第4章 美容と服装 ◆第17節 ハンカチーフ
前節 次節

第17節 ハンカチーフ


【型1】ハンカチーフを2枚以上持て
  1. 男女とも、常時、実用するハンカチーフを、2枚以上、携帯されよ。
    そのうちの上用は、首から上をさわり、また、汗をぬぐうのに用い、下用は、机上などを拭き、ときには、鼻をかむのに用いられよ。
  2. ハンカチのそれぞれの色をかえておかないと、自分で識別がつかなくなる。
    上用を、なるべく、白色、または、うすい色のものとすると、第三者から見て、気持ちがよい。
【参考】
  1. 古フランス語に Couvrechief というのがある。
    Couvre は英語の cover。
    chief は英語の head。
    頭にかぶるものということ。
    これが、古い英語に入ってきては、Coverchef となまり、さらに、Curchef と変形し、さらに、Kerchief と整形された。
    英語も、国際審議会で、なおしていっている。
  2. Kerchief は、婦人が、頭にかぶる布である。
    これは、1辺1m以上あった。日本の東北の「かくまき」にあたる。
  3. ここまでが、1500年代の中ごろまでに経過した。
  4. 1550年ごろから、婦人が、頭にかぶる Kerchief より、やや小型の布を持って歩くことが、全ヨーロッパに流行し、これは、1辺 50cm〜1m。
    バスケットに入れていることもあれば、ただ、アクセントとして、手に持っていることもあった。
    まだ、当時、婦人はハンド・バッグなど持っていない。
    ちょっと、泣くときは、これで、目をおさえる。
    わらいがとまらないときと、はずかしいときは、これで、顔の下半分をおおう。
    ダメダメというときは、これを、左右に振る。
    怒ったときは、これを床に投げつけて、踏む。
    さよなら、バイバイというときは、これを振る。
    あまりに、うれしいときは、この布の一端を持って、腕をほぼ水平に出し、身体を、グルグルまわす。
    ダンスを踊るときも持っている。ついでに振る。
    その形は、こん日のフォーク・ダンスにも残っている。
    さしあたり、男ならば、棒切れか刀かを振りまわすところを、女子は、こういう布を振りまわしていた。
    いまでも、欧米の女子は、わけもなしに、布をいじったり、ふりまわしたりして、対人動作する。
    ときには、こぼしたものを、これで、拭く。
    熱いナベを持つとき、これで、持つ。
    「このキウリ、あげるわ」といわれると、「あら、うれしいわ」と、この布に、包んで、下げて帰る。
    つまり、フロシキにもなる。
  5. こういう布を hand‐kerchief と呼んだ。
    「手に持つ頭かぶり」という変な名前であるが、そう呼んだ。
    つまり、麻、木綿の生産が、ヨーロッパでも増加して、都市市民に供給できるようになってきたということ。
    同時に、この hand‐kerchief には、「ししゅう」や「レース」も行われ、その技能が、花嫁修業課題の1つになったりしていった。
  6. この布は、のちに、イギリスで1辺 69cm に統一された。
    また、この布を、もう少しゴツゴツした布でつくったものが、現代のナプキンである。
    で、ナプキンも、1辺 69cm。
  7. わたくしは、先年、イギリスで、汗をかいた。
    あいにく、手拭を持っていなかった。で、洋品店に入った。
    「Towel please!」というと、バス・タオルを持って来た。
    「Oh no! please more small one」 というと、そこのオカミチャンが 「Hand-karchief?」 ときいた。
    「Oh, yes. Hand‐kerchief」と答えると、ナプキンを持って来た。
    とにかく、融通の効かないのが、かれらの文化の味である。かなわない。
    わたくしは、そのナプキンを買って、そこで、汗をふいた。
    大きくて、ポケットに入らない。で、カバンに入れた。
  8. で、1600年ごろに戻る。
    この Hand‐kerchief を、首に巻くときのための専用の布が生産された。
    これは、もはや、着物の一部分であるから、さまざまの派手な模様や、渋好みの模様かついた。
    布の大きさは、だいたい、hand‐kerchief と同じ。
    これを、neck‐hand‐kerchief と呼んだ。
    「首巻き用、手持ち、頭かぶり」。長い。
    が、それから 200〜300年のうちに、これは、neck−kerchief、さらにつまって、 neckerchief と呼び改められるようになった。
    これは、このまま、こん日に至っている。
  9. それから、この neck‐hand kerchief の発生と相前後して、pocket‐hand‐kerchief が作られた。
    これは、1辺 50cmよりも小さいもので、女子は、ふつうの hand kerchief と別に、これを、ポケットに入れていた。
    これは、汚し用専用であった。
    それまで、ヨーロッパ人は、女子も、手鼻をかんでいた。
  10. こん日ですら、ハバカリ紙に、あれだけ、わるいものを使っているヨーロッパである。
    鼻をかむとき、紙などは、もったいなくて、使えなかった。
    ヨーロッパに perchment (羊皮紙) があるのは、ぜい沢の結果、そうなったのでない。
    古代エジプトでパピルスという Paper のもとが開発されていながら、ヨーロッパには、そのような、やわらかい草のセンイがなかったし、まさか、麦のセンイで紙をつくるわけにも行かなかった。
    しかし、文字は書きたい。
    で、とうとう、羊の皮で、紙の代用としたものが、Parchment (Pergament) である。
    こういうヨーロッパであったから、鼻をかむには、手鼻でよかった。
  11. この手鼻の習慣は、まだ、現在でも、ヨーロッパに根強く残っている。
    先年、わたくしは、ヨーロッパのある田舎の小学校を参観した。
    男の先生が、子供に作法を教えており、その教え方の進んでいるのに、感心した。
    で、休み時間になった。
    その先生と、わたくしは、教員室に引きあげて行った。
    途中の日のあたるところを歩いているとき、その先生が、突然、手鼻をかんだ。
    指にぶらさがったハナは、手を振って、落とした。
    あと、その指を、どうするかと見ていたが、そのまま、かわかした。
    わたくしは、ハッとして、東西作法のちがいを感じた。
    教員室で、わたくしと別れるとき、その先生は、その、かわいた手で、わたくしと、握手した。
    つまり、わたくしは、その先生のハナを、少し、いただいて来たことになる。
    なるほど、ヨーロッパ生活では、つねに、石けんで、手を洗っていなければならんわいと思った。
    そのあと、汽車で、コトコト走りながら考えた。
    「いったい、作法とは、なにか」 「人間は、いったい、なにをしているのか」、と。
  12. Pocket‐hand kerchief に戻る。
    1600年ごろから、女子のポケットに入った、この小布は、まもなく、男子も持つようになった。
    で、ともかくも、その当時から、手鼻をかむことをやめようということになった。
    (それから 400年近く経つが、まだ、完全には改まっていないようである。
    とにかく、科学的進歩の速さに比して、生活上の風習をかえることの遅い連中である)
  13. つぎに、1800年代。
    それも、後半になって、パリからはじまり、女子がハンド・バッグを持つようになると、この pocket-hand kerchief は、ハンド・バッグの中に入れられるようになり、女子用のこの小布は、男子用よりも小さくなった。
    男子用は、現在1辺 48cm。(日本製は、42cm。ケチ)
  14. さて、わたくしが、イギリスの洋品店で、ナプキンを買ったところに戻る。
    その洋品店を出ようとすると、まさに、ハンカチが、いっぱい、ならべてあるではないか。
    わたくしは、オバチャンのところに引きかえした。
    「There are many hand kerchiefs!」
    すると、オバチャンが泰然と答えた。
    「Yes! There are many pocket‐hand kerchiefs. Do you want them also?」
    ヤレヤレ。なるほど、ハンカチーフとポケット・ハンカチーフは違うのかい。
    で、その pocket-hand kerchief も買うことになった。  
  15. しかし、つぎの機会に、わたくしは、西ドイツのデパートで、また、ハンカチ売場に行った。
    「Bitte, einem Hand kerchief!」 英独語をチャンポンに使ったが、通じた。
    このときは、すぐ、1辺 48cmの布が手渡された。
    あるいは、先方の察しがよかったのかも知れない。
    が、どうも、イギリスを含めて、hand kerchief といえば、日本のと同じ、小さいのが渡されるのが一般化しているようにも思う。
    で、もし、ナプキンの大きさのを出されたとき、はじめて、pocket-hand kerchief と言いなおせばよいように思う。
  16. これを要するに、日本の手拭い、布巾にあたるところが、かれらの大きいほうの hand‐kerchief である。
    日本には、手拭い、布巾といったものがあるから、かれらの大きいほうの hand kerchief は普及しない。それでよい。
    ただ、日本の主婦で欧米生活の長かった連中を見ると、日本に帰ったのちも、一様に、この大きいほうの hand kerchief を振りまわしている。
    きいてみると、このほうが、便利だという。
    「こういう hand kerchief は、お皿を拭くために、あるものよ」とのたまう。
  17. インドネシアの、バリ島で、道路ぎわの草の上に、洗たく物をならべてあるのを見た。
    こうすると、はやく、かわくそうである。
    その中に、この大きいほうの hand‐kerchief が、何枚もあった。
    わたくしは、「ここも、オランダ治下にあった時代が長かったからな」と思って見ていた。
  18. さいごに、小さいほうの hand kerchief であるが、これを、日本語で、なんというのかという問題を生じたことがある。
    それは、あるデパートで、商品管理のため、コンピュータに商品名をおぼえさせる必要を生じた。
    「ハンカチーフ」 か、「ハンケチ」 か、「ハンカチ」 かということになった。
    けっきょく、3つとも覚えさせたのであるが、こういう面にも、日本の国語審議会には、がんばって、いただきたい。
    「あら、ハンカチ忘れたの? ハンケチ売場にいって、ハンカチーフ頂だいなって、言ってらっしゃい」 こんな日本語は、よくない。
【型2】ハンカチーフを手に持つことなど
  1. 立って話をするとき、座って話をするとき、また、立ったり、座ったりしていて、人の話を聴くとき、その他、書き物をしているとき、ハンカチーフを手に持ったり、机上に置いていたりすることは、作法的であって、少しも、不作法でない。
  2. 食卓の上に、ハンカチーフを置くことは、不作法とされる。
【型3】顔ふき

ハンカチーフで顔を拭くとき、ハンカチーフを4つ折り、または8つ折りにして、用いられよ。
顔をこすらないように、押さえるようにして、されよ。

【型4】後襟首ふき
  1. ハンカチーフで襟首を拭くとき、ハンカチーフを2つ折り以上に広げず、こすらないように、押さえるように行ない、それが不可能な場合、往復運動をしないよう、軽く、ゆっくりこすられよ。
  2. 後襟の右側部分は右手を、左側部分は左手を用いられよ。
【型5】はなをかむとき 図:ハンカチ
  1. ハンカチーフで、はなをかむときは、なんとなく、あちらこちらを使うのでなく、どのスミかを使われよ。
  2. そのスミに、目印をつけておいてもよい。
  3. このとき、ハンカチは、公然と、すべて、ひろげ、ぶらさげ、そのスミを上にして、かまれよ。(欧米式)
  4. かんだあと、そのスミを中にするように、ハンカチ全体をまるめて、ポケットにしまわれよ。

ホーム 章トップ
前節 先頭行 次節