第4章 美容と服装
◆第11節 Town Wear タウン・ウェア
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第11節 Town Wear タウン・ウェア
【型1】タウン・ウェアの用途
- ここに、Town Wear というのは、ある会社の従業員が、よその会社に事務上の打ち合わせのため訪問するときの服装であると思っていただいてよい。
つまり、着飾っていない程度の「訪問着」である。
- このような Town Wear とは、男子ならば、上下、色ちがいでよいし、ワイシャツも、色ものや柄ものでよいから、ネクタイを着用し、サンダルでなく、靴を履いた形である。
- 女子ならば、パンタロンまでということ。
ブーツでもよい。
- 礼服と Casual Wear との中間に、この Town Wear がある。
【参考】
- 私事ながら、わたくしの父は、1910年をはさんで、ヨーロッパに10年近くいた。
クリスティアンでなかったが、誘われるままに近所の人たちと、いっしょに、毎日曜日に教会に顔を出し、それが、絆となって、近所づきあいが、広がっていたようである。
ところで、ある日、この父が、街を歩いていると、むこうから、全身、すすだらけにし、ナッパ服もまっ黒に、汚した煙突掃除人夫が歩いて来た。
その顔も、まっ黒で、誰かわからない。
その煙突掃除が、父のそばまで来ると、ていねいに、父の名を呼んで、あいさつした。
父は、「はて、煙突掃除に、知りびとはなかったがな」と思いつつ、そのまっ黒な顔を、よく見ると、これが、まい日曜日に、教会で、みんなから、寄付のカネを集めている人物であった。
教会では、いつも、りゅうとした服装をし、気品高く、箱を持って歩いていたから、どこかの富豪の子弟か、なにかであろうと、こちらは、思っていたし、その箱に、カネを入れる誰彼も、たいへん、ていねいに、カネを入れていたから、いよいよ、そう見えていたという。
この寄付金あつめ係の本職は、煙突掃除であった。
父は、このとき、ヨーロッパ社会が持つ、東洋社会と異なる2面性を感じたという。
1つは、職業社会としての。1つは、平等な人間としての。
- で、もうひとつ、こんどは、わたくし自身の経験であるが、ある日、ハンブルクとリューベックのあいだの、いわば、郊外ホテルで、昼めしをたベていた。
食事が済んで、別室で、喫煙し、そこに、コーヒーも運ばれてくるというヨーロッパの一般形式の食事であったが、この喫煙室には、3〜4家族の人たちが、同じく、食後を、のんびりとしていた。
わたくしは、タクシーを呼んでもらっていたが、それが、ハンブルクから来るというので、なかなか、やってこない。
そのあいだに、この喫煙室にいた人たちと、話し込む結果となった。
みんな、きちんとした身なりをし、ホテルのダイニング・ルームに出てくるに、ふさわしい形をしていたから、わたくしは、この人たちを、はじめ、カネのある旅行者であろうと思っていた。
が、話してゆくうちに、この人たちが、いずれも、この土地の人たちであり、サラリーマンや農夫であることを知った。
つまり、この日は、日曜で、この人たちは、教会帰りに、ホテルのレストランに、そのまま、くりこんで、家族レジャーのはじまりとしたわけであった。
わたくしは、そのあと、タクシーで走りながら、思った。
どうも、レストランでの客の服装ということのベースには、教会での服装ということがあるな。
教会も、レストランも、そういう服装をする約束の場なのだ。
そうして、教会にも、レストランにも、身分、職業の区別が、ないのだ。
身分がなくとも、カネがなくとも、きちんとした身なりをすれば、ホテルに入って行けるのだ。
ホテルとは、そういう、誰にも開放された、しかし、そういう約束を守る者にだけ、開放された場なのである。
わたくしが Town Wear というのは、こういった服装である。
【型2】
その施設内でのみ、礼服や職服を着用するときも、その施設の出入りに Casual Wear を着用するな
- その施設に到着後、礼服に着替えて、行事に参加するというとき、Casual Wear で、その施設に到着されるな。
Town Wear、それ以上の服装で、到着されよ。
退出のときも、同じである。
- その施設に到着後、職服に着替えて、勤務に就くというとき、Casual Wear で、その施設に到着されるな。
Town Wear、または、それ以上の服装で到着されよ。
退出するときも、同じである。
【説明】
- たとえば、婚礼に出席する者が「どうせ、着替えるのであるから」とばかり、Casual Wear で、礼服を携帯してホテルに飛び込んで行くことは、つつしまなければならない。
- これに似た悪例は、ホテル見学のため、ホテル学校の学生が、そのホテルに集合するとき、Casual Wear を着用し、ブラック・スーツを手に持って、ホテルに、かけ込んでくることである。
- 同じく、親戚の葬儀に出かけて行く者が、Casual Wear のまま、礼服を携帯して到着する例も、日本には多い。
これも、失礼である。
- 日本では、ホテル、レストランに通勤する社員が、素足にサンダルばきで、職場に到着したりしている。
ここには、満員電車の事情のほかにコック、ウェーター仲間としての習慣があるということ。
いわば、昔の職人が、尻まくりで、街を歩いたような。
- 同様にして、ホテル学校に通学する者が、教室で、小礼服に着替えるのであるからということで、通学途中の服装を Casual Wear とするのは、バカな大学生と同じで、たしなみがない。
【参考】
ある実習生は、実習期間中、サンダル履きで、ワイシャツの胸をはだけ、そのホテルに、出勤した。
つまり、そのホテルの従業員が、多く、そうしていたからであり、その実習生が、几帳面な服装をして、通勤しているのを、現場の先輩が、「つき合いにくい」となじったからであった。
が、学校に、そのホテルからあった、その実習生についての勤務評定を見ると、「通勤時の服装不良」と書かれていた。
【型3】職服で外出するな
その施設内でのみ通用することになっている職服で、その施設の外に出られるな。
Town Wear に着替えて、出られよ。
【説明】
自分のホテルの外を、コック服のまま、ウェーター服のまま、歩いている者は、教養を問われてよいし、そのホテルやレストランそのものが、一般から軽べつされてよい。
【参考】
Town Wear にも改まり方に3段階がある。
上 …… 白ワイシャツ、上着ズボン上下揃い、白ポケットチーフ、黒靴
中 …… 色ワイシャツ、上下揃い、色ポケットチーフ、色靴
下 …… 色ワィシャツ、上下色ちがい、色ポケットチーフ、色靴