第7章 飲食・喫煙 ◆第27節 サラド
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第27節 サラド


【参考】サラド
  1. フランス語で Salade サラード。(「サ」にアクセント)
    英語で Salad サラード。(「サ」にアクセント)
    ドイツ語で der Salat サラート。(「ラ」にアクセント)
  2. 兜(かぶと)の一種に Salade というのがあって、「どんぶり鉢」のような形をしており、この兜に似た鉢に、オリーブ油を入れておいて、これに、生野菜をひたして作った料理であったから、この兜の名前にしたのであるとか。
  3. 日本語では、大正時代まで、サラドといっていたのが、昭和に入って、コックやウェーターがふえてから、いつの間にか、「サラダ」となった。
    「そーら、おつぎは皿だ!」と憶えよといったシェフがいたとか。
    また、真田さんと原田さんが、1番手、2番手をつとめている調理場で、「オレたちの名前に似た料理だぞ」と教えたので、サラダになったとか。よくわからない。
  4. サラドでもサラダでもよいが、ここでは、なるべく、原語に近いサラドにしておく。
【参考】サラドの主材料
  1. サラドは、はじめ、明らかに、生野菜だけのものであった。
  2. それに、ゆでた野菜が加わった。
  3. それに、ゆで卵が加わった。
  4. それに、魚や肉のナマやゆでたのが加わった。
  5. が、サラドは、よく冷えてないと、サラドでない。
  6. それから、よく冷えていても、生野菜の入っていないサラドは、サラドでない。
【参考】サラドとドレッシング
  1. 元来、サラドは、生野菜を、よく、水洗いしたのち、オリーブ油の中に、ドボンと漬け、それを、引き上げ、皿や鉢に入れて出したものである。現在も、ヨーロッパのサラドの中に、この形が残っている。食べる者は、めいめい、自分の口に合わせて、酢と塩をかけて、食べる。
  2. ついで、野菜を、オリーブ油と酢と、いくばくの塩を混ぜた中に、ドボンと漬け、これを引き上げて、皿や鉢に入れて出すことも行われた。この方法のほうが、客の自分で行なう酢混ぜ、塩混ぜの手数を、かなり、簡単にできる。
  3. ついで、オリーブ油、酢、塩のほかに、卵黄を加え、よく、かき混ぜたマヨネーズで、野菜の「あえ物」を作って、出すようにもなった。
  4. 最後に、ドレッシングの液体を、客の手で、野菜にふりかけさせる方法がある。そのかわり、ドレッシングの選択をゆるす。(このときは、ドレッシングの壷を客のところに置き去りにしない以上、不親切なサービスとなる)
【参考】サラドをいつ出すか
  1. サラドの出し方には、「後サラド法」「同時サラド法」「前サラド法」の三様式がある。
  2. 元来、「後サラド法」しかなかった。つまり、肉料理のあと、肉料理の皿をさげてから、サラドを出してくる方法である。この方法は、中世に、もう、そうなっていたという説から、いや、セザール・リッツが、そうしたのであるという説まであって、よくわからない。
    わたくしが子供のころの日本の洋食も、すべて、後サラド法であった。現在、ヨーロッパのレストランでは、まだ、けっこう、後サラド法で食べさせる。
  3. 同時サラド法」は、肉料理のとき、同時に、サラド皿を添える方法である。
    アラカルトの食事で肉皿のなかに少量のサラドを添えることは、1800年代後半にヨーロッパで行われていたことであったが、正餐のときにも、肉料理と同時に、別の皿にサラドを入れて出す「同時サラド法」を始めたのは、第1次大戦後であって、それは、アメリカであった。一説には、故アイゼンハワー大統領が陸軍大佐のとき、自分の部隊の将校集会所でやらせたのが、初めであったともいう。が、よくわからない。
    アメリカと日本の正餐は、現在、だいたい、すべて、この同時サラド法によっている。 わたくしは、これを、もっとも、美味でないサラドの食べ方であると思う。
  4. 前サラド法」というのは、1950年代から、アメリカで発生した方法である。要するに、肥りすぎ人口がふえたので、なるべく、低カロリーの食べ物を、食事の最初のところで、たくさん食べ、そのあとを、あまり、たくさん食べられないようにしようとするものという。
    オードーブルの代わりにサラドを出し、それから、スープを出す。または、オードーブルとスープを廃して、代わりに、サラドを出す。
    日本人客は、まだ、スープを、あまり飲みたがらないし、レストランとしても、パッとサラドを出して、オードーブル、スープといったところをカットすれば、コスト・ダウンできるという事情がある。「これは、新しいアメリカ式でございます」とも言える。 で、日本にも、この「前サラド法」のレストランが、ひところ、ふえた。
【参考】サラド用のナイフ、フォーク
  1. 後サラド法のとき、大きなアスパラガスのように手で持って食べる場合を除き、サラドのため、そこで、新たに、ナイフ、フォークが配られる。
  2. 同時サラド法のとき、肉皿用のナイフ、フォークで兼用する。
  3. 同時サラド法でサービスしても、客がサラドを食べないとき、肉皿だけを引いてしまい、サラド皿を残して、そのまま、後サラド法として生かす方法がある。(たとえば、ホテル・オークラあたりでは行われている)こういうとき、サラド皿に小さなフォーク だけをつけている。
  4. 前サラド法のとき、通常、専用のフォークだけが配られるが、要らないにかかわらず、形式的にナイフも置かれることがある。
【型1】サラドの食べ方 ― 後サラド法での取り方

サラドを取るとき、サラド用の大きなスプーンとフォークで取る。このとき、スプーンは、ドレッシング受けでもあるから、下から受けられるように。このサラド取りは、客として、両手を使って行われよ。肱を張らず、と申して、つぼめもせず。

【参考】同時サラド法での皿ならべ
  1. 同時サラド法での皿のならべ方には、2種類ある。
  2. 下図のうち、は肉皿である。このとき、をパン皿とし、をサラド皿とする方法が同時サラド法発生段階での方法であった。「深式」と呼んでおく。
    図:152
  1. ところで、こうすると、客が、からに、サラドを持ってくるとき、間のテーブル・クロスの上に、ドレッシングをボタボタ落とす。で、サラドを出すとき、位置にあったパン皿をウェーターが、位置に移し、そのあとにサラド皿を置くという方法が発生した。これが、日本で、1964年、国際オリンピック東京大会の前後に考え出した方法。「浅式」と呼んでおく。
    アメリカでも、この「浅式」を採るレストランが、少しずつ、出てきている。
    が、悪口をいう者は「日本人め。パンが主食で、キリストの肉であることを知らないから、勝手なことをする」ということを言う。
    図:153
【型2】同時サラド法での皿ずらし
  1. 皿をまわしてはならないが、皿をずらしてもよい。
  2. で、サラド皿を、肉皿のそばまで、客の手で、ずらしてしまう。静かに、ずらせばよい。
  3. ただし、これは、公認された方法でなく、わたくしの、いつも行なっている不作法な作法である。
  4. このとき、必ず、ナイフ、フォークを置いてから、威儀を正してから行なうこと。
  5. 「深式」でも「浅式」でも、区別なく行なっている。
【型3】同時サラド法での食べ方
  1. 同時サラド法で、温肉料理のとき、サラドは、肉料理を済ませてから食べよと言われている。
  2. で、同時サラド法で、冷肉料理のとき、サラドは、肉料理と交互に食べてよいという。
  3. 同時サラド法が、野蛮料理なのであるから、そこで、とやかく、言っても仕方がないと思うが、なるほど、サラドを、もたもた、いじっていると、温肉が、冷める。で、こういう区別を生じたのであろうか。
  4. 一応は、知っておいてよい。
【型4】同時サラド法でのナイフ納め方

同時サラド法であったのを忘れて、サラドに手をつけず、肉皿にナイフ、フォークを納めてしまったときとか、サラドをもっと食べたいのに、そうしてしまったとき、いったん納め たナイフ、フォークを、また、持ち上げて、サラドを食べることをされるな。(いったん納めたナイフ、フォークを、また、持ち上げることは、ジンクスとして忌み嫌われる)

【型5】同時サラド法での食べ方
  1. サラド皿の中から、フォークでサラドを持ち出したとき、それを口に直行させてはならない。
  2. いったん、肉皿に持ってきて、置いて、それから、また、取り上げて、口に持って来られよ。
  3. わたくしは、はじめ、これを、バカらしいと思ったが、欧米人を見ていると、まともな人間は、みんな、これを几帳面にやっている。で、わたくしも、やることに決めた。 なるほど、和食のとき、漬物鉢から、まっすぐ、口に持って来ないようなものであろう。
  4. そのかわり、サラド皿から、肉皿にサラドを持ってくる1回分の分量は、いくらか、大きくてもよい。
  5. サラド皿の中で、フォークは、いくら、サラドを突き刺してもよいが、ナイフで切ることを、できるだけ、避けたい。これは、なぜであるか、わからない。が、そう言われて いる。
    サラドを肉皿に持って来てから、ナイフで切ることは、いっこうに、かまわない。
  6. しかし、そうは申すが、サラド皿の中で、どうしても切らなければおさまりのつかないこともある。そういうときは、おかまいなく、ナイフで切ってよい。
  7. サラド皿から、サラドを持ち出すとき、フォークを右手に持ちかえて行なっても、非礼でない。
【型6】前サラド法での食べ方
  1. サラドが、カクテル・グラスに入っていることもある。(これは、サラド風のオードーブルなのであるが)こういうときは、そのグラスの下の棒状のところを左手で持って、食べてよい。無理に持たなくてもよいが。
  2. 前サラド法のとき、フォークのみが添えられているのが一般であるが、機械的にナイフも添えてあることがある。そのとき、ナイフも必要であれば使うし、「ナイフは要らないのに」と思えば、ナイフを無視されること。で、ナイフを無視されたときは、ナイフを出されたときの形のまま、放置されること。
  3. サラドは、多く、フォークだけで食べる。そうして、食べ終わったとき、そのフォークの置き方ということになるが、サラドが2重皿で出たときも、上皿が、あまり小さくないかぎり、フォークは、上皿の中に入れて置いたほうが皿を下げやすい。また、下皿に置くとき、これを、コーヒー、紅茶のスプーンのように、向こう側に置くと、ウェーターが下げるとき、気の毒である。こちら側に置かれよ。
【参考】キャべツ

キャベツは、BC90年ごろ、ローマでも、一般化した。ただし、軟球キャベツであった。AD1220年代に、フランス北部のケルト人が、現代のような結球キャベツの栽培に成功した。

【型7】特殊なものの食べ方
  1. サラド類を口に入れる大きさに刻むには、ナイフを用いずに、フォークを右手に持って押し切るのが普通である。
  2. セロリは、塩を皿の一端に取り、全然ナイフ、フォークを使わず手で筋皮をむき、その先に塩をちょっと付けて端から食べる。
  3. アスパラガスもナイフ、フォークを使わず、右手の親指、人さし指および中指で軽くつまみ、その先をドレッシングにちょっと漬けて食べる。このとき、アスパラガスがいわゆるアスパラガス・ティップで、その尖端部のみの場合は、全部食べてもよいが、もしアスパラガス全部であると、中部から後のほうは、固くて食べられない。では、どの辺まで食べるのが良いかと云うと、アスパラガスをその尖端から口中に入れ、舌で上アゴに押しつけてみて、押し切れる程度の所まで食べればよい。
  4. グリン・ピース
    欧米式
    左手のフォークを下向けにし、右手のナイフでその上に押しつけ、フォークにくっついたのを口に運ぶ。
    ヨーロッパ式
    フォークですくって食べる。

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