第7章
飲食・喫煙 ◆第51節 中華料理における食卓作法
第51節 中華料理における食卓作法
【型1】座席は入口から遠いほど上席
中国の宴会における席次の定め方は、西洋の場合とちょうど正反対である。
西洋では、主人側の座席に近いほど位が高いか、中国では、主人側の座席に遠いほど位が高くなっている。
いうならば、西洋では親しさを、中国では礼節を重んじるわけである。
席次の定め方は、昔、はなはだ厳格であったが、今では西洋の影響や、各家屋の構造などから、古来のしきたりを守ることは困難で、ときに応じて最もよいと思われる席次が組まれるようになった。
北部では、北の方角を最尊としている。
いちばん北の奥の位置が両首座(主客)となり、次に、東側を第1座、西側が第2座となり、入口を背にして主客と相対する席が、主人の座るところとなる。
しかし、部屋の入口によって、必ずしも、そのとおりにはゆかないので、主客席が南面にならなくても、入口からいちばん遠い席を上位とすればよいわけである。
テーブルは、八仙卓子を使うのが正式である。
清朝の末年まで、円卓は、正式の宴会では使っていけないことになっていた。
八仙卓子は、8人で囲むのを基本にしており、現在の円卓でも、一応8人で1卓というのが基本になっている。
しかし、円卓の場合は融通がきくので、12人ぐらいまではよい。ただし、人数が増えても必ず偶数にすること。(中国では、どんな場合でも偶数を貴ぶ)
円卓の場合の席次も八仙卓子にならうとよく(図1)、テーブルの多い場合は図2のようにする。
(図1)
(図2)
【型2】食卓の整え方
食卓の上には、ナプキンや敷物をしかず、木目をあらわすのが正式。 (木目は東北方向になる)
しかし、最近は、テーブル・クロスでおおうのが一般的で、白の麻、または、刺繍をほどこしたものなどが使われる。
食器と調味料は、あらかじめ卓上に1人前ずつ、人数分を並べて置く。箸置き、箸、平皿、小皿、小鉢、ちりれんげ、盃、現代式にグラスを置くこともある。ナプキンは、簡単にたたんでグラスにさしたり、平皿の上に置く。
それに、魚や鶏の骨をだす小壷をところどころに配置する。菜卓(メニユー)も正式の場合は卓上に置く。
調味料は、しょう油、酢、からし、辣油、胡椒などを、あらかじめ卓の中央に並べて置く。
また、取り皿は、別に何枚か用意しておき、皿か汚れたら取り替えるようにする。
【型3】お客様か来られたら控え室に
お客がそろうまで別室に案内し、熱いおしぼりやお茶、京果などをすすめる。
京果は、食卓にも置き、料理の合間につまんでもよいことになっている。
お客がそろうと、主人が食堂に案内する。
卓上に名札がでているときは、その席に着くが、とくに、明示していない場合は、まず主人が着席してから、適当な位置に座ればよい。
昔は、譲座といって、座席の順序を譲り合うのに30分以上もかかっていたが、いまでは、返ってエチケットに反する。
食卓は、すでに整っているので、ナプキンをとって広げ、2つ折にして折り目が手前にくるように膝にかける。
前菜がすでに並んでいる場合もあるが、近ごろでは、衛生上からも早くから並べているところは少なく、お客が席についてから始めて前菜とお酒が運ばれることが多くなっている。
まず主人がお客に酒をすすめ、順に一同にすすめる。
【型4】宴席はこうして進む
主人は、一同にお酒をすすめなから、まず自分が料理を少しとって「請請」(どうぞ、どうぞ)とすすめる。
これは、毒殺の多かった昔、こうして主人自らが、まず食べてみせる毒見の意味が含まれていた。
主客が箸をつけると、あとは各自が自由に食べる。
熱いところを食べるのが礼儀であるので、遠慮せず手早く運ぶように注意する。
昔は、大菜の前の料理は、2回箸をつけてはいけないというように、残すことを礼儀としていた。これは、お客のお供やその家の使用人が多数いた関係上、その人たちにもゆきわたるようにという心使いと、珍しい料理を食べきれないほどだすことが、その家の富を表わすことにもつながっていたからである。
しかし、いまでは、そういう背景もなくなり、現代風に全部食べてしまう方が、かえって主人の心づくしに答えることになり、喜ばれる。
料理を自分の皿にとるときは、一応軽めに取り分ける。全部の人が取り分けてなお余分があれば、好きなだけ食べてよい。
しかし、好きなものだからとたくさんとると、あとの人の分がなくなり、また、自分の皿に食べ残すのは、はなはだ、見苦しいものである。
料理を取り分けるのは、原則として自分の箸とちりれんげを使う。わざわざ、箸を逆に持ちかえる必要はない。
【型5】酒と料理がすめばご飯を
料理も進み、酒もまわってくると主人は盃をあげて「もっとお飲みください」という。
これは一種の暗示で、主客はすぐ「お酒は充分ですから、ご飯を頂かせてください」という。
その後に始めてご飯とおかず(手の込まない簡単なものでよい)、スープ、つけものなどか出される。
ご飯が済んだ人は、箸をちょっとあげて同席の人に軽く挨拶をする。これは、自分は済んだが、皆様、どうぞ、ゆっくりという意味である。
最後に点心が出され、それがすむと食事が終わる。再び控えの間に移ってお茶を頂く。
主客が立たない間は、席を離れることはできない。主客は、みんなが終わったころを見計らって主人に挨拶をし、他のお客より少し早目に帰る。主人は、必ず玄関まで送る。
【型6】料理の食べ方
前菜
あまり、たくさん取らないこと。あとの料理か食べられなくなる。
皮蛋(ピータン)のように特殊なものは、嫌いなら取らなくてもよい。
骨つきもの
骨や殻は、口の中ではずして箸で受け、骨入れに捨てる。
また、揚げものには、五香物や花椒塩が、ついているが、取り分ける前にちょっとまぶしつけて、自分の皿に取る。下味のついている場合も多いので、味もみないでしょう油をジャブジャブかけるのは失礼。
鯉の丸揚げ
一尾づけの魚は、主客に向かって腹が手前になるように置かれる。
切り目に箸を差し込むと簡単にはずれる。それから皿に取り、ちりれんげであんをすくい取り、魚にたっぷりかけて食べる。上身がなくなれば裏側を食べるか、これは主人か給仕がすることで、自分ではしないほうかよい。
火考鴨子(カオヤツ)
北京の名物鴨料理。手で餅(小麦をねってうすく焼いたもの)を取り、鴨を一切れのせ、みそとねぎをのせてくるくる巻き、汁気がたれないように底をちょっと折り曲げ、手に持って食べる。
スープ
つばめの巣(燕窩)やふかのひれ(魚翅)のスープなど、主客から取りますが、給仕人が取り分けてくれる場合は、まかせるとよい。
抜絲(飴餅)
冷水が添えられるので、箸で取って手早く水をくぐらせ、自分の皿に取る。固まって取りにくいのと、そのままでは、熱くてやけどをしてしまうからである。
八宝飯(パアポウファン)
卓上に置いて、しばらく観賞してからちりれんげで取り分ける。これは、給仕人に取ってもらってもよい。