第34節 履きと脱ぎ
【通解】
はじめに、欧米での履物取扱方法について、考えよう。
- 靴はズボンと対応する、靴下とスリッパはパンツと対応すると見る。
- 靴下だけ履いて、人前に出ることは、パンツだけで、人前に出ることにあたる。
ことに異性に対しては、特殊な意味を持つ。
(この点、異常に意識する)
- 靴や靴下の着脱は、ズボンの着脱とパンツの着脱にあたるから、人前で行なえない。
- 人前で、靴・靴下を持ち歩いても、振リ回さなければ、失礼にあたらない。
- 絶体絶命のとき、相手に背を向けて、着脱すれば大目に見られる。
【型1】ホテル・ルームでの着脱
- ホテル・ルームで同室した相手のある場合、靴下の着脱、靴の着脱は、つとめて、バス・ルームに行っておこない、バス・ルームのついていないときは、相手に背を向けておこなわれよ。
- また、ベッドに入るときの靴やスリッパを脱ぐ位置は、その着脱のとき、相手に向かないですむ位置を選ばれよ。
ただし、これらは、夫婦のばあい。気にされなくてよい。
【通解】
- 日本での靴、草履、下駄、サンダル、スリッパの着脱について考えよう。
- ただ、1880年と1930年と1980年では、かなリの変化が見られるので、2030年についての方法は、まだわからない。
- ここで考える履物の種類としては、つぎの2種類である。
外履き……靴、サンダル、下駄、草履
スリッパ(slipper)
- スリッパを履くのは、外履きからの履き替えのときと、たたみ部屋から出るときであリ、また、それを脱ぐのは、外履きに履き替えるときと、たたみ部屋に入るときである。
- 履き脱ぎの型を整理してみると、次図のとおリ、9種類あることがわかる。
また、それぞれの型については、この図の左から右へと、● のあるところだけで行なうわけである。
履き脱ぎ型の種類
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履くための手ぞろえ |
進み脱ぎ |
逆さ脱ぎ |
1段進み履き |
2段進み履き |
逆さ履き |
脱いだあとの手ぞろえ |
外履き |
スリッパ |
外履き |
スリッパ |
外履き |
スリッパ |
外履き |
スリッパ |
外履き |
外履き |
外履き |
スリッパ |
1 |
進み入り※ |
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● |
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● |
2 |
逆さ入り※ |
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● |
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● |
3 |
1段出 |
● |
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● |
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4 |
2段出 |
● |
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● |
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5 |
逆さ出 |
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● |
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6 |
履替入り |
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● |
● |
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● |
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● |
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7 |
履替1段出 |
● |
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● |
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● |
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● |
8 |
履替2段出 |
● |
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● |
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● |
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● |
9 |
履替逆さ出 |
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● |
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● |
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(注) ※印の型は、それぞれ、屋外からの入りと廊下からたたみ部屋への入り、および、たたみ部屋からの出と屋外への出を兼ねている。
- では、まず、つぎに、前図の表頭のひとつひとつを、また、それに付随するものを型として、整理しよう。
【型2】靴を脱ぐ順番
2人以上のとき、目上の人から、順次、靴を脱がれよ。
【型3】靴を脱ぐ位置
- 1人のとき、堂々と、まん中に、脱がれよ。
遠慮して、すみっこに脱ぐと、かえって、場の雰囲気をこわすことになる。
- 2人以上のときで、和式玄関の場合、まず、もっとも目上の人が、中央に進み、あと、身分の順に、左右に脱がれよ。(欧米ではぬがない)
- ところで、偶然に、同身分の人が2名以上いたならば、そのとき、先に進み出たほうから、順次、靴を脱ぐ。
- また、その場の状況によって、こちらが、目上よリも先に靴を脱がなければならなくなったとき、身分の順を考えて、自分の靴が、このあたリになると見るところに脱ぐ。
【型4】荷物を置く場所
- 木床の上で、こちらの右側、先ぽうから見て左側に、きちんと、置かれよ。
この先ぽうから見て左側という位置が、もっとも、先方に対して、圧迫感を与えない。
- 荷物を、この位置に置くことを、先方が、いない場合でも行われること。
第三者から見ても、この位置は、すこぶる、美しく見える。
【型5】履くための手ぞろえ
- これから履こうと思う履物が、勝手なところにあったリ、そのまま、足を入れるに適しない向きをしていたリするのを、手でそろえることである。
- まず、荷物を持っていれば、その荷物を、きちんと、置かれよ。
- ついで、履こうとする足の爪先と履物のかかととが30cm 以上、離れているならば、極力、履物を、手で近付けられよ。
- それが不可能のとき、そういうことのできる他の場所を探し、そこへ、履物を持ってゆかれよ。
- それも不可能のとき、もし、他の人の履物が邪魔になっているのであれば、その邪魔になっている履物を、手で、つまみ上げ、そのあとに、自分の履物を置かれよ。
- そういう状態ですらないときは、この動作を省略されよ。
- 履物が、自分のそばにあるが、さかさまや、ゆがんだ向きに置かれているときは、自分と向きをあわせるように置きなおされよ。
【型6】進み脱ぎ
- 進んでいったままに脱ぐことである。
- ホテル従業員がスリッパを脱ぐとき、もし、客の脱いであるスリッパと並行または、正反対方向を向きそうなときは、斜めまたは横向きに脱がれよ。
- 靴以外の履物のときは、脱ぐとき、かならず、両足をそろえられよ。
- 靴紐をほどくとき、上がろうとする壇の1歩手前で、ほどかれよ。
- 靴を脱ぐときは、かならず、しゃがみこみ、けっして、足を地面から離されるな。
また、右足は右手で、左足は左手で脱がれること。
- このとき、靴が脱ぎにくいのであれば、確実に、ゆっくリと脱がれよ。
【説明】
みずからの尊厳を傷つけないつもリで、立ったまま、片足で、もう1つの靴のかかとをしごいて、靴を脱がれるのは、教養なき者のすること。
本来、人前で、靴を脱ぐということが、日本での特殊な行為なのであるから、しゃがんで行われるのがよい。
【型7】逆さ脱ぎ
- まわれ右して、進行方向と逆に脱ぐことである。
- ホテル従業員がスリッパを脱ぐとき、もし、客の脱いであるスリッパと並行または、正反対方向を向きそうなときは、斜めまたは横向きに脱がれよ。
- 靴以外の履物のときは、脱ぐとき、かならず、両足をそろえられよ。
- 靴を脱ぐときは、かならず、しゃがみこみ、足を地面から離されぬよう。
また、右足は右手で、左足は左手で脱がれること。
【型8】1段進み履き
- 進行方向に向いて置かれた履物を、そのまま、置いてある位置で履くことである。
- 履く直前に、かならず、両足をそろえられよ。
- スリッパを履く場合、スリッパが、漠然とたくさん並んでいるのであれば、かならず、端から使用されよ。
【型9】2段進み履き
両足を、履物に、つっかけたまま、代表的見送人に対して、自分のななめうしろを見せるようにして、履物を履き、靴紐を結んでしまう。(上図参照)
履物を履く人物を眺めるとき、この角度が、いちばん、美しく見える。
- 履く直前に、かならず、両足をそろえられよ。
- つっかけてから2〜3歩の移動先は、どこであろうと気にしなくてよい。
- もし、他の人の履物を、片手に持っていたのであれば、こちらが 45゜をとるため、両足を移動したとき、まだ、自分の履物を、つっかけているうちに、他の人の履物を、もと、あったところに置かれよ。
【型10】靴ベラ
- 容易に手の届くところに、先ぽうの靴ベラがあっても、先方から、なにも言われなければこちらの靴ベラを使うこと。
- 先方が、「どうぞ、そこの靴ベラをお使いください」と言えば、こちらが、すでに、自分の靴ベラを手に持っていても、また、靴ベラを不要とするときでも、こちらとして、「あリがとうございます。それでは……」と申して、先ぽうの靴ベラを使われよ。
- こちらが、靴ベラを持たず、先方も、靴ベラを差し出しもせず、先ぽうの靴ベラを使えとも言わないとき、こちらは、ハンカチーフをとリ出し、それを折リたたんで、靴ベラがわリに使われよ。
- 靴ベラを、右足は右手で、左足は左手で使用されよ。
で、靴ベラを右手から左手(左手から右手)に持ちかえるとき、靴ベラは、前回し(尻のほうでない)とされよ。
- 靴ベラを使い終わったとき、それが、自分の物であろうと、先方の物であろうと、ただちに、しまうなリ、元のところに返すなリされよ。
【型11】逆さ履き
自分の進行方向と逆さ向きになっている履物を、そのまま、履くことである。
【型12】脱いだあとの手ぞろえ
脱いだ履物を手で履くときの向きにそろえる。
- 「逆さ脱ぎ」したとき、外履きのサンダル、下駄、草履、および、内履き、のスリッパは、そのまま、形を得てしまうことがある。
そういうとき、このあとを手でそろえる動作は、省略してよい。
- ホテル従業員が、みずからの脱いだスリッパをそろえるとき、そこに、客の脱いであるスリッパがあれば、それと、並行または正反対にならぬよう、斜めまたは横に向けかえられよ。
- 外履物のかかとと敷居との間隔は、壇の高さの1/8を基準とされよ。
- わざとらしくなく、あっさリ、行われよ。
しかも、きちんとでき上がるように。練習が要る。
- 脱いだスリッパをそろえるとき、身体をクルッと回転されるな。
また、片方のスリッパに、もう一方のスリッパを入れられないこと。不潔である。
まわリのスリッパが、そうしてあるならば、それは、スリッパ管理のスペースを節約するためとは言え、悪習であるから、これに、付き合われるな。
- この動作では、もし、左右に、他の人の履物が脱いであれば、かならず、それをも、手でそろえられよ。
- 紳士淑女たる者、他人の履物をそろえることを、誇りとするも、恥と思われるな。
- ただし、いまここに、20〜30名の脱いだ履物が並んでいたものとする。
そこに、こちらが脱いで眺めたところ、全員の整頓状況が、はなはだ、よくないとする。
で、これを、なおしはじめたとなると、たいへんなことになる。
また、あまリ、たくさん直せば、矯風的なにおいも出てしまう。
であるから、こちらの履物を込めてなおすのは、合計3足までとされよ。
また、合計3足までは、こちらの脱いだ分までを含めて、絵になるようなバランスを考えるためにも、さわらなければなるまい。
【通解】
では、履き脱ぎの9つの型について、順次に、考えよう。
【型13】進み入リ
- これは、つぎのような特殊のばあいに行われよ。
- 下足番がいるとき。
- とくに、急ぐとき。(あとしまつ省略)
- 重い物を持っているとき。(あとしまつ省略)
【型14】逆さ入リ
もっとも普通のもの。
【型15】1段出(いちだんで)
【型16】2段出(にだんで)
【型17】逆さ出
【型18】履替入リ
- スリッパに履き替えるものは、すべて、この型となる。
- 外履きを脱いだ片足は、ただちに、スリッパに入れてしまい、途中の床を踏まれぬよう。
このとき、スリッパを、なるべく踏まずに足を入れたほうがよい。
が、バランスを失ったとき、ちょっと、スリッパを踏まれてよい。
つまリ、ころぶことを、避けるということ。
また、見送人として、このようなことを防ぐため、支えとなる台を靴の着脱の場に、準備しておくとよい。
【型19】履替1段出
- 見送人のいない外出のほとんどすべてが、これである。
- スリッパを脱いだ片足は、ただちに外履きに入れて、床を踏まれぬよう。
【型20】履替2段出
- 見送人のある場合の、いちばん、普通の方法である。
- スリッパを脱いだ片足は、ただちに、外履きに入れ、床を踏まれぬよう。
【型21】履替逆さ出
これを用いるのは、特殊な場合である。
(例 旅館の便所で、スリッパからサンダルに履き替えるとき)
【型22】振リ返リ
靴の着脱のとき、振リ返リの動作を、ゆっくリと行われよ。
見送人(出迎え人)を待たせては悪いと、急いで振リ返ると、かえって、礼を失う。
【型23】壁にさわるな
- 履き物を脱ぎ履きするときは、身体がよろけやすい。
よろけそうなとき、そこに壁とか棚とかがあれば、つい、そこに手をつきやすい。
皆が、そこに手をつくならば、そこが汚れてくる。
- このとき、そこを汚さなくする方法は、次の3つであろう。
- 手をつきやすい場所を、汚れにくい材質の壁面でおおう。
- よろめくぐらいならば、そこに、どっと腰をおろしてしまう。
- よろめかないように、自己訓練する。
この中で、客人としてできることは、b. と c. である。