第2節 贈り物
【型1】贈り物をする時の注意
- 贈り物(おくりもの)をする目的は、贈られる人を喜ばせることなので、諸君が、相手の感情をそこなわせたり、当惑をひき起こしたりするようなものは、避けるべきである。
- キャンディや花、本、レコード、カセットテープのような感情を示さないものを選ぶのが無難である。
- 普通、まだ自分とそれほど親しくない人には、衣料品は贈らないものである。
- 女性への贈り物として、宝石とか香水を選ぶときは、注意深くなりなさい。
これらを贈るということは、その女性に対して恋心を示すこととなる。
【型2】贈り物
- 贈り物は、受け主が、あとになって、誰から貰ったのか、わからなくなるという現実がある。
ある日、あいついで、5組の客を迎え、そのうち、3組から、それぞれ、贈り物を受けた。
夜になって、さて、どの品を、どの方から頂載したのか、わからなくなる。
あるじは客に会うだけで、主婦が贈答事務を引き受けているといった場合、このハテナが起こりやすい。
で、贈り主が、品物に、自分の名前を付けてから、持っていくことが、実際上、1つの作法となる。
- この贈り主の名前であるが、包み紙に、直接に書いたり、包み紙に、名前を書いた紙を貼りつけたりするのは、受け主が、他に「まわす」ことを、できなくすることになる。
で、他に「まわす」気づかいのない物であるときを除いて、この包み紙よごしを、避けたほうがよい。
- では、受け主が、他に「まわす」可能性を、贈り主として、考えるならば、その品には、紐かリボンか、水引きかを、かけることである。
その品を買う店でも、頼めば、かけてくれる。
- で「別紙」の選び方で、贈り主の改まりの程度をあらわすというのが、よいようである。
(ア) もっとも改まったとき……水引きの下に奉書(ほうしょ)
(イ) やや改まったとき…………リボンのあいだに名刺をはさむ
(ウ) ほんの手みやげというとき……ふつうの紐のあいだに名刺をはさむ
- (ア)について、欧米では、リボンのあいだに、小型封筒入りの名刺をはさんである。
- (ア)では、日本での場合、名前を下にして、上に、なにか、文字を書く。
寿、御祝、御霊前、御年賀、御中元、御歳暮、粗品
- (イ)では、名刺に、なにか、書く。
寿、御祝、御霊前、御年賀、御中元、御歳暮、粗品、御機嫌伺い、御隠居さま、
御奥さま、お子さまに、おはやくお召し上がり下さいませ
- (ウ)でも、名刺に、なにか、書いたほうがよい。
粗品、御機嫌伺い、おはやくお召し上がり下さいませ、就任ご挨拶、
おせわになりました、こんどお花見にお迎えに上がります、お寒さご大切に
- なお、(ウ)では、名前を印刷してない名刺の紙……なるべく、和紙とか、特殊の抄(す)き方をしている紙……に、上のようなことばとともに自分の名前も自筆で書くという方法がある。趣味的な味が出る。が、相手による。
- このとき、ピンクの紙を用いると、変に思われるから、注意のこと。
- (ウ)での、わたくしの失敗。親しい友だちに、物を贈るとき、名刺に、つぎのようなことを書いた。
この品物を大切にせよ、こんど飲みに行くぞお、お前はいい男だよ、女房を大切にしろ、はやくガキをこしらえよ、 ゴンちゃんへ
親しいつもりであったが、どうも、あとの反応がよくなかった。
やはり、贈り物のときは、ソラゾラしくとも、ありきたりのことを書くのがよい。
【型3】ふろしき
日本での場合、贈り物をするとき、ふろしきに入れられるかぎり、1軒ぶんずつ、ふろしきに包んでいくのがよい。
このとき、黒と紺と白のふろしきは、葬儀用、法事用であるから、ふだん、使えない。
(婚礼のご馳走を、客に持って帰らせるとき、白いふろしきで包んでも、そのふろしきに、赤く「寿」といった文字を染め抜くのは、「葬式用じゃないぞ」という、ごあいさつである)
【型4】提出の場所と相手
- 贈り物提出の場所は、こちらが、先方の玄関から中に入る以上は、中の部屋で、とすること。
旧来は、へりくだる意味において、到着後、または、辞去時に、玄関で提出することを多くしたが、現代では、古式に馴れた家事使用人など、いないから、事故を起こしやすく、したがって、受け主にも、めいわくをかけやすい。
- で、室内での提出の仕方なのであるが、かならず、相手に、直接に、提出し、相手が固辞して受け取らないときは、持って帰るのが、作法となる。
旧来であると、そっと、机の下のたたみの上に置いてくるとか、脇机や棚でもあれば、なに気なく、そこに、置いてくるとか、はなはだしい場合、金づつみを、座ぶとんの下に入れてくるとかすることが、贈り主としての、奥ゆかしい、やり方、とされてきた。
が、もし、このようにしたのを、先方が気づかず、次の客を、そこにとおしたものとしよう。
いろいろ、うまくないことが起こる。
つまり、ここでは、奥ゆかしくすると、先方に、めいわくをかける。
- また、現代では、予告なく訪問したような場合、先方が、全員、留守であるということもある。
こういうとき、こちらの名刺を、先方の郵便受けに入れてくるのはよいとして、贈り物を先ぽうの隣家に托してくるのは、至極、わるい。
先ぽうは、こちらから贈り物を受けたことを、隣家によって、知られたくないこともある。
また、知られてよいときでも、隣家によっては、先方が、そのために、礼品を、届けなければならないことを生ずる。
その隣家にしたところで、預かり物であるから、とくに、注意して、保管しなければならないし、うっかり、子供が、あけてしまったり、こわしてしまったようなとき、大袈沙な詫び方をしなければならない。
こちらとしても、「そんなにしてまで、この程度の品を、押しつけたかったのか」と思われるのは、いやなことである。
デパートの配送人が、隣家にあずけていくのなどは、言語道断。
【型5】先に出すか、あとで出すか
- つぎに、こちらが、訪問したとき、到着後、ただちに、贈り物を提出すべきか、帰り際に提出すべきかというテーマ。
これは、すべて、相手の気持を考えて、判断することになる。
が、具体的に考えてみよう。
- その品物が、預かり物である。
- その品物が、自分からの物であるが、訪問の第1目的が、その品を贈ることにある。
- 面会に入ったとき、もう、その品物を持ってきたことを、相手に、気付かれてしまっている。(玄関に出てきた家人等に気付かれていても、気にすることはないが)
- 品物を先に提出しても、いやらしさを感じたり、拘束を感じたりする相手でないし、そういう用件できたわけでもない。
- その日、先方から、ごちそうになるとして、こちらの持ってきた品物が、あまりに、ひんじゃくである。
こういったときは、贈り物を、先に出してしまったほうがよい。
こういった以外は、帰りがけに、「おそまつながら」……。
【型6】出し方
贈り物を出すとき、旧来ならば、ふろしきに包んだまま、出し、先方が、そのまま、持っていって、はずしたふろしきに、懐紙とか、ちょっとした品物を包んで返すというのが、作法であったが、これは、もう、変えたほうがよい。
では、どうするか。
- こちらが、先方の目の前で、ゆっくり、ふろしきを、ほどく。
- ふろしきから出てきた品物を、相手のほうに向けるが、まだ、こちらの手もとに置く。
- ふろしきを、ゆっくり、きちんと、たたみ、自分から見て、品物の左横に、くっつけて置く。
(そのとき、なにか、言っていると、間《ま》が持てる)
- 品物だけを、相手に、差し出し、差し出しの言上を行なう。
- 相手が、品物を受けとったと見たのち、ふろしきを、しまう。
(内ポケットに。バッグに。いずれにしても、立ち上がらずに)
(ズボンのポケットに押し込むのは、中学生までのすること)
(ふろしきが大きくて、どこにも入らないときは、かたわらの床《ゆか》の上などに置く)
【型7】女性に贈り物をしてはいけないもの
- はなはだ、高価なもの……不純なものを感じさせることになる。
- 下着類……失礼とされる。
【型8】ソ連でのバラの花の贈り物
- バラの花を贈り得るのは、婚約者だけである。
- 花かごも、よほど、親しい間柄でないと、うまくない。
第10章