第4章 美容と服装 ◆第12節 くずし着の方法
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第12節 くずし着の方法


【通解】
  1. Town Wear と Casual Wear では、場合によって、「くずし着」が、許される。
  2. その場合とは、つぎの場合。
    1. 気象条件によって
    2. 発汗はなはだしいために
    3. 健康上の必要によって
  3. で、許されるべきでない場合とは、本人の好みによる場合である。
    たしかに、これらは、ダダイズム、フォービズム、自然主義などでの考え方であって、一連の文化類型ではあるが、それを、人々の前に押しつけることについて、考えなければならない。
    学生たちだけで、共同作業を行なっているときなど、注意の要ることである。
  4. くずし着の許される場合のうち、ここでは、
    1. 気象条件によって
    2. 発汗はなはだしいために
    についてのみ考えておこう。
  5. で、このとき、許される「くずし方」とそうでない「くずし方」がある。
【型1】靴は、くずして履くな
  1. 靴のかかとをつぶして履いているとか、靴紐のほどけたまま履いているといったことは、教養ある者のすべきことでない。
  2. 靴もいたむし、まわりから見ていても、不愉快である。
  3. よく、忙しいために、こういう姿に陥りやすい。
【型2】ズボンとスカートをくずすな
  1. 当今の日本では、女子が暑いからといって、スカートを膝までまくり上げていることがある。
    また、男子が、ズボンの裾をまくり上げていることも、夏期に多い。
    これらを、欧米人は、すごく、嫌う。また、軽べつする。
  2. そのかわりに、半ズボンやショート・パンツというものもある。
  3. ズボンをずり下げてはいているとか、太ってきて、前があわなくなったからと言って、前のボタンをはずしてはいているのは、男子の合宿のときなど、日本では、よく見かける。これも困る。
  4. カネのかかる話であるが、寸法のあわなくなったズボンは、すぐに、仕立てなおしをされるように。
    (この点、和服の袴は、ズボンより進歩した被服である )
【型3】ワイシャツでの注意
  1. ワイシャツに、ノー・ネクタイで前を次図のように、第2ボタン、第3ボタンまで、はだけていることは、ことのほか、慎まなければならない。
    図:ワイシャツ
    どうしても、こうしたいときは「開襟化」すること。
  2. 日本のホテルでは、従業員が、従業員食堂に行くときとか、あけ番で、職服を着がえに行くときとかに、次図のように、ネクタイを、だらりと垂れて歩いておられることがある。
    図:ネクタイ
    これは、日本のホテルの裏方独特のサマであって、欧米のホテルには、このサマがない。
    どうしても、こうしたいときは、「開襟化」すること。
【型4】ワイシャツの腕まくり
  1. 目上がいて、上着を脱ぐようにされているとき、目上から勧められる以前に、ワイシャツの腕まくりをされてはならない。
  2. ワイシャツの腕まくりをするとき、きちんと、たたみ上げられよ。
    これを、静かに、素早く、行なうためには、練習が要る。
    図:腕まくり

  3. ワイシャツの袖は、腕まくりしやすいように、設計されよ。
  4. 腕まくりしたとき、肱が、しっかり出るまで、まくり上げられよ。
【型5】ワイシャツの開襟化
  1. 日本のように、湿気がつよく、そうして、満員電車の中が、すごい熱気となるといった場合。 図:ワイシャツ
    1. 上着をとり、
    2. ワイシャツの第1ボタンのみをはずし、
    3. きちんと、開襟状態とし、
    4. ネクタイをたたんで、ワイシャツのポケットにしまっている形をとる。
      (ネクタイを胸から三角形に出していることによって、「ノー・ネクタイで失礼いたします」というあいさつになっている。そういう約束のもの)
    図:よくない例
  2. ただし、ホテル、学校などに、そのまま、入っていってはならない。
  3. また、ワイシャツを開襟状態にしたまま、上着を着ていてはならない。
【型6】ネクタイをはめて、あいさつ
  1. ネクタイを外していて、目上と、わかれるときは、静かに、すばやく、ネクタイを、はめたのち、別れのあいさつをされよ。
    この練習が要る。
  2. その、いとまのないとき、ネクタイを右手に持って、あいさつされよ。
【型7】代表者としての注意
  1. 自分が目上であるときは、そのところの代表者として、目下の者に、上着を脱がせたり、ワイシャツの腕まくりをさせたり、ネクタイを外させたりすることについて、気を配られよ。
  2. その際、自分よりも上位の者(客を含む)が入って来る可能性があるとき、みずからは、みんなにかわって、上着を着ておられよ。
  3. また、誰も入って来ないと思っていて、上着を脱いでいるとき、ひょっこり、上位の者(客を含む)が入って来てしまうことがある。
    このとき、目上が上着を着ていたならば、一礼し、静かに上着をつけ、ボタンを、すべて、はめてから、その上位者(客を含む)に礼されよ。
    この順序をおぼえておかれよ。
    ただし、ワイシャツの腕まくりをしていたときは、ワイシャツをなおさないまま、上着を着てよい。
  4. また、その際、目上が「そのままで」という形を示すならば、一礼して、そのままでおられてよい。
  5. が、このとき、上着を着ず、腕まくりしていて、しかも、この目上が5分経っても、まだ、いるならば、だまって、そっと、腕まくりをなおされよ。
  6. 以下代表者でなくとも、いえることであるが、まず目上や客より先に上着を脱がれるな。
  7. つぎに目上や客が、上着を脱いでいても、こちらは、上着を脱がれるな。
  8. しかし目上や客が、「上着を脱ぎたまえ」といったとき、始めて、脱がれよ。
    そのときは、その目上や客が、脱いでいないときでも差しつかえない。
  9. さて、その目上や客と別れるときは、その目上や客が、上着を着ているかぎり、こちらは、急いで、上着を着てから、別れのあいさつをされよ。
  10. また、正式の場で、目上から、上着を脱ぐなど、服装をゆるめることを勧められて、一同、そうしているときも、一同の前で、話をしたり、あいさつをしたりする者は、かならず、服装を整えたのち、それらをされよ。
    このことが、わざとらしくなく、行なえるよう、練習されよ。
  11. そのあと、自席に戻って、ふたたび、服装をゆるめるのは、戻って、5分以上、経ったのちとされよ。
    自席に戻るや、ただちに、服装をゆるめると、その動作が、反抗的なものに見えてしまう。
【型8】袖とおさずのはおりはヤクザと娼婦

上着やカーディガンやオーバー・コートなど袖を通さずに、はおっていることは、寝室の中でだけ、許される。
または、雨の中を傘がわりにかぶって行くときだけ、許される。
このことを、日本人の多くは、知っていない。

【参考】
  1. 昔、洋服の前あわせは、すべて、ボタンでなかった。
    いまでも、擬古的に、そのように作ったものがある。
    図:73
  2. AD1215年ごろ、ヨーロッパで、ボタンが使われはじめたが、はじめ、ただ、胸とか袖とかに、いくつも、とりつけて、よろこんでいた。
    つまり、ボタンは、たんなる装飾品として発生した。
    ボタンを、ボタン孔にとおして、布と布をつなぐために使うというボタンの実用化は、1300年代の初めころからである。
    要するに、ボタンは、装飾品として発生し、こん日でも、かなり、そうであるということ。
  3. そこで、洋服の仕立屋さんは、不必要のところにも、ボタンをつけて、「飾りボタン」とする。
    そのうえ、しばしば、単に装飾用のボタンが、あたかも、実用上役立つかのように、ボタン孔を、対応させておくといった、凝ったことをする。
  4. たとえば、2つボタンのセビロの下のほうのボタンが飾りボタンの代表例であろう。
  5. そこで、洋服を着る人は、洋服ごとに、どれが「飾りボタン」か、知っていなければならない。
  6. で、以下は、こういう「飾りボタン」でない「実用ボタン」について考える。
【型9】はずしていてよいボタンは
  1. 実用ボタンをはずしているならば、その全部をはずしていることだけが許される。
    そうしないと、ヤクザか娼婦と思われる。
    ただし、イスやベッドで、眠るときは、この限りでない。
  2. 実用ボタンの全部をはずしてよいのは、目上の人がいなく、かつ、「打ちくつろいでおります。お気軽に、お話しかけください」と無言のサインをするときだけである。
【参考】

日本人が、羽織(はおり)を着るようになったのは、だいたい、1300年代からである。
室町時代。その以前には、うちかけと陣羽織があっただけであった。
うちかけや陣羽織は、いわば、外套にあたり、寒いときだけ着た。
これが、室町時代以後の羽織となるや、寒いときにも着たが、寒くなくとも、装飾として着たし、あいさつにあたっては、わざわざ、羽織を着るようにすらなった。
ヨーロッパで、上着とズボンが分かれるようになったのは、ずい分と古いが、その上着が、頭からかぶらなくとも着られるようになり、その裾の長さも、腰までに短くなったのは、これが、やはり、1300年代くらいからである。
で、この上着は、寒いときにも着たが、寒くなくとも、装飾として着たし、あいさつにあたっては、わざわざ、上着を着るようになった。
はなはだ、羽織と上着の歴史は似ている。
で、現在でも欧米では、上着について、上記したように、脱ぐのは、無礼講をゆるしあったときだけである。


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