第4章 美容と服装
◆第19節 オーバー・コートなど
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第19節 オーバー・コートなど
【型1】襟を立てるな
- オーバー・コート、レイン・コートなど (以下、「コート」と呼ぶ) の襟を立てて着用しておられるものでない。
「よた者」 と見なされる。
襟を立ててよいのは、寒風の強いときと、降雨中、傘のないときだけ。
コートのポケットには手を入れておいてもよい。
- しかし、街中でも、首が寒い。
そのとき、マフラーをされよ。
マフラーは、どれほど、高く巻かれてもよい。
マフラーによって、ワイシャツの襟が、まったく、かくれてしまってもよい。
【説明】
第2次大戦前、マフラーは、コートの襟の上 1cm ぐらいまで出ることを作法としていた。
現在は、そういうこともない。
【型2】マフラーの巻き方
マフラーの巻き方は、まったく、自由であるが、大人は、氷上でない以上、長いマフラーでも、その尻尾を、オーバーのそとに、ぶらさげておられるな。
【型3】ベルトの処理の仕方
- トレンチ・コートなどは、腰ベルトを締めるようになっている。
日本人は、しばしば、このベルトの端を、下に垂らしている。
このことを注意されよ。
- ベルトを締めたくないときは、ベルトをすっかり、はずしてしまうか、ベルトの端を、横脇のポケットに入れるかしておられよ。
- オーバーのベルトを、正式に締めたにかかわらず、ベルトの端があまって、下に垂れることがある。
5cm 以上のベルトの垂れを恥と思われよ。
- そこで、垂れ止めのため、ベルトに補助輪をはめるなど、自分で工夫されよ。
- バックルの位置は、左右の中央とすること。
バックルのない、つまり、ヒモ式のものも結び目は左右の中央とされよ。
- その他、袖口のベルトなども、とくに、固く締める必要はないとして、ダラッと、ぶらさげたままにしてはならない。
- 現代日本の青年には、腰ベルトを締めたとき、オーバーの前後のしわののばし方を知らないものが多い。
オーバーのベルトを締めてから、両脇の下に、すベてのしわを集めてしまうこと。
【型4】訪問先でコートを脱ぐ場所
- 日本では、古来、「かっぱ」 類を脱ぐのを、先方の家の外としてきたが、欧米で、コートを脱ぐのは、先方の家に入ってからである。
で、日本でも、現代では、欧米式でよい。
- 日本式住宅で、靴を脱ぐと、すぐ、たたみ敷きを踏む場合……屋内であるが、靴を脱ぐ直前に、コートを脱ぐ。
- 日本式住宅で、靴を脱いでも、スリッパを履くことになるか、または、素足で、じゅうたんの上を歩くことになるかする場合と、洋式住宅で、靴を脱ぐことなく、応接間に入るようにされている場合……コート掛けが、玄関かロビーか応接間の一部にあるので、その前で脱ぐ。
ただし、応接間に入っても、コート掛けのないときは、応接間の中で、脱ぐ。
- 大部屋の事務室の場合……事務室に入ったところで脱ぐ。
【型5】ホテルでのコートを脱ぐ場所
- ホテルで宿泊するとき、フロントで、フロント・クラークと話をする直前にオーバーを脱ぐのが、紳士・淑女である。
先に入泊している客たちへの新入泊者としての作法を兼ねている。
- しかし、このとき、フロント・クラークが、「どうぞ、お部屋で、おとりください」 と言ったならば、「それでは、失礼いたします」 と申して、着たままで、レジストレーションを済ませ、ルームに到着してから、コートを脱いでもよい。
- 食事、宴会、面接のため、ホテルに行ったときは、クロークのあるかぎり、クロークでコートを脱ぐ。
- 食事、宴会にホテルに行ったが、クロークのないとき、レストラン、宴会場の入口に入る直前で、コートを脱ぐ。
- 面会にホテルに行ったが、クロークのないとき、ロビー、ラウンジでの面会ならば、そこで、コートを脱いで、手に持ったまま、イスに腰かけて、相手の出てくるのを待つ。
- また、相手の部屋を訪れるときは、その部屋をノックする直前に、コートを脱ぐ。
【型6】コートの脱ぎ方
- コートを脱ぐとき、コートに、腰ベルトの付いているときは、腰ベルトの端をコートの脇ポケットにつっこまれよ。
ベルトを、だらりと下げたままで、おられないように。
- つぎに、前ボタンを、すべて、はずし、コートのポケットに入っている品物のうち、上着に移したほうがよい物を、ゆっくりと、上着に移されよ。
- もし、そこに、出迎えの人がいれば、だいたい、その人のほうを向いて、これらを行われよ。
- コートを脱ぐときは、だいたい、相手の中の主たる人のほうを向いて、脱がれよ。
(コート着脱の手順として、上着の着脱参照)
- 相手が脱がしてくれるというときは、まず、相手に、ほぼ、正対して、一礼し、それから、背を向けて、脱がせてもらい、そのあと、脱がしてくれた人に正対しないまでも、一礼し、それから、相手の中の主たる人に、しずかに正対して、コートのあと始末をされよ。
【説明】
- ヨーロッパ(その延長としてはアメリカ)の風習として、相手に背を向けるのは、つぎの場合である。
- 日本でと異なり、相手にわからぬよう、刃物などを手に持ちなおすとき。
(日本では、戦意がある以上、うしろを向いたりしない)
- 日本でと同じく、相手を嫌うことを表現するとき。
- 日本でと異なり、相手に対し、失礼な行為をしなければならないにつき、それを、ものかげで行なうかわりとするとき。
(日本では、古来、これを、しゃがんで行なってきた)
- で、日本の作法で、相手に、うしろを向けることはないが、欧米の場合、作法上も、前 c. の場合に、相手に、うしろを向ける。
- それだけではない。前 a. について、危害を及ぼそうとする意思のないことを示すため、普通、相手に、うしろを向けてするのが自然なことを、わざわざ、相手に向かって行なうという型がある。
コートや上着の着脱を、相手に向かってするなど、その例と申せよう。
(しかし、ズボンの着脱となると、相手に背を向けてする )
- こういう点で、欧米作法は、日本作法より、相手に、警戒心を起こさせないための動作が多く、それだけ、まだ、殺ばつたるベースに立っていると言える。
- では、コートや上着を着脱するとき、そのような殺ばつたるベースに立つのをやめるため、相手に背を向けて行なったものとしよう。
すると、前 b. の相手を嫌うことの意味を生じてしまう。
【型7】ハンガーの使い方
- ハンガーの形は、さまざまであるが、標準型は、上に大きく、下に小さく、2本の枝を出している。
この上の枝には、ステッキ、傘、帽子、下の枝には、上着、オーバー、レイン・コートと、掛けるのが約束である。
- 上に掛けるものがなくとも、下に掛けるものを、上には掛けられるな。
なぜ、そうなるかは、美観上の約束であって、ジンクスはないようである。
- 日本人は、すぐに、このハンガーに、カバン、袋をぶら下げたり、上に横長に、紙筒を置いたりする。それをされないこと。
【型8】コートを掛ける場合の順番
- 日中……部屋の光の当たり具合によって決まる。
暗い所から、明るいほうへ掛けてゆく。
夜………部屋の右側から、左側へと掛けてゆく。
205、6号教室の場合
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「教室の左側の前」と「真うしろ」の2箇所に窓がある。このため、次のような掛け方となる。
日中……BからA
DからC
EからFへ
夜………AからB
CからD
EからFへ
と掛ける。
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【型9】コートの掛け方
- コート(上着もそうであるが)をハンガーに掛けるとき、前のボタンを、かならず、1つは掛けられよ。(ずり落ちないために)
- 掛けて見て、左右の襟が、上下、不揃いとならないよう、きちんと、整えられよ。
- ハンガーを掛ける場所が、壁面であるとき、コートの前を、壁でないほうに向けられよ。
- もし、腰のベルトが、外に垂れ下がったままであれば、かならず、その端を、脇ポケットの中に入れておかれよ。
【説明】
- 日本では、欧米作法と言えば、ラフなものと思って眺めているフシがある。
たしかに、土足で、家の中に入るくらい、欧米作法は、ラフである。
- しかるに、欧米作法は、いくつかの点で、はなはだ、細かい。
その細かさを、欧米人は、あまり、作法的でない人たちまで、よく、守っている。
- その例が、このコートや上着をハンガーに掛けるとき、いびつに掛けないということである。
脱いだ靴の左右をそろえておくということも、その1つ。
机上を散らかしておかないということも、その1つ。
ドアを、半開きにしておかないということも、その1つ。
鉢植えの木を、めったに枯らさないとか、もし、枯らしそうなときは、誰かに、その植木を移譲して、あとを頼むといったことも、その1つ。
【型10】コートを自分でたたむこと
コートを脱いだとき、そこにクローク・ルームかハンガーのあることがよい。
しかし、日本では、机上に置かされることが多い。
このとき、それを自分でたたむため、相手を待たせていれば、相手の身に危険を生ずるといった特殊の場合をのぞき、かならず、ゆっくり、ていねいに、たたまれよ。
【説明】
このことは、車を降りた者が、かならず、車のドアを正確に閉めることと同じに考えられよ。
【型11】コートのたたみ方
- たたんだ長辺が60cm未満となることが願わしい。
これは、置く台のタテ巾を、最短45cm と見ての準備である。
もともと、コートは、たたむように設計されていない。
それを無理に、たたむのである。
- 襟を立てること、裏返すことなどの必要はあるまい。
- ただし、相手のほうに、クローク・ルームがなく、こちらが、毛皮など、高価なコートを着て来たとき、まわりの人々に、その高価さを示さない心使いとして、裏返して、たたまれるのは、よい。
- 長さ120cm 以上あるコートのときは、3つ折りにしたい。
- 3つ折りにするときは、Z型がよい。
上図のうち、右図のほうが、一見、だらしなくない。
しかし、クローク係や自分が、急いで、コートの襟首をつかんで引いたものとしよう。
すると、高いクローク台から裾の落ちるとき、コートのポケットの中のものが、すべり出して、床に落ちたりすることが多い。
で、上図の左側のように、たたんで置けば、襟首をつかんで引いたときも、事故が少ない。
【型12】クロークのしっかりしていないところでは
- ホテルのクロークで渡すとき、襟首が、クローク係側でなく、こちら側になるよう置くと、ポケットの中の品物が落ちにくい。
クローク係にも、けっこう、仕事馴れしていない人物が多いのであるから。
- レストランなどで、クローク・ルームがあっても、クローク係のいないことがある。
このとき、こちらとして、コートを、クロークで脱ぎ、たたみ、レストラン・キャッシャーか、レストラン・マネジャーのところに行き、「クロークをお願いします」というのが作法である。
食卓にコートを持って着席されないように。
- クローク・ルームのないレストランのときは、入口で、コートを脱ぎ、手に持って入り、自席の背中に、コートを2つ折りにして、掛けられよ。
イスの背中に、コートを羽織らせるようにして掛けられないこと。
欧米でも教養のあるなしの識別の1つとされている。
- また、こうして、コートを手に持って入ったところ、食卓のイスが、背のないストールであったときは、公然とウェーターに、「コートをあずかってください」と手渡すのが作法である。
- それを、あずからないレストランであれば、改めて、コートを着装してから、着席しなおされよ。
このようなレストランが、かならずしも、サービスの悪いレストランとは申せない。
たとえば、エア・ターミナル・ビルのレストランのことを考えてみられよ。
【型13】手袋をしまうところ
- 手袋をしまうところに、約束はない。
- が、コートのポケットに、ほかのものといっしょに入れるや、その、ほかのものを出したとき、手袋を、下に落としやすい。
- で、わたくしは、コートの内側に、手袋専用ポケットを付けている。
- マフラー入れも同じであるか、それらのポケットの口を、ゴム紐で、いくばく、しぼってあるので、手袋などか、落ちにくい。
ご参考までに。
【説明】
これらの専用ポケットの便利さは、海外に出かけたとき、いっぺんにわかる。
【型14】マフラーのとり方・しまうところ
- オーバーを脱いで、とりあえず、無雑作に、片手に持ち、それから、首のマフラーをはずしにかかられよ。
着ているコートの前だけを開いて、マフラーをはずすのは、日本人のよく行なう形であるが、感心しない。
- マフラーをはずすとき、マフラーの片端を持って、引き抜くのでなく、マフラーの首にあたるあたりを持って、頭をくぐらせ、はずされよ。
【型15】マフラーのたたみ方
- はずしたマフラーは、元来、長いまま、オーバーの片袖の中に、はめ込んでおく約束になってきている。
が、このようにすると、そのあと、よく、マフラーが、抜け落ちる。
そこで、マフラーをたたんで、オーバーの内ポケットにしまうのがよい。
- オーバー・コートをハンガーに掛けるとき、コートの上にマフラーを重ねて、掛けないこと。
【型16】室内でのオーバー・コート
- 目上から、すすめられる以前に、目上のいる室内で、オーバー・コート、レイン・コートを着用しては、ならない。
- 「どうぞ、ここで、お召しください」 と、2回、勧められたときは、たとえ、着たくないときも、付き合いの意味で、着られよ。
【型17】訪問先でコートを着る場所
- 訪問先で辞去するにあたり、コートを着る場所は、先方の家の中でよい。
問題は、その屋内の、どこで着るかということ。
- 相手がコートを着せてくれるというときは、どこであろうと、そこで着るのがよい。
- 相手がコートを持って来てくれただけのときは、それを受け取っておき、そのあと、立ちどまったところで着るのがよい。
- ただし、クローク係から受け取ったコートは、その場で着る。
- 大邸宅では、先方の主人が、玄関まで送ってきてくださり、そこで、その家の人が、クローク・ルームに入り、こちらのコートを出して来て、クローク・カウンターの向こうから、コートを手渡してくれるようなこともある。
こういうとき、その先方の主人が、よほど、やんごとなき方でないかぎり、こちらは、そこで、コートを着てしまってから、その主人に、別れのあいさつをすればよい。
- 相手が、コートを持って来てくれなかったとき、自分のコートを、手にとったならば、相手が「お召しになってください」といったところで、着るのがよい。
- 相手が、とうとう、なにも言わないときは、いよいよ、外気にあたるという直前に着る。
ただし、外気にあたる直前でなくとも、相手の専用空間でなくなれば、着用してよい。
【説明】
相手が「お召しになってください」という着用のすすめを固辞するのは、かえって、失礼となる。
【型18】コートの着方
- 相手が、「お召しになってください」と言ったとき、こちらは、ゆっくり、はっきりと、相手の顔を見、スマイルのうちに、「失礼申し上げます」 と述べ、それから、おもむろに、コートを着られよ。
- コートを着るとき、たとえ、相手が着せてくれた場合でも、そのあとは、相手のほうに正対して、着られよ。
- コートを着せてくれたのが、送ってくれている人たちの中の主たる人物でないとき、そのあと、こちらは、主たる人物のほうに正対して、コートを着られよ。
- マフラーもつけるときは、マフラーが先であり、それから、コートである。
- マフラーをつけるあいだ、コートは、手に持ったまま、行われよ。
それを、形よく行なうため、鏡の前で工夫、練習されよ。
コートを置く台でもあれば、そこにコートを置いて、マフラーをつけてよい。
- オーバーを着るとき、上体がグラグラしないように、足を、よく、踏まえて行なうこと。足を開いていて、よい。
- 日本人は、とかくに、せかせかと着るが、相手が寒い中で見送っていようが、はなはだ、ゆっくりと、確実な動作で着るのがよい。
- 相手を待たせてはわるいと思い、コートの前のボタンを、きちんと、はめなかったり、腰ベルトのように、時間のかかるものの両端を、コートの両脇のポケットに入れたままにされる方がある。
これらは、かえって、失礼なのである。
すべて、その着装の場で、完全な形に着てしまうのである。
- 誰も見送りに来ないときは、コートが掛かっている所で着られよ。
その時は、コートの掛かっていた方を向いたままで着られよ。
【型19】手袋をはめるとき
- 手袋は、相手と別れて、互いに見えなくなってから、取り出して、はめられよ。
(極寒地では別)
- もし、相手の前で、コートを着るとき、うっかり、手袋が出てしまったならば、その手袋を左手に持って、あいさつもし、別れもし、相手と、互いに見えなくなってから、はめられよ。
(極寒地では別)
- このことは、こちらが、車を運転して去るときも同じである。
ハンドルのすべり止め用の手袋のようなときも、見送っている相手が、見えなくなってから、車を止めて、そこで、着装されよ。
【型20】コート着脱の手伝い方
- 脱がせるときは、あくまでも手伝うのみであり、無理に脱がせるようにならないこと。
- 着せるときは、コートの両肩を持ち、相手がさし出したほうの腕に、さきに袖をとおしてあげられよ。
- 相手が両腕に手をとおしたならば、コートを肩まで持ち上げ、相手が着やすいようにしてあげられよ。
【型21】コートの持ち方
- コートを着ないで、携帯しているとき、行なってならないのは、肩にかつぐことである。
このように、肩にかつぐことの許されているのは、軍人、警察官などが、隊列行進するときだけである。
日本でも、印半纏(しるしばんてん)は、肩にかつぐことがあった。
しかし、羽織を肩にかついだのは、ばくち打ちだけであった。
現代日本では、どういうものか、若いホテルマンがコートを、肩にかついで、よいつもりでいることがある。
- コートを持って立っているときと、歩くとき、きちんと、たたんで、前腕にかけられよ。
- このとき、オーバーの襟上か、裾のいずれかが、長く、さがらないよう注意されよ。
- また、このときは、肱を張られてもよい。
- また、このとき、コートを持った前腕を前に出したり、開いたりされてよい。