第29節 塩・スパイス
【参考】塩
- ヨーロッパでは、現在、もう、海水から塩を取っていない。エジプトから海水塩を輸入している。が、昔は、地中海沿岸で、製塩をやっていた。そのヨーロッパも、岩塩は随所に持っていて、いまも、掘りつづけている。この岩塩の山を、あちらこちら、訪ねてみると、だいたい、きまって、ローマの軍隊が掘り始めたという。つまり、ローマは、海水塩だけで、足りなくて、「塩さがし」に、真剣であったようである。
- BC70年代ごろ、ローマでは、役人の給料の一部分を塩の現物で支払っていた記録がある。別に、塩が、通貨のかわりに使われるまでには、至らなかったようであるが。
- ラテン語で、塩を sal とか salis とか言う。Salacia は海神 Neptune の妻。これが、淫奔であったので、Salacitas は、医学用語で多淫病。これは、脱線。
- で、役人に払う塩を salarium といった。のちにいっさいの謝金、給料をも、このことばで呼んだ。カネを渡すとき、封筒に入れて、上に「おしほ」と書いたと思えばよい。
英語化して salary(給料)となる。
salary-man は日本製英語。
- 岩塩は、ご承知のように、圧縮されていて、強く、からい。というより、苦味すらある。で、ビフテキには、やはり、岩塩のほうが美味しい。ジャガイモにつけてすら、そう感じられる。
- イエス・キリストの最後の晩餐のとき、塩が食卓の上にこぼれた。あるいは、キリストが、「この中に、わたくしを裏切る者がいる」と言われたとき、ユダが、はっとして、塩を食卓の上にこぼした。そのとき、サタンがユダに入ったと言う。が、そういったことは、聖書に、書いてない。で、他の話が、あとから、くっついたのでないか。が、ヨーロッパ人のみならず、現代アメリカ人までが、塩を食卓の上に、こぼすことを、どういうものか嫌う。
で、塩だけは、こぼさないようにしたほうがよい。
- もし、こぼしてしまったとき、連中は、そのこぼした塩を、少し、つまんで、1回だけ、自分の肩ごしに、うしろに、ポイと投げる。これで、厄払いになったということ。ただし、これをやるとき、うしろに誰かがいて、その人に、かかると、不吉を、かけたことになって、これは、面倒なことになる。
レストランで、他に客がいないとき、塩をこぼしても、キリスト教国でも、ウェーターからして、その食堂がけがれたと思うのであるから、こぼしたときは、少し、大げさに、うしろにポイとやったほうがよい。
【参考】スパイス
- 英語で、spice スパイス。
- フランス語で、epice エピス。
- ドイツ語で die Spezerei シペツェライ。
- 元来、食物用の香料を指した。が、いつの間にか、においがなくとも、とんがらしのようなピリピリ辛いものを含めた概念となってきている。(だいたい、ピリピリ辛いものは、香りもあるからであろうが)
- 現代日本語では、spice を「香辛料」と訳している。
- 至極、一般的なスパイスの例を挙げておこう。
サフラン、シナモン、胡椒、しょうが、セージ、セロリーシード、タイム、ナツメグ、月桂樹、ロリエ、マスタード、パブリカ、バニラ、はっか、カレー粉
【参考】ヨーロッパは、なぜ pepper などに夢中になったか
ヨーロッパ人は、羊を食べてきた。牛のほうは、もともと、ラテン人もゲルマン人も、食べてきたものを、ローマ法王が、いけないと言った。が、イギリスにだけは、ゆるしたとな
ると、他の国々も、承知しなかった。で、結局、カール大帝のあらわれた800年ごろから、大陸でも、牛が解禁された。
豚は、その以前から、あいまいに、ゆるされて来ていたが、これも、一緒に、大っぴらにゆるされた。
肉食自由となると、人口も、急激に増えだした。そこで、よけいに家畜が要る。そのことは、よけいに牧草が要る。で、牧野の取り合いが、ヨーロッパ中世史の戦乱から戦乱にあけくれる主原因となった。してみると、ローマ法王の「肉を食うな」は、正しかったわけである。が、あとの祭りであった。
そういう中で、肉は、やはり、いつも、不足気味。で、みんな、肉を大切にして、チビチビ、食べていた。家畜は、屠殺すると、冷凍庫などない時代であるから、地下室にぶら下げておく。その肉を、少しずつ、切ってきては、食べている。
肉が腐る直前、いちばん、美味しいのは、わかるとして、同時に、臭くなってくる。
このとき、pepper は、すこぶるありがたい存在であった。
その pepper は、インドおよび、オリエントから来る。
で、1190年ごろ、第3回十字軍を送っていったイタリアのジェノアとかベネチアの艦隊は、その帰り船に、pepper を満載して帰ってきた。これは、もうかった。
が、これは、単発商売であった。
ヨーロッパの料理が、pepper をふんだんに使えるようになるのは、だいたい、1540年代のイタリア料理からである。
1600年ごろのイギリス、オランダ、フランスの各東インド会社の中心的な仕事は、pepper 集めであった。
【型1】塩、スパイスは、ひと口、食べてから
塩、スパイスは、料理を一口食べてから、取られよ。
つまり、料理には、コックとして、はじめから、味をつけてあるときと、つけてないときがある。そこで、客としては、自分の口に合うかどうかを見る前に、味を付けてあるかどうかを見るという、一動作が、招待主、コックに対する、作法とされている。
【型2】遠くの塩、スパイスは、取ってもらえ
- 隣の人に取ってもらうとき、いつでもよい。相手が食事であっても、遠慮なく申されよ。
- スパイスなど、勾いが出るという配慮から、あらかじめテーブルに出されていないときがある。そんなとき、スパイスか必要であれば、ウェーターに遠慮なく申されよ。
- 取って頂くときのことば…
く英> Would you pass me the salt please?
く仏> Donner moi le sel sil vous plait?
く独> Kotten sie mir salz tassen?
【型3】塩・スパイスの皿の中の位置
- 塩・スパイスは、料理に直接振りかけても、皿の5時のあたりに、積み上げてもよい。
マスタードなど、練ったものは、おのずからにして、5時のところに、なすりつける
こととなる。
(例)
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- スパイス、ジャム、バタ、マスタードをごってりと取りたいとき、皿の2時のところに置くとよい。(3時、4時のところは、フォークなどを置くのに、じゃまになる)
- 塩・スパイスが、容器から出にくいときがある。そのときは、振って出されてよい。