第3章 環境保持◆第1節 公物と私物
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第1節 公物と私物


【通解】
  1. 欧米のある国で、わたくしは、各国代表者たちと、いっしょに、ビールを飲んでいた。
    で、たまたま、みんなのために、紙と筆記具が必要となり、わたくしは、自分のメモ帖とボール・ペンを提供した。
    そのメモ帖に、そのボール・ペンで、わたくしの、となりの人が、何かを書いた。
    すると、そのむこうの人が、「それは違う」と、また、書き加えた。
    こんなことをしているうちに、わたくしのメモ帖とボール・ペンが、どこかに行ってしまった。
    その会合が終わってから、探したが、どこにも置いてないし、落ちてもいない。
    つまり、誰かが、持っていったのであった。
    翌日、探し尋ねて、持っていった人を知った。
    その人を訪れて聞くと、かれは、言った。
    「たしかに、あずかった。が、品物に名前が書いてなかった。名前が書いてあれば、返しにいったであろう。で、自分も要らなかったから、屑入れに捨てた」と。
    で、いっしょに、屑入れを、ひっくりかえして、探してくれた。
    あった。
    かれは、別に、わるいことをしたと思っていないようであった。
    ただ、「よかったね」と言った。
    こういうことは、欧米で、つねに、あること。
    かれらの上流社会でも、同じである。
    どこか、われわれと考え方が違う。
  2. そこで、こちらが、みんなのために、用紙を出すならば、メモ帖を1枚だけ、やぶいて出すこと。
    それから、ボール・ペンは、となりの人までは貸しても、その人の書くのが終わったと見るや、ただちに、こちらに取り返したのち、改めて、つぎの人に貸すこと。
    こういった、ガツガツしたやり方を、形だけ、上品に行なわなければならないということ。
  3. いったい、こういう仕切り方は、どこから来たのかということなのであるが、「遊牧民秩序」というあたりと、関係がありそうに思う。
    1. まず、公共物は、使っても、かならず、もとのところに返す。
      で、公園の木に下がっているリンゴは、とらないし、地面に落ちていても、拾って行かない。
    2. が、誰かの持ってきたリンゴが、放置されてあると、きちんと持って行く。
    3. もし、そのリンゴの持ち主がわかれば、返しに行くが、おおげさに、「はい、あなたのリンゴでしょう」と手渡す。
      持ち主が管理を怠っていたという見方。
    4. 自分のリンゴの戻った人物は、おおげさに、お礼を言うし、場合によっては、そのリンゴの半分をギフトする。
      また、そのリンゴの持ち主のわからないとき、警察に届け出ても、仕方がないと見れば、公然と自分に処分の責任のあるリンゴであると認定する。
    5. が、そのリンゴを、自分で欲しなければ、誰かに、ギフトしようとする。
    6. が、そのような相手の見付からないとき、公然と屑入れに捨ててしまう。
      あいまいなところに置くのは、世の中の整頓を乱す者であると考える。
    これが、日本人であれば、どうか。
    1. 公共物を盗るようになったのは、室町時代ぐらいからのようであって、元来、そういう物は、盗っていない。
    2. が、誰かの私有物が放置されてあっても、手に触れない。
      持ち主が探しに来るであろうと考える。
    3. もし、その持ち主が誰であるかわかれば、黙って、持って行って、黙って、置いてくる。
      品物が、もとの持ち主に返れば、それでよいのであるから。
    4. 持ち主としては、誰かが持ってきてくれても、ニコッとは笑うが、すまして、受け取っておくだけ。
      つまり、われわれの秩序は、「農耕社会」的であって、すべてが、遊牧民のようには、「移動していかなくてよい社会」での考え方である。
      そうして、すぐに、物の朽ち果てる「暖地」的な考え方である。
    われわれのほうが、進歩しているのは、全般に、サラッとしていること。
  4. われわれのほうが、だらしがないのは、公共空間を、めいめいで、きれいにしあわなければ、そこいら中、よごれてしまうという観念の乏しいこと。
  5. 同じ人間でありながら、環境が変わると、こんなに、変わるのかという気もする。
  6. ともあれ、ここでは、欧米社会とのドッキングを考えなければならない。
  7. 連中は、「私物」の管理責任を、きびしく、追及する。
    また、「公物」を、めいめいが、維持管理することについても、きびしく、追及する。
  8. われわれの社会のほうが、すべて、だらしがない。
    が、暖かい。冷えていない。
    ハテサテ、人類としては、これから、どういう形を求めるべきか。

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