第13節 上着
【型1】裾さばき
据の長い上着を着た男子は、イスに座られるとき、上着の裾を、うしろ左右に、はらわれること。
【型2】上着の着脱
- 男子は、スマートで迅速な挙動をもって、上着を脱ぎ、また、着ることを練習されよ。
- その要は、 上着の裾などで、まわりにある物を、ひっかけないこと、
素早いこと、 動作外観が見ぐるしくないこと。
以上、
の順序に重要。
- この着脱方法には、何種類かがあるが、つぎに、1つの型を、掲げる。
ここでは、右利きの方の場合で述べるが、左利きの方は、すべて、この左右を逆に行われてよい。
《上着を脱ぐ》
- 上着の前のボタンをはずす。
- 左右の襟を、それぞれの手で持つ。
- 上着の右肩を、はずす。
(体を、ねじりながら行なうと、はずれやすい)
- 上着の左肩を、左肩からずらし、上着の左襟を、身体の左肩の上にのせる。
(これは、次の動作で、上着を、ずり落とさないようにするためである)
- 左腕を、左袖に通したまま、左腕を後ろに回わし、左指で、左袖口と右袖口をつまむ。
- 身体を、捻じり、右腕を、右袖から、抜く。
- 左手の指で、左右の袖口をつかんだまま、その手を、身体の前に持ってゆく。
- 右指で左袖口と右裾口をつまむ。
- そして、左指を、左右袖口からはなす。
- 右手で両袖口を右に、もってゆきながら、左袖を、左腕から抜く。
- 左手で、垂れ下がっていた上着の襟の中央を持つ。
- 両袖口を、持っていた右手から離す。
- 右手の人さし指と親指で、上着の左肩をはさむ。
- そのまま、右手の中指と人さし指で、右肩をはさむ。
(上着は、上方から見たとき、W字型になっている)
- 上着の襟側を身体の中心に、向きを変える。
- それを、左手の前膊にかける。
- このとき、上着の襟側は、身側の中心側に向いている。
また、このまま、立っているときは、前膊と上膊を、90°の角度にたもつ。
- ズボンの後ろからワイシャツが、はみ出していないか充分に注意されよ。
《上着を着る》
- 右手で、上着の襟上をつかむ。
- 右手で、左肩へもっていきながら、左腕を、上着のアーム・ホールに通す。
(このとき、左袖のねじれに注意)
- そのまま、首のつけ根まで、持ってゆく。
- 上着を、つかんでいた右手を、離す。
- 右手を、首の右側から、後ろに回わし、上着の右襟の上部を持つ。
- そのまま、上着の右肩が、身体の右肩の上にくるまで、持ってゆく。
- 右手を、少し上部に持ち上げる。
- 右手で、持っていた襟を、左手に持ち変える。
- 右手で、アーム・ホールをさぐり、右手首まで、入れる。
- 左手を、右襟からはなす。
- 右腕を、しごきながら、右袖に通してゆく。
(このとき、左手で左襟を持つ)
- 左右の襟を、それぞれの手で持ち、上着の肩、襟、胸との、なじみをつける。
- ワイシャツの襟、ネクタイとのなじみをつける。
- 左手で、右袖口を持ち、右腕とワイシャツと上着右袖口のなじみをつける。
- 右手で、ワイシャツの左袖口を持ち、同様のことをする。
- もういちど、両手で、両襟を持ち、上着の上半分と身体とのなじみをつける。
(背広は、肩と胸で、着るため、なじみをつけることが大切である)
- 上着の前ボタンをかける。
- 上着の着せ方
- 互いに軽く会釈をする。着せてやるほうは、「どうぞ、上着をお召しください」と言い、着せてもらう方は、「おそれ入ります」と言う。
- 着せてもらう方は、相手が着せてくれるような素振りをするまで、その相手の方を見ておられよ。
さっさと後ろを向いてしまわないように。
- 着せてあげるとき、両上襟を持って、片袖から、ちぐはぐにアーム・ホールに相手の両手を入れてやる。
次に、それを上に押し上げて、前の方に押しつける。
- 着せてもらった方は、c. が終わり次第、着せてくれた人物の方に振り向き、お礼を述べる。
【参考】
招待を受けて、帰ろうとする場合に、上着を着せてもらう場合がある。
このとき、着せてくれた方へのお礼と、招待主への挨拶とをしなければならない。
この場合には、上記の a.〜d. までのことを終えてから、ただちに、招待主の方を向き、ボタンを止められよ。
それから、挨拶をして、帰られよ。
【型3】上着の下のボタン
- シングルのセビロを着用したとき、上着の、いちばん下のボタンを、はずしておられよ。
- ただし、起立したとき、このボタンをはめないと、ズボンの上のワイシャツやネクタイが上着の下からチラつき、だらしなくなる。
- このボタンをはめる動作は、人前で行なってよいが、そのとき、下を見ずに、ボタンをかけられよ。
【参考】
古代中国語で、「要」と「領」は、それぞれ、右図の位置を言った。
要とは「腰」である。
はじめに、要領2点をつかめば、上着が、たちまちに、たためる。
で、「要領をつかむ」という言葉ができた。
「要領がよい」というのは、そのくずれた表現である。
さて、現代でも、上着を着た人物を、ななめうしろから見た姿を美しくしようとするならば、ここでも、まず、この「要」と「領」を、すっきりしたものにすることが、コツである。
諸君は、まず、この「要」「領」2点について、その美化を工夫されよ。
【型4】ブラシをかけよ
男女とも、上着の肩に、フケがつき、また、上着、ズボンに、ちりが付いていることを戒められよ。
【型5】上着の掛け方
- 上着をハンガーに掛けるとき、左右、ゆがみなく、掛け、ハンガーも、ゆがみなく、下げられよ。
(ハンガーの中心垂直線と上着の背すじを一致させる)
- このとき、両袖を、はっきり、のばされよ。
- これらのことを、スマートに、機敏に、されよ。
【型6】上着のたたみ方
《そのまま型》
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上着の両肩を、まとめて、右手でつまみ、つぎに、右手のかわりに、アゴで、押える。
右手で を折る。
両手で を折る。 |
《裏返し型》
はじめに、机上に、上着の外側を向けて置き、平らに、のばす。
つぎに、袖を、上着の背中のまんなかのタテの線にあわせて置く。
つぎに、 を折る。
つぎに、 を折る。
これを、上下2つ折りまたは3つ折りにする。
上着を、スーツ・ケースに入れるときは、この方法がよい。
また、机がないとき、胸・アゴでおさえておこなう。
そして、3つ折りのとき、襟を中に入れる。
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《裏返し袖とおし型》
はじめに、片方の袖を裏返しにし、図のようにする。(このとき、襟を立てる)
つぎに、裏返してない袖を、裏返した袖の中に入れ、このとき、下の方から引っぱる。
そして、袖をそろえる。
つぎに、左手で、前みごろをそろえ、前みごろを、左手で持ち、背中の中央線にあわせて、2つ折りにする。
これを、上下2つ折りにする。
このとき、袖口が内に入るように注意して、折りたたむ。
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- セビロの上着をたたむということは、本来、無理なのであるから、ふんわりと、やっておかれよ。
- 机上、その他に、上着を置くとき、すばやく、たたみ、きちんと置かれよ。
- たたみかたは、上着の仕立てかたによって、異なるものであるから、上着ごとに、そのたたみかたを定めておかれよ。
裏返しに、たたんで、人前に置くことは、失礼でない。
【型7】たたんだ上着を置く場所
- 上着をたたむということは、上着を掛けるイスの背やハンガーがないからである。
したがって、たたんだ上着は、どこかに置かなければならない。
- 以下は、オーバー・コートなどについても、同じである。
- たたんだ上着は、それを置くべき棚のないとき、公然と、机上に置いてよい。(ただし、食卓の上は、いけない)
- ところで、その机もないことがある。
このとき、日本でと異なるのは、欧米の場合、平気で、部屋の中の床のすみに置くということ。
この感覚は、日本人に、ピンとこない。
つまり、かれらは、土足で踏むくせ、床というものを、きたないところと考えていない。
それだけに、床の上をピカピカに磨くのであり、ゴミを落としたりしないのである。
- もし、これが、屋外であると、どうするのかと言えば、草の上に、たたんだ上着を置くのである。
- とうとう、草もないときは、土の上に、そっと置く。
- 上着はボロと同じである。
上着は、元来、寒さを防ぐためにまとって、そのまま地面の上に寝るためのものであった。(地面が乾燥して草が多い)
現在も、このような考えが残り、上着をボロ布と同様に見なし、平気で地面や床の上に置く。
【通解】襟を立てる
もともと、チョッキでもシャツでも、一切、襟というものはなかった。
そして、襟のないかわりにキレを、首にグルグル捲いた。
この流儀は、かなり昔からあった。
そして、ルイ14世の時代に、それがカルバットという名前になって、より儀礼的なものとなった。
そのうち、オーバー・上着・チョッキ・ワイシャツの順に、襟というものが出てきた。
カルバットは襟の内側に捲くようになる。
その後、フランス革命がきて、襟の外側にカルバットを捲くようになり、これが革命軍のしるしとなった。
襟をねかせるというのは、1900年代に入ってからであり、だいたいにおいて、アメリカ風である。
こん日では、これを、カッター・シャツといい、襟は最初からねかせてある。
しかし、襟を立てて着るという長年の習慣があるため、彼らは、カッター・シャツの襟を、なにげなくヒョイと立てるのである。
【型8】上着の置き方
- 人の上着の上に、自分の上着をのせないこと。
たいへん、失礼とされる。
- きちんと、上着を並べて置くこと。
- しかし、上着には、大小があるし、形も違う。
このとき、手前側のフチの線をそろえるのである。
- 上着と上着のあいだを、あけないこと。
【型9】ポケットをふくらませるな
正式の場では、上着の両脇のポケットに、ふくれが認められるほどに、物を入れられるな。
【説明】
どういうものか、欧米では、ポケットのふくれを、すこぶる、いやしいと見る。
ただし、正式の場で着るものでない、アウト・ポケットの被服(ブレザー・コートなど)では、逆に、平気で、物を入れて、ふくらませている。
ひどいばあい、新聞紙まで、つっこんでいる。
【型10】ポケットの中の物音
男女とも、正式の場に出るときは、3遍、跳び上がってみて、上着、ズボンなどのポケットのなかの物同士が、ぶつかる音がしないかを確かめられよ。
【説明】
- 音楽でない音を嫌う。
- いちばん嫌うのは、コインの音。
ところで、欧米のコインは、どういうものか、ズボンのポケットに、はだかで投げ込んでおいても、音がしない。
日本のは、する。
日本のコインは、やはり、財布に入れて持っていなければならない。
- キーの音は、やや、嫌う。
ことに、ホテルマンは、キーをいっぱい持って歩いている。
なやましい。
【型11】上着を着ないとき、上着を手に持て
学校へは、元来、上着を着てくるものであるから、教室内で先生に許可を得て上着を脱ぐことはよいが、教室では、トイレに行くときでも、または、暑いときでも、上着を着るか、ちょっと手に持っておくか、されよ。
屋外では、町にでるとき、上着を手に持つが、公園、野原、体育施設、ゴルフ場、遊園地へ行くときは、上着を持つ必要はない。
また、馬車から、乗用車から、バスから、ちょっと屋外に出るとき、船のキャビンから、甲板に出るときも、上着を手に持って出なくてよい。
そういう習慣。
【型12】ポケットのふた
ポケットのふたについて、正式な場合には、ポケットの中に入れず、外に出すこと。