第3章 環境保持◆第2節 かくす責任
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第2節 かくす責任

【通解】
【型1】格納
【型2】窓から外に飛ばすな
【型3】ドア・ロック
【型4】その他のロック
【型5】注意標識
【型6】ドアを閉めておく



【通解】
  1. 日本人の考え方として、「自分の持っているモノをかくすのはインケンである」、「自分のやっていることを人々に見せないようにするのは、自分がうしろめたいときである」という気持がある。
    要するに、あけっぴろげということ。

  2. 欧米社会の土台には、キリスト教倫理が根強く横たわっている。
    そこで、人の物は、そこにあっても盗らないことが確立されている。
    このゆえに、街には、ハトがあふれ、そのハトは立ちどまった犬の背中にもとまるし、公園にはリスがいて、人の手からエサをとるし、アパートの窓から入ってきた鳥は人の肩にもとまる。

  3. が、この面だけから、欧米のすべてを類推する日本人は、して、やられる。

    欧米での裁判には、古代ギリシャ以来、「人の物を盗るのは悪いが、人に盗られる者にも、半分、責任がある」という判例が多い。
    この「盗られる者」の側について、もうすこし、申すと、「人が、うっかり、使いそうな物を、使わせないためには、かくしておくか、カギをかけておくか、使うなという注意を書いておくかしなければならない」というのがある。
    そこで、欧米社会には、はっきりした「倉庫」と「キー」と「注意標識」が多く、これらによってアクセントづけられている生活環境を造り出している。

    つまり、他人の物は自分の物であり、自分の物は他人の物でもあるというベースの上に、専有権を保つ自由が、あとから認められ、そのためには、まず専有を主張する義務がある。

  4. で、作法にも、その性格が出てくる。
    欧米では、「人々に見せるべきでないありさまを、人々に、見られてしまうようにすることは、はなはだ、失礼」という観念がある。
    つまり、「かくし立て」が作法であるとする。

  5. ここで、「では、わるいことをして、かくすのも作法か」と聞くと、そうではないという。
    「わるいことをしてはならないが、わるいことをしなくても、人々に見せるべきでないモノや行動を見せないようにするのが作法である」という。

  6. では、この「見せるべきでない」と規定する尺度はなにかと聞くと、「不快を感じさせる」、「情欲を起こさせる」、「盗意を誘発する」ということが、尺度であるという。

  7. こうなってくると、こういう面では、欧米作法のほうが、日本の作法より、レベルが低い。
    が、ところ、かわれば、品かわる。
    で、欧米人に接する以上、さしあたり、これにあわさなければならない。
【型1】格納

欧米では、陳列しておく物でないかぎり、投げ出しておかず、格納してしまうことを、重要な作法と見なしている。
で、自分の管理下にある品物を、公開しておくべきか、格納しておくべきかを、はっきりさせ、中途半端な置き方をせぬように自戒しなければならない。

【説明】
  1. この点、日本では想像できないくらい、うるさい。
    人を自宅に呼んできて、すこしでも、ちらかっていると、そのあるじが、ものすごく、恐縮し、客を待たせておいて、かたづける。
    また、婦人などを、こちらのすまいに、招いたとき、こちらのどこかが散らかっていると、その婦人は、「あたしに対して、失礼でありませんか」という顔をする。
    でなければ、おせっかいにも、「かたづけるのを手伝ってあげましょう」とくる。

  2. このあたり、日本人学生のパリでの下宿生活とか、そういう話しか聞いていない日本人にはわからないことである。

  3. いや、これを申すと、わたくしの家の中などは、日本であるから、助かっているようなものであるが。
【型2】窓から外に飛ばすな
  1. イタリアとか、いくばくのところを除くと、洗濯物を窓の外に干せない。
    これは、法律によって禁じられている。

    ところで、窓の中の洗濯物が、風で、はずれて、街中に落ちると、その罪は、その、飛ばした側にあり、それを、ふんづけたり、拾って持っていった側には、ない。
    これも法律によっている。

    で、洗濯物などを落としたとき、その落とした者は、作法をわきまえぬ野蛮人と見なされる。

  2. 窓をあけていて、書類が、風で、外に飛んだとき、洗濯物をとばしたのと同じ扱いを受ける。

    わたくしは、いっペん、飛ばした。
    「なぜ、窓をしめていなかったか」と質問されたから、こちらは、「5月じゃないか。窓をあけて、仕事をしていても、よいではないか」と言った。 と 「では、なぜ、書類を、文鎮で押さえておかなかったか」と来た。
    このあたりになると、日本人の常識では考えられない。
    つまり、“ズボンの前のチャックは締めておけ”というのと同じ程度の考え方なのである。
【型3】ドア・ロック

自室内で、第3者に見られたくない行動に出る前、ドアを中からロックすること。

【説明】

もし、外から、にわかに、あけられて、見られたとき、失礼なのは、ロックしなかった中の者であると考える。
これが、日本であれば、中で掛けているカギの音が外に大きくきこえるのは、「これから、あられもないことをします」と宣伝しているように受けとられ、一種の露出狂と思われる。
欧米人は、ここが異なり、「あられもないこと」でなくとも、着替え、カネ勘定、荷物の入れ替え、小声での電話といった程度のことにも、中から、カチリと施錠し、それを、外の者に対する作法と考える。

【型4】その他のロック

同室者にも見られたくない物、文書は、施錠してしまっておくのが欧米流の作法と考えられる。

【説明】

それが引き出しのこともあれば、小箱のこともある。
また、かれらは、出しておくと、平気で、人のものを使う。読む。

【参考】

鍵と錠は、BC2000年ごろ、すでに、エジプトで、つくられていた。
かんぬきに止め木をおろし、これを歯のついて木製の鍵であける錠前がつくられていたそうである。

【型5】注意標識
  1. 誰にも、立ち入られて困るドアには、そういうことを書いた「注意標識」を付けることが作法と考えられる。

  2. ホテルで客の無断立入りを好まないドアには、ことごとく“PRIVATE”と書いておくのが、ホテルとしての作法。
【型6】ドアを閉めておく
  1. ドアは、出入りのとき以外、確実に閉めておくのが作法とされている。

  2. ただし、異性の部屋に入るときは、第3者に見られて、差支えないかぎり、わざと、確実に、あけっぱなしにするのが作法。
【説明】

ドアは、あいているとき、「どなたでも、どうぞ、おはいりください」というサインであると見なす約束があり、そこで、「特定の者にしか入られては困る」ときと、「誰にも入られてはこまる」とき、ドアを確実に閉めてないのは、人々をまどわすものとして、失礼なヤツだということにされる。

これについて、ハワイのホテルの話であるが、わたくしは、ルームの中が暑いので、ドアをルームの中側に、あけ放していた。
ハワイのボロンボロンと、まとまった風を通したくもあった。
と、ホテルマンが、そこを通るとき、ドアを閉めていく。
わたくしは、よけいなサービスであると思った。
で、あけた。
また、閉められた。
で、わたくしは、閉めにくいように、ドアのノブと、内側のワード・ローブを紐でしばってしまった。
と、ホテルマンが来て、ごていねいに、その紐をほどき、紐をベッドの上に、ていねいに置き、ドアを閉めていく。
とうとう、わたくしは言った。
「あけといてください。Please set up opening this door」
とかれは言った。
「日本の方には申しわけございませんが、ドアを、閉めておいて、いただきたいのでございます。Excuse me different to Japanese customs, please shut up this door」
別に冷房のある部屋でもなかったので、おかしく思ったが、要するに、ここも、欧米式であった。


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