もし、客たちが、服装に迷いそうであると見たならば、求める服装を招待状に記入するのが、1つの作法となっている。
【参考】Court と Coat
- Court……中庭、法廷、宮廷。
要するに四角に区画した平らなところ。
テニス・コートも、その1つ。
- Coat……覆い、上着、外とう。
【参考】Coat と Overcoat
- Coat……衣服のうち、もっとも、外側に着用するものの総称。
で、時として、男子の背広を指し、女子のスーツの上着のことを指し、また、この上に、防寒のため、何かをおおっているならば、そのものを指す。
- Overcoat……すべての衣服の上に着用する Coat のこと。
【通解】男女シビル服での礼服体系
- 男子のシビル服の体系は、おおむね、次表のようになる。
男子シビル礼服体系
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- 大礼服、中礼服として、1800年代前葉、代表的であった Frock Coat は、現在、世界中で、まったく、用いられなくなった。
で、Frock Coat に、いくばく、王朝時代の貴族服の形を復元した Full Court Dress が、現在として、大礼服、中礼服に、もっぱら、用いられている。
- ところで、中礼服は、Full Court Dress が正式であるが、17時以前に、開会する儀式・宴会では、Morning Coat を代用することが認められている。
この Morning Coat は、1800年代末葉に Frock Coat を、いっそう、簡易化して作った礼服であった。
- ところで、中礼服では、昼間、Morning Coat を着用し、夜間、 Full Court Dress を着用すべきところ、1800年代中葉から、主として、アメリカで流行してきた Dinner Jacket に置きかえてよい場が生じて来て、現代では、ヨーロッパでも、かなり、それが多い。
Dinner Jacket は、尻尾のない、簡略な宴会用の服装であって、けっして、17時以前に開会する儀式・宴会に用いない習慣がある。
- 1900年代に入って、Morning Coat のかわりの昼間の中礼服として、Director Suit が、主として、ヨーロッパに流行したが、これは、1945年以降、すたれてしまい、ふたたび、Full Court Dress、または、Morning Coat に戻っている。
- 小礼服として、Black Suit を着用する習慣は、背広という服装の安定化した1800年代末葉から、あったことであった。
ここには、礼服らしいものを着用しないで、儀式・宴会を行なおうという思想が強く働いており、しかしながら、色ものだけは、遠慮しようということで、Black Suit となっていたものである。
この思想は、次第に、中礼服を着用すべき儀式・宴会に広がりつつあるし、それが、現代アメリカから、ヨーロッパにまで、広がりつつある。
- ここで注意が要るのは、よって、大礼服に、Morning Coat や Dinner Jacket を着用することがあるかといえば、それが、ないということ。
- ところで、1930年代から、小礼服に Black Suit のかわりとして、濃灰色の背広を着用してもよいという風習が、アメリカから発生し、こん日では、イギリスを除く、ヨーロッパでも、かなり、一般化している。
- 現代用語として、Black Suit と、濃灰色 Suit を Dark Suit と称している。
- ところで、この表にないが、現代アメリカでは、これら、Dark Suit を着用すべき場合にも、色ものの背広を着用する動きが、盛んである。
そこで、アメリカ人を相手とするとき、また、アメリカを旅行するとき、少なくとも、Black Suit を着用することについて、よしあしの吟味が要る。
- ただし、である。アメリカ政府関係やアメリカ東部各地の儀式・宴会では、依然として、Black Suit を尊重していることも知っておかなければならない。
- また、Black Suit は、アメリカでの場合、ヨーロッパでの Morning Coat くらいに考えられているから、普段、やたらに、着て歩くことにつき、注意を要する。
たとえば、「ディズニー・ランドの中をブラック・スーツで歩いているのは、日本人ばかり」という言葉もあるくらいである。
- 以上、日本にあっては、ともに、礼服体系について、この表にあるように、ヨーロッパ的な感覚で行なっていてよい。
しかし、アメリカ人のみを相手とするときは、アメリカ人の好みに合わせるのがマナー。
- また、南方諸国の方々を相手とするとき、色について、黒、濃紺のかわりに、純白色を使うこととなる。
- 女子のシビル服の体系は、おおむね、次表のようになる。
女子シビル礼服体系
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正装のとき、パーティへの行き帰りなどには、絶対に立食レストランに入らないし、食べたりしないこと。
【通解】まだ、不文律は、厳しい。
- 日本の女子が、外国に旅行してみても、服装について、とやかく、いわれない。
これは、「旅行者は、平服でゆるす」という不文律のあることによっている。
で、居住者として、欧米社会に、1歩、足を踏み入れてみると、けっこう、まだ、細かい服装規定が、不文律として、厳しく守られていることに気付くのである。
- 一方、日本では、つぎつぎとニュー・ファッションが開発されて、けっこうなのであるが、どういうものか、女子の洋装でのこれら「不文律」を無視しすぎたデザインがあって、着る者が、それら「不文律」を、いちおうなりと知っていないと、みずからを道化役者にすることになる。
たとえば、婚礼によばれて、和服を着て行くとき、いかに、伝統にとらわれないニューファッションによるとは申せ、「ゆかた」に下駄履きで出かけて行く者はあるまい。
洋装にも、似た問題がある。
- ここでは、女子礼服について眺めておく。
- そのあと、日常服の場合をこめて、女子洋装作法での「これだけは……」を列記しよう。