第20節 スープ
【参考】ポタージュとはスープのこと
- 英語でスープのことを、フランス語で、ポタージュという。
- ポタージュの大分け
- Potages Clairs ポタージュ・クレール
澄んだスープ
- Consommé Chaud コンソメ・ショー
あたたかいコンソメ
- Consommé Froid コンソメ・フロワ
つめたいコンソメ
- Consommé en Gelee コンソメ・アン・ジュレー
ゼリー状にしたコンソメ
- Potages Liés ポタージュ・リエ
にごったスープ
- Purées ピューレ
澱粉の野菜の濾し汁
- Purées Chaud ピューレ・ショー
あたたかいピューレ
- Purées Froid ピューレ・フロワ
つめたいピューレ
- Cre`mes クレーム
ブイヨンに小麦粉を加えて、どろどろにし、生クリーム・卵黄で仕上げたもの
- Consommés Liés コンソメ・リエ
ブイヨンに生クリーム・卵黄を加えて、どろどろしたもの
- Soupes スープ
いろいろの材料をブイヨンで煮込んだもの
- Bisques ビスク
えびやかにのポタージュ
- Taillés タイエ
形をそろえて切った野菜をブイヨンで煮てそのまま供するもの
- Potages Étrangers ポタージュ・エトランジェ
フランス以外の国のポタージュ
- Miné stroné ミネストローネ
イタリアのスープ
- Clam chowder クラム・チャウダー
アメリカのハマグリのスープ
- Gaspacho ガスパチョ
スペインのスープ
- Bortsch ボルトシュ(ボルシチ)
ロシアの赤カブをベースとしたスープ
- Consommé Profiterole コンソメ・プロフィットロール
※ シューの小型に野鳥の肉をつめたものを実としたコンソメ・スープである。
※ シュー …… シュー・クリームの皮
まだ、ほかにもある。
(これらの分類は、「辻調理師学校のサービスの演出」:柴田書店:昭49.2にあった説明から、いただいて、少し、シロート向けに表現した)
(ついでに申すと、この「辻:サービスの演出」は、すごく、よい本であると思う。ご一読をおすすめする)
- そこで、日本で、いっぱんにポタージュといっているのは、フランスでの「 Potages Liés ポタージュ・リエ」を指しているわけである。この点、外国に行った
とき、注意のこと。
- 「 Potages Clairs ポタージュ・クレール」は、客として注文するとき、Chaud ショー(あついの)、Froid フロワ(つめたいの)、en Gelés アン・ジュレー(ゼリー状の)といった注文をできても、そのとき、「どういうクレールを」とは注文できな
いことが多い。つまり、クレールをつくるには、時間のかかることが多いからである。
- 「 Potages Liés ポタージュ・リエ」については、「どういうリエを」と注文できることが多い。
リエは、あらっぽくいうと、クレールのなかに、うらごしをかけた野菜を、ほうり込んで、かきまぜればできるからである。(いくばくの種類のリエは、野菜を煮ていって、自然に煮くずれさせなければできない)
- ついでに、リエは、いわば、味噌汁のようなものであって、これを、正餐に用いてみるようになったのは、1900年代からである。そこで、こん日でも、公式の宴会では、リエを出さないことが多い。
- よく見かける「 Purées ピューレ」を挙げてみよう。
- ST. GERMAIN(サン ジェルマン)
ドイツに昔からあった豆スープである。
- CREME DE FEVESS(クレーム・ド・フェーブ)
これも元来、ドイツのもの。そら豆のスープ。
- VICHYSSOISE(ヴィシソワーズ)
1700年代にドイツにじゃがいもが輸入され、そのスープも考えられるようになり、フランスにも、伝わったもの。英語で POTATO-SOUP。
- MAIS(マイス)
1600年代にアメリカからポルトガル、スペインに移され、そのスープも考えられるようになったもの。英語で CORN-SOUP。
- LIER DU TOMATO(リエ・デュ・トマト)
1600年代に、南米からポルトガル、スペインに移され、そのスープも考えられるようになったもの。英語で、TOMATO-SOUP。
- CREME CRESSONNIERE(クレーム・クレソニエル)
CRESSON(水芹)をすりつぶして、その香りを出しているスープ。ベースは、ポテト。
- 「 Crèmes クレーム」でよく見かけるのは、CRÈME DE BARLY(クレーム・ド・バーリー)……小麦粉のスープをベースとし、そのうえに、BARLEY(大麦)のすりつぶし
たものを載せているスープ。英語で BARLEY-SOUP。
- これらを、1つずつ、食べていって、味を覚えられよ。場合によって、スープだけを食べても立派な客である。腹をこわしていると思われよ。
- ソースのレードルを使うとき、雫を落とさないために、テュリーンのふちに沿わして、レードルを運んでもよい。(スープのレードルの使い方に同じ)
【型1】スプーンの納め方
- スープが配られてきたが、自分は、スープが要らないというときは、スープ用スプーンを皿の中に伏せて置かれよ。スープを注がないでくれる。
- ただし、これは、レストランで、銘々、好きなものを食べるというとき、サービスが雑で、一律に、スープ皿を配ってきたといったときに限る。日本では、ほとんどないが、欧米の中級以下のレストランにゆくと、しばしば、このスープことわりの処作が必要となる。
- もっとも、日本で、これを行なったところ、ウェーターが、ご丁寧に、スプーンをどけて、スープを注いでいったという話もある。
【型2】スープのつぎ方
- スープは、客の手で、自分のスープ皿に注ぐのが、本来の方式である。
- ウェーターが持って出てくるスープを入れた大きな容れ物をテュリーンと言う。
また、このテュリーンの中に入れてある大きなスプーンをレードルという。
- テュリーンは、客の左前に出される。
そうしたならば、こちらは、自分の胴体を動かさず、右手でレードルを持たれよ。以下、胴体をできるだけ、動かさないこと。
- で、スープをすくうのであるが、テュリーンの下のほうに、実の潜んでいることもあるので、下のほうから、スープをすくわれよ。
- スープをすくったとき、レードルの内側から、スープの雫が落ちやすい。
そこで、このスープの入っているレードルの底をテュリーンのふちで、ちょっと、こすられよ。
- そうして、スープ皿にスープをあけるとき、レードルを大きく動かさなければならないが、ゆっくりと、それをやってのけられよ。格好よく、サッと、やれば、ボタボタとこぼす。
- スープは、レードルで2杯まで、取ってよい。
- スープ皿を、いっぱいにしようと思えば、レードルで、4杯ぐらいまで取れる。が、会食のときは、1名、2杯という予定で持ってきているから、多く取りすぎると、あとの客の分がなくなる。
- 2杯目を取るとき、レードルのツボを傾けて、テュリーンの中に入れないと、ピチャンとやることになる。
- スープを取り終わったならば、レードルのツボをテュリーンの中のスープに入れ、レードルの柄尻を、テュリーンの口の細長くなったところに、正確に位置せしめられよ。
- レードルを、最後に、テュリーンに置くとき、てれくさい。両手で置くほうが、まわりから見ていて、感じがよいものということを知っておかれよ。
【参考】Tureen と Ladle
- フランス料理の中に「テリーヌ」というのがある。鴨の肉などをペーストにして、鉢に入れ、鉢ごと焼いて、あと冷やしたものである。オードーブルの一種。
- で、この鉢を terrine テリーヌというから、この料理も terrine である。
- このフランス語の terrine が英語になると tureen となる。
〔teríin〕〔tjuríin〕トゥリーン または テュリーン。
- 日本のレストランでは、しばしば、チュリーンという。これからは、次第に、テュリーンと言いたい。
- で、英語での tureen は、ウェーターが、スープを入れて、客席に持ってくる。多くの場合、カネでできた、壷である。
本来、蓋のついているもの。
- 余談。先年、わたくしは、日本人、何名かを案内して、スイスのユング・フラウに行った。で、グリンデルバルトまで降りてきたとき、ガラになく高山病にかかっていることに、気づいた。おなかは空いているが、なにも食べたくない。頭がいたい。で、1軒のホテルのレストランに入っていった。ウェーターが、なにを食べるかというから「mountain sickness」と答えた。このウェーターは「よろしい」と言ったかと思うと、たちまち、わたくしの目の前に、コンソメを、しこたま入れた「tureen」を、どかっと置いてくれた。わたくしは、それを、自分で、スープ皿に、よそっては、食べ、とうとう、5杯食べた。
そこで、大きなゲップが1つ、出た。不作法であるが。と、高山病が、ケロッとなおった。頭もいたくなくなった。ウェーターが、「よかったね」と言った。Swiss humanity。
問題は、ここで、わたくしとして、スープ皿に、レードル2杯でなく、スープをついでは、そういうスープを何杯でも飲むという楽しみを憶えたことである。
1人で食事をするようなとき、レードル何杯をとっても、不作法でないということ。
- ladle レードルは、英語で「ひしゃく」ということ。
【型3】クルトンのふり方
- リエには、あとから、クルトン(サイコロのように切ったパンを、油揚げしてあるもの)を持ってきて、客の手で、スープの上に、落とすのが、本来の方式。
- このとき、クルトンを、20粒ぐらいまでとされよ。そのかわり、その20粒を、1さじで取ってしまわれる必要もない。
- クラッカーについては、シルバーの小判皿にナプキンを敷き、その上に図のようにクラッカーをのせ、サーバーが、クルトンと同じく、持って回り「ちぎって、スープにお使いください」と言ってサーブをする。なぜこのように言うかと言えば、そう言わないと、パン皿に置く人がいるからである。
サーブされた客は、それを取ってスープにちぎって入れる。
- クラッカーを取ったならば、それを半分にちぎって、一方をスープの受け皿に4時〜5時の所に置き、残りの半分を自分の好みに応じて砕いて、スープの中央に入れる。スプーンでかきまぜて、クラッカーを広げられよ。決して、砕きながら広げられるな。もし、クラッカーを残されるときは、スープの受け皿の4時〜5時の所へ置いておかれよ。
- 浮き身
プロフィテロル( profiterole )とは、パート・ア・シュー(シュー・クリームの皮)の種を、小粒に焼きあげて、そのまま用いたものと、焼きあげた皮の中に火を通した野菜類・肉類をつめて、浮き身として用いるものがある。
【型4】スプーンの持ち方
- スープ用スプーンの持ち方は、箸を2本そろえて持つときと同一である。
- しばしば、箸を置くときのように、スプーンを上から持たれる方があるが、いけない。
【型5】スープの飲み方……腰とあご
- スープを飲むとき、足のつけ根の関節を、蝶番として、上体を前倒されよ。背中が曲がったり、あごを前に突き出したりすることのないように。
- 上体を思い切って、前倒しなければ、下唇がスープ皿の真上にさしかからない。
- つまり、万一、スープが、スプーンと口との間からこぼれたとき、それが、スープ皿の中に落ちるようにする必要がある。
- スープを飲むときは、ポタポタとスプーンから落としても構わない。
- ただし、スープをスプーンですくったとき、スプーンのツボの底から、スープがたれる場合、スプーンを高くさし上げてたらすのでなく、ツボの底をスープ面に、ちょっとつけて、処理されるとよい。
- スープを飲むとき、自分の下口唇が、皿の手前のフチより、向こう側に出ていてよい。こうすることによって、口からこぼれたスープが、皿のなかに落ちてくれる。ただし、
首を下におろすと、猫がミルクを飲んでいる形になる。練習されよ。
- 他の食べ物のときも、このスープのときと同じ位置に、頭を持ってゆかれよ。
【型6】肱を張るな
肱を張らないこと。
【型7】左手でスープ皿を
左手は、スープ皿のフチを持ってよい。フチのどこを持とうと、遠慮は要らない。
【型8】スープの飲み方
スープをすくうとき、スプーンを、手前から、向こうに向けて、しゃくり上げられよ。
【型9】スプーンのどこを口に持ってゆくか
- スプーンにスープをすくったとき、そのスープのたまっているところを「ツボ」と呼ぶが、飲む人が、この「ツボ」の端のどの部分を、口にあてるかというと、正式には、いちばん突端である。ことに女子は、なるべく、この型を崩されないのがよい。しかし、こうするためには、飲む人が、スプーンを持つ手を、相当、前方に、突き出さなければならない。そこで、スプーンのつぼの端の口にあてる部分を、いくばく横にずらしてよい。
けれども、この端の真横までずらしたのでは、ゆき過ぎとなる。
日本の作法の大家の書かれた洋食作法の本に、写真入りで、「決して、スプーンの先を口に持っていくな」というのがあった。困ったものである。ところで、ヨーロッパの中で、スプーンの、ツボの真横に口を持っていくのを、正式作法としている国がないわけでない。こうなると、わからなくなるし、上記の日本の本について、困ったものであるなどと言えなくなる。また、和服を着て、スープを飲むときには、袖口を汚さないことも考えれば、ツボの真横を口に持っていくほうがよい。が、世界の大部分の国は、まだ、真横に口を持っていくことを、不作法としているのであるから、それに従うことも考えたい。
- 第2次大戦中、ドイツ軍が、スプーンの「ツボ」を、まん丸くし、これが、米軍の採用するところとなり、戦後、アメリカ民間用に広がり、昭和30年ごろには、日本のホテルでも、これを採用し始め、こん日に至っている。
これを、coop-spoon と呼ぶが、このような、ツボのまん丸いスプーンから飲むときは、どこに口をあててもよい。けれども、多少とも作法めいた席では、柄の位置にしたがって、腕の位置が、アクセントになるので、つとめて、ツボの先のほうから飲まれることである。
【型10】スープをすする音
- スープを飲むとき、すする音のみならず、スプーンを皿にぶつける音もさせられるな。これらの音は、「絶対」に、いけない。
- スープは、すするものでなく、口に流し込むものであるとは、ものの本に書いてあることばである。それはわかるが、そうしようとすれば、口のそとにこぼれてしまうから、どうしてもすすってしまう。いったい、どうすればよいか。
欧米人と東洋人の頭がい骨を比較してみると、すぐ、わかることであるが、脳みその大きさは、同じであっても、欧米人の下あごの骨は、前に、せせり出している。放牧民で、肉を喰いちぎってきたから、下あごが突き出てきたという説もあるが、あるいは、そうかも知れない。そこで、言語も、英語での er の発音や、ドイツ語での o ウムラウトの発音というものが生まれてきているといえる。つまり、こういう下あごの持ち主は、スープをスプーンで、流し込むことができるが、東洋人の場合、そうは参らず、吸物でも、茶でも、すすって飲むし、そのほうが、作法にも、かなっている。
そこで、東洋人が、スープを、音もなく、こぼさず、飲む方法を述べよう。
スプーンを口まで持ってきて、スプーンの下に、こちらの下口唇が、かくれた瞬間に、下あごと下くちびるを、ぐいっと、前に突き出されよ。ただし、あまり大げさに行なうと、奈良の東大寺の伎楽面のような人相となる。
これで、スープを流し込めるが、せっかく、上口唇とスープ表面とのあいだがあいているのであるから、ここを通して、いくばく、空気を吸い込めば、空気は、音なく、スープを誘い込んでくれる。
つぎに、スプーンを口から放すとき、口を閉じ、同時に、下あごを、もとのところに戻しておく。なにごとも、あと始末が、大切。
【型11】熱いスープの処理
- 熱いスープやお茶などを、口で吹いて、さますことは、禁物。スプーンで、かきまわして、さめるのを待っていなければならない。
- スープが熱いとき、パンをちぎってスープの中に投げ込むという型は、第2次世界大戦まで、正餐のときも、平気で行われたものであったが、こん日では、家庭の中でのみ、行われている。
【型12】スプーンを口でしごくな
- スープを飲んだとき、スプーンを唇でしごかれるな。これをされると、リエを飲んだあとのスプーンを皿に置いたとき、歴然とする。
- プディングやアイスクリームのときにも、同じ問題がある。
【型13】皿のかたむけ方
- 正式の場で、スープ皿を、かたむけて、スープをすくってはならない。つまり、スプーンですくえなかった分は、断念する。正餐のとき、見ていると、どの国でも、外交官は、これを守っているが、アメリカ人となると、ほとんど、守っていない。
そこで、東洋人で、外交官でない者は、アメリカに行ったとき、この問題を、あまり、気にしなくてよい。また、東洋諸国にいるときは、ドイツ人、イギリス人との正餐のときだけ、多少、気にすればよい。
- 正式の場でないときは、左手で、スープ皿の向こう端か、こちらの端かをつまんで、皿をかたむけ、スープを寄せて、すくう。こちら側にスープを寄せるのは、フランス人と、スイスの中のフランス語系の諸君(ジュネーブ一帯)のみ。つまり、これは、作法の崩し方の流儀の相違であるから、東洋人としては、めいめい、いずれを採ってもよい。
ただ、スープを、右や左や、斜めの方向に寄せることを、されるな。
どの時代から、フランスだけ、スープを手前からすくうように統一されたか、わたくしはまだ知らない。
- スープ皿を傾けるとき、手前に傾けるのであれば、正確に12時の所を持たれよ。11時や、1時を持つと卑しいと考える習慣のあることを知っておかれよ。同じく、奥に傾けるときは、6時を持たれること。
- スープ皿を傾けるとき、皿の12時を持たれるには、親指が上にゆくように、6時を持たれるには、親指が下にゆくようにして持たれよ。
いずれにせよ、小指を薬指から離されるな。
- スープ皿を傾けたとき、スプーンでスープを横しゃくりされてよい。
なるべく、縦にすくわれるな。
- スープ皿を、すっかり、テーブルから離して持ち上げることを、なるべく、されないように。
- スープを飲むとき、左手はテーブルの上にかるく置かれよ。置くときは、手首までを限度とされよ。膝の上に左手を置いたまま、スープを飲むことは不作法とされる。
【型14】飲んだあと
- スープを飲み終わって、スプーンを置くとき、スプーンの、ツボを伏せて置くと、「このスープは、まずかった」という信号になってしまう。
決してスプーンを伏せてはならない。日本の茶道で、ひしゃくやしゃもじを使い終わったとき、伏せて置くのが作法とされているため、なまじい、茶道のたしなみのある方が、洋食のスープのとき失敗をやりやすい。
- スプーンは、皿の真ん中に、9時から3時へと、真横に置かれよ。ツボが9時となる。
ツボを、できるだけ、左に寄せると、ウェーターが皿を引くときに助かるという事情もある。
- 当今、スプーンが短くなってきている。
で、スプーンを皿の中に置くとき、下図(上)のようになりやすい。
これでは、ウェーターが、この皿を引いて、そのスプーンをつまみ、別皿に移すとき、やりにくい。
で、スープを飲んだ者は、スプーンを置くとき、そのスプーンが短くとも、下図(下)のように置くことにしたい。
- スープが2重皿のときも、スプーンは、上の皿の中に入れ、決して、下皿のほうに置いたりされぬよう。
- スプーンの音をさせずに、スープ皿に置くために、両手でスプーンを持つことは、恥であるどころか、かえって、奥ゆかしい風情を生じている。
- ナイフ、フォークを置くときでも、同じである。つまり、箸を膳に置くときと同じに考えてよい。
【型15】スープを飲むのを半分でやめたとき
- スープを途中まで飲んで、あと、やめたとき、スプーンを伏せて置けば、やめたという信号になるが、同時に、「このスープはまずかったぞ」という信号を兼ねてしまうのである。
- そこで、別の信号として、スプーンを皿の中に、普通の形に入れて、その皿を自分の前、奥のほうに15cmを限度として出して置くのである。
- こういうときは、皿を動かしてよい。
- スープをすっかり平らげたとき、皿をずらせないように。
【型16】ブイヨン・カップとキャセロール
- 紅茶茶腕を、もう少し、大きくしたようなカップで、左右に把手のついた器がある。これを、ブイヨン・カップと言う。本来は、ブイヨンを入れるものであったのであるが、コンソメも入れるし、リエも入れる。だいたい、つめたいスープのとき、ブイヨン・カップを使うことが多い。
- ブイヨン・カップには、小さなスプーンがついてくる。このスプーンは、中の実(固形物)を、すくって食べるためのもの。使っても使わなくてもよい。スープは、カップの把手を持ち、紅茶を飲むようにして、飲む。この把手は、左のもの、右のもの、どち
らを持ってもよいし、両手で持ってもよい。
- ただし、そのときの好みによって、終わりまで、スプーンだけで飲んでも構わない。
- 下皿(ソーサー)を、けっして、持ち上げられるな。
- スプーンは、下皿(ソーサー)の手前側に置く。紅茶、コーヒーと同じつもりで、向こう側に置かれないように。また、ブイヨン・カップの中に入れても置かないように。
ブイヨン・カップ(図2)と、少し形のかわったコップ型のスープ入れを、キャセロール(図1)という。
これは、油のギラギラ浮いた熱いスープを入れたりする。口ですすって飲むのによい。
【型17】どんぶりスープ
- スッポンのスープ、オックステールのスープなどは、クレールであるが、多くの場合、どんぶりに入れて出される。そのどんぶりも茶わん蒸し用の茶わんまがいの小さなものであることがある。そこで、日本人は、そういったどんぶりや茶わんに、ちょいと、口を持っていきやすい。が、必ず、最後までスプーンで飲まなければならない。(スープに対して、もったいない話であるが)
- オニオン・グラタンは、日本料理で言えば、けんちん汁に当たるものである。しばしば、蓋物に入れて出される。で、食べたあと、日本人の場合、その茶わんの中にスプーンを入れ、上から蓋をすることがある。そうかと思うと、カツ丼を食べたあとのように蓋をひっくりかえして、どんぶりの中に入れていることがある。これらは、必ず、スプーンをどんぶりの手前に置き、蓋は初めにかぶせられてあったようにかぶせて置かなければならない。